処女が許されるのは16歳までだよね~?   作:耳野笑

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 前回のあらすじ!

 半分だけ人間ではないことが判明したフォン! ベルにそのことを打ち明け、真実を知るため、彼女と共に実家へ帰る!

 実は、フォンは人間と淫魔のハーフだった!

 ベルは「ほらやっぱり淫魔じゃないですの!」と興奮状態で襲い掛かってくる! 更にそのタイミングでインキュバスとしての覚醒を迎えてしまい、感度が2倍になってしまうフォン!

 万事休すかと思われたその時、洗脳魔法が発動し、ベルが動けなくなる!
 身動きできない状態のベルに、フォンは『処女煽りASMR』をやり返し尊厳を辱める! が、ベルは咆哮しながら腰をへこへこさせることしかできなかった!


第6話 足フェチのめざめ/ネイルを塗ってもらおう!/聖夜の約束

 

「聖騎士団流剣術、第一剣――光星の一太刀(リーシュ・ヴァリル)!」

 

 魔物を両断する。怪魚の骸がまたひとつ川底に沈んだ。

 

「おつかれさま、ベル。あとは任せて」

 

「はい、お疲れ様でした」

 

 今回のクエストは、怪魚の討伐である。街中を通る川に怪魚の魔物が現れたので、それを駆除してほしい、という依頼だった。

 

 川底には怪魚の死体が散乱している。このまま帰る訳にはいかない。

 

 フォンさんは岩人形兵(ゴーレム)を召喚して、川底に沈んだ怪魚の死体を一ヶ所に集めさせる。そして、炎魔法でそれに火をつけた。焼却処分である。

 

 私はその様子を眺める。

 

 ――先日、フォンさんが半魔であることが判明した。

 

 人間の母とインキュバスの父の間に生まれたハーフ。覚醒を迎え、性欲と感度が2倍になった身体。

 

 衝撃だった。私ももちろん驚いたけど、本人は尚のこと驚いただろう。

 

 でも、同時に納得感もあった。フォンさんと一緒にいると、四六時中エロいことを考えてしまうのだ。これは私が処女だからでは決してなく、フォンさんのフェロモンがそうさせているのだ。

 

「靴下びしょびしょになっちゃった」

 

 そういいながら、フォンさんは靴を脱ぎ――湿った靴下を脱ぎ始めた。水を吸って濃い黒色になった靴下。白くかがやく、きれいな素足。

 その様子を、じいっと凝視してしまう。

 

 裸足、えっろ……。

 

 特に、足裏がエロい。普段は見れない部分だから、よりエロいですわ……。

 

 フォンさんは靴下を炎にかざして乾かしている。

 

「ねえ、ベル」

 

「なんですの?」

 

「なんで僕が靴下脱いでる時じぃーっと見てくるの?」

 

「ぶはッ!?!?!?!?!?」

 

 突然心臓を突かれたかのような感覚だった。

 

「みっ、みみみみっ、見てませんわよ!」

 

「え~? あんなに熱い視線を送ってたのに?」

 

「うぐっ……!」

 

 いや、だって、足はえっちじゃないですのっ……!

 

 でも、絶対言えませんわこんなの。変態だと思われること間違いなしですわ。

 

「処女って男の子のカラダならどこでも興奮しちゃうんだね」

 

「違いますわ! あ、貴方のせいですのよ! 催淫効果を撒き散らして、私を誘惑するからですわ!」

 

「してないってば。ベルが年中発情期なだけだよ」

 

「いいえ! 絶対貴方のせいですわ! インキュバスと四六時中一緒にいたら女は誰しも理性が耗弱するんですのよ!」

 

「ところで足で興奮することは否定しないの?」

 

「あっ……!」

 

 もうその否定を忘れて、その前提で喋ってしまった。フォンさんは、水色の瞳を妖しく輝かせ、私を嘲笑するようにニヤニヤしている。

 

「ねえねえ、今度踏んであげようか?」

 

