天官よもぎは知りたい   作:ミルクセーキ

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皆さんたくさん閲覧してくださりありがとうございます。
なお、予約投稿を使っているので皆さんにとっては約1週間前からお届けしております。


天官よもぎはデジタル化させたい

ある日の生徒会室

 

そこには、白銀とかぐや、よもぎといういつものメンツが揃っていた。

しかし、よもぎはいつもと違い、何やらマスクを付けて、パソコンではなく机に向かって、カチャカチャと何かしらの作業をしている。

 

「皆さん、お疲れ様です!」

 

「あら、藤原さん」

 

「おぉ、藤原書記」

 

そんな生徒会室に、元気よく藤原が入ってきた。

しかし、いつもなら挨拶をしてくれるよもぎは、藤原に目もやらず机に向かっている。

そして挨拶をしてくれた2人も藤原に向かって静かにと言うポーズをとっている。

 

「?」

 

そんな状況を不思議に思った藤原はよもぎの背中側から机を覗き込む。

そこには、いくつかの歯車や、研磨剤などが置かれており、中央には内部構造が見えるようになっている懐中時計がおいてあった。

よもぎは、真剣な目つきでその懐中時計に向けて作業をしている。

 

藤原はその真剣な表情を見て、音を立てないように白銀とかぐやの方に近づく。

 

「すごい集中してますね…」

 

「あぁ。俺が来た時にはもうあんな感じだったからな…」

 

「というより、あの懐中時計って?」

 

「俺も一度しか見せてもらった事が無いけど、よもぎのだよ。なんでも貰い物で、大事なものだそうだ。」

 

(あれが早坂が言ってた懐中時計…)

 

かぐやは、あの懐中時計の存在を早坂から少しだけ聞いていた。

しかし、実際に見るとその作業している真剣さから、よもぎが本当に大事にしている物だと言う事が伝わった。

 

そうこうしていると、よもぎは慣れた手付きで懐中時計を閉め、最後に全体を磨いて椅子に深く腰掛ける。

 

「ふー…」

 

「終わったんですかー?」

 

「はいって藤原さん?というか御行と四宮さんも?いつの間に…」

 

よもぎは余程集中していたのか、他のメンバーが生徒会室に入って来たのに気づいていないようであった。

 

「というより綺麗ですね…その懐中時計…」

 

そういう藤原は懐中時計を覗き込んで目を輝かせる。

その金色の懐中時計は、磨かれた事によって輝いており、天秤の意匠の中心にある琥珀も光を反射している。

 

「えぇ本当に…」

 

「それにしてもあそこまで、分解して弄ると言う事は、どこか壊れてたのか?」

 

「壊れていたというより、歯車が擦れてしまっていたんですよ。パーツは前に買いに行ったのがあったんですが、直す暇が無くて…すみません仕事の邪魔をしました。」

 

「いや、別に今日はそこまで急ぎの書類とかは無かったからな。これくらいは大丈夫さ。」

 

よもぎは机に広げていた、器具を片付けながら白銀と会話をする。

 

「それ実際に使えるんですか?」

 

「えぇ。まぁ、あまり自分は時計として使ってないんですけどね。」

 

「そうなんですか?」

 

そう言うと藤原は目をぱちぱちとさせる。

 

「一応使えるようにメンテナンスはしますけど、これはどちらかと言うとお守りに近い物なので。それに時間見るならスマホで充分です。」

 

その言葉を聞くと藤原は、呆れた顔をする。

 

「本っ当によもぎ君は夢が無いですよね!ロマンって物を知らないんですか?」

 

「ロマンと利便性はまた違う話ですから。」

 

そう言うと、よもぎは白銀をの方を見る。

 

「まぁ、頑固を拗らせて利便性を捨ててる人もいますけど。」

 

「何か言いたげだなよもぎ。」

 

そう言う白銀は苦笑いをする。

そして、白銀はそのまま自身のカバンを漁り、中からある物を取り出した。

 

「だがな俺も買ったぞスマホ」

 

そう言って取り出したものはスマホだった。

 

「わぁ会長!ついに携帯電話買ったんですねー!」

 

その通り。

白銀はこれまで、家庭環境などもあったが、その頑固さを貫き通して今の今まで携帯電話を買わないでいたのである。

 

「ふふ、まぁな」

 

スマホを掲げる白銀はどこか自慢げである。

その様子を見た藤原はほろりと、涙をこぼす。

 

