僕はフォン。ギルドに所属する冒険者だ。今年で18歳になる。
僕はこの世界に生まれた時から――なんと、前世の記憶を持っている。
そして前世の記憶がある僕にとってこの世界は、
男性に性的な魅力があり、女性にはない。セクハラ被害を受けるのも男性だし、風俗で働くのも男娼だ。大昔には
そんなあべこべ異世界に生まれた僕には、ひとつの夢がある。
――この世界で、処女をからかって遊びたい。
男性との恋愛経験が乏しく、処女であることにコンプレックスを感じている女の子を「え~? 処女が許されるのは16歳までだよね~?(笑)♡」って煽りたい。
パンチラや胸チラを見せて鼻の下を伸ばす姿を見たい。さりげないボディタッチで意識させたい。ドギマギする処女を見て笑いたい。
そんな願望に従い、女性の多い職業である冒険者になったのだが――このギルドには、カレシ持ちの陽キャ強者女性しかいなかった。僕の思い描いていた、垢抜けない陰キャ処女などいなかったのだ。
かくして、僕は夢破れた。僕は失意の中、空を仰ぐ。
あ~~~~~~! 処女なのがコンプレックスだけどプライドが高くて必死に非処女のフリしてる女の子とかいないかな~!
*
僕はある日、ギルド長室に呼び出された。
「フォン、君にお願いしたいことがあるんだ」
「なんですか」
「3か月だけ、このギルドに仮冒険者として女の子が来るんだ。その子とパーティーを組んであげてほしい」
「……はい?」
普通、パーティーを組むかどうかは、各冒険者の自由意思に委ねられている。ギルド長から直接そんな指示が出ることなどない。
まして、入りたての新人のはずだ。あまりにも優遇され過ぎている。
「何者なんですか、その人」
「騎士団員だ」
「きっ、騎士団!?!?!?」
騎士団とは、この国の最大戦力である。有事の際には戦場に出ることになる、国軍そのものだ。
「どうして騎士団員が冒険者ギルドなんかに来るんですか?」
「詳しくは知らないが、問題を起こして謹慎中らしい。3か月ほどな」
「えぇ……。それって、問題児ってことじゃないですか。嫌ですよ、そんな人とパーティー組むの」
「そこをなんとか頼む。Aランク相当の冒険者が同伴しなければ、クエストに行けないんだ」
冒険者は実績に応じてA~Eのランクに分けられる。自分のランク未満のクエストを受けることはできないが、例外的にAランク冒険者が同伴する場合のみ許可されることになっている。
ちなみに、このギルドには300人程の冒険者がいるが、Aランク冒険者は10人のみだ。
「だとしても、どうして僕なんですか。僕以外にもAランク冒険者は9人もいるのに」
「君と彼女は同い年なんだ。その他諸々を考慮して、君が最適だと判断した」
……絶対ウソだ。10人の中で、僕は唯一の男性だ。騎士団員様のご機嫌を取るために、男をあてがおうとしているだけだ。
「彼女には、隣の会議室に来てもらっている。では行こう」
「えっ、ちょっ」
僕はギルド長に急かされ、隣の会議室の扉の前に立たされる。
「いいか、くれぐれも失礼のないようにな」
「……はい」
僕はしぶしぶ頷き、ノックをしながら入る。
「失礼しま~「ちょっ、待っ……!」
――そこには、半裸の美少女がいた。
ツインテドリルの、綺麗な女性だ。
黄金の絹糸のような、目映いブロンドヘア。
太陽を閉じ込めたように赤々と輝く、紅蓮色の瞳。
すっと通った鼻梁と、気の強そうな鋭い目つきが、芯の強さを感じさせる。
脱ぎかけの、白と金を基調としたブラウスとスカートは、シンプルなデザインながらノーブルな雰囲気を纏っている。
侯爵令嬢のような気品と、女騎士のような覇気。その二つが同時に存在している、不思議な女性だった。
ただし――。
ぺったんこだ。
ぺっっっっっったんこだ。
ぺっっっっっっっっっっっっっったんこだ。
とんでもないド貧乳だ。グレーのスポブラは凹凸も膨らみもない。本来は半球状になることで生まれるべき影もない。
まさに、断崖絶壁。垂直の概念そのもののような、いっそ美しい程に真っ平らな胸部だった。
そんな胸を見て、思わず漏れた言葉は――。
「ちっさ……」
「は、はぁあああああああああッ!? な、なんですの貴方は!? 許可なく着替え中のところに入ってきて謝りもしないどころか、初対面の相手に、な、なんて暴言を……!」
女性は慌ててブラウスを着ながら、驚きと怒りの声を上げる。着衣を直すと同時に、憤怒の表情で僕を睨み付ける。
――実はこの世界において、『女性の胸の大きさ』は、『前世での男性の身長』に相当する。
つまり、女性の胸に対しての「ちっさ」は、「身長150センチの低身長チビ」という暴言と同義だ。
「ご、ごめんね。つい」
「謝罪と訂正を要求しますわ!」
「本当にごめんね。気を悪くしたよね。その……全く悪意なく、つい言っちゃったんだ。君の胸があんまりにもあんまりだから……」