「そっ、そんな趣味はありませんわよっ!!!」

 

 *

 

 それから数日後の休日。フォンさんが私の部屋を訪れた。

 

「ねえねえ、足のネイル塗って?」

 

「ネイル……ですの?」

 

 フォンさんは普段手も足もネイルをつけていない。心境の変化だろうか。それとも、知らないだけでたまにつけているのだろうか。

 

 フォンさんは私の部屋に入り、ベッドに腰掛ける。そして、持ってきた小瓶を私に手渡す。きれいなピンク色の液体が入っている。

 

 そして、フォンさんは靴下を脱ぎ始める。

 

 うわ、生脱ぎエロっ……。

 

「あはっ♡ またじーっと足見てる~(笑)♡」

 

「ちっ……! 違いますわよ! 別にそういう目で見てる訳じゃありませんわよ!」

 

 バッと顔を上げ、慌てて否定する。フォンさんは愉しそうに笑っている。

 

 瞬間――意識してしまう。今、私は跪くような体勢で、フォンさんを見上げていることに。

 

「じゃあ、お願いしていい?」

 

「わ、分かりましたわ」

 

 開けると、小瓶のフタがそのままブラシになっている。

 

「ムラになるのは気にせず、テキトーにさっと塗っちゃって。乾いちゃってから塗ろうとすると段差になっちゃうから」

 

「わ、分かりましたわ」

 

 私はフォンさんの右足を手に持つ。靴下に包まれていた、温かい素足。男のコの肌に触れているという喜びで、脳に変な快楽物質が放出されてしまう。

 

 あったか……エロ……。

 

 ごくり、と生唾を飲んでしまう。

 

「なに興奮してるの?」

 

「し、してませんわよっ!」

 

 私はIカップのおっぱいを毎日触ってるんですのよ! いまさら素足程度、どうということもありませんわ!

 

 ブラシを液体に浸してから抜く。フォンさんの言った通り、さーっと塗っていく。え、結構難しいかも……。

 

「上手くできなくてもいいよ」

 

「は、はい」

 

 なんとか右足の爪を塗り終えて、左足に持ち変える。フォンさんの足のあったかさが心地いい。

 

 同じように左足の爪も塗っていく。

 

「ふふ、なんか幸せ」

 

「そ、そうですの?」

 

「うん。彼女にネイル塗ってもらうの、男の子の憧れだもん」

 

「…………」

 

 虚を衝かれ、思わず無言になる。

 

 ――彼女。

 

 か、彼女……。いえ、そういう状況みたいで嬉しい、って言ってるだけですわよね。

 

 でも……これはいわゆる、脈アリサイン――いつでも告白を受ける準備があるくらいには好かれてるってことですわよね?

 

「ベル、嬉しそ~」

 

「……流石に、嬉しいですわよ、その言葉は」

 

 左足の爪も塗り終わる。けれど、めったに触れないフォンさんの足を手放すのが惜しくて、支えるフリをして土踏まずのあたりをぎゅっと握る。

 

「足、好きなんだよね?」

 

「……違いますわよ」

 

 名残惜しいけど、フォンさんの足を手放す。ああ……もっと触っていたかった……。

 

「ねえ、ベル」

 

 フォンさんは妖しげな笑みを浮かべて、右足を上げた。――私の目と鼻の先に、艶めかしい足裏がある。

 卑猥な形の土踏まず。可愛らしくすらっとした指。白くてきれいな裸足。

 すぐ目の前、ちょっと顔を前に出せば、足裏に触れてしまう距離。

 

 下半身が、熱を帯びる。

 

 うそっ、私、これだけで興奮してっ……!