「頑固一徹…何を言っても不要だ。周りに合わせる必要はないの一点張りだった会長が…ようこそ現代社会へ…」

 

「人を原始人呼ばわりするんじゃない。」

 

そんなツッコミを入れた白銀は、藤原の後ろにいる、よもぎに向かって声をかける。

 

「ほらよもぎ。俺も利便性をとったぞ?」

 

そう言われたよもぎは固まっていた。

彼の頭の中は、生徒会に入ってすぐの頃まで遡っていた。

 


「そういえば御行は携帯は持っていないのですか?」

 

ふとよもぎは不思議に思って白銀に問いかける。

白銀と知り合ってしばらく経つが、よもぎは彼が携帯を使っているところを見た事が無かった。

 

「あぁ待ってないな。」

 

「ガラケーもですか?」

 

「あぁ」

 

その返事を聞くとよもぎはあり得ないものを見つけた様な顔で白銀を見つめた。

よもぎは物に対する執着があまり無かったが、利便性があれば話は別である。

彼にとって物の判断基準は、カッコいいか可愛いかや、ロマンがあるなんて物以前に、使えるか使えないか、性能が高いか低いかという判断基準で物を揃えていた。

その為、よもぎは仕事(エージェント業)で使う道具も、性能が高い物が開発される度に、すぐにそちらに乗り換えるようにしている。

どっかの早撃ちガンマンが聞けば鼻で笑いそうだが、彼の物言いは「浪漫を捨てて実利を取る」であった。

そんなよもぎにとって、使えば格段に便利になり、今の世で使わないなどありえない携帯電話を持っていないと言うのはありえない事だった。

 

「なんで買わないんですか?金銭的な問題とか…?」

 

そう言うよもぎは白銀が、バイトもして家に金を入れている現状を知っていた為、そのような背景があるのかと尋ねた。

しかし、白銀は首を振る。

 

「いや、そう言う訳ではない。第一必要ないだろう?こうやって会えば話せるし、電話なら家にある。」

 

そう言う白銀はその家庭環境も相まってケチであった。

物を買う基準も性能より価格。

どんなに性能が低くても、貧乏生活で培った工夫によって安く抑える事を心情としていた。

そんな白銀とよもぎの意見は合うはずもなく、真っ向から対立する。

 

「必要ですよ。御行は手元に通信端末がある利便性を知らないんです。今だと安い物もありますし、そこから始めるのも手だと思いますよ?」

 

「だから必要ないと言っている。大体、皆が使っているから使うというのが性に合わない。わざわざ周りに迎合する必要はないだろう?」

 

「必要です」

 

「必要ない」

 

必要です!

 

必要ない!

 

2人の会話は平行線となり、しばらく続いた。

これがもし、周りの風潮で便利という話を聞いたのだとしたら、白銀も折れて買っていただろう。

しかし、頑固な白銀は、顔を知っている相手であるよもぎから良さを問われた為、絶対に折れないというスタンスを取ることとなった。

よもぎもよもぎで、頑固なところがある為、最初は勧める程度であったが、ヒートアップして絶対に買わせるという思考になっていた。

そして、それからしばらくしてよもぎは啖呵をきる。

 

「じゃあ分かりました!絶対に僕が御行に携帯電話を買わせて見せます!」

 

その言葉に、珍しく熱くなっているよもぎに驚きながらも、白銀は返答する。

 

「やれる物ならやってみると良い!」


 

こうしてよもぎの白銀に携帯を買わせる運動が始まった。

目の前でわざと、スマホの便利な機能を使ってみたり…

暇を見つけてはスマホの良さを伝えてみたり…

わざと会話の中でLINEの話題を出して煽ってみたり…

しかし、どの方法も効果的とは言えず、白銀が首を縦に振ることは無かった。

 

そんな白銀が携帯電話をようやく買った。

本来これはよもぎにとって喜ばしい事であるはずなのだが、明確に自分の影響とはいえない状況によもぎは微妙な気持ちになった。

 

「あーおめでとうございます。これで人間になれましたね?」

 

「なんでそんな微妙な顔をしているんだよ。それから俺は元々人間だ。」

 

そのよもぎの気持ちが表に出てしまったのか、よもぎは微妙な顔で白銀を、賞賛する形となった。

 

(ふふ…すみません天官くん。貴方が会長に携帯電話を持たせる為に、色々努力してたのは知ってましたけど、今回それを利用させてもらいました!)