「謝罪どころか二の矢を飛ばすんじゃないですわ! 人をバカにするのも大概にしてください!」
ますます火に油を注いでしまったようで、彼女は顔を真っ赤にしてブチギレている。
一方、ギルド長は青ざめながら――。
「お、おいフォン、お前、なんということを……!?」
「てへぺろ♡」
ギルド長は慌てて前に出て、彼女に頭を下げる。
「べ、ベルさん! うちの若い者が大変失礼しました……!」
「別に貴方のせいではありませんわ。本当に、まったく、ちっとも効いてないので、平気ですわ」
彼女はそういって、険しい面持ちのまま話を続ける。
「では、その方がお話にあった、
「は、はい」
「変更を要求しますわ。その方とのパーティーなんて嫌ですし――こんな貧弱そうな男性が、戦えるとは思えません」
「……なら、試してみる?」
僕は彼女に近付き、相対する。燃えるような紅蓮の瞳は、強い怒りを宿していた。
「ここ、隣に訓練施設が併設されてるんだよ。せっかくだから戦おうよ」
「構いませんわよ。
「うん、もちろんだよ」
「待て待て待て! 何を言ってるんだフォン! ベルさんもどうか落ち着いてください! ベルさんに何かあったら、貴女のお父さんに顔向けできません!」
「……ギルド長様。これは、私の尊厳を傷つけた方を、この手で誅する好機なのですわ。どうかお許しください」
「しかし――「じゃあ、タイマンじゃなくて、スコアアタックで競おうよ」
「す、スコアアタック……?」
「見れば分かるよ、ついてきて」
*
僕と彼女とギルド長は、併設されている訓練施設へ移動した。
「じゃあギルド長、お願い」
「……まあ、これならいいだろう」
ギルド長がレバーを引くと、反対側の通路から
「100体の
「なるほど、面白い趣向ですわね。やりましょう。ギルド長様は、上の休憩席から、撃破数を数えていてくださいますか?」
「わ、分かりました」
そして、僕とベルは向かい合う。
「改めて、ご挨拶を。
「僕はフォン。Aランク冒険者だよ」
ベルは闘気を纏っている。こうして相対しているだけで分かるが――強い。余裕でAランクレベルだ。
「せっかくですし、なにか賭けをしませんか。負けた方は勝った方の言うことを何でもひとつ聞く、というのはいかがでしょうか? 私が勝った場合には、土下座した上で真摯な謝罪をしてもらいます」
「え~。まぁ、別にいいよ」
あんまり負ける気はしないし、もし負けてもそれくらいならいいや。
「では、始めましょう」
ベルは金貨を取り出し、宙へ弾いた。それが地面に落ちると同時に――ベルは剣を抜き、僕は杖を構える。
「聖騎士団流剣術、
ベルは素早く飛び出し――
「一撃……!?」
一方、僕は
僕は
そして、魔法使いとして後衛を担うことで、実質6人パーティーになれる。
ベルの撃破速度も見事なものだが、シンプルに6人分の働きをしているこちらの方が勝っている。
これなら、勝てそうだ。
――その時、ベルが突然近付いてきて、僕の足を払った。
「うわあッ!?」
僕はその場に転倒する。魔力接続が途切れてしまったせいで、
その隙にも、ベルは凄まじい速度で3体の
「ちょっ……!? 直接攻撃はズルでしょ!」
「予めルールが定められていなければ、当然ルール違反も存在しませんわ!」
「こんのっ!」
僕は立ち上がり、
それを繰り返し――終盤、僕の方が微差で負けている状態だ。
「貴方の土下座が今から楽しみですわ! オ~ッホッホッホッ!」
悪役令嬢みたいな高笑いをしながら、
このままだと負ける。そして、土下座させられる。
それは、ムカつく。なんか急に負けたくなくなってきた。なんなら、ベルに土下座させたくなってきた。
「こうなったら――」
僕はベルが戦っている隙に新たに召喚兵を呼び出す。しかし、それは――。
*
そして、勝負は決着した。降りてきたギルド長は、気まずそうに勝敗を告げる。
「撃破数は、フォンが55体、ベルさんが45体で、フォンの勝利です……」
「はあっ!? 待ってくださいませ! 私は60体倒しましたわ! 失礼ながら、それは数え間違いですわ!」
ベルはギルド長に詰め寄る。しかし、ギルド長は「いえ、それが……」と口ごもる。
「ううん、ベルさん。君は45体しか倒してないよ。
「え……? ま、まさか……!」
「そう、君が倒した60体のうち15体は、僕が召喚した偽物の
ベルは愕然としながらも、すぐさま批難の眼差しで僕を睨みつける。
「そ、そんなの卑怯ですわ!」
「予めルールが定められてなかったら、当然ルール違反も存在しないよね?」
「ぐっ、ぐぬぬぬぬぬぬぬぅうッ!」
ベルは怒りに顔を歪ませる。綺麗な顔が、般若のようにブサイクになる。
「これで分かってもらえた? 僕が貧弱な男性じゃないってこと」
