国を追放された第二王子は、剣の夢を見るか 作:竹藪
学園中が慌ただしい。それもそのはずで、帝国と皇国・聖国連合の戦争が起きる事が告げられたのだ。
ある者は元いた場所へ戻り、ある者は戦いのほとぼりが冷めるまで学園で保護される事を祈り。
無理も無いと思う。学園にとってみれば、謎の襲撃が起きて事態が完全に把握される前にいきなり、戦争が起きるなどと告げられたのだ。
学園は全てのカリキュラムを一時的に停止。戦争が終結するまで凍結する事を告げた。
「……やぁ、ヴィルヘルム。色々とあったそうだね」
「ストレア先生……。先生こそ、ヤツらの撃退に駆り出されていたそうで」
彼女はいつもと変わらぬ表情で職員室にいた。
教師達とて、己のやるべき事の把握に苦心している最中だろうに。
「私なら心配はいらない。元々学園の守護に務めていいと聖王直々に声を掛けて貰ったからね。生徒達を見放すつもりは無いさ。
……っと、それよりキミに来客だ。すぐ支度の準備をしていきたまえ」
「? はい」
アイリスと共に来賓室へ向かう。
そこにいたのは見覚えのある女性。
「セフィリア?」
「お久しぶりです、ヴィル様。そしてアイリス、何者かの指示は分かりかねますが彼の護衛ご苦労様でした。この場を借りてお礼を申し上げます」
「い、いえ私なんてそんな……! ただ、やりたくてやった事、ですから」
「セフィリア、何でこのタイミングで……」
僕の言葉に、彼女は瞳を揺らす事無く。ただ淡々と告げた。
「私は帝国に謀反を起こすつもりです」
「……は?」
「はい?」
何で、と言う疑問が頭を駆け巡る。そんな事をする理由が彼女にあるのか。
「そも、この戦いに勝利はありません。ただ人の力を削ぐ――そのためだけに起こされた無益な戦いです。
私は、私共は何としてもそれを阻止しなくてはいけません」
セフィリアの部下であろう騎士達が入ってくる。
彼ら皆の統率は固い。
「私の私兵部隊です。――ヴィル様、アイリス。貴方がたには帝国の兵士を偽装して潜入。私が先導しますので、帝王と対峙し打ち倒してください」
「……大胆な作戦だな」
「承知の上です。ですが、無用な犠牲を避けるためにはこうするしかありません。精神を侵された帝王に、言葉は通じない」
? 精神を、侵された?
「セフィリア、それはどういう……って時間が無いのか」
「はい。私の予想では明日にでも大平原で帝国と皇国の部隊が激突します。そうなれば後は最悪に近い形となる。
……このまま、私と共に出立してくれますか?」
ストレア先生が支度を済ませていけ、と言ったのはこういう事か。
迷うまでも無い。何よりぶん殴りたい顔があるのだ。
「僕はいけるよ、アイリスは」
「任せて。多分父さんも、姉さんも向こうにいるだろうけれど、それでも戦うわ」
僕らの言葉にセフィリアは小さく頷いて。
「では、行きましょう。帝国へ」
僕とアイリスの里帰りは、いきなりの形となった。
帝国の本拠地、即ち王城への侵入はすんなりと行けた。それまで道中、一度も妨害される事無く。
セフィリアの将軍と言う肩書はそこまで強いのか或いは――。
“……いや、彼女に限ってそれはないだろう”
嵌められたと一瞬考えたが、それは在り得ない。彼女はそんな腹芸が出来るような人物じゃない事は僕自身が良く知っている。
何より、過去に庇ってくれた人物だ。疑う理由は無い。
「……っ、総員抜剣!」
セフィリアの声と共に騎士達が僕らを守るように囲みながら剣を抜く。
四方八方から投げられた短刀を、防いだ。今のは、帝国暗部の――。
「……やはり見抜かれていましたか……! ヴィル様、この先へ! 我々はここで殿を務めます! 帝王がいる王の間はすぐそこです!」
鎧を脱いで、走り出す。いらない分は、暗部のやつらにぶん投げてやった。僕は動きやすいのが一番良い。
眼前を防ぐ刺客達へ騎士達が斬りかかる。
彼らに守られるようにしながら、扉を開いた。
「……ほう。まさかここまで来るとはな。セフィリアが裏切るのは想定外だったが」
「……ヴィル」
見知った顔――クソ親父と兄上。そしてアリシアさんと枢機卿がそこにいた。
「ジュリウス、排除しろ。元々死んでいた身だ。ここで消しておくに限る」
「分かり、ました……」
兄上が剣を抜いた。
「アリシア、アイリスを排除しなさい。残念だが、ヤツの心は向こうへ行ってしまったようだ」
「……承知、しました」
アリシアさんがアイリスへ刃を向けた。
「アイリス、気を付けて」
「ヴィルこそ、死なないでね」
最早迷う理由は無い。アリシアさんはアイリスに任せて、僕は兄上の目を覚まさせる。
それぞれの肉親目がけて、走り出した。