国を追放された第二王子は、剣の夢を見るか 作:竹藪
「じゃあ、ちょっと依頼受けてくるわ。……行ってくるから」
アイリスの声が響く。
もう外に出なくなって、何日経つだろうか。
「……師匠」
地獄から連れ出してくれた人。自分を導きここまで育ててくれた恩人。
「……フィオナ」
地獄から連れ出そうとした人。傍にいてくれるだけで日常を感じられた大切な少女。
「……」
身近にいた者達。僕に色彩をくれた人。
もう誰もいなくなった。
「……外、出るか」
動くと体が、音を鳴らした。久しく動いていなかったせいだろうか。
ドアを開けると、思っていたよりも日差しが強い。
そういえばフィオナと手を繋いで、よく通りを歩いていたなと思い出した。
あの声はもうない。
「……っ」
「あっ」
曲がり角で誰かに当たってしまった。
肩がぶつかる程度だったから、きっと怪我までさせてはいないだろう。
「ごめん……」
「あのっ」
手を掴まれる。
輩か、と目を配ると首下まで金髪の髪を整えた一人の少女がいた。
「放っておけません、今のあなたのような人」
「……一体、何を」
「絶望したような、目をしているから心配になります。……着いてきてくれませんか? きっと貴方のためになりますから」
「……まあ、いいか」
手を引かれるまま、後をついていく。
思っていたより力が強い。……そういえばフィオナも力強い所あったな、と思い出す。
「私はサーシャ。つい先日、この街に着いたばかりですが、孤児院を開いています」
「孤児院……?」
「はい、まだ行く場所がない子ども達と共に今日を生きているんです。今日、皇王様に許可を頂いたのでその帰りでした」
例の孤児院とやらには思っていたより早く着いた。
古い教会のような建物。――お世辞にも綺麗とは言えず、僕の寝床といい勝負だろう。
庭では子ども達が遊んでいる。晴れやかな子どもの声。それにフィオナを思い出してしまって。
あの子は、彼らのように笑って生きられただろうか。
「あ、サーシャ姉ちゃんおかえりー!」
「となりの男の人、だれー?」
「自己紹介、してあげてくれませんか。この子達は、人を元気にしてくれますから」
集まって来た子ども達の目線に合わせるようにしゃがみ込んだ。
ああ、そうだ。よくこうやって話をしていた。
「僕は、ヴィルヘルム。……そうだな、ギルドで一日の生計を立ててる、便利屋みたいなことしてるんだ」
「ヴィルヘルムー?」
「兄ちゃん、あそんでー!」
「ヴィル兄ー!」
彼らに手を引かれる。気が付けば、中心で好き放題弄ばれていた。
小さな沢山の温かい手。それが酷く懐かしくて。
「――あ」
そうだ、まだ残っている。
この街には生きているのだ。彼女と同じような境遇の子が。
止まっている、場合じゃない。
進まない、と。
「腹ごしらえだな」
「?」
「少し、台所あったら借りてもいいかな」
「どうぞ。その、恥ずかしながら私、料理できなくて……」
「大丈夫」
長年、ずっとやってきた事は不思議と手に馴染んでいる。
然程の時間もかからず、慣れた手つきで作業は淡々と進んだ。
「うわー! すげー!」
「おいしそー!」
「ヴィルヘルムさん、料理できるんですね……!」
「子どもには縁があってね……。その時に出来るようになったんだ」
ああ、そうだった。
生きているのだ、師匠や彼女と共に在った日々は今も僕の中で。
なら、止まっている場合じゃない。
「さぁ、皆。ご飯の前にお祈りをしないと」
「祈り……?」
「はい、私独自のものですけど」
サーシャさんと子ども達は手を合わせると言葉を揃えた。
「私の祈りが、貴方の背中を押しますように」
彼女達の言葉に、どこか胸が軽くなったような気がする。
そうだ、僕は託されたんだ。あの時、師匠から、リグレアから。
だから、立たないと。
「……」
やいのやいのと食事の感想を述べる子ども達を見守る。
思わずこっちまで元気を貰ってしまう程、彼らは活力にあふれていた。
「……その、サーシャさん。明日も来ていいかな」
「! えぇ、どうぞ。その方が子ども達も喜びます……!」
おいしー! と舌鼓を打ってくれる子ども達を眺める。
食器を片付け、子ども達に見送られながら帰路に着く。
「……サーシャさん、か」
見た目の割に、それ以上にしっかりした精神の持ち主に見えた。
きっと様々な経験があった筈だ。苦労があった筈だ。それを面に出さず、それでも子ども達を案じ続ける。
「すごいなぁ……」
適わないな、と思った。
「……そうだ、アイリスの料理も作らないと」
彼女もしばらく酒場の食事で済ませていた筈だ。
また取り戻そう、日常を。