「ぐぬぬぅ……」
ベルは悔しそうに渋面を浮かべている。まあ、この顔が見れただけでもよしとしよう。
「えっとね、正直、タイマンだったら僕の惨敗だったと思う。このルール以外じゃ勝てなかった」
「……だったら、なんですの」
「本当に強いんだね。こんなに凄い人、初めて見た」
ベルは「……ふん」と鼻を鳴らし、そっぽを向く。
「――貧弱そうな男性、という評価は改めます。貴方は強い人です」
「あ、うん。ありがとう……」
びっくりした。こんな真っ直ぐな言葉で褒めてくれるんだ。気難しそうだけど、意外と素直な人なのかも。
「話を戻すけど、どうしたい? 僕とパーティーを組むのが嫌なら、他の人に変わってもらうけど」
「おいフォン、勝手に話を進めるな。他のAランク冒険者はみんな予定が入ってるんだ。遠征とか長期クエストとか」
ベルさんは嘆息した。ギルド長がビクッとする。
「重ね重ね、
その言葉に、ギルド長の表情が明るくなる。
「で、では……!」
「はい、彼とのパーティーを受け入れますわ」
「ありがとうございます……! フォンも、それでいいな?」
「……いいですよ。聞いてたよりずっと、いい人みたいだし」
「問題を起こして謹慎中」と聞いて、粗暴な問題児をイメージしていた。しかし、実際に見た彼女は――そんなに悪い人には見えなかった。
こうして、僕とベルさんは3か月だけ、パーティーを組むことになった。
――そういえば、勝った方は負けた方に何でも言うことを聞かせるって約束、どうしようかなあ。
*
僕はベルさんにギルド会館を案内する。クエスト受付所に、館内食堂、訓練施設、更衣室や休憩所など、その他諸々を回っていく。
「しばらくは僕と一緒に過ごすことになるから、最初は覚えきれなくても大丈夫だよ」
「お気遣い感謝しますわ」
ベルさんはすっかり大人しくなった。勝負に負けたせいなのか、しょんぼりしているように見えた。
僕はシャワー室の前で、一度立ち止まる。
「ごめん、ちょっとシャワー浴びてきていい? 動いて汗かいちゃったから」
「ええ、どうぞ。私は荷解きなどもありますし、寮に行ってからでいいですわ」
ベルさんの許可も得て、僕はシャワー室に入った。
待たせるのも悪いのでさっさとシャワーを浴びて済ませ、冒険者装備から私服に着替える。Vネックの白ブラウスに、紺色のジーンズ。可もなく不可もない格好だ。
シャワー室を出て、待っているベルさんのもとへ戻る。
すると、彼女は僕を見るなり目をカッ!と見開き、石化したかのように動きを止めた。
「おまたせ」
「…………」
「えっと、き、聞こえてる?」
「………………………………」
「お~い、だいじょうぶ? どうしたの?」
「……………………………………ハッ!?」
ベルさんは眠りから突然覚醒したかのように、意識を取り戻した。
「ど、どうしたの?」
「な、なんでもありませんわ!」
「なんでもない人がそんな挙動不審になることはないけど」
「本当になんでもありませんわ!」
そういうベルさんの目は泳ぎまくっている。明後日の方を向いてしまい、全然目が合わない。
え、なに。なんなの、この態度。
「まあいいや。じゃあ寮も案内するよ」
ギルドから徒歩3分のところに、冒険者寮がある。10階建ての建物だ。
冒険者寮の前で、僕とベルさんは建物を見上げる。
「1階から8階までに女子部屋、9階から上に男子部屋が入ってるよ」
「なっ……!? 男女で寮分かれてないんですの……!?」
「騎士団だと分かれてるの?」
「とっ、当然ですわ! 女子寮と男子寮の行き来ももちろん厳禁です!」
「へ~そうなんだ! うちの寮だと男女間の行き来も問題ないよ!」
「なっ……!? は、破廉恥ですわ……!!!」
ベルさんは信じられないものを見るような目をしていた。騎士団に所属している彼女にとっては、風紀的によくないことらしい。
僕とベルさんは寮に入り、軽く案内をしてから、彼女に用意された8階の一室へ入る。
そこには、未開封の荷物が置かれていた。
「荷物多いね。荷解き手伝うよ」
「……ありがとうございます。お願いしますわ」
ベルさんは意外そうな顔をしたが、素直に受け入れてくれた。
ふたりで荷解きを始める。大物を運んで設置した後は、小物類の包装をひとつずつ剥がしていく。
――その直後、ベルさんに異変が起こり始めた。
「……」
「……?」
ベルさんの視線が、一瞬僕の胸元に向いた、ような気がした。
あれ、今……気のせい……?
僕は気付かないフリをしながら、手元に視線を落としたまま、作業を続ける。
その間にも、不自然に、視線が高速移動している。僕の胸、荷物、僕の胸、荷物、僕の胸――と、前世でいうところの、おっぱいを覗きたいけどバレるのを怖がっているスケベな少年のように、僕の胸を見ていた。
見てる! やっぱり見てる!