 

 フォンさんは「ふふっ」と笑って――私の顔面を踏み付けた。ぎゅーっと、足裏で顔面を圧迫される。

 

「な、なにしてるんですのっ!」

 

 バッと跳ね除けようとするが――。

 

「動いちゃダメだよ? まだネイル乾いてないから」

 

 ――硬直する。そういわれたら、何もできない。さらに私が動けないのをいいことに、フォンさんは足を押しこんでくる。

 

「えいえい(笑)♡」

 

「あっ、待ってっ……! やめてッ……! これ性癖壊れるっ……!」

 

「あはっ(笑)♡ マゾ堕ちしちゃえ(笑)♡ 性癖終わっちゃえっ(笑)」

 

「あっ、あっ、ムリっ、これダメっ」

 

 見下ろされ、顔面を踏まれている。足で、顔を踏まれている。

 

 羞恥で、身体が熱くなる。恥ずかしくて、悔しくて、なのに、どんどん下半身が赤熱していく。ショーツの中が、濡れてしまっている気がする。

 

 見下ろされてるのに。バカにされてるのに。興奮してしまう。

 

「ざぁこざぁこ(笑)♡」

 

「ぐっ……ま、負けませんわっ……私は、足なんかに負けませんわっ……!」

 

 そうして、踏まれ続けること5分。フォンさんは足を下ろした。

 

「うん、もう乾いてるね。ありがとう、ベル」

 

「はあっ……はあっ……」

 

 私は肩で息をしながら、ニヤニヤと笑っているオスガキを睨み付ける。

 

「今日のオ○ズは決まりだね、ベル」

 

「うるっさいですわ! 絶対オ○ズになんてしませんわよっ!」

 

 ――この日、私はフォンさんに踏まれる妄想で3回シた。

 

 *

 

 ある日のこと、寮の食堂にて。僕とベルが夕食を取っていると、隣席に座っている男女の会話が聞こえてきた。

 

 女性が、男性に赤いリボンを渡して――。

 

「来週の聖祭(フェスタ)、私とデートしてください!」

 

「もちろんだよ! 一緒に過ごそうね!」

 

「やった~! ありがとう!」

 

 男性が赤いリボンを受け取り、腰に着けた。女性も同じように腰に赤リボンを着ける。

 

 それを見ていたベルの手が、わずかに震えた。

 

「……聖祭(フェスタ)。もうそんな時期ですのね」

 

 ベルの顔が曇る。心底嫌そうな、つらそうな表情だ。

 

 聖祭(フェスタ)。『恋人の日』という別名もある、夏の一大イベントである。とある聖人の生誕祭を起源とするイベントだが、近年では宗教的意味が薄れ、単に恋人と過ごす日になっている。

 

 また、聖祭(フェスタ)の夜は1年で最もS○Xをする人が多いことから、性なる6時間と呼ばれている。

 

「もうみんなリボン着けてるね」

 

 食堂を見渡すと、男女ともにほとんどの人が赤リボンを着けている。中には数人、白リボンの人もいる。

 

 これは、聖祭(フェスタ)の1週間前に毎年見かける風習である。

 赤リボンは『聖祭(フェスタ)の日に一緒に過ごす相手がいます』という意味に、白リボンは『聖祭(フェスタ)の日は予定が空いています』という意味になる。

 

 うっかり同じ人を誘ってしまう事故を避けるために、という意図であるが、独り身にとっては『リア充と非リアの差』を実感してしまう辛い光景でもある。

 

 僕たちは夕食を終える。ベルの部屋に寄って、僕はずっと言いたかったことを伝える。

 

「ベルって白リボンしか着けたことなさそうだよね」

 

「なんですのいきなり!?!?!? 久しく聞いたことない度を越した暴言ですわよ!?」

 

 ベルは顔を真っ赤にして、鋭い眼光で僕を睨み付ける。

 

「大体貴方はどうしてリボン着けてないんですの! どっちか分からないじゃありませんの!」

 

聖祭(フェスタ)のこと忘れてたんだよ。というかベルだって着けてないじゃん」

 

「リボンなんて持ってきてませんわよ! 騎士団本部の寮に置きっぱなしですわ!」

 

「へ~。で、赤リボン着けたことあるの?」

 

「あ、ありますわよっ!」

 

