処女が許されるのは16歳までだよね~?   作:耳野笑

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 前回のあらすじ!

 あべこべ異世界に生きるフォンは「処女をからかって遊びたい」という願望を抱えていた!

 ある日フォンは、謹慎中の騎士団員・ベルと出会うが、初対面で彼女の胸を見て思わず「ちっさ」と言ってしまう!
 それがきっかけでケンカになるが、色々あって和解し、フォンとベルは3か月だけパーティーを組むことになった!

 その後フォンは、ベルにおっぱいをガン見されたことから「もしかして、処女?」と疑いをかける!
 ベルは必死に否定するが、『処女には答えられないクイズ』により、処女であることを暴かれてしまう!

 フォンは念願叶って『処女が許されるのは16歳までだよね~?(笑)♡』と煽りまくる!

 ベルはブチギれ、必ずフォンを理解らせると誓ったのだった!


第2話 僕に触られるの、そんなにドキドキする?

 

「おはよう。改めて、これから3か月よろしくね、ベルさん」

 

「おはようございます。こちらこそよろしくお願いしますわ」

 

 ベル――紅蓮色の瞳。金髪ツインテドリル。お嬢様然とした、綺麗な女の子だ。

 騎士団員だが、3か月だけこのギルドで仮冒険者として働くことになっている。ちなみに、実力はAランク冒険者以上だ。

 

「これ行きたいんだけど、ベルさんはどう?」

 

「いいと思いますわ。ところで……」

 

 ベルさんは周りを見渡した。周囲のギルドメンバーたちは、こちらをチラチラ見ている。

 

「なんだか、注目を集めているような気がするのですが」

 

「見たことない人いる~って感じじゃないかな。しかも金髪ツインテドリルでお嬢様っぽいオーラ放ってるし、そりゃ気になるよ」

 

「はあ、そうですのね」

 

「しかも、この掲示板Aランククエストしか貼ってないからね。謎のAランク相当実力者の存在に、みんな興味津々ってことだよ」

 

 ベルさんは落ち着かない様子で、辺りをもう一度見回す。僕は彼女のすぐ傍に近付き、小声で話す。

 

「だいじょうぶだよ。誰もベルさんのこと処女だなんて思ってないから(笑)♡」

 

「そんなこと心配してるわけじゃありませんわよ!」

 

「ふふっ(笑)♡ かわいい~(笑)♡ ベルさん好き~(笑)♡」

 

 僕はベルさんの腕に抱き着く。彼女は「んなっ」と声を上げ、紅蓮色の瞳を見開いて、驚きの表情を浮かべる。

 

 周囲も「きゃあ……!?」「えっ……フォンが抱きついてる……!?」「あの人、何者……!?」とざわつき始める。

 

「なっ、なんで、こんなことっ……!」

 

「ベルさんが可愛くて(笑)♡」

 

「かっ、からかうのも大概にっ……!」

 

 と言いつつも、ベルさんは顔を赤らめたまま、僕を拒もうとしない。

 人生で数少ないであろう男のコとの接触に、喜びを隠しきれていない。

 

 その時、ちょうど通りがかったギルド長が、驚きの声を上げて立ち止まった。

 

「え……? ど、どうしたんだ君たち……。昨日はあんなに険悪だったのに……」

 

 そう、僕とベルさんの出会いは、最悪だった。

 

 初対面で、僕は彼女の胸を見て「ちっさ」と言ってしまった。それがきっかけでケンカになり、ゴーレムの撃破数で競うことになって――勝利した。

 だが、その後――僕は彼女の秘密を知ってしまった。

 

 ベルさんは処女だった。

 

 バキバキの処女だった。

 

 ゴリゴリの処女だった。

 

 僕は18年間求め続けた相手を見つけ、大いにはしゃぎ『処女』を煽った。罵って、からかって、弄んで、バカにした。

 

 ――結果、ベルさんからは完全に敵だと認識された。

 でも、ギルド長が知っているのは、ケンカしてしぶしぶパーティーを組んだところまでだ。

 

「ず、随分と仲良くなったみたいで、なにより、だな……?」

 

「そうなんですよ~! 僕もう完全にベルさんの(とりこ)になっちゃいました(笑)♡」

 

「ちょっ……!?」

 

 再びギルドメンバーたちがザワザワする。ギルド長も信じられないものを見る目でベルさんを見ている。

 

「え、君たち、会って2日目じゃ……? 騎士団員ってそんなに手出すの早いの……?」

 

「ギルド長! 誤解ですわ! 何もしていません! その不名誉で卑俗なイメージは誤りですわ!」

 

「え~? 僕の心はもうベルさんのことでいっぱいなのに……」

 

「貴方は黙っていてくださいませっ!」

 

 周囲のギルメンたちは「スクープだ~! フォンに熱愛発覚だ~!」「すげー! おめでとー!」「盛り上がってきた~!」とヒートアップしていく。

 

「ああもう、どうするんですのこれ!」

 

 *

 

「酷い目に遭いましたわ」

 

 あの後、僕たちはクエスト受付を済ませ、熱愛スクープに盛り上がるギルド会館から抜け出した。

 

 クエスト地に向かう馬車に揺られながら、僕たちは話している。

 

「なんてことしてくれるんですの、貴方は」

 

「処女なのバレるよりはいいと思うけど?」

 

「それはそうですが! 真逆の印象を持たれるのも困りますわ!」

 