「あ~この体勢ちょっとやりづらいな~」
僕は少し体勢を変えて、前屈みになった。緩いブラウスを着ているため、自然と布地が垂れ下がる。
真正面のベルさんから見れば――胸のあたりの際どい所までV字に見えているだろう。
そこから、ベルさんの視線は止まらなかった。
彼女はこの絶好の瞬間を逃すまいと、一直線に視線を固定する。紅蓮色の瞳をギンッギンに見開き、じっとりした熱の籠もった視線を向けている。
ベルさんは鼻の下を伸ばし、欲望のまま、僕の胸をずっと覗いている。
――完全に、
僕は顔を上げる。ベルさんは何食わぬ顔で、包み紙を剥がしている。
「ねえ、ベル」
「貴方に呼び捨てを許可した覚えはありませんわよ」
「じゃあ、ベルさん」
「はい、なんですの?」
「さっきから胸チラチラ見てるのバレてるよ?」
「ぶはあっ!?!?!?!?!?!?!?!?」
ベルさんは衝撃のあまり肺の空気を全て噴き出し、仰け反って尻餅を突いた。
「はっ、はっ、はあッ!?!?!? 何言ってるんですの貴方! 胸なんて見てませんわよ!」
そういうベルさんの顔は、恥ずかしさのあまり血が上り、真っ赤に紅潮していた。
「見てたじゃん」
「見てませんわよッ! この私がそんなことするわけッ……!」
「いやあんなに鼻の下伸ばしてガン見してたじゃん」
「んなッ……! 見てませんわッ! 絶対見てませんわッ! 貴方の勘違いッ! 思い上がりですわッ!」
ベルさんは顔を真っ赤にしながら必死で否定する。本当に、リンゴみたいに真っ赤だ。怒りなのか羞恥なのか、唇はぷるぷると震えている。
「ねえ、ベルさん」
「なんですの!」
「もしかしてベルさんって、処女?」
ビキッ!と、骨の鳴るような、心が割れるような音がして、ベルさんは一瞬動きを止めた。かと思ったら、すぐにブルブルと震えながら動き出す。
「そ、そんなわけないでしょうッ!!! とっくに卒業してますわよッ!」
「え~ホントかな~?」
「と、当然ですわ! 非処女に決まっているでしょうッ!」
「じゃあ、処女には答えられないクイズ出すね? 処女じゃないなら答えられるよね?」
「えっ……? く、クイズ……?」
急に、ベルさんの表情が凍りつく。
「うん、非処女は答えられるけど、処女には答えられないクイズを3問。もちろん答えられるよね?」
「……と、当然ですわ!」
ベルさんは一瞬たじろぎながら、虚勢を張って大声で答える。しかし、真っ赤だった顔が青ざめていた。
「第1問、男の子のパンツについてる鍵ホックは、正面にある? 後ろにある?」
「……う、うしろ……」
「第2問、S○Xした翌日、痛くなる骨はどこ?」
「……こ、腰骨……」
「第3問、S○Xする前後に、避妊魔法以外で使うべき魔法は何?」
「……か、回復魔法、とか……」
ベルさんはいずれの質問にも、自信なさげに弱弱しい声で答えた。紅蓮色の瞳はずっと不安そうに揺れている。
「正解は、男の子のパンツに鍵ホックなんてないし、S○Xした後に痛くなる骨なんてないし、他に使うべき魔法もないよ」
「んなッ……!?!?!?!?!?」
ベルさんは愕然として、目を見開く。
ないものを答えてしまうというのは、誤魔化しようがない。本当にS○Xを経験した者なら「ありえない」と分かることを分からなかったのだ。
状況を理解してしまったのだろう。ベルさんは、絶望の表情を浮かべていた。
僕はベルさんに近付き、すぐ間近に顔を近づけて、笑顔で告げる。
「はい、処女けって~い(笑)♡」
「ぎッッ……! ぐッ……!! うッ……!!!」
「ねえねえベルさん?(笑)♡ なんで処女じゃないフリしようとしたの?(笑)♡」
「……うぅッ……!!! ぐうッ……!!!」
「恥ずかしかったんだ?(笑)♡ 処女ってバレるの嫌で見栄張っちゃったんだ?(笑)♡」
「うぐぅッッッ!!!!!!」
ベルさんの顔が悔しさのあまり歪む。僕から目を逸らし、下を向いて唇を噛んでいる。
僕は屈んで、下から覗き込むように、ぐいっと顔を近づける。突然目を合わせられ、ベルさんはうろたえる。
「ほんとう?(笑)♡ 本物の処女?(笑)♡ すご~い(笑)♡」
「ぐぅッ……!!!!!」
「ベルさんも18歳でしょ?(笑)♡ 信じられないなあ(笑)♡ さすがに、処女が許されるのは16歳までだよね~?(笑)♡」
「ぐうぅううううううッ!!!!!!!!!」
ベルさんは拳を強く握り、感情を喉で爆発させるように唸り声を上げる。
綺麗な顔は悔しげに歪み、紅蓮色の瞳は涙で潤んでいた。
「処女(笑)♡ 処女(笑)♡ しょ~じょっ(笑)♡」
「ぐぬぬぬぬぬぅうッ!」
「処女代表(笑)♡ 処女庁(笑)♡ 処女政党(笑)♡ 処女担当大臣(笑)♡」
「意味分かんない役職に任命しないでくださいッ!」
「S○Xする時に回復魔法って(笑) ぷふっ(笑) 処女すぎてウケる~(笑)♡」
「うるっっっっっさいですわッ! 私は騎士団員なんですのよッ!」
「でも処女じゃん」
「わ、私はッ! 良家の令嬢なんですのッ! 貴方のような庶民とは格も品位も財力も違う、本物の貴人なんですわよッ!」
「うんうん、でも処女だよね?」
「だからッ、私はッ……貴方とは、ちがう……だって、貴方より、強くて……」
「でもベルさんは処女だよ」
ベルさんは言葉に詰まる。ぐしゃり、と苦しそうな表情になる。
どれだけ彼女が強くて、優れていて、良家の出自だろうと――『処女』という一点のみで、それら全てを損なって余りあるマイナスになる。
前世で例えるなら――実家が裕福で、校内の定期試験で学年1位を取っても、童貞。
どれだけ優秀でも、どれだけ真面目でも、普通に彼女がいる男子生徒と比べたら、ただの負け組なのだ。