 ベルはムキになって叫ぶ。「白リボンしか着けたことなさそう」といわれた怒りに震えているが、その瞳の奥には怯えもあった。

 きっと怖いのだ。つい強がりで言ってしまった嘘がバレることが。

 

 そもそもベルの性格上、1回でも赤リボンを着けたことがあるなら、すぐに自分から「残念ながら男性と聖祭(フェスタ)の夜を共にしたことくらいありますわよ! オ~ホッホッホッホッ!」と高笑いするに決まっているのだ。

 そうしない時点で、嘘に決まっているのだ。

 

「へ~、ねえ誰? 誰と一緒に過ごしたの?」

 

「ど、同僚の騎士ですわっ!」

 

「いつ?」

 

「去年ですわよ!」

 

 この状況に、既視感を覚える。

 初めて会った日、『ベルさんって処女?』と訊いた時、ベルが必死で否定していたあの状況とよく似ている。

 

 でも、今回は少し違う責め方をしてみよう。

 

「そっか……僕、初めて聖祭(フェスタ)を過ごす相手はベルがいいなって思ってたんだけど、ベルは初めてじゃないんだね……」

 

「えっ」

 

 僕は目に涙を溜めて、顔を伏せる。

 

「えっ、いや、ちょっと、そんな見え見えの嘘泣きに騙されませんわよ?」

 

「僕、ベルにとって2番目以降の男にしかなれないんだね……」

 

「……」

 

「ひとりではしゃいで、バカみたいだよね、僕。ベルの初めて、全部もらえる気になってたよ」

 

「ああもう! 嘘ですわよ! 男性と聖祭(フェスタ)を過ごしたことなんてありませんわよ! 去年も彼氏いない組の同僚たちと一緒に鍋パしてましたわよ!」

 

「だよね~!(笑) よかった~!(笑)」

 

「くっそ……!!!」

 

 ベルは悔しげに表情を歪める。紅蓮色の瞳を細めて、恨めし気に僕を睨んでいる。

 

「貴方にそんな顔されたら、嘘泣きだと分かってても引っ掛かるしかありませんわよ!」

 

「ふふっ、ほんと優しいよね、ベル」

 

「……ふんっ」

 

 ベルはそっぽを向く。首の動きにつられてツインテドリルも揺れた。

 

 ベルが優しい女の子であることは知っている。僕が半分人間ではないと判明して不安がっていた時、『ひとりにはさせない』と言ってくれた時の優しい顔を、僕はずっと覚えている。

 

「でもチョロすぎて悪い男に騙されないか心配だなあ」

 

「女を手玉に取る悪い男の代表みたいな人の癖に何言ってるんですの」

 

「え~? 僕そんなことしないよ? ベルに対する想いは本物だもん」

 

「ぐっ……!」

 

 ベルの頬に朱が差す。きれいな白皙の肌が真っ赤になっていき、照れているのが丸わかりだ。

 

「はい、これ」

 

 僕は赤いリボンをベルに差し出す。

 

聖祭(フェスタ)、僕と一緒に過ごしてくださいっ」

 

「っ……! もちろんですわ」

 

 ベルは驚きながらも、赤いリボンを受け取ってくれる。そして、腰のベルトに結び付けて――それをじっと、感慨深そうに眺めている。

 

「わ、私が赤リボンを着ける日が来るなんて……思ってもみませんでした」

 

「ふふっ、僕も初めてだよ」

 

 僕も赤リボンを腰に結びつける。これで、お互いの予約は完了だ。僕とベルの人生において初めて、予定のある聖祭(フェスタ)になったのだ。

 

 *

 

 聖祭(フェスタ)当日の夜。

 

 僕とベルは街を歩いていた。

 真夏の澄んだ星空。街路樹には七色の炎が灯る。魔法による燐光が滞留し、薄っすらと街全体が輝いている。

 

 初めて女の子とふたりで見る、聖祭(フェスタ)の夜景だ。

 

