国を追放された第二王子は、剣の夢を見るか 作:竹藪
「まずい……! もう行ったかな……!」
駆け足で孤児院に向かう。
ギルドでの依頼が立て込んでしまって予想以上に遅くなってしまった。アイリスが後を引き受けてくれたから、今こうして向かっている最中である。
「……?」
孤児院についた時、違和感を覚えた。
――鉄の匂いがする。
瞬間、門を飛び越えて扉を思いっきり開けていた。
「サーシャ!」
「――■■■」
中には、肉塊のような蠢くモノが幾つかある。
その一部には、子どもの顔面が浮かび上がっていた。
「は……?」
魔物だと、本能は理解する。
あの子達だと、心は悟る。
もう、助からない。
そう理解した瞬間。不思議な事に、心は凍り付いていると言うのに頭と体は正常に動いていた。
「………………あぁ、くそ」
一撃――せめて痛みを感じる前に終わるように願って、打ち込む。
「……ィル兄」
「ぁ……ぅ」
両手が血に染まった。
生々しい感触が手に残っている。
小さな命を、殺めた。助からなかったとはいえど。
フィオナと変わらぬ齢の子どもを、手にかけた。
「……! サーシャ!」
教会の奥に倒れた少女が一人。すぐに駆け寄って抱き起こす。
まだ息はある。
「……引き取り、は……全部、嘘、で。男の人達が、注射を……。恰幅の良い、商人の、ような」
「……!」
誰の事か一瞬で理解する。
アイツだ。アイツしかありえない。
突然の商才、魔物化した子ども達、ギルドで報告されている魔物の増加――全てが繋がる。
「あの野郎……ッ!」
「ヴィルさん、子ども達、はどうなりました、か」
その言葉に、表面上の怒りは冷えていく。
今はそれよりも彼女を、彼女を安心させてやらないと。
「……眠ったよ、大丈夫。……大丈夫、だから」
「そう、ですか。すみません、いつも、貴方に、手間を」
「もう、喋らないでいい……!」
出血している箇所を手で抑える。
アイリスのような回復術を、僕は使えない。
この身が、ただただ恨めしい。
――その後、アイリスが駆け付けてくるまで僕はただただ、何も出来なかった。
もう、何もかもがどうでもいい。
この身がどうなろうと構わない。
ただ、ただ彼女達の無念を、一発ぶん殴ってやらないと気が済まない。
帝国暗部だろうと猟犬部隊頭領だろうと知った事か。
「なんだ、貴様……ぐぁっ!」
「て、敵襲! 警備は戦闘配置につけ!」
かかってくる相手らを薙ぎ倒す。
打ち所が悪かろうが知った事じゃない。
「そこどけよ、お前らの面ァに用はねぇんだ。さっさとどけ」
さらに薙ぎ倒す。
先へ先へ。雑兵どもを潰しながら、アイツの――クソッタレの商人の下へ。何をしやがったのかを問い詰めてから、彼らが味わった以上の苦しみを以て殺す。
辿り着いたのは邸宅の中の二階――大広間。
そこに一人の男が立っていた。
「侵入者――まさか出来損ないだったとはな」
出来損ないと言う言葉は、ヤツに僕の事情を把握している。
どうやら皇国にいる事はとっくに知られているらしい。下っ端共が送られてきてたしそれもそうか。
冷たい視線を、睨み返す。当たり前だが引くつもりは一切無い。
「クソ親父の使いか? どけよ、テメェに用はねぇんだ」
「ここで始末しておく。我が王も既に貴様の事を覚えてはいまい」
男が剣とボウガンのようなモノを構える。
アレは――恐らく矢を射出するモノだと機構で理解した。
照準が合わせられた事を察すると同時に頭を逸らす。
先ほどまで額があった所を、矢が貫いていた。それも魔力で構成されたモノ。恐らくアイリスが使う魔術と同じタイプ。
「うざってぇなァ!」
既に剣を構えている以上、ボウガンは再度射出に時間を要するらしい。
ならば挑ませてもらう。
たとえそれが、暗部の最強だろうと知った事か。
立ちはだかるって言うなら、殴り飛ばすまでだ。