国を追放された第二王子は、剣の夢を見るか 作:竹藪
ふと寒気を感じて、唐突に起き上がった。
あったはずの温もりが無い事に疑問を覚える。
「……ヴィル?」
一体、どこに。夜歩きするような性格でも無い筈だ。
立ち上がり、万が一のために得物を腰に差す。
ふと手紙が窓においてある事に気が付いた。
「……!」
『もし夜明けまでに僕が戻らなかったら、教会の後始末を頼んだ』
読み終わった瞬間、弾かれたように走り出す。
目指すは王城。今、この状況を打開できる者を。
「……っ!」
「遅い!」
盾で全身を打ちのめされ、地面を転がりながら受け身を取る。
今ので骨の何本かが持っていかれた。
「いってぇなぁ、畜生……!」
殴られた所を抑えながら立ち上がる。全身が痛みを喧しい程に、痛みを訴えている。
「不可解だな、小僧。今の貴様であればこの身に拳が届くはずだ。力を抑えているな」
「……」
「馬鹿な事だ。言った筈だ、この持ち主は既に死亡している。帰ってくることは無いとな」
「うる、せぇなぁ! 他人の殻被る事しか出来ねぇ奴があれこれ言うんじゃねぇよ!」
再度接近して拳を振るう。
盾で押すような技量――ブレンと言う人物は余程の騎士だったに違いない。
だが、隙は見えた。入れようと思えば可能な一撃。
けれど、僅かな躊躇いが生まれてしまって。
「――っ」
「遅いわ!」
盾で殴られ、壁に叩きつけられる。
脳が激しく揺さぶられたのか、立ち上がる事が出来ない。
「こふっ……!」
加えて臓器の一部に傷がついたのか、鮮血が口から零れる。
――喧しい程に頭痛が走る。世界が灰色になる。
構うものか、それでも立てよ。立ち上がらねぇと、いけないだろ。
「……!」
「ほう、まだ立つか。……やはり貴様は消しておくべきだ。この先の計画の邪魔にしかならん」
全身から血が滴り落ちていくのを感じる。
だが、それでも。それでも僕が止まる理由にはならない。
あの二人には、幸せになって欲しいと――。
「……ぁ」
力が抜ける。そのまま地面に倒れようとして――左右から誰かに支えられた。
「無茶しすぎだよ、馬鹿野郎」
「まさかこんなになるまで……」
「ジークに……セリカ……?」
二人がいた。
何故、と言おうとして検討が付く。恐らくアイリスだ。
やっぱり彼女には敵わない。
「ヴィル!」
「アイリス……」
シグルーンとアイリスの姿が在る。
そのままアイリスに肩を貸して貰って、地面に座り込む。
「待ってて、今治療するから……!」
「……ごめん」
「ヴィル、お前の過去は聞いたよ。でもよ、俺達はいなくならねぇさ」
「はい、いつか私達は死を迎えるでしょう。でもそれは今じゃない」
二人が剣を構える。
盾の騎士は、それを見て不可解なように告げた。
「分からん、此処に来たところで死を迎える結末だと言うのに何故足掻く? 人間はいつもそうだ」
「勝手に語ってくれるなよ、人様の……ましてや親父の体で好き勝手しやがって」
「ここで止めさせてもらいます」
「……見届け人は俺が努めよう」
それぞれの体が疾駆する。
ジークの大剣が盾と激突する。セリカが跳躍し、すれ違うように背後を取った。
咄嗟に盾を動かそうとするが、ジークが力でねじ伏せており動く事は無い。
背中への斬撃が交錯し、続けて大剣の一撃が脇腹を捉えた。
「馬鹿、な……。何故、何故力が」
「人は何故剣を振るうのか――その答えを既に我が父は得ていました。それを知らない貴方が、その体を十全に使える筈が無い」
さらに斬撃が走る。一閃――横薙ぎに払う一撃。それは致命傷だった。
盾の騎士の体から、霧が出てゆく。
「――人は何故、剣を振るうのか。答えを見つけたようだな、我が子らよ。
……見事だ」
その声音は先ほどまでとは別人のようで。
――体は、何もかもが最初からいなかったかのように霧となって、消滅していった。
「……っ!! 沁みるっ、アイリス痛い!」
「貴方が無茶ばかりするからでしょう。ほら、受け入れなさい」
「今回ばかりはアイリスの言う通りだぜ、ヴィル」
「私も、感謝こそあれど擁護は出来ませんね……」
騎士団の診療所――そこで僕はアイリスから本格的な治療を受けていた。傷口に消毒液が沁みる痛みは慣れない。
「……ご苦労だったな、皆」
「いえ、皇国を守る為であれば。失う覚悟は出来ております」
「我が父であれば、この結末を望んだでしょう。……我らに悔いはありません」
入って来たシグルーンに敬礼する二人。
深夜という事もあり、人は少ない。ある意味混乱を避けるには都合が良い時間なのだろう。
「……今回の体裁についてだが、既に新たな任務へ向かった、という事にした。騎士達の、ましてや民の混乱を招きたくはない。この夜の事は、あの場にいた者以外誰も知らぬ」
妥当な所だろう。三騎士の内、二人が不在という事が露呈してしまえば騎士達の統率も大きく下がる。
シグルーンとしてはそれを防ぎたいのも無理はない。
「お前達は学園に戻るつもりだろう。まもなく闘技祭の時期が迫る。……帝国は必ず何かを仕掛けてくるはずだ。既に第一王子ジュリウスが学園へ戻っていると、報告が来ている」
「……第一王子」
兄上が、学園にいる。
……過ぎる思いは沢山あれど、今は言葉に出来そうにない。
「向き合えるか、ヴィルヘルム」
「……はい、向き合います。僕は過去と」
今は、仲間がいるから。
大丈夫、もう一人じゃない。
さぁ、学園に戻ろう。過去と、向き合う時だ。