国を追放された第二王子は、剣の夢を見るか 作:竹藪
闘技祭開幕の日――本戦はトーナメントでの三連戦。その中には兄上とアリシアさんの名前もあった。
偶然なのか、順当に勝ち進めばそれは決勝戦で当たる事になる。
……躊躇いは無かった。
「いよいよだね、ヴィルさん! キミ達なら絶対勝てるよ!」
「アイリスさん、頑張って! いい所見せて来てね!」
選手の控室前で、クラスメイト達から激励を受けていた。
どうやら僕らのクラスで出場まで行けた者はいなかった。ただ恵まれたと思ったのは嫉妬が無かった事だ。
皇国での一件とストレア先生の推薦があって、僕とアイリスは予選や課題突破の必要が無く、本試合に出られるのだから。
兄上との話し合いも重要だが、まずはそれに恥じない試合にしないと。
「さぁ、間も無く一試合目が始まります! 一試合目はヴィルヘルム選手・アイリス選手のペア! 一学年からただ一組の出場となります! 期待が高まりますね!」
実況の声が聞こえる。
わざわざこのために外部から客を入れる程だ。
学園側としても盛り上がる展開にしたいのだろう。生憎、今の僕の心はそうじゃない。
勝つ。ただ勝って、兄上と本気でぶつかり真意を問い正す。
――第一試合は何事も無く勝利した。一戦目から熱気の中に包まれているような感覚だった。こんな大衆の場で戦うなんて初めてだから、ちょっと緊張しているのかもしれない。
控室で調子を確かめる。掌を握りしめては開くを繰り返す。何故か違和感があった。
「……」
いや違う。緊張ではない。
なんだろう、首の裏が寒気を感じている。
前にも、何か似たような気配を感じた事があった。
これは――。
「アイリス」
「どうしたの?」
「次の試合、なんか嫌な予感がする……」
こういう時の予感は、我ながらよく当たるのだ。
「そう。……警戒は強めておくわ。最悪、暗部が関わってくるかもしれないし」
「学園中を、世界を敵に回しても、と言うのならありえるけどね」
「……あぁ、間違いないヤツだ。ここにいる」
「では手筈通りに。まず、アイツを動かせ。我らは外部から襲撃をかけて挟み撃ちにする」
「さぁ、次は第二試合……――――」
ステージへ上がった直後にノイズが入る。
感じたのは、強い殺意。これは言うなれば、復讐心。
眼前に、何かが頭上から落下してくる。激しい土煙が辺りを包み込んだ。
「ヴィルヘルムゥゥゥゥ!!!!!」
「……お前、は」
聞き覚えのある声に、見覚えのある銀髪、けれど総身の全ては装甲に置き換わっている。全身の何もかもを、機械へ置き換えている。
最早それらに人であった頃の面影はない。僕が気づいたのは感じた殺意に覚えがあるから。
「お前、まさか猟犬部隊の首領……!?」
「嘘っ、別人じゃない……!」
確か護送途中で襲撃にあい、逃げられたとシグルーンは言っていた。
……まさかこんなところで会うとは。
上等だ、あの時の決着をつけてやる。
「いいぜ、お礼参りって言うならやってやろうじゃないか。頼めるかいアイリス」
「えぇ、任せて。今度は私が、貴方を守る」
相手の目が僕を捉える。浮かぶ色は殺意一色。
構えを取る。
「ここで! 殺してやるよぉ、ヴィルヘルムゥ! あの時の借りをなぁ!」
「来やがれ、返り討ちにしてやるよ!」
学園外周にて。
一人、会場へ向かう魔人の姿があった。そしてそれを遮るように一人の青年が立ち上がる。
「よぉ、生憎だが行かせねぇぜ。この先にはよ」
戦闘刻印を起動させる。右腕が、蒸気を鳴らした。
男は溜息を吐いて、目の前の青年を睨む。
「ならば貴様を殺していくまで」
「あぁ、仇はきっちり取らせてもらうぜ!」
首領の全身から機械音が鳴り響く。
打ち出された拳が、音を立てながら刃を繰り出す。
その全てをアイリスの魔術が撃ち落とす。見えた隙、その亀裂に打ち込むように拳を振るう。
「ガァァァァ!!!!」
明らかに暴走していると分かる。全身から蒸気を上げて。人ならざる動きを繰り返している。
――けれど、そのどれもが僕らには届かない。届くはずもない。
余りにも、分かりやすすぎる。
「ヴィルヘルムゥゥゥゥ!!!!」
僕を狙った突進――推進機構を利用したソレは避けるには余りにも簡単すぎた。
「少なくとも、昔のアンタの方が強かったよ」
トドメを打ち込むまでも無く。その体が限界に耐え切れず爆散した。
首領は、単独で自滅した。かつて僕を死ぬ一歩手前まで追い込んだあの技量は、もう残っていなかった。
「!」
外から戦闘の音がする。
激戦死闘の音色。それと共に嫌な予感も走る。
「アイリス!」
「分かってる!」
その方角へ駆け抜ける。
既に兄上とアリシアさんが避難誘導を行っており、人気はほとんどない。
――そこで行われている戦闘の結末が、今見えた。
「ディン……先輩?」
ディン先輩の体を、ある男の腕が貫いていた。
けれどディン先輩の腕も、男の体を穿っている。
どちらも助からない筈の決定打。だと言うのに男は、笑っていた。
「――それでも、やらせねぇよコイツだけは」
「……人間如きが、よく足掻く」
咄嗟に体を疾駆させる。同じようにアイリスが抜刀する。
その男の体に攻撃を加えようとして――そいつは霧のように消え失せた。
拳が、刃が空を切る。
「ディン先輩!」
倒れようとする体を支え、すぐに地面へ寝かせる。
「待っててください、今治療術を……!」
「いや、いい……。どっちにしろ、致命傷だ。俺ァ、ここでいい」
息を途切らせながら、彼は僕を見た。
その瞳は強い。――手を掴まれ、何かを託される。
「学園で使えるオレの……権限だ。全部、お前に託した」
「それ、は」
「お前なら、全部任せられる」
最初からこの人は、何もかもを見据えた上で今に至ったのか。
呼吸をするのでさえやっとだと言うのに、それすら感じさせない力強さを声音に乗せて。彼は言った。
「まだ終わりじゃねぇ、ってお前が叫び続けるのなら、前を向け。為すべき事を為せ」
「……はい!」
その手を強く握りしめる。
それに満足したのか、ディン先輩はふと優しく笑って。
「これで、やっと……アイツらの所へ」
そっと目を閉じた。
手の力が抜けて、地面に落ちようとするのを支える。
「……ヴィル」
「あぁ……前を向こう。託されたんだ、僕達は」
喪失はあれど、足を止める理由にはならない。
そう、約束したから。
闘技祭は、異例の幕引きとなった。