 ベルさんは実際困った顔をしていた。

 

 もう完全に『2日でフォンを口説き落としたプレイガール』という噂が広まるだろう。処女なのに。

 

「ところで処女さん」

 

「ぶっ飛ばしますわよ!? 名前で呼んでくださいませ!」

 

「ベルさん、なんで初めて会った時半裸だったの?」

 

「半袖に着替えてたんですのよ。暑かったので」

 

「ああ、そうだったんだ」

 

 僕はベルさんの胸をじっと見る。戦闘服の上からだと、大きいか小さいかあまり分からない。

 けれど、その服の下の、スポブラだけの状態を、僕は知っている。

 

 崖。まな板。ぺったんこ。――世にも珍しい、真っ平らなおっぱいだ。

 

「思い出さないでくださいませ! 泣きますわよ!」

 

 ベルさんは嫌そうに渋面を浮かべ、自身の胸を腕で覆い隠した。

 

「ごめんね、お詫びに僕の胸見ていいよ」

 

「えっ」

 

 僕は胸当てを取り、装束のボタンを下から外していく。

 

 ベルさんは「え、マジで……?」という期待に満ちた顔で、僕の胸を凝視しながら、ごくりと生唾を飲んだ。

 そして、僕は胸元のボタンに指を掛けたところで――。

 

「……ぷふっ(笑)♡ ウソに決まってるじゃん(笑)♡ なに本気にしてるの?(笑)♡」

 

「はっ、はあっ!?!?!?!?!?!? 別に本気になんてしてませんが!?!?!?」

 

「いやあんなに期待の籠もった目で見てたじゃん」

 

「期待なんてしてませんわ! ホントにしてませんから!」

 

 ぜったいウソだ。確実に本気にしていた。処女は素直な生き物なのだ。

 ベルさんは恥ずかしさを誤魔化すようにそっぽを向いてしまった。

 

「いつか男のコのおっぱい見れるといいね(笑)♡ 処女さん(笑)♡」

 

「くっそッ…………!」

 

 ベルさんは膝上で拳をきつく握りしめながら、心底悔しそうな表情を浮かべていた。

 

 *

 

 本日のクエストは、畑に巣食う魔獣の討伐だ。巨大な豚型の魔獣なのだが――。

 

「聖騎士団流剣術、第一剣――光星の一太刀(リーシュ・ヴァリル)

 

 ――巨大な豚が真っ二つに両断され、二つの肉塊となって左右に倒れた。

 

 いや強すぎ。騎士団員だけあって、本物の実力者だ。ギルドにはAランク冒険者が10人もいるが――おそらく誰もベルさんには及ばないだろう。

 

「こんなものですのね」

 

「ま、まあ、もうちょっと歯ごたえあるクエストもあると思うよ……」

 

 僕この人のこと『処女』って煽ってたんだあ……。い、いや、ビビるな。いくら強くても処女は処女だ。ビビらず行こう。

 

 帰り道――。馬車に揺られながら、ベルさんは窓外の景色を眺めている。

 

「ベルさん、強いんだね」

 

「ええ、強いですわよ。フォンさん、貴方は『青騎士』というものをご存じですか?」

 

「ううん、知らない」

 

「騎士団の中には、強さのみを基準とする等級があるんですの。その等級で、上位1%の最上位帯騎士のみが『青騎士勲章』を贈られ、『青騎士』と名乗ることを許されるんですの」

 

「え、まさか……」

 

「はい、史上最年少で『青騎士』となった天才が、この私ですわ」

 

 ベルさんは脚を組み、誇らし気な顔でそういった。

 

「そんなに強いのに処女なの?」

 

「本当に斬り捨てますわよ! 私の方が強いんですから!」

 

「ううん、そんなことできないよ。だって、ただでさえ謹慎中なのにまた問題起こしたら、本当に立場が危うくなっちゃうんじゃない?」

 

「うぐっ……!」

 

 ベルさんは急所を突かれたように呻く。

 

「僕に何を言われても、ず~っとガマンするしかないね?(笑)♡ ざぁ~こざぁ~こ(笑)♡」

 

「さ、最悪ですわ……! よりにもよってこんなオスガキと一緒のパーティーだなんて……!」

 

「僕はベルさんと一緒にいれて幸せだよ(笑)♡」

 

「ぐぬぬうッ……!!!!!」

 

 ベルさんは顔をしかめながら僕を睨む。

 

 僕は本当に幸せだった。――こんな素敵な時間が3か月も続くなんて、夢みたいだ。

 

 *

 

 クエストの完了処理が終わり、今日の仕事はお終いだ。

 

 ベルさんはギルド館内の光景を見ながら佇む。その横顔は、険しいものだった。

 

「ここで3か月、ですのね……」

 

「早く騎士団に戻りたい?」

 

「はい、一刻も早く、戻りたいですわ」

 

 ベルさんは静かに、しかし力のこもった声で、そういった。

 

「私は、こんなところにいる筈では――」

 

 そう言いかけ、彼女はハッとした様子で僕の方を見た。

 

「貴方の前で、『こんなところ』なんて言い方をするのは失礼でしたわね。申し訳ありません」

 

「ううん、全然いいよ」

 

 きっと、それがベルさんの本音なのだ。

 彼女はおそらく人生のほとんどを努力に費やして騎士団員になった。そんなエリートにとって、冒険者ギルドなんて場所は下の下の場末だ。

 