「綺麗ですわね」

 

 街路樹の炎に照らされたベルの顔が、赤白く輝く。紅蓮色の瞳は光を吸い込み、夜に生まれた太陽のように紅く煌めく。

 

 僕はベルに見惚れ、彼女を見つめながら、ぼそりとつぶやく。

 

「ベルの方が綺麗だよ」

 

「……っ! あ、貴方の方が綺麗ですわよ」

 

 僕はびっくりして、なにも言えなくなった。唖然とする僕を見て、ベルは苦笑する。

 

「なんで自分が言われると照れるんですの」

 

「べ、ベルにそういってもらえるの珍しくて……嬉しいよ」

 

 そんなことを話しながら、ケーキ屋の前で立ち止まる。僕たちはこの店でケーキの予約をしておいたのだった。

 

 入店し、ケーキを受け取る。飲食店でもあるので、店内で食べているお客さんもいた。

 

「ちょっとお手洗い行ってくるね」

 

「はい、店の外で待っていますわ」

 

 *

 

 私は店先でケーキを持ってフォンさんを待つ。

 

 目映さに満ちた聖祭(フェスタ)の夜景を眺める。仲睦まじく手を繋いで歩く恋人たちの姿があった。

 

 ……すごいですわ。カップルを見ても、全然心が荒みませんわ。

 

 去年の聖祭(フェスタ)は、カップルを見る度に嫉妬と憎悪と羨望を募らせていた。でも、今年はフォンさんがいる。端役としてではなく、主役の一人として、堂々と聖祭(フェスタ)に参加している。

 

 視線を自分の腰元に下ろす。ベルトに結び付けた赤いリボン。『相手がいる』ということを示す、女としての誉れ。

 

 嬉しい……! 幸せですわ……! 私にこんな日が来るなんて思っていませんでしたわ……!

 

「あれ、ベル?」

 

 その時、私の前に3人組の女が通りかかった。

 

「え、貴女たち、どうしてここに!?」

 

 彼女たちは、私にとって縁の深い同僚だ。養成学校時代からの友人であり、去年の夏の聖祭(フェスタ)当日、同じ鍋をつついた『彼氏いないグループ』の同士である。

 ちなみに、3人とも白リボンを着けている。

 

「ベル!? やっぱりベルじゃん! すごい偶然!」

 

「街中歩いてたらワンチャン会うかもな~とか思ってたけど、よりによって今日会うとかすご~! せっかくだし一緒に遊ぼうよ!」

 

「ていうかベル赤リボン着けてるし!(笑) 見栄張っててウケるんだけど!(笑)」

 

 3人は私の赤リボンを指差して爆笑している。

 当然、旧知の『処女仲間』として、聖祭(フェスタ)に相手がいないことを信じて疑っていないのだろう。

 

 ……ああ。残酷、ですわね。こんなことを伝えなくてはならないなんて。

 

「私も久々に皆さんと会えて嬉しいのですが、申し訳ありません。相手がいるので、丁重にお断りしますわ」

 

 私が真顔でそういうと、彼女たちはポカンとする。が、また笑顔になり――。

 

「またまた~!(笑)」

 

「私たち陰キャ処女に、聖祭(フェスタ)の夜を共に過ごす相手なんている訳ないでしょ!(笑)」

 

「そうだよ! ベルなんて行き場のない性欲を持て余した結果インキュバスに引っ掛かって謹慎になった騎士団随一の処女なんだから!」

 

「誰が騎士団随一の処女ですの! 貴女たちも年齢=彼氏いない歴の喪女じゃないですの!」

 

「もうやめようベル。負け犬同士で傷を抉り合っても辛いだけだよ」

 

 彼女たちは言ってて悲しくなってきたのか、暗い表情で諭してくる。

 私もこんな不毛な罵り合いは望むところではない。

 

「それで、どうするベル? ほんとにベルと一緒に遊びたいんだけど」

 

「申し訳ありませんが、本当に相手が――「どうしたの? ベル」

 