もし女子生徒と口論になって、必死になって身分や学業成績を誇ったところで、女子に『童貞』といわれれば瞬時に負け組となる。だって――『童貞』だから。
――そのキラーワードが、この世界では『処女』なのだ。
「ねえ処女さん?(笑)♡ どうしたの?(笑)♡ あんなに威勢良かったのに、なんで処女って言われた途端にそんなつらそうな顔になっちゃうのかな?(笑)♡」
「…………さい」
ベルさんは悔しげに涙を滲ませながら、小さな声で何か言った。
「なに?(笑)♡ どうしたの?(笑)♡ 処女のベルさ~ん?(笑)♡」
「やめて、くださいっ……! 嘘吐いたのは謝るから、処女っていうのやめてくださいっ……!」
耐えきれなくなったのだろう。心からの、必死さの滲む懇願だった。
当然だ。
男性から『処女であること』を笑われるというのは、前世で女性から『童貞であること』を笑われるのと同じなのだ。
同級生・同僚から、『
「……ねえ、ベルさん」
僕が名前を呼ぶだけで、ベルさんはビクッと肩を震わせ、怯えるような眼差しになる。
「な、なんですの……?」
「土下座しながら『私は処女です』って言ってみてよ」
「は、はあッ!?!?!?!?!? な、何言ってるんですの貴方!? いい加減に――」
「負けた方は勝った方の言うことを何でもひとつ聞く、って約束でしょ? それに、ベルさんだって僕に土下座させようとしてたじゃん」
「あっ……」
ベルさんの表情が凍る。
その提案をしてきたのも、つい先ほどの戦いで『貴方の土下座が今から楽しみですわ! オ~ッホッホッホッ!』とか言っていたのも、ベルさん自身だ。
「じ、慈悲をいただけませんか……」
「どうしても嫌ならしなくてもいいけど……ベルさんが『処女』なの、ギルドメンバー皆にうっかりバラしちゃうかもね?(笑)♡」
ベルさんの表情が絶望に満ちる。
今後3か月、慣れない職場で、ギルドメンバー全員に『処女』だとバレた状態で働く――プライドの高いベルさんにとって、想像するだけで最悪の気分だろう。
「もし土下座したら、絶対誰にも言わないって約束してあげる」
「うぐッ……! ぐうッ……!」
ベルさんの中で葛藤しているのが分かる。
それは、彼女にとって大切で大切で大切なプライドを毀損する行為だ。
しかし、より最悪の状況を回避するためには、身を切るような思いでやらなければならない。
「……ぐうッ、ううッ……!」
ベルさんは徐々に膝を折り曲げる。自尊心が許さないのか、ゆっくり、ゆっくりと、身体を震わせながら屈んでいく。
「うぐぅぅうううううううううううッ!!!!!」
今にも血涙が噴き出そうな、羞恥に塗れた、憤怒と屈辱に歪む真っ赤な顔だ。
そして、彼女はようやく正座の体勢になり――頭を下げて、額を床につけた。
「わっ…………! わっ、私は、しょ、処女ですッ……! どうか誰にも言わないでくださいッ……!」
「あはははははははっ!(笑)♡ 土下座っ(笑)♡ 処女の土下座ウケるっ(笑)♡」
「ぐぅううううッ……!! ちッきしょおッッッ……!!!」
ベルさんは顔を上げる。怒りと屈辱のせいで、高血圧で倒れそうなほど真っ赤な顔の、凄まじい形相だった。
「ベルさん、立っていいよ」
ベルさんは無言で立ち上がる。紅蓮色の瞳は射殺さんばかりの怒気を宿し、僕を睨み付ける。
「人生で一番楽しい時間だったよ。ありがとう、ベルさん」
「絶対
ベルさんは怒りに身を任せて咆える。女としての尊厳を傷つけられた者の、人生を懸けた本気の激怒だった。
「あはっ(笑)♡ うん、期待してるよ(笑)♡ じゃあ、これからよろしくね?(笑)♡ ベルさん(笑)♡」
僕はそう言って、彼女の部屋を出る。
そして、喜びのあまり拳を突き上げた。
やったぁあああああああああああああッ~~~~~~~! 処女なのがコンプレックスだけどプライドが高くて必死に非処女のフリしてる女の子、いた~~~~~~!
***
時は少し遡り――。
訳あって、3か月の謹慎処分となり、その間だけギルドで仮冒険者として働くことになった。
なんでも、私の父とギルド長が旧知の仲らしい。その伝手で、Aランク冒険者とパーティーを組ませてくれるよう話をつけてくれたのだ。
ひとり、ギルドの会議室で待つ。
ここが、これから3か月働く場所ですのね……。
冒険者の方には失礼だと分かっているが、エリートとして恥ずかしく思う気持ちが湧いてしまう。
早く騎士団に戻りたい。私の本来いるべき場所に、帰りたい。
「はぁ……」
ところで、ちょっと暑い。
騎士団本部のある王都より、この市は温暖な地域らしい。長袖を着てきたのは失敗だった。
旅行用の大型鞄から半袖を取り出し、着替えようとしたところで――。
「失礼しま~「ちょっ、待っ……!」
その瞬間に、ノックの返事も聞かずに入ってくる不届き者が現れた。
――そこには、天使と見紛う美少年がいた。
新雪のように透き通った銀髪が、陽の光を吸い込み、きらきらと目映く輝いている。
爽やかな水色の瞳は、初夏の晴れ渡る空のよう。
猫のように小っちゃな顔で、目は
人間離れしすぎた美しさ、それでいて小動物のような可愛さを兼ね備えた100年にひとりの美少年だ。
――ヤバい、可愛い。
可愛い。
ま、マジでありえないくらい可愛いですわっ……!
しかし、そんな天使から飛び出した、第一声は――。
「ちっさ……」
「は、はぁあああああああああッ!? な、なんですの貴方は!? 許可なく着替え中のところに入ってきて謝りもしないどころか、初対面の相手に、な、なんて暴言を……!」
し、信じられませんわ……! ち、ちっさ、って……! 許せない……! こんなの、最大級の侮辱ですわ……!