「それに、ベルさんがここにいるのって、一流シェフに皿洗いさせてるようなものだし。実際こんなところにいるレベルの人じゃないよ」

 

「持ち上げすぎですわよ」

 

 ベルさんは苦笑する。なんだか、胸の大きさをバカにされてキレ散らかしてたのと同じ人とは思えないくらい、寂しい笑顔だった。

 

「夕飯いっしょに食べていこうよ」

 

「……ええ、構いませんわよ」

 

 ベルさんは驚いて目を丸くしながらも、了承してくれた。

 

 ふたりでギルド館内の食堂に入る。

 当然ながら、他のテーブル席には冒険者たちの姿がある。今朝のこともあってか、チラチラと見られる。

 

 ヒソヒソ話だが「あれが、噂の――」「騎士団員なんだって――」「もう付き合ってるのか――」みたいな声がうっすらと聞こえてくる。

 

「……フォンさん、貴方、恋人はいないんですの?」

 

 夕飯を食べながら、ベルさんはそう聞いてきた。

 

「いないいない。フリーだよ」

 

「そうですか。正直、意外ですわ」

 

「なになに? もしかして僕のこと気になってる?」

 

「なってませんわ。今世界中で最も恋人にしたくない男性ランキングで2位以下を大きく引き離しての1位です」

 

「え~ウソ~(笑)♡ 昨日は僕のおっぱい、あんな情熱的な目で見てくれたのに~(笑)♡」

 

「んぐふっ!?」

 

 ベルさんは食べ物を詰まらせ、苦しそうに飲み込む。

 

「……見てませんわ」

 

「いや無理あるでしょ。ガン見してたじゃん」

 

「断じて見てませんわ」

 

 ベルさんは頑として否認し、黙々と食べ続ける。

 料理もだいたい食べ終わり、僕が頼んだチョコケーキを残すのみとなる。

 

「美味しそうですわね。次は私も注文しますわ」

 

「ひとくち食べる? はい、あ~ん」

 

「!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 ベルさんは驚いて硬直した。紅い瞳をまん丸に見開いて、差し出されたフォーク上のケーキを見つめている。

 

 ――数秒後、おそらく色々な感情を整理したであろうベルさんは、身を乗り出した。

 

「あ、あ~ん……」

 

 小さな声でそういって、ぱくりと食べてくれた。顔が熟れたリンゴのように真っ赤だ。耳まで赤い。

 

「お、美味しいですわね」

 

「顔真っ赤だよ」

 

「あ、赤くありませんわ! ごちそうさまでした!」

 

 *

 

 私は自室に戻り、すぐさまシャワーを浴びてから、布団に潜り込んだ。

 

 な、なんなんですのあの人!? 距離感近すぎませんこと!? 普通にあ~んとかしてくるし! 今朝もいきなり腕に抱き着いてくるし!

 

 人生初の男の子からの「あ~ん」でしたわ……。「あ~ん」してもらえた……。嬉しい……。

 

 ……いやいや、冷静にならないと!

 

 おそらくフォンさんは、誰にでもあの距離感で接して、女子を勘違いさせるタイプの男性ですわね。騎士団員養成学校にもああいうタイプの男子いましたわ。

 

 そういう男子に入れ込んで告白したものの『あっ……ごめんね、僕カノジョいるんだ』とか言われて脳を破壊された可哀想な女友達がいましたわ。

 私も内心、彼に想いを寄せていたので、余波で脳が破壊されましたが――この話は忘れるとして。

 

 気になることがひとつ。フォンさんが本当に誰にでもああいうことをするタイプなのか。それとも処女の私をからかっているだけなのか。

 まあ、両方でしょうね。

 

 ああいう男の言動は真に受けたりしない。これが大事ですわ。

 

 残念でしたわね、フォンさん。並みの女なら篭絡されたかもしれませんが、高潔で思慮深く洞察力の優れた私には効きませんわ。あと単純に、私の前で性悪な素顔を見せすぎましたわね。

 

 それにしても。せっかく男性とふたりきりのパーティー、という状況なのに全く心躍らないですわ。むしろ、憂鬱ですわね。

 

 ――いつか男のコのおっぱい見れるといいね(笑)♡ 処女さん(笑)♡

 

 ――そんなに強いのに処女なの?

 

 ――僕に何を言われても、ず~っとガマンするしかないね?(笑)♡ ざぁ~こざぁ~こ(笑)♡

 

 クッソッ……!!! ムカつくッ……!!!!!

 

 フォンさんの言葉が頭をよぎり、苛立たしさが込み上げてきた。私は布団を握り締め、ぎゅっと目をつぶった。

 

 *

 

 翌日。

 

 私とフォンさんは、午前中に軽めのクエストを終わらせ、ギルド会館へと戻ってきた。

 そして、検査器具の置かれた検査室へと入る。大小さまざまな機械が置かれていた。

 

 今日は、午後の時間を使って健康診断を行うことになった。

 ギルド所属の冒険者は年度初めに健康診断を受ける義務があるらしい。だが、最近仮加入したばかりの私は当然受けていないのだ。

 

「のんびりできていいね~。いつもは混み合うからさ」

 

「300人近く在籍するギルドですし、そうでしょうね」

 

 検査室には検査員すらいない。ひとりで勝手にやってください、ということらしい。

 

 ちなみに、私たちはクエスト後にギルドへ戻ってきて、一度シャワーを浴びた。なので、ふたりとも私服である。

 