 

今回白銀が、携帯電話を買う事にした理由に一番関わっているのは、実のところかぐやだった。

白銀がいくら説得しても携帯電話を買わなかった理由は、知っている顔に言われていたから。

その為、よもぎが言っていた内容をかぐやの手のものが、第3者として、白銀に刷り込む事によって、「これは、よもぎの意見に納得したからではなく、周囲の意見を聞いて俺が判断した。」と認識させる事に成功した。

ある意味下地という面でいうと、よもぎは白銀に携帯を買わせる事に成功したのである。

 

「そうだ…ラインも入れたんだぞ?」

 

「わー交換しましょうよ!」

 

「あ、僕も良いですか?」

 

そういうと2人は白銀のスマホに近づく。

よもぎも言っていたが、現代社会においてこの携帯電話と言うものは生活と、切っても切り離せない物となっていた。

特に高校生の生活、こと恋愛事に関しては重要度は飛躍的に跳ね上がる。

どんなメッセージなら、相手に良く思ってもらえるのか試行錯誤する時間。

相手にメッセージを送った後、あのメッセージはあれで良かったのか考える時間。

そして、メッセージに返信が来た時、どんな返信なのか見たいけど見れない、あの独特の高揚感。

その全てが、甘酸っぱい恋を彩る一種のスパイスの役割を果たしていた。

 

(今までの、四宮との関係に足りなかったものは連絡!これによってようやくスタートラインに立つことが出来る!)

 

そう思う白銀は、さり気なくかぐやの方に視線をやる。

しかし、いくら待てどもかぐやが白銀の方に聞きに来ることはなかった。

 

(何故だ!?俺の個人情報だぞ!なぜ聞いてこない!)

 

白銀の想定では、聞きに来たかぐやに対して、しょうがなく連絡先を交換するという算段だった。

 

(どうする…こちらから聞くか?いやそれは、もはや告白しているのと同義!)

 

異性に対して連絡先を聞く。

この行為は、特段変わった事でもないが、色々と拗らせている彼等にとってそれは、好きだと明言しているような物なのである!

自ら相手の事を好きだと言っているような行為を、今更する事は白銀のプライドが許さなかった。

一方でかぐやは余裕の笑みを浮かべる。

 

(さぁ会長?私からは聞きませんから、いつでも聞きに来てくれて良いんですよ?)

 

(なるほど四宮…そっちがその気なら俺にも考えがある。)

 

「あれ?会長このプロフィール画像って?」

 

「あぁそうだ。俺の子供のころの写真だ。」

 

「かわいー!この頃から目つき悪ーい!」

 

「本当だ。御行って小さい頃からあまり変わってないんですね?」

 

「目つきに関しては、本当にコンプレックスだから、あまり触ってくれるな。」

 

(会長の子供頃の写真なんて…別に…)

 

とは思いつつも、かぐやはやっぱり気になるのかそわそわしだした。

その姿を見た白銀は、ここぞとばかりに畳みかける。

 

「ここまで食いつかれるのは、さすがに恥ずかしいな…良し、3分後に変えよう。」

 

(な!?)

 

時間制限!

ここにきて白銀は、3分というタイムリミットをかけることによって、かぐやから確実に連絡先を聞かせに来ようとしていた。

ここで、かぐやが聞かないと白銀の子供時代の写真は永遠に手に入らない。

しかし、聞いてしまうとよもぎと藤原の前で、白銀が好きだと認めてしまっているようなもの。

かぐやはここに来て、究極の2択を迫られていた。

 

(かくなるうえは…)

 

そして、かぐやは最終手段を取ることにした。

 

「別にそのままでもいいと思いますけど?自分の子供時代の写真をプロフィール画像にしている人多いですし?」

 

ぐすっ

 

「いや、とは言ってもやはり過去とは言え、自分の情けない姿を見られるのは恥ずかしいからな」

 

ぐすっぐすっ

 

「そういうものですか…」

 

(ところでさっきから聞こえるこの声はいったい?)

 

よもぎは、かすかに聞こえる声に耳を澄ます。

 

「かぐやさん…?」

 

その藤原の言葉を聞き、白銀とよもぎはかぐやの方に目線をやる。

するとそこには…

 

ひどいです会長…どうしてこんなことをするんですか…?

 

(え!?な、泣いてる!?四宮が?)