「ご、ごめんね。つい」
「謝罪と訂正を要求しますわ!」
「本当にごめんね。気を悪くしたよね。その……全く悪意なく、つい言っちゃったんだ。君の胸があんまりにもあんまりだから……」
グサッと、私の心に彼の言葉が突き刺さった。
「謝罪どころか二の矢を飛ばすんじゃないですわ! 人をバカにするのも大概にしてください!」
貧乳。小さい胸。
誰にも知られたくなかった、私の恥部。
同年代の女性と比べて明らかに劣っている。女として情けない身体的特徴。
騎士団でも『Bカップ以下は人権ない』と問題発言をして謹慎処分になった男性騎士がいる。それはよくない発言だけれど、同時に、男性の本音でもある。
――そう。本当に、貧乳は男性から相手にされない。
一方、ギルド長は青ざめながら、私に頭を下げる。
「べ、ベルさん! うちの若い者が大変失礼しました……!」
「別に貴方のせいではありませんわ。本当に、まったく、ちっとも効いてないので、平気ですわ」
別に効いてませんわ。本当に、効いてませんから……。
「では、その方がお話にあった、
「は、はい」
「変更を要求しますわ。その方とのパーティーなんて嫌ですし――こんな貧弱そうな男性が、戦えるとは思えません」
「……なら、試してみる?」
――そして、私は彼と戦うことになった。
*
――負けた。
フォンさんの卑劣極まりない作戦によって、私は敗北した。
「これで分かってもらえた? 僕が貧弱な男性じゃないってこと」
「ぐぬぬぅ……」
確かに、強い。
騎士団員以外にも、こんなに強い人がいるんですのね……。
ともかく、フォンさんが強いのは事実だ。一人の騎士として、それを認めなければならない。
「――貧弱そうな男性、という評価は改めます。貴方は強い人です」
「あ、うん。ありがとう……」
フォンさんは意外そうな顔をしていた。素直に認めたのが、そんなに驚きだったのだろうか。
そして、改めてギルド長に無礼を詫びて――。
「――彼とのパーティーを受け入れますわ」
「ありがとうございます……! フォンも、それでいいな?」
「……いいですよ。聞いてたよりずっと、いい人みたいだし」
……いい人?
いい人……。不思議な評価だ。どこを見てそう思ったのだろう。さっぱり分からない。
こうして、私とフォンさんは3か月だけ、パーティーを組むことになった。
――そういえば、負けた方は勝った方の言うことを何でもひとつ聞くって約束どうなるんでしょうか……。わ、忘れててくれないかな……。
*
ギルド館内の案内を受ける中、フォンさんがシャワー室の前で一度立ち止まった。
「ごめん、ちょっとシャワー浴びてきていい? 動いて汗かいちゃったから」
「ええ、どうぞ。私は荷解きなどもありますし、寮に行ってからでいいですわ」
――数分後、フォンさんが出てきた。
!?!?!?!?!?!?!?!?
でっか…………!
でっか…………!!!!!
でっか…………!!!!!!!!!
Vネックの白ブラウスなのだが――深いV字襟が胸元まで及び、おっぱいの最上部が少しだけ露わになっている。
ぱんっぱんに、はち切れそうな程膨らんだ胸筋。肉厚すぎる胸板。*1
このおっぱいは、度が過ぎている。女の欲望を詰め込んだ裸夫像のような巨大さだ。
こんな天使みたいな顔の美少年が、
「おまたせ」
「…………」
「えっと、き、聞こえてる?」
「………………………………」
「お~い、だいじょうぶ? どうしたの?」
「……………………………………ハッ!?」
あまりの衝撃に、しばらく呆然としていた。
「ど、どうしたの?」
「な、なんでもありませんわ!」
「なんでもない人がそんな挙動不審になることはないけど」
「本当になんでもありませんわ!」
でかっ。うわでかっ。
でっっっっっか。
だめだ、目合わせられない。自然とおっぱいに目線が行っちゃう。
「まあいいや。じゃあ寮も案内するよ」
3分ほど歩き、冒険者寮にたどり着いた。10階建ての建物だ。
「1階から8階までに女子部屋、9階から上に男子部屋が入ってるよ」
「なっ……!? 男女で寮分かれてないんですの……!?」
「騎士団だと分かれてるの?」
「とっ、当然ですわ! 女子寮と男子寮の行き来ももちろん厳禁です!」
「へ~そうなんだ! うちの寮だと男女間の行き来も問題ないよ!」
「なっ……!? は、破廉恥ですわ……!!!」
し、信じられない。そんなの、いいのか
男女が同じ屋根の下なんて、風紀が乱れる温床そのものだ。それに、騎士団で男子寮に侵入しようものなら、厳しく処罰される。
私とフォンさんは寮に入る。軽く案内を受けてから、8階の一室へ移動する。
そこには、未開封の荷物が置かれていた。
「荷物多いね。荷解き手伝うよ」
「……ありがとうございます。お願いしますわ」
せっかくの申し出に『結構です』というのも悪いので、お願いすることにした。
ふたりで荷解きを始める。大物を運んで設置した後は、小物類の包装をひとつずつ剥がしていく。
――のだが。
「……」
「……」
つい、無意識に、フォンさんのおっぱいをチラ見してしまった。でも、一瞬だとあまり分からない。
でも、見たい。
私はフォンさんの様子を慎重に窺いながら、今度は意識して彼の胸を見た。
でっっっか……! うわえっろ……!!!