 フォンさんは、薄手のブカブカTシャツを着ている。萌え袖が可愛い。

 下は、超ショートのデニムパンツだ。白く眩しい太もも……めっっっちゃえっちですわ……。

 いや、ほんとにエロいですわね……なんですの、あのむっちりした太もも。触り心地良さそう……えっろ……。

 

「じゃあ、順番にやっていこっか」

 

 私は身長、体重、視力などを順番に測っていき、用紙に書き込んでいく。

 するとフォンさんは「せっかくだし僕もやってみよ~」といって、私の後をついてくる形で、器具を使って測っていく。

 

「あ、体重は見ないでね?」

 

「分かってますわよ」

 

 フォンさんの乗る体重計を見ないようにしながら、次の項目を確認する。……次は、魔力測定ですわね。

 

 巨大な魔力測定台の上に、背もたれのないイスが設置されている。これに座って、固定ベルトを腰に巻いて、30秒ほど待てばいいだけなのだが――。

 

「あの、この固定ベルト壊れているのですが」

 

「え? あ~ほんとだ」

 

 ベルトが壊れて、伸び縮みしなくなっていた。仕方ない、魔力測定は飛ばして――。

 

「じゃあ僕がベルトの代わりに押さえててあげるよ」

 

「……えっ」

 

 フォンさんが私の背後に立ち――ぎゅーっと抱きしめてきた。

 

「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 え、え、え、え!?!?!?!?!?!?!

 

 なんですのこれ、なんですのこれ!?

 

 あっ、やばっ、なんかいい匂いするっ……! ていうか、あったかっ……! や、やばっ……! これほんとにやばっ……!

 

 ――シャワーを浴びたての、温かい体温。心地よい人肌。

 男のコのいい匂いに包まれて、脳が喜んでしまって、幸福物質がドバドバと放出されてしまう。

 

 いい匂いする! いい匂いする! なんか変な気分になる!

 

 腰に回された腕。ぎゅーっ!と強く抱きしめられ、背中にフォンさんの身体が密着する。お互いシャワー上がりの、上気して(ぬく)い体温を、じんわりと背中いっぱいに感じる。

 

 くぅッ……! なんでこんないい匂いするんですのっ……!

 

「……………………」

 

 ヤバい、幸せすぎますわ……もうこのまま離れたくないですわ……おねがい、終わらないで……。

 

「はい、おしまい」

 

「えっ!? うそっ!? もう終わりですの!?」

 

「うん、30秒経ったよ?」

 

 早すぎる! 絶対まだ10秒くらいしか経ってませんわ!

 

 しかし、計器を見ると確かに数値が出ていた。私はガッカリしながら、その数値を紙に書き込んでいく。

 

「じゃあ次、僕の番ね?」

 

「えっ」

 

「押さえるの、お願いしていい?」

 

「えっ、えっ」

 

 フォンさんがイスに座り、抱きしめやすいように両腕を上げる。

 

 ――えっ、マジ!?!?!? 抱きしめるんですの!? 私が!?

 

「い、いいんですの? これ、思いっきりセクハラになってしまいますが……」

 

「いいよ」

 

 フォンさんは背を向けたまま、あっさりと了承する。

 

 私は震える手を伸ばす。おそるおそる、フォンさんの腰に腕を回す。

 しかし、力を込めることができない。彼の背中に自分の身体を触れさせるのが怖くて、これ以上力を込められない。

 

「もしかして、男のコに自分から触るの、緊張してる?」

 

「は、はあッ!? そんなことありませんが!?」

 

「処女だなぁ~(笑)♡」

 

「こんのッ……!」

 

 するに決まってるでしょうがッ! そんなのッ!

 

 でも、煽られたおかげで、緊張が解けた。さっきまで密着してたんだ。どうせなら思いっきり堪能してやるっ!

 

 私は、怒りと勇気を込めて、ぎゅっとフォンさんの身体を抱きしめた。

 

 ――男のコの、いい匂い。ふんわりとした甘い香りがする。

 やっぱりあったかい。温い人肌を感じて、すごく心地いい。

 

「もっと強くして」

 

「も、もっと……!?」

 

 いいの!? 私は思いっきり、拘束するかのように、ぎゅっと力を込める。

 

 あったかい……いいにおいする……しあわせ……。ていうか、フォンさん、ちっちゃくてかわいいな……。

 

「……終わったよ、ベルさん」

 

 計器が数値を表示する。私は名残惜しい思いで、フォンさんを離した。

 

 最高だった……またやりたいな……。いや、そんな機会もうあるわけないか。ということは、これが最初で最後だった!? じゃあもっとちゃんと味わっておけばよかったですわ……!

 

「……ありがとう、ベルさん」

 

 フォンさんが私の方を振り向く。顔が赤らんでいた。シャワー上がりだから上気しているだけかもしれないが、目がとろんとして、どこか陶然としているように見えた。

 

「……」

 

「……ベルさん、あと何が残ってるの?」

 

「えっ、あっ、えっと心臓の心拍数ですわ。まあ、これは自己計測でいいですわね」

 

「じゃあ測ってあげるよ」

 

「えっ」

 

 フォンさんは私の腕を掴み、手首の辺りを手で押さえた。男の子の、()っちゃな手だ。

 

 あ、ヤバ……! ドキドキして、心臓うるさくなって……!