 お手洗いに行っていたフォンさんが戻ってきた。

 

 瞬間――3人の表情が変わる。

 3人は一歩後ずさり、ひそひそと小声で「うわエグ……なにこの美少年……」「可愛すぎでしょ……」とか言っている。

 

「ねえねえ、もしかしてベルの友だち?」

 

えっ、あっ、はっ、はい……

 

 フォンさんが彼女たちに対して訊ねると、ひとりがキョドりながらそう答えた。

 

 自分を見ているようで胸が痛いですが……無理もないですわね。男と縁のない半生を送ってきた処女が、こんな美少年とまっすぐ目を見て会話できるはずもありませんもの。

 

「僕はフォンだよ! 冒険者やってますっ!」

 

あ、えと、どうも……

 

 3人はキョドっている。かと思えば、急に私の方へ糾弾するような眼差しを向けてくる。

 

「ベル! こ、この男の子と、どういう関係なの!」

 

「フォンさんとは、一緒にパーティーを――」

 

 突然、フォンさんが私の腕に抱き着いてきた。

 

「ベルの彼氏です♡」

 

「「「はあああああああああああああッ!?」」」

 

 3人の絶叫が、夜の街路に響き渡った。

 

「は、は、はあッ!? 嘘でしょ!? ベルに彼氏!?」

 

「ウソ……そんなっ……!? ベルだけは絶対仲間だと思ってたのにっ!」

 

「つらっ……。しんどっ……。ぐすっ……あ~、なんか……こう、世界とか滅ばないかなあ……」

 

 3人はおのおの絶望している。残酷な感情かもしれないが、仲間たちに対して、申し訳なさと、不謹慎ながら優越感を抱いてしまう。

 

 彼氏というのは、まあ、フォンさんの冗談だけれど。私が男の子と聖祭(フェスタ)の夜を共にするという事実は変わりませんわ。

 

 私はフォンさんと腕を組んだまま、彼女たちに別れを告げる。

 

「それでは、素敵な夜を」

 

「クソがッ!!!」

 

「うるさい消えろボケハゲボケカス!」

 

「この薄汚い裏切り者が! 騎士団にお前の席が残っていると思うなよ!」

 

 もの凄い量の悪口を背に、フォンさんと腕を組んだまま通りを歩いていく。

 

 罵声が聞こえなくなって来た頃、フォンさんは悪戯っぽい笑みを浮かべ、愛らしい上目遣いで訊ねてくる。

 

「ねえねえ、嬉しかった?♡」

 

「ま、まあ、悪い気はしませんでしたわね」

 

「ず~っとニヤニヤしてたくせに~(笑)♡」

 

 フォンさんが、腕組みから手繋ぎに変えてくる。

 

 男の子の、ちいさな手だ。温かい、ちっちゃい、かわいい。

 

 恋人繋ぎにして、指を絡め合う。

 

 私は今、男の子と手を繋いでいる。頭の中がそれだけで埋め尽くされて、急に緊張してしまう。

 

「……」

 

「……」

 

「…………貴方も、ニヤニヤしてるじゃありませんの」

 

「……そうかも」

 

「………………」

 

「………………」

 

 フォンさんの耳はほんのり赤らんでいた。

 

 私たちは、手を繋いだまま寮へと帰った。

 

 *

 

 寮へと帰ってきた僕たちは、ふたりでケーキを食べ始める。

 

 でも、テーブルを挟んで向かい合う形ではなく、真横に隣り合う形で。

 

「はい、あ~ん♡」

 

 僕はケーキを掬ってフォークを差し出す。ベルは一瞬「うぐっ……」とたじろいたが、意を決したようにパクリと食べた。

 

 ベルは頬を赤らめながらも、満ち足りたような顔をしている。

 

「今回は、ちゃんと美味しいですわ」

 

「今回は?」

 

「前にしてもらった時は、緊張のあまり全く味が分かりませんでしたわ」

 