めちゃめちゃ大きい。隆々と発達した胸筋は、硬そうで触り心地が良さそうだ。
フォンさんは気付かず、作業に集中している。私は彼の動きに細心の注意を払いながら、チラ見して、すぐやめて、チラ見して、すぐやめてを繰り返した。
「あ~この体勢ちょっとやりづらいな~」
フォンさんは少し体勢を変えて、前屈みになった。緩いブラウスを着ているため、自然と布地が垂れ下がる。
真正面から見たら――胸のあたりの際どい所までV字に見えてしまっている。
ひょぉおおおおおおおおおおッ!!!!!
ありがとう、マジでありがとう! エロすぎっ! いいの!? いいのこれ!? こんなところまで見れるなんて、最高すぎるッ!
私はこの絶好の瞬間を逃すまいと、ガン見する。ぱんっぱんに膨らんだおっぱい……すご…………。
フォンさんが顔を上げる。私は何食わぬ顔で視線を戻し、包み紙を剥がす。
「ねえ、ベル」
「貴方に呼び捨てを許可した覚えはありませんわよ」
「じゃあ、ベルさん」
「はい、なんですの?」
「さっきから胸チラチラ見てるのバレてるよ?」
「ぶはあっ!?!?!?!?!?!?!?!?」
私は衝撃のあまり肺の空気を全て噴き出し、仰け反って尻餅を突いた。
「はっ、はっ、はあッ!?!?!? 何言ってるんですの貴方! 胸なんて見てませんわよ!」
――ウソ!? バレてた!? あんなちょっとしか見てないのに!?
「見てたじゃん」
「見てませんわよッ! この私がそんなことするわけッ……!」
「いやあんなに鼻の下伸ばしてガン見してたじゃん」
「んなッ……! 見てませんわッ! 絶対見てませんわッ! 貴方の勘違いッ! 思い上がりですわッ!」
令嬢で騎士団員である私が男のおっぱいをチラ見するなんて、不名誉すぎる。絶対否定しなければ――!
「ねえ、ベルさん」
「なんですの!」
「もしかしてベルさんって、処女?」
その一撃は、私の核心を撃ち抜いた。思わず身体が固まってしまう。でも、すぐに言い返さないと――!
「そ、そんなわけないでしょうッ!!! とっくに卒業してますわよッ!」
「え~ホントかな~?」
「と、当然ですわ! 非処女に決まっているでしょうッ!」
本当は、ゴリゴリの処女だ。
18歳にもなって、彼氏いない歴=年齢の、処女だ。
でも、そんなの言える訳ない。バレる訳にはいかない。
「じゃあ、処女には答えられないクイズ出すね? 処女じゃないなら答えられるよね?」
「えっ……? く、クイズ……?」
「うん、非処女は答えられるけど、処女には答えられないクイズを3問。もちろん答えられるよね?」
「……と、当然ですわ!」
虚勢を張って大声で答えたが――恐怖のあまり、背筋に冷や汗が伝う。
え、な、なに……なんなの、処女には答えられないクイズって。これで誤魔化せなきゃ、私の社会的価値が終わる……!
「第1問、男の子のパンツについてる鍵ホックは、正面にある? 後ろにある?」
鍵ホック!? そんなのあるんですの!?
「……う、うしろ……」
「第2問、S○Xした翌日、痛くなる骨はどこ?」
骨!? しかも翌日!? まあ、腰とか脚……? 腰振るから腰は痛くなるでしょうっ!
「……こ、腰骨……」
「第3問、S○Xする前後に、避妊魔法以外で使うべき魔法は何?」
なにそれ!? 本当になに!? 避妊魔法以外!? あるんですの!? そんなの騎士団員養成学校で教えてくれなかったじゃないですの!
「……か、回復魔法、とか……」
私は細々とした声で答えた。うぅ……どうかな……?
「正解は、男の子のパンツに鍵ホックなんてないし、S○Xした後に痛くなる骨なんてないし、他に使うべき魔法もないよ」
「んなッ……!?!?!?!?!?」
私は愕然として、目を見開く。
――やられた。
ただ間違えるだけなら、そういう場合もあると言い訳できる。
でも、ないものを答えてしまうというのは、誤魔化しようがない。本当にS○Xを経験した者なら「ありえない」と分かる筈のことを、私は分からなかったのだ。
――私は、絶望する。
フォンさんは満面の笑みで私に近付き、すぐ間近に顔を近づけてくる。
そして――美しき死神は、私に死刑宣告を告げる。
「はい、処女けって~い(笑)♡」
「ぎッッ……! ぐッ……!! うッ……!!!」
「ねえねえベルさん?(笑)♡ なんで処女じゃないフリしようとしたの?(笑)♡」
「……うぅッ……!!! ぐうッ……!!!」
「恥ずかしかったんだ?(笑)♡ 処女ってバレるの嫌で見栄張っちゃったんだ?(笑)♡」
「うぐぅッッッ!!!!!!」
恥ずかしい。嫌だ。いやだ。辛い。恥ずかしい。いやだ……!
人生で味わってきた嫌な気持ちを全て足し算しても足りないくらいの、強烈な羞恥心と不快感と絶望感が襲う。
熱い。顔から火が出そうなくらい熱い。フォンさんから目を逸らし、下を向いて唇を噛む。
フォンさんは屈んで、下から覗き込むように、ぐいっと顔を近づけてくる。突然目を合わせられ、私はうろたえる。
「ほんとう?(笑)♡ 本物の処女?(笑)♡ すご~い(笑)♡」
「ぐぅッ……!!!!!」
「ベルさんも18歳でしょ?(笑)♡ 信じられないなあ(笑)♡ さすがに、処女が許されるのは16歳までだよね~?(笑)♡」
「ぐうぅううううううッ!!!!!!!!!」
ちっくしょおッ!!!!!!!!!!!!