 

「……ベルさん、心臓バクバクしすぎ」

 

「うぐっ……!」

 

「僕に触られるの、そんなにドキドキする?」

 

 美少年の美貌が、覗き込んでくる。潤み輝く、水色の瞳。彼の口もとは妖しくほころんでいる。――魔性の男の笑みだった。

 

「も、もうむりぃいいいいいいいいッ!!!!!」

 

「あっ、ベルさんっ」

 

 私はフォンさんの腕を振り解いて走り出した。

 

 こんなのッ! 好きになっちゃうに決まってるじゃないですのおおおおおおおおおおおッ!

 

 *

 

 その夜、私は自室のベッドに身体を預け、思い悩んでいた。

 

「はぁ……」

 

 フォンさん、彼女いないって言ってたの、本当なのかな……。いないの? 本当に? あんな可愛くて、おっぱい大きくて、コミュ力も高い、1軍陽キャ勝ち組男子なのに?

 

 でも、今フリーなのは本当な気がしますわね。本人の態度的にも、周囲の反応的にも。

 

 しかし、きっと過去には、いたはずだ。

 

 思わず、想像してしまう。

 

 彼女と手を繋ぐフォンさんの姿を。

 彼女とキスをするフォンさんの姿を。

 ――彼女と、S○Xをするフォンさんの姿を。

 

「ううっ……ぐッ……! なにこれッ……! 苦しいッ……いやっ……!」

 

 胸が苦しくて締め付けられるような感覚。騎士団員養成学校で、気になっていた男子に恋人がいると分かった時の感覚と似ている。

 

 フォンさんの初体験はいつだったのだろう。連れ込み宿(ラブホテル)でだろうか、それとも、彼女の部屋でだろうか。

 フォンさんの彼女は、もちろんフォンさんに何でもし放題。あの巨乳にも触り放題。胸だけじゃなくて、どこにでも――。

 

 一方私は、フォンさんに指一本触れることすら許されない。ひとりでベッドに座って、オ○ニーすることしかできない。

 

「ふぐぅうううううううぅうううう~~~~ッ!」

 

 興奮の熱で身体が昂る。同時に、惨めさと屈辱で、心が締め付けられて、涙がこぼれそうになる。

 フォンさんの身体、エロかったですわ……とっくに他の女に抱かれてますわよね…。一生私は抱けないんですわよね……。

 

 悔しさのあまり、手の平に爪に食い込ませる。

 秘所に手を伸ばしそうになる手を、必死で抑える。

 

 フォンさんをオ○ズにオ○ニーなんてしたら、負け組だ。

 

 フォンさんと気持ちよくS○Xし放題だった恋人という勝ち組と比較して――負け組だ。

 悔しくて、悔しくて、本当に悔しくて――とてもじゃないけど、そんなことはプライドが許さない。

 

 オ○ニーしたい欲求を、必死で堪える。布団をかぶって、睡眠の体勢を取る。

 でも――心はこんなに落ち込んでいるのに、馬鹿な身体がギンッギンに興奮して熱を下げてくれない。

 

 クソッ……! クソッ……! クソッ……!!!

 

 私も、S○Xしたいッ……!!!!!!!!!

 

 *

 

 土曜日。

 

 今日は休みだ。この辺りのお店を見て回るつもりだったが、明日に回すことにした。

 

 色々ありすぎて精神的に疲れたから、今日は休みたい気分ですわ……。

 

 そして、私は『休む』だけの休日を過ごした。夕食を寮内の食堂で済ませ、早めにお風呂に入り、寝間着(パジャマ)に着替える。

 

 早めに寝ようかな、と考えていたその時――。

 

「やっほ~フォンだよ~」

 

 ……なんか来た。嬉しさ半分、嫌な予感半分だ。私は扉を開ける。

 

 フォンさんもパジャマだ。上下ともに薄手の、グレーのシンプルなパジャマだ。白い腕と脚が、目に眩しい。

 ……その格好で女子部屋のフロアまで来るの、危なくないんですの?

 

「あ、ベルさん髪下ろしてる~! かわいい~!」

 

「先ほどお風呂に入ったので……。それで、何の用ですの?」

 

「遊びに来ちゃった♡」

 

「遊び道具なんてありませんわよ」

 

「ベルさんで遊ぶよ♡」

 

「帰ってくださいますか!?」

 

 絶対またからかわれる……。処女ってバカにされる……。

 

「じゃあお邪魔しま~す」

 

 結局拒み切れずに、フォンさんを招き入れてしまう。……うわ、改めて、自分の部屋に男性を上げるって、凄いことですわね。なんだか急に緊張してきましたわ……。

 

 すると、フォンさんはラグマットとテーブルをスルーして、ベッドに腰を下ろした。

 

「いやちょっと! 破廉恥ですわ!」

 

「え、なにが?」

 

「こんな夜中に! そんな薄着で! 女の部屋に上がって! しかもベッドに座るなんて!」

 

「え~普通だよ~」

 

 フォンさんは余裕そうに微笑んで、足をプラプラさせている。

 

「隣、おいでよ」

 

「むぐっ……じゃあ、そうしますわ」

 

 私は間隔をあけてフォンさんの隣に座る。すると、彼は位置をずらして、私にぴったりくっつくように座り直した。

 ――瞬間、お風呂上がりの、いい匂いが香ってくる。あ、やば、いい匂い……。

 

「な、なんで、こんな近くに……」

 

「ベルさんが遠すぎるんだよ」

 