「あ、そうだったんだ」

 

 確かに以前にもギルドの食堂でチョコケーキをあ~んしてあげた。その時より余裕が出てきたということなのだろう。

 

 ベルはフォークでケーキを掬い、僕の口元に持ってくる。

 

 え、うそっ……。

 

「あ、あ~ん」

 

 僕は衝撃のあまり、硬直した。時が止まる数秒間。ベルのツインテドリルは緊張のせいか震えている。

 

「は、早く食べてくださいませっ」

 

「あ、うん。あ~ん」

 

 僕はパクリとケーキを食べた。

 

「ふふっ、ベルからこういうことしてもらえるの、嬉しい」

 

「……よかったですわ。私でよければ、いつでもしてさしあげますわよ」

 

 ベルは処女であるが故に、恋愛的な積極性に乏しい。でも、明らかに初めて会った頃より、心理的距離が近付いている。

 

 ベルがくれる感情のすべてが。ベルがしてくれる行動のすべてが。たまらなく嬉しかった。

 

「僕、ベルと、来年の聖祭(フェスタ)も一緒に過ごしたい」

 

 ベルが目を見開く。

 

 この言葉には、単なる字面以上の意味がある。

 ベルは謹慎中の3か月間だけギルドに所属する仮冒険者であり、その期間を満了すれば騎士団へと戻ってしまう。立場上は、もう二度と会わない他人なのだ。

 

 故に『来年の聖祭(フェスタ)』という言葉は、パーティーを解散し、仕事上の付き合いがなくなったその先の未来でも、他人に戻りたくないという意味を持つ。

 

「フォンさん……」

 

 ベルの瞳に、にわかに強い意思が宿るのを感じる。

 

 ベルはどれくらいの意味でこの言葉を受け取ってくれたのだろう。無言で、感情を咀嚼し、深く思慮を巡らせているように見えた。

 

「私も――」

 

「大変だぁあああああああああああああッ!!!」

 

 女性の叫び声が、寮のフロアに響き渡った。

 

 ベルは剣を持ち、廊下に飛び出る。僕も非常時に備えて懐に入れておいた小杖を取り出し、彼女に続く。

 

 廊下には、血相を変えた女冒険者の姿があった。確かBランクの錬金術師(アルケミスト)だ。

 

「ごめん! 性欲を倍増させて見るもの全てとS○Xしたくなる媚薬を彼氏に吸わせようとしたら、気化して寮全体に広がっちゃった!」

 

「何してるんですの貴女は!?!?!?」

 

 僕はすぐに『対魅了耐性(レジスト)』を、自分とベルに掛ける。

 

「彼氏さんはどうなったんですの?」

 

「もう無力化した! でも他のフロアの人がヤバい!」

 

「被害範囲は?」

 

「空気より重い気体だから、この階より下のフロアは全滅だと思う!」

 

 このフロアは8階である。つまり、1階から8階の冒険者が発情状態(メロメロ)に陥っていることになる。

 

「一フロアずつ、端の部屋から順番に制圧していきますわよ。私が倒すので、フォンさんは解除魔法(キャンセル)をお願いします」

 

「え、まさか、全員と戦うの……?」

 

「私と貴方なら、なんとかなりますわよ」

 

「が、がんばる……」

 

 そして、僕たちは各フロアの冒険者たちを制圧し、発情状態を解除していった。解除済みの人たちにも手伝ってもらい――3時間後、全員の理性を取り戻させることに成功した。

 

 ちなみに、媚薬を吸う前から性の6時間を楽しんでいたカップルたち曰く「なんかいつもより興奮した」とのことだった。

 

「お疲れさまでした、フォンさん」

 

「お、おつかれ、さま……」

 

 僕は疲労困憊だったが、ベルは涼しい顔をしていた。

 

「なんでそんな平気そうなの……?」

 

「え? 騎士団では三日三晩戦い続ける訓練がありましたもの。このくらいは何ともありませんわよ?」

 