クソッ! クソッ!!! クソッ!!!!!
私は拳を強く握り、唸り声を上げる。恥ずかしくて、悔しくて、涙がこぼれそうになる。
「処女(笑)♡ 処女(笑)♡ しょ~じょっ(笑)♡」
「ぐぬぬぬぬぬぅうッ!」
「処女代表(笑)♡ 処女庁(笑)♡ 処女政党(笑)♡ 処女担当大臣(笑)♡」
「意味分かんない役職に任命しないでくださいッ!」
「S○Xする時に回復魔法って(笑) ぷふっ(笑) 処女すぎてウケる~(笑)♡」
「うるっっっっっさいですわッ! 私は騎士団員なんですのよッ!」
「でも処女じゃん」
「わ、私はッ! 良家の令嬢なんですのッ! 貴方のような庶民とは格も品位も財力も違う、本物の貴人なんですわよッ!」
「うんうん、でも処女だよね?」
「だからッ、私はッ……貴方とは、ちがう……だって、貴方より、強くて……」
「でもベルさんは処女だよ」
――心が、挫ける。
出自も、経歴も、強さも、意味がない。だって『処女』だから。
女として負け組な処女は、男の子に『処女』と言われるだけで、口喧嘩で負けてしまう。
「ねえ処女さん?(笑)♡ どうしたの?(笑)♡ あんなに威勢良かったのに、なんで処女って言われた途端にそんなつらそうな顔になっちゃうのかな?(笑)♡」
「…………さい」
辛くて、辛くて、本当につらくて。
「なに?(笑)♡ どうしたの?(笑)♡ 処女のベルさ~ん?(笑)♡」
「やめて、くださいっ……! 嘘吐いたのは謝るから、処女っていうのやめてくださいっ……!」
耐えきれず、必死に懇願する。
知らなかった。想像を絶していた。男の子から『処女であること』を笑われるの、こんなに辛いんだ。
「……ねえ、ベルさん」
私はビクッと肩を震わせる。
「な、なんですの……?」
「土下座しながら『私は処女です』って言ってみてよ」
「は、はあッ!?!?!?!?!? な、何言ってるんですの貴方!? いい加減に――」
「負けた方は勝った方の言うことを何でもひとつ聞く、って約束でしょ? それに、ベルさんだって僕に土下座させようとしてたじゃん」
「あっ……」
わ、忘れてなかったんだ、それ……。
でも、それは流石に無理だ。土下座処女宣言なんて、本当に無理だ。できない。心が壊れる。
「じ、慈悲をいただけませんか……」
「どうしても嫌ならしなくてもいいけど……ベルさんが『処女』なの、ギルドメンバー皆にうっかりバラしちゃうかもね?(笑)♡」
瞬間――絶望する。
今後3か月、慣れない職場で、ギルドメンバー全員に『処女』だとバレた状態で働く――地獄だ。それこそ、無理だ。
「もし土下座したら、絶対誰にも言わないって約束してあげる」
「うぐッ……! ぐうッ……!」
葛藤する。
やるしかない。でも、やりたくない。
土下座したが最後――私は『土下座して処女宣言したことのある本物の弱者女性』であるという格付けが完了してしまうのだ。
しかし、より最悪の状況を回避するためには、やるしかない。やるしか、ないっ……!
「……ぐうッ、ううッ……!」
私は徐々に膝を折り曲げる。1秒ごとに自尊心がガリガリと削れていく。ゆっくり、ゆっくりと、身体を震わせながら屈んでいく。
「うぐぅぅうううううううううううッ!!!!!」
つらくて、悔しくて、恥ずかしくて、今にも血涙が噴き出そうだ。高血圧でぶっ倒れそうなくらい、顔が熱い。
そして、私は正座の体勢になり――頭を下げて、額を床につけた。
「わっ…………! わっ、私は、しょ、処女ですッ……! どうか誰にも言わないでくださいッ……!」
「あはははははははっ!(笑)♡ 土下座っ(笑)♡ 処女の土下座ウケるっ(笑)♡」
「ぐぅううううッ……!! ちッきしょおッッッ……!!!」
クソッ……! クソッ……!!! クソッ……!!!!!
私は顔を上げる。
怒りと屈辱のせいで、脳味噌が沸騰しそうなくらい熱い。今なにをしているのか分からないくらい、血管がブチギレている。
「ベルさん、立っていいよ」
私は無言で立ち上がり、フォンさんを睨み付ける。
「人生で一番楽しい時間だったよ。ありがとう、ベルさん」
「絶対
私は怒りに身を任せて咆える。
許さない。許さない。許さない。この男だけは、絶対に許さないッ!
「あはっ(笑)♡ うん、期待してるよ(笑)♡ じゃあ、これからよろしくね?(笑)♡ ベルさん(笑)♡」
フォンさんはそういって、私の部屋を出る。
残された私は、拳で床を殴りつけた。
あのオスガキッッッ! あの男だけは、マジで絶対に
『フォン』
性別:男性
容姿:銀髪、水色の瞳。この世界においてIカップ相当の巨乳(胸板が大きい程カップ数が大きい)
職業:Aランク冒険者・召喚術士
備考:処女をからかって遊ぶのが大好き。
『ベル』
性別:女性
容姿:金髪、ツインテドリル、紅蓮色の瞳。Aカップ。
職業:騎士団員(謹慎中)→仮冒険者
備考:処女であることに強いコンプレックスを抱いている。