 そうなの、かな。ああ、ダメですわ。近くに座っているだけで、ドキドキが止まりませんわ。

 

「ベルさんって、肌白いよね」

 

 フォンさんは手を伸ばし、私の膝の上で、手を重ねてくる。

 ――心臓がバクバクと爆音を鳴らす。嬉しさと恥ずかしさで、ありえないくらい体が熱くなる。

 

「だから照れちゃうと、こんな風にすぐ真っ赤になるから丸わかりだね?(笑)♡」

 

「んなっ……!?」

 

「処女のベルさんには刺激が強すぎたかな?(笑)♡」

 

 フォンさんは嘲りに満ちた笑みを浮かべる。その心底下に見ている態度に、怒りが湧き立つ。

 

「あ、貴方っ……! からかっているつもりかもしれませんが、いつか本当に襲われますわよっ!」

 

「そもそも処女に男の子を襲う度胸なんてないし、ベルさんが僕のこと襲ったら謹慎どころじゃ済まないよね?(笑)」

 

「ぐっ、ぐぬぬぬぬぬ……!」

 

「しかも、強()罪なんて重罪だよ? いくら良家の令嬢でも、絶対牢屋入りだよね? 騎士団追放された上に、性犯罪者として捕まって、家族にも友達にもみ~んなに見限られちゃうよ?」

 

 これが――男女の間にある、見えない壁。

 

 女が男を襲えば、強()罪になる。無理やり触ったり、あるいは触らずとも、性的な言葉を向けたりするだけで、それは犯罪となる。

 

 法律という絶対的な盾を使い、その盾の向こうという安全な場所から、好き放題私を罵倒してくる。

 私は、どれだけ『処女』と馬鹿にされても、自尊心を傷つけられても、決してフォンさんを襲うことなどできない。

 

「立場わかった?(笑)♡ 処女さん(笑)♡」

 

 フォンさんは目を細め、こちらを見下すような笑顔を浮かべながら、私をバカにする。

 

「しょ、処女っていうのやめてっ……」

 

 何も言えない私に、フォンさんはさらに近付く。そして、耳元に唇を寄せて、囁き声で――。

 

「処女~(笑)♡ 処女~(笑)♡ 処女さ~ん(笑)♡」

 

「んんぅッ……!?!?!?」

 

 耳元でのゼロ距離囁きという未知の衝撃に、身体がビクーン!と反応してしまう。

 

「処女(笑)♡ ザコ処女(笑)♡ 弱者女性の底辺処女(笑)♡」

 

 口を開く度、あったかい吐息が耳にかかる。しかも、甘くて可愛い声で、一番触れられたくない『処女』を馬鹿にされている。

 

「やめっ……! やめてえっ……!」

 

「『やめてえっ~』って(笑)♡ よっわ~(笑)♡ 処女なの馬鹿にされても反撃できないのどんな気持ち~?(笑)♡ ざぁこざぁ~こ(笑)♡」

 

「んぎぃッ……! くっそッ……!!!」

 

「処女(笑)♡ 処女(笑)♡ しょ~じょっ(笑)♡」

 

 自尊心が、ぐちゃぐちゃにされる。羞恥でぐつぐつと煮え立った心を、熱した火掻き棒でぐちゃぐちゃに掻き回されているような気分だ。熱い。熱い。熱い。つらい、クソッ……! クソッ……!!! ちきしょおッ……!!!!!

 

「ねえベルさん、耳元でぽそぽそ囁かれるの好きでしょ?(笑)♡」

 

「はっ、はあッ!? そ、そんなわけ――」

 

「だって、さっきから耳元で『処女』って馬鹿にされる度、ちょっと喜んじゃってない?(笑)♡」

 

「――ッ!?」

 

 急に核心を突かれたような気がして、焦燥する。

 

 そんなこと思ってない。思ってるわけがない。こんなに、恥ずかしいのに。熱いのに、身体の昂りが止まらない。なぜか、興奮してしまう、なんて――思ってない!

 

「ち、ちがいますわっ、断じてそんなこと――ひゃあッ!?」

 

 突然、生温かい吐息を、「ふぅ~♡」っと耳内に吹き入れられた。

 さらに、続けて――。

 

「んひゃあッ!?」

 

 あたたかい舌が、私の耳を這った。唾液を帯びた温かい舌が、まるでひとつの生き物のように私の耳を(ねぶ)る。

 

「ちょっ、なにこれっ……!?」

 

 さらに、フォンさんの舌先は私の耳穴を捉え――ぐちゅり♡と侵入した。

 

「んあぁっ……!♡」

 

 れろっ♡れろ~っ♡と耳穴を嬲られる。さらに、ちゅっ♡ちゅっ♡ぴちゅっ♡と、唾液の淫靡な音が耳穴に注ぎ込まれ、直で脳内に響く。

 ――ドバドバと幸福物質と快楽物質が放出されてしまい、脳味噌と身体が蕩けそう。

 

「ねえこれっ、だめっ……ほんとにだめっ……!」

 

 やばい。やばいやばいやばい。いま、わたくし、絶対開いちゃいけない扉開きかけてるっ……!