 ベルは「また私何かやっちゃいました?」みたいな顔をしている。

 

 果たしてベルは、どのくらいの体力があるのだろう。

 

 この先、ベルと性行為をすることになったとして。主導権を握れなかったら、数時間に渡って貪られることになる。

 

 ……勝てるのかな。淫魔の、感度2倍の身体で、この人に。

 

「どうしたんですの、険しい顔をして」

 

「な、なんでもないから! 踏まれて興奮するような人が僕に勝てるわけないんだから調子に乗らないでよね!」

 

「何の話ですの!? というか誇り高き騎士にそんな性癖はありませんわよ!」

 

 僕とベルは上階へと上がっていく。が、上っている内に疲れてきてしまい、ベルに肩を貸してもらう。

 

「大丈夫ですの?」

 

「ごめん、もう歩けない。ベルの部屋で休ませて」

 

「構いませんわよ」

 

 僕はベルの部屋にお邪魔する。食べ終わった後のフォークとお皿がそのままだ。

 

 僕は倒れ込むようにベッドへ横になり、そのまま眠りに落ちる。

 

 *

 

 フォンさんが寝てしまった。私のベッドで。

 

 ……。

 

 え、私、一緒に寝ていいんですの? それともラグマットに寝るべきなんですの?

 

 ……一緒に寝ちゃおう。フォンさんの実家に帰った時も、特に抵抗なく私と一緒に寝てましたし。い、いいですわよね?

 

 私はベッドに上がり、フォンさんの隣に横になる。

 

 月光を一条(ひとすじ)ずつ撚り合わせたような、美しい銀髪。目鼻立ちの整った、小動物っぽく愛らしい顔。透き通るような白い肌。

 天使のように、綺麗な男の子だ。

 

 間近に、寝息を立てるフォンさんの顔がある。私は彼の頬に、そっと手を当てる。

 

 可愛い……。

 

 フォンさんは夢を見ているのか、もぞもぞと寝言をつぶやく。

 

「ベル……執事服食べちゃだめだよ……」

 

「夢の中の私は何をしてるんですの!?」

 

 ツッコミを入れても、もちろんフォンさんは答えない。

 

 私は、彼のきれいな顔を眺めながら考える。

 

 私は処女だ。男性と接点のない半生だった。

 

 男の子と交際なんて、夢のまた夢。S○Xも、キスも、デートも、ハグも、何もかも、言葉でしか知らないもの。

 遠すぎて、どれ程遠いのかすら分からない。望んでも手に入らない妄想だった。

 

 けれど、今目の前にいるフォンさんは、現実だ。私はいつのまにか、男の子と聖祭(フェスタ)を共に過ごすようなところまで来ていた。

 

 空想。願望。妄想でしかなかったことが、限りなく現実味を帯びてきている。

 

 ――僕、ベルと来年の聖祭(フェスタ)も一緒に過ごしたい。

 

 あれは……告白と受け取って、いいんですの?

 

 好きでもない女にそんなことを言うなんてありえな……くもありませんわね。このオスガキなら有り得そうなのが怖いところですわ。

 

 私はフォンさんに身体を寄せる。そして、寝ているのをいいことに――彼の背に腕をまわし、抱き寄せた。フォンさんの、温かい体温。いい匂いがして、幸せな気持ちになる。

 

 この人を、私のものにしたい。

 

 ――私は、フォンさんが欲しい。

 




『フォン』

性別:男性
種族:ヒューマンとインキュバスのハーフ
容姿:銀髪、水色の瞳。この世界においてIカップ相当の巨乳(胸板が大きい程カップ数が大きい)
職業:Aランク冒険者・召喚術士
備考:処女をからかって遊ぶのが大好き。

『ベル』

性別:女性
種族:ヒューマン
容姿:金髪、ツインテドリル、紅蓮色の瞳。Aカップ。
職業:騎士団員(謹慎中)→仮冒険者
備考:処女であることに強いコンプレックスを抱いている。
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