 

泣いているかぐやの姿があった。

もちろんこれは、かぐやの策略である。

目薬を使って、泣き顔を演出し、更に、ひどいという言葉を使うことによって、相手の思考を、ひどいことをしたかもしれないという思考に誘導!

女性の策略もここまでくると恐ろしいものがある。

 

「わ、悪い四宮仲間はずれにするつもりはなかったんだ!ほら、四宮にも見せるから、元気出し…」

 

しかし、狙いは上手くハマった。

白銀と藤原、そして表には出さないがよもぎまで

明確な悪意がある演技ではないとはいえ、エージェントまで騙すとは、さすが天才といったところか。

 

(しまった!これは、罠…)

 

(遅い!)

 

瞬間記憶能力

一瞬でも、見たものを記憶に残す能力。

実はかぐやには、生まれた時からその能力が身についていた。

その能力により、かぐやは白銀の携帯に写っている、ターゲットを一瞬で記憶!

これにより白銀は、唯一持っていた優位性を失うことになった。

 

(さぁ!これで聞きに来るしかなくなりましたよ会長!)

 

(くっ!こうなったら…)

 

戦いは振り出しに戻り、2人は次の一手を考えるために脳をフル回転させる。

しかし、次の藤原の一言により、その考えは霧散する。

 

「あ、そうですよね!ガラケーだから、ライン出来ないかぐやさんの前で、ラインの話をするのは確かに酷かったですよねー」

 

一瞬の間の後…

 

「「使えないの!?」」

 

2人の声が生徒会室に響く。

 

「そうですね…前までは使えてましたけど今は、使えなくなってます。」

 

「金持ちだろ!買い替えろ!」

 

「幼稚園から使っているものなのです!愛着があって今更買い換えられません!」

 

「四宮さん。2台持ちも結構便利ですよ?」

 

「そんなラインするためだけに、スマホは買いません!」

 

生徒会は今日も平和である。

 

今回の勝敗

よもぎの勝ち (白銀に携帯電話を買わせることに間接的に成功したため)

 


「ところで、貴方天官くんとは連絡先交換しているの?」

 

その夜、あの後白銀とメール等の連絡先交換に成功したかぐやは、早坂にそんな問いを投げかけた。

 

「何ですか急に?」

 

「いいから答えなさい。」

 

「…持ってますよ?あの日に連絡先交換してそれ以来、情報交換の為に使用しています。」

 

そう早坂が答えるとかぐやは、意味ありげな視線を送る。

その様子に早坂はため息をつく。

 

「かぐや様。私は何度も言っている通り、彼とはただ取引をしているだけです。そこになんの意図もありません。」

 

「本当かしら?私は別に貴方と天官くんの関係を認めないわけじゃないの。ただ、そうなら手伝いをしてあげたいだけ。」

 

そう言うかぐやは純粋に、早坂を心配そうに見つめる。

その姿を微笑ましく思いながらも、早坂は返答する。

 

「かぐや様。心配してもらう気持ちはありがたいのですが、本当にそういう仲ではないので…」

 

その早坂の煮え切らない態度に、かぐやはやきもきとした感情を抱く。

 

「もう認めなさいよ!めんどくさい!」

 

「…ブーメランって知ってますか?」

 

「知ってるわよ。オーストラリア先住民のアボリジニが使う、伝統的な大型の投擲器具の事でしょう?」

 

2人の間に微妙な空気が流れる。

 

「とにかく!別に貴方は彼のこと悪くは思ってないんでしょう!?そうじゃなきゃデートに行ったり、お弁当を持っていったりしてあげたりしないわよ!」

 

「それは…」

 

かぐやは、その様子が自分にも当てはまる事には、気付かないまま早坂に伝える。

そう言い淀む早坂、その時早坂から、電話の着信音が鳴り響く。

断りを入れてからスマホの画面を覗く早坂。

 

「あっすみません庶務君から電話が来たので、ここで失礼します。」

 

そう言って早坂は足早に部屋を出ていった。

かぐやはその様子にはぐらかされたと、ため息をつきながら見送り、机に置いてある紅茶を飲む。

その時、かぐやはふと、先程の早坂の物言いに違和感を覚える。

 

「ちょっと待って早坂!天官くんと電話ってどういう事!?ちょっと待ちなさい早坂!早坂!!」

 

四宮家別邸は今日も平和である。




次回、ちょっと早めに『彼』が登場

次話 ○○○は裏切られる。
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