国を追放された第二王子は、剣の夢を見るか 作:竹藪
課題であった目安の階層も見えて来た頃、それはふと唐突に訪れた。
「皇国に戻る?」
「あぁ、課外活動の一環として、だけどな」
「お父様が遠征から帰還されるんです。出迎えなくてはいけないと思って」
ジークとセリカは用事でいったん皇国に戻るらしい。
学園は必要があれば申請で、休学扱いにして貰える。ジークとセリカはそうするようだ。
“そういえば、二人の父親は三騎士だっけ”
三騎士――リグレアの事を思い出す。
騎士団屯所に彼女は弔われている。最後まで己に忠を尽くした騎士として。
……そういえば、一度も顔出してなかったな。
「……せっかくだし戻るかな」
彼女達の墓参りをしたい。
最後まで自分らしくあろうと戦った人達への敬意をこめて。
学園から皇国まで戻るには、馬車で然程時間はかからなかった。
あの一件以降、魔物の数は大きく減少し治安も改善したため今の皇国は流通が潤っている。
「……慌ただしくなってるなぁ」
遠征終わりの三騎士を迎えるとあって、騎士団達は大忙しだ。
各地を走り回っている騎士達の姿が見える。
既にジークとセリカの二人は騎士団本部へ向かった。
「まずは……」
もともと住んでいた所へ向かう。
街角の一角、まるでスラム街のような風景。けれどそこに人の気配はなく。
ボロボロの家屋――皇国にいる間、僕らはここに住んでいた。
埃臭いけれど、どこか懐かしくて温かい。胸の何処かが、そう感じている。
「……まずは掃除からしようか」
「ええ、そうね」
さて、大掃除になりそうだ。
分かってはいたけれど、思い出の品――なんてものは無く。埃を被った布団と毛布。後は暖炉があるぐらいだ。
掃除は思っていたより時間はかからず。ものの数時間で終わった。
今は皇国の街並みを見ながら、買い出しに向かっている最中である。
「……いつになく賑やかだなぁ」
「そうなの?」
「うん、こんなに盛り上がってた記憶はないや」
盾の騎士の帰還――剣の騎士リグレアは死去し、槍の騎士ヴァリアスは極秘任務にて不在。そんな中で最後の三騎士が帰ってくるとなれば確かに騎士達は盛り上がるだろう。
「あのさ、アイリス」
「何かしら」
「リグレアを守れなかったと思っているなら、それは気にしないでいい。多分僕が一緒にいても同じ結果だった」
「……ありがとう」
リグレアの最期はアイリスから聞いた。看取った者として。
フィオナの一件も関わっている以上、責任を感じていてもおかしくない。その事を今になって思い出すなんて。
「でも、無茶はしないでねヴィル」
「出来る限りね。冷静になれるよう努力する」
――とある建物の前で自然と足が止まる。
古びた教会、狭めの庭、そこに建てられた小さな石碑。
入口は封鎖されており、容易には入れないようになっている。
「……」
「……ヴィル」
「……大丈夫、行こう」
あぁ、約束したんだ。
止まらないって。
そこから大通りに出て、商店街の方面へ向かう最中にふと人の群れがあった。まるで何かを観戦しているかのよう。
「あれは……」
「御前試合って感じね。シグルーン王いるし」
「ちょっと寄っていこうか」
時間は余っている。と言うかジークとセリカの付き添いで戻ってきたようなものなので特に予定はない。
僕とアイリスの二人だけでも夢幻闘技の課題は達成できるだろうけれど、それはさすがに気が引ける。
「……凄い人ね」
「騎士達の士気が高いな」
騎士達が剣を振るう最中を、民衆たちが見物していた。
その影響もあるだろうが、やはり三騎士の肩書はそれ程までに強い。
「ヴィル!」
「ジーク、それにセリカも」
人の群れから二人の姿が見える。二人が騎士の鎧を着ている場面を見るのは初めてかもしれない。
「奇遇じゃねぇか。試合見に来たのか」
「生憎、私達の番は終わってしましたが……」
「あぁ、いや。買い出しの途中で人が多いなと思って寄ったんだ」
「そうなのか、せっかくなら見て行けよ。親父も来てるからな」
「親父?」
視線を向けるとシグルーンの隣に立っている人物。――騎士達と同じような鎧を着ながら、使い込まれた盾を持つ壮年の男。
二人と同じく赤い髪が特徴的だと感じた。
ただ違和感がある。何か、こう同じ気配を感じた事があるような――。
視線が合う。
――あぁ、そういう事か。
「おうよ、何せ皇国の騎士じゃ、最高の武勲って呼ばれてるんだぜ」
「はい、騎士としても人としても最高の人物だと」
父親の事を言う二人の顔はいつになく明るい。
学園でも、こんなテンションの二人は見た事無い。
「……凄い人なんだね」
盾の騎士の威光を改めて理解する。
街の活気が明らかに以前とは違う。立った個人で、ここまで士気を、活力を上げるのは凄まじい過去がある。
でも、だからこそ今は――。
「……騎士達の様子はどうだ、ブレン」
「やはりこの身はまだ未熟だと気づかされますな」
騎士達の御前試合を見ながら、シグルーンは改めて帰還してきた騎士を見る。
盾の騎士ブレン――先の大戦では、単身で幾千の軍の侵攻を止める偉業を成し遂げ皇国に大きく貢献した男。
そして先皇王より遠征任務を賜れた無類の騎士。
「任務はどうであった」
「は、滞りなく終わりました。帝国を探ると言う目的の為、少々手荒い事にもなりましたが無事に」
「……そうか」
シグルーンは目を伏せた。
――あぁ、そういう事なのだなと事情を把握した。
「私無き間、皇国はまさしく動乱の日々であったそうで。いなかった事を悔むばかりです」
「構わん、皇国の民は弱くない。例え膝を着こうともまた立ち上がる」
騎士達を見守る。
ただ一心不乱に剣を振るう彼ら。この鍛錬の日々は長く続かない事を、彼は悟った。
深夜、ふと気配を感じて起き上がる。
まだ眠りの中にいるアイリスを起こさないように立ち上がりながら、感じた方角へ目を向けた。
「……こいつは、確か騎士団の」
騎士団で飼育されている伝書鳩が一羽。その足に括られている紙を取る。
「……あぁ、やっぱり。そういう事かよ」
『教会にて、お前を待つ』
ただその一文が記された文だけ。
……何もかもを理解する。何故盾の騎士が今になって帰還したのか。
「……言えないな、こりゃ」
手紙を残して外へ出る。幸い、アイリスは深い眠りの中だった。
共に眠るなんて久しぶりの事だったから、安心してくれたのもあるだろう。
その足で教会へ向かう。
封鎖されていた筈の入口は破壊されていた。――扉を開けると、御前試合で見た姿が一人。
「……確か、ブレンだっけか」
「その気配に相違ない。……あぁ、貴様だ」
ヤツが盾を構える。こちらも応戦の姿勢へ。
あぁ、そうだ。こいつの気配を忘れる訳が無い。
下水道で、出会ったヤツとそっくりだ。
――それと同じモノがブレンと言う人物から漂ってくる。
つまりそれは、そういう事は――。
「その体、せめて持ち主に返してもらおうぜ。あの二人の為にもな」
「やってみれば良い。出来ればの話だが」
ジークとセリカの父親は、ブレンは――既に死亡していて。その肉体を何者かに乗っ取られている。