国を追放された第二王子は、剣の夢を見るか 作:竹藪
放課後、僕は夢幻闘技についてアイリスに尋ねていた。僕はストレア先生で言う知らない方に分類されるからだ。
「アイリス、夢幻闘技って……」
「えぇ、ゼラニウムのみが持つ特殊戦闘訓練の一種。帝国も皇国も聖国も視察に来たけれど、その仕組みは何一つ解明出来なかったそうよ。
後で行ってみましょう。大丈夫、私と貴方なら達成出来るわ、課題なんて」
ゼラニウムは学園ではあるものの、実際は大きな一つの街だ。三ヶ国の中立地域。決してどこにも属さないが故に、平等性を保っている。はっきりと言ってしまえば、第四の国と言うべきかもしれない。
閑話休題、ゼラニウムは街の中心部にありその敷地内に塔のような建物が立っている。――そこが夢幻闘技、他の国には真似できない戦闘訓練施設である。
「アイリスの準備が済んでいるなら今からでもいい。僕の方は大丈夫」
「あら、そう? じゃあ行きましょうか」
「――ちょっといいか?」
ん、と顔を向ける。そこにいたのは赤髪の青年と赤髪の少女。確かディンの野郎の時にいたような……。
「突然で悪い、俺はジーク。ジーク。こっちは妹の」
「セリカと言います。先ほどの戦い、お見事でした。その、差し出がましいのは承知ですが私達も同行させて頂いてもいいですか?」
「えぇ、私は構わないけどどうして?」
「貴方達と共にいるとより高みを目指せそうと言いますか……その」
言い淀むセリカに、ジークはため息交じりで答えた。
「――友達になりたいって事だろ?」
「そ、そうです兄さんの言う通り! ヴィルさんの話は皇国でも有名でしたから!」
「有名だなんて、そんな。ただ暴れただけだよ、好き放題に」
過去の記憶に思いを馳せる。
あぁ、そうだ自由にやっていたんだ。彼らと。
「そうね……同行なら私は大丈夫。ヴィルはどう?」
その言葉に頷いた。交友関係が増えるのは、悪くない事だろうし。
教室を出て他愛も無い雑談を交わす。ジークとセリカが皇国の騎士団に所属している事。より強くなるために、この学園に入った事。そして、自身の父親をとても誇りに思っている事。後は何が好きかと言う話だったりセリカとアイリスの女子トークだったり。
辿り着いたのは夢幻闘技の入口。塔の頂上は街全体を見渡せる程の高さ。外部から中を一切伺う事は出来ず、紫色の水晶が螺旋状に埋め込まれている。
見上げていた所、突然背中を叩かれた。
「よう、入学初日からここに来るたぁ、見上げた根性だな」
「ディン……先輩?」
おっと、学園だからちゃんと敬称はつけとかないと。
「おう、さっきぶりだ」
つい先ほどまで殴り合っていた筈の男がそこにいた。しかしその時に見せていた凶暴性など全く見えない。
まるで街をブラついている遊び人のような雰囲気だ。
彼は塔を見上げると、何かを思い出すかのように顎に手を当てて。それから「あぁ」と頷いた。
「……あぁ、アレか。三十階まで到達してみろってやつか。初日から挑むとはいい気合だな、バテんなよ」
「えