国を追放された第二王子は、剣の夢を見るか   作:竹藪

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過去編1 収束

 

 

 

 

「……」

「挑発かしらね、ここまで来ると。さすがに私も頭に来るわ」

 

 下手に出歩くと狙われかねないと判断し、余り歩いていない。

 僕の取り調べを担当していた騎士団員が死体で発見された――それをリグレアから文で受け取った際は、思わず混乱しかけた。

 騎士団は僕の事を白と認識してくれているらしく、そちらに関してはリグレアの手柄がデカい。

 元々騎士団とは協働する時もあったから、ある程度お互いを知っている。

 問題は次の一手をどうするか。

 

「――失礼する。ヴィルヘルムはいるか」

「貴方は」

 

 ドアが開く。気配を全く感じなかった。

 ――騎士団団長シグルーンがそこに立っていた。

 

「こちら初見となる、騎士団団長を務めるシグルーンだ」

「……あぁ」

 

 警戒を怠らない。けれど、相手の力量が読めない。――それ程までに、目の前のある男と僕の実力差は大きい。

 疑問が頭をよぎる。何故騎士団のトップがたった一人で、僕の所までやって来たのか。

 

「居場所はリグレアから聞いた。……単刀直入に言おう、貴方達に協力をして貰いたい」

「協力……?」

「そうだ。そこの少女を、囮にする」

 

 その視線がフィオナに向けられていた。

 遮るようにしてアイリスが立つ。

 

「――テメェ」

 

 思わずそんな言葉が出てしまった。

 違う、そうじゃないだろ。今は落ち着け。リグレアからもよく小言貰っただろ。

 

「いや、すまない。……思わず口に出してしまった」

「非礼を詫びるのはオレの方だ。貴方達の住処に踏み入り、ましてや無理要求を口にしているのだから。

 ……場所を変えよう、外で話せるか」

「……今はそうするしかないだろ」

 

 アイリスに目線で、フィオナの事を頼む。

 シグルーンの後を続き外に出る。気分に反して、外は嫌なほどに晴れていた。

 

「……ホムンクルスを知っているか」

「ホムンクルス?」

「ああ、聖国で研究されている人造生命体だ。そのプロトタイプ……原型に当たる存在が襲撃され、持ち去られた事件があった。聖王自身から直接、騎士団に文が届けられたのだ。間違いないだろう。

 ホムンクルスは聖国にとって、要とも呼べる存在だ。何しろ、あそこの兵のほとんどは自国で製造されたホムンクルスで占めている」

「……まさか、そのプロトタイプが」

「ああ、俺はあの少女だと睨んでいる。文にはもし死に陥れば暴走を開始し、皇国そのものを消し飛ばす程の魔力を放つと書かれていた」

「っ!」

 

 捨てられていたのは、そういう事かと納得する。

 アレは言うならば爆弾だったのだ。

 

「俺が独自に調査していたが、お前が面倒を見ていたのでな。そのまま任せる事にした」

「何でだ、この国の危機だったら放っておかなかったはずだろ」

「――帝国を追放された第二王子が、同じ存在を前にして放っておくはずがない。違いないか」

「っ、そこまで……!」

 

 帝国の情報もある程度筒抜けだったのか、悪い評判は隠せないという事か。

 

「……俺とて守れなかった者はある。一度、喪失を手にした者は強い。

 下手にこちらで囲うより、お前と言う方があの少女も幸福だろう」

「……」

「故に、あの少女がお前にとってどれだけの存在なのかを考えない訳ではない。だがそれでももう一度言おう。

 今回の犯人の目的はあの少女だ、それだけは間違いない」

「……分かった、全面的に協力する」

 

 シグルーンと言う人物が今は信頼出来る事だけは分かった。

 それで充分だろう。……今は頼れる人間は頼るべきだ。

 

 

 

 

 作戦決行はそこから即断で行われた。

 人数は最小限。僕とアイリスとシグルーン、そしてリグレアの四名。

 シグルーンが僕とアイリスを連れ出すと言う名目で、フィオナを一人にする。

 そこから監視を行い、相手が手を出してくるのを待つ。ただそれだけ。

 

「……」

 

 そして動きは案外早く訪れた。

 動き出してから一時間――何やら騎士団の装備を着た集団が訪れた。

 人数は五人。

 物陰に隠れていたリグレアが姿を現す。

 

「おい、止まれ。ここはアタシが白だって言った連中の根城だ。何で来やがる。お前ら、所属を名乗れ」

 

 シグルーンも同様に物陰から姿を現した。

 

「騎士団全員へ、ここに来る時は事前に俺の認可がいる事を通達した筈だ。聞いてなかったとは言わせん」

「っ! 構わん、やれ!」

 

 騎士団が抜刀すると同時に、僕とアイリスも飛び出す。

 まずは背後から後頭部を全力で殴り倒して気絶させる。一人。

 敵の刃が背後から僕の首を捉える。

 

「させない!」

 

 剣を抜いたアイリスが、その一刀を防ぐ。

 瞬く間にシグルーンが二人を斬り伏せた。丁度リグレアも一人を斬り捨てる。

 

「お返しだ、この野郎!」

 

 全力のアッパーカット。相手の体は宙に浮いて、そのまま倒れ起き上がる事は無かった。

 静寂が流れる。追加の増援、なんて事は無さそうだ。

 シグルーンとリグレアがいてくれたのは大きい。僕とアイリスだけではどう足掻いても人手が足りなかった。不意打ちで一人をすぐに殴り倒せたのは運が良かっただけだ。

 