 

「やめてっ……だめっ……!」

 

 生温かい舌が、私の耳を責め続ける。全身が燃えるように熱い。特に下腹部が熱を帯びて――ショーツの中はぐしょぐしょだろう。

 

 フォンさんは唇を耳にくっつけて、「ちゅっ♡」とリップ音を響かせた。そして、一旦私の耳から顔を離す。

 

「これだけで負けちゃうんだもん、処女って可愛いよね(笑)♡」

 

 フォンさんが微笑む。目を細めて、私を見ている。心の底からの、嘲り。自分より遥か格下のものを見ている、蔑みの眼差し。

 

 事実、私は完敗した。言葉で罵られ、女としての誇りを傷付けられ――反撃ひとつできずに、耳責めだけで負けた。

 

 ――私は頭にきて、乱暴にフォンさんの肩を突き放した。

 

「こ、このびっち……!」

 

「びっちじゃないよ。童貞だもん」

 

「……は?」

 

「だから、童貞だよ。彼女もいたことないよ」

 

「はあ!? 人を馬鹿にするのも大概にしてくださいませ! 誰が信じるんですのそんなの!」

 

「本当なんだけどなぁ……」

 

 フォンさんはそういいながら、困ったように頬をかく。

 

 見え見えの嘘だ。こんな可愛くておっぱい大きくてコミュ強でえっちな1軍陽キャが、童貞なんてありえない。

 

「ふんっ! いくら処女でも、そんなバレバレな嘘に引っ掛かるほど愚かではありませんわ! このびっち!」

 

「ほんとなのに……」

 

 フォンさんは困り顔になる。あざとっ。そんなのに騙されると本気で思っているのだろうか。

 

「ふふんっ、ではその言葉を暴き、貴方がびっちであることを証明してさしあげますわ!」

 

「えっ?」

 

 私はカバンから、あるナイフを取り出す。短剣よりも小さい、オモチャのようなナイフだ。

 

「これは『純潔のナイフ』ですわ。教会において聖職者を志す者が、穢れなき存在であるか――つまり、S○Xを経験した者かどうかを判定する魔道具なのですわ!」

 

「なんでそんなの持ってるの」

 

「普通にペーパーナイフとして使っていますわ」

 

「紙も切れるんだそれ」

 

 女は経験人数が多いほど価値が高く、男は少ないほど価値が高い。

 どうせ『童貞』だと言っておけば女ウケがいいと思って嘘を吐いているだけだろう。

 

 しかし、その嘘を、このナイフは見破る。

 

 ――私は、フォンさんにナイフを向ける。

 

「貴方が童貞だというのであれば、このナイフでも切れないはずですわ! さあ、貴方がびっちであることを、これで証明してさしあげますわ! 前に出なさい!」

 

「え、いやだけど」

 

「ほら! これを拒むのが何よりの証拠ですわ! このびっち!」

 

「いやそうじゃなくて、僕『純潔のナイフ』の実物見たことないからさ。それ普通のペーパーナイフかもしれないし、刺されるのは怖いよ」

 

「え、ま、まあ……」

 

 フォンさんが私に近づき――手を掴んでくる。

 

「だから、試させてよ、それ(笑)♡」

 

 まずい――と思った時には、ナイフを奪われていた。そして、フォンさんは私の髪を一房掴んで――。

 

「えい♡」

 

 ナイフを振り抜いた。が、当然『処女』の私をすり抜ける。髪は切れずにくっついたままだ。

 

「わぁ! 本物だ!」

 

「ちょっ、やめっ――」

 

「えいえい(笑)♡」

 

 フォンさんは無邪気な笑みを浮かべながら、私の胸をブスブスと突き刺す。ナイフは私をすり抜け、空を切るのみだ。

 

「あはっ(笑)♡ すご~い(笑)♡」

 

「ちょっ、だからやめてっ!」

 

「あははははっ!(笑)♡ これおもしろ~い!(笑)♡」

 

 一突きごとに、『処女』『処女』と繰り返し証明され、ナイフで直に抉られているかのように自尊心が傷付けられる。

 

「処女は何回刺しても処女か~!(笑)♡」

 

「やめてくださいませッ!」

 

 私は羞恥に耐えかねて飛び退き、ナイフの間合いから外れる。

 

「じゃあ本物だって分かったし、やってあげるよ」

 

 そういって、フォンさんは自分の胸にナイフを向けた。

 

「えっ、ちょっ……!?」

 

 何のためらいもなく、フォンさんは心臓部へナイフを突き刺した。――が、彼は傷一つ付いていない。

 

 え、ウソ、そんな……!?

 

 つまり――!?

 

「フォンさん、貴方、童貞なんですの!?」

 

「うん」

 

「うんって……!? え、本当に!? 本当に童貞!?」

 

「何回も童貞っていわないでよ、恥ずかしいじゃん」

 

「そう思うなら私にも処女っていうの控えるべきだと思いますが!?」

 

 フォンさんは恥ずかしそうに、顔も耳も赤くしている。

 

 いや、えぇ……フォンさんが童貞……。絶対ウソだと思いましたわ……。す、すごいですわね……。こんな可愛い子なのに童貞って、そんな夢みたいな話があるんですわね。

 

 というか――。

 

「貴方も童貞なのに私のこと処女って煽ってたんですの!? 立場同じじゃありませんの!」

 

「同じじゃないよ。ベルさんの処女は疎まれるマイナス要素だけど、僕の童貞は好まれるプラス要素だもん」

 

「ぐはっ……!?!?!?」

 

 私はその言葉に胸を衝かれ、膝を突いた。

 

 その通りだ。処女と童貞は、価値が違う。理不尽だ。こんな世界、理不尽ですわッ……!

 

「うぅ……もう嫌ですわ……! こんな世界滅べばいいんですわ……!」

 

 私は悲嘆に暮れる。その無様な様子を、フォンさんは見下ろしている。

 

 ふふっ、なんでしょう、こう……消えてしまいたいですわ。

 

「ベルさん起きて。元気出してよ」

 

 フォンさんが私の手を引いて立ち上がらせてくれる。

 

「えいっ」

 

「えっ、ちょっ――!?」

 

 突然フォンさんに押し飛ばされた。ベッドに倒れ、白い天井を見上げる形になる。

 私が起き上がろうとするより早く、フォンさんは私に跨り、覆い被さってきた。

 

 ――逆光で翳る、フォンさんの顔。すぐ目の前に、妖しく輝く薄空色の瞳。

 

「ねえベルさん。処女、僕がもらってあげようか?」

 

「……ッ!?!?!?!?!?!?!?」

 

 ――人生史上、最大の衝撃が私を襲う。

 

 え、処女をもらってもらえる……? それは、つまり、処女を卒業できる……? 本当に? 私が、男のコと、S○Xできる……?

 

 たっぷり時間を掛けて頭を動かし、意味を飲み込み――(すが)るように尋ねる。

 

「……ほ、本当、ですの?」

 

「ベルさんが『したい』っていうなら」

 

「し、したいですっ……! お願いしますッ……! 本当に、本当にお願いしますッ……! 処女捨てさせてくださいッ……!」

 

 必死に懇願する。その言葉を聞いたフォンさんは、再び私の耳に唇を寄せてきて――。

 

「ウソに決まってるでしょざぁ~こ(笑)♡」

 

「はあッ!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 フォンさんは愉しそうに、歪んだ笑みを浮かべる。必死な処女を馬鹿にする、心からの嘲笑だった。

 

「あれだけからかわれた直後なのに信じるのスゴイねっ(笑)♡ 処女ってほんと素直でかわいい~!(笑)♡」

 

「こっ、こんのオスガキッッッ……!!!」

 

 私はフォンさんの胸ぐらを掴もうとするが、彼は素早く離れてしまう。

 

「S○Xなんてベルさんにはちょっと早すぎるかな~?(笑)♡」

 

「騙しましたわねッ……!? この私をッ……!」

 

 怒りと羞恥で、全身の血液が沸騰しそうなくらい身体が熱い。血圧が上がり過ぎて、脳の血管がブチブチッ!と切れそうなくらいムカつく。

 

 コイツッ……! マジでッ……!

 

 フォンは玄関へと歩いていく。そして、こちらを振り返り、嘲笑を浮かべながら――。

 

「あ、でも、さっきの耳舐め思い出しながらオ○ニーするのはいいよ(笑)♡」

 

「しませんわよそんなことッ!!!!!」

 

 フォンさんは爆笑しながら去っていく。

 

 その瞬間、彼がこの部屋に来た時言っていたことを思い出した。

 

 ――ベルさんで遊ぶよ♡

 

 本当に遊ばれた。

 騙されて、みっともなく『処女を捨てさせてください』と懇願する姿を笑われた。

 

 私はベッドに飛び込み、毛布を強く握りしめる。

 

「ちっくしょおッ……! 処女の純情を弄びやがって……!」

 

 身体が熱い。怒り、羞恥、そして――興奮。

 

 ついさっきの耳舐めを思い出して、耳を触ってしまう。

 

 すごかった。あんな可愛い男のコに、耳を舐められた。ちゅぱっ♡って水音がえっちで、脳内に直接響くような感じがした。

 今思い出しても、下半身が熱くなる。エロすぎて、身体が昂ってしまう。

 

 クソッ……クソッ……! 相手はあんな、クソ男なのにッ……!

 

 『処女』を見下されて、笑われた。自尊心をぐちゃぐちゃに破壊された。

 恥ずかしいのに、気持ちよかった。

 恥ずかしいのが、気持ちよかった。

 

 いやいや。いやいやいやいや! ありえない、そんなの、まるで私が変態みたいじゃないですの!

 私は、誇り高き令嬢で、騎士団員なんですのよ!

 

 なのに、なのに――身体が熱を帯びる。えっちな耳舐め音が頭の中に反響してしまう。この感覚が鮮明なうちに、思いっきりオ○ニーしたいっ……!

 

 私は手をショーツの中へ伸ばし掛けて――寸前でピタっと止まった。

 

 ――あ、でも、さっきの耳舐め思い出しながらオ○ニーするのはいいよ(笑)♡

 

 フォンさんの嘲笑が脳裏をよぎる。フォンさんをオ○ズにしたら、それこそ彼の掌の上。正真正銘の、負け組処女だ。

 

 くっそおッ……! ちきしょおッ……!

 

 私は必死の思いで性欲を堪えて、手を引っ込める。

 

 私はッ! 絶対ッ! あんな男でオ○ニーなんてしませんわッ!

 





『フォン』

性別:男性
容姿:銀髪、水色の瞳。この世界においてIカップ相当の巨乳(胸板が大きい程カップ数が大きい)
職業:Aランク冒険者・召喚術士
備考:処女をからかって遊ぶのが大好き。

『ベル』

性別:女性
容姿:金髪、ツインテドリル、紅蓮色の瞳。Aカップ。
職業:騎士団員(謹慎中)→仮冒険者
備考:処女であることに強いコンプレックスを抱いている。
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