「お前は……ラドナ!?」

 

 兜を外し、その素顔を見たシグルーンが声を上げる。

 ラドナ――皇国審問官の顔が、そこにあった。

 

 

 

 

「……既にラドナは叛意の罪にて取り調べ中だ」

「早いな、さすが騎士団」

「身内の不祥事を、長々と済ませておくつもりもない」

 

 既に日が暮れて来る。

 あの後、リグレアの傘下にある騎士達が捕縛し全員を牢屋へ連れて行った。

 なんだか今日はとても長い一日だった気がする。

 

「……今回、お前と話した事は一切他言しないと約束する。俺とて不用意に周りを搔き乱す事は避けたい」

「貴方のような物分かりがいい人が団長で助かるよ」

 

 騎士団団長シグルーン――何故、彼が人々から人気を得ているのか分かったような気がする。

 見た目もさながら、実力も大きく並外れており、戦場ではその背中をより頼もしく感じるだろう。

 真っ直ぐな性格でありながら、決して外道に足を踏み外さない心。面には出さないが悪を憎む正義感。

 それは確かに、人の心を捉えて放さない。

 

「……お前達がこの国の民として生きる限り、騎士団が敵となる事は決してない。しかし俺とて、最高権力者ではない。限度はある。

 その時は、その時はお前達の剣となろう」

「何でここまで肩入れしてくれるんだ。たった一回、共に戦ったぐらいで」

「……俺の信条だ。この国で生きようとする者を、俺は愛する。ただそれ故に守り抜くまで。

 世話になったな」

 

 では、と言ってシグルーンは去っていった。

 師としての彼を望む声も大きいだろう。それ程までにあの背中は広い。

 

「何、憧れちゃった?」

「そりゃ同じ男としてね。負けてられないよ」

 

 それにしても、師匠をしばらく見ない。

 用事があると言って姿を消しているが、何かあったのだろうか。

 

 

 

 

 その日の夜、反動は突然に来た。

 

「……っ!」

 

 アイリスは疼く胸を抑える。

 ああ、これだ。剣を抜くと必ず来る。

 ユリウスも言っていた呪い。剣士として有り余る力を手に入れる代償に、自身の体を蝕んでいく。

 今日一日、ゆっくり寝ていたフィオナを起こす訳には行かない。

 寝床から立ち上がり、外へ出る。

 

「本当に、最悪っ……」

 

 剣士になれなかった剣士擬き――ああ、あの男が言っていた通りの存在。

 こんなものを使わなければ、私は剣を振るう才能も無かった。

 でも、憧れた。

 とある英雄譚に。たった一人で、たった一人の剣で。万を超える軍勢を相手に戦い、人々を救ったとされる英雄の御伽噺。

 そんな存在になりたいと。そんな人物のように自分も剣を振るいたいと。

 

「この末路が、これだなんてお笑い種よね……っ」

 

 立っていられなくなり、壁を背にしゃがみ込む。

 疼きはますます酷くなっている。こふっ、と鮮血が口から溢れた。

 

「……精々、あと一回か二回って所かしら」

 

 自分の体の稼働限界はそこまで。それ以上は呪いが蝕み、自分は死に至るだろう。

 解呪しようと書物を探し回った時期もあった。

 けれど、現実的な方法は見つからず。ただ国一つを消し飛ばす程の莫大な魔力が必要なだけと言う情報だけ。

 

「まあ、最後にいい夢見れたから良し、か」

 

 ヴィルヘルムと言う少年に任務で出会い、そこから始まった奇妙な生活。

 フィオナと言う少女の純粋無垢に、自身も絆されてしまった。

 そして何より、彼の生い立ちを知っている。その上で決して諦めず、生きようと足掻く。それでも前を向き続ける姿に。

 

「……傍に、いたいのよ」

 

 落ち着いてきた体を、壁に預ける。力が抜けて地面にそのまま座り込んでしまった。

 未だに彼の事を思うと、複雑な感情が胸を走る。

 この感情を、人は何と言うのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 皇国地下牢――ラドナはそこで尋問を受けていた。

 騎士団からでは無く、皇王アルヴァスより直々に。

 つまりそれは非合法だ。決して道理に沿った者では無い。

 

「隠している事は無いか」

 

 皇王アルヴァス――王でありながら、戦士として生きる者。自身はただ強いだけで王になったのだと自覚をし、それでも強さ故にそこに立ち続ける者。

 そんな人物から拷問を受けたラドナの体は悲惨そのものだった。

 

「ぎぃ……あ……」

 

 関節と言う関節、全てが反対に折れ曲がり或いは破砕され。肉体は全身の皮膚を削がれている。

 生きていると言うのが、不思議な程だった。

 

「久々の尋問だ、手が滑ったのは仕方あるまい」

「がぁ……」

「話した事に違いないな。そのホムンクルスを手にすれば、絶大な力が手に入ると」

「は……ぃ」

「そうか、では最後に。俺の役に立って死ね」

 

 同じ牢屋でずっと衰弱していた他の男に、注射が打ち込まれる。

 

「では審判官、これまでご苦労だった」

「ま……って」

 

 瞬間男の体は肥大化し、さらに膨れ上がる。口はまるで獣のように牙が生えて、目から理性が消え去る。

 悲鳴なき悲鳴が響いた後、やがては獣自身も薬の副作用にて死亡した。

 

 

 

 

「……ふむ、あの商人から貰った薬まだ改善の余地があるな」

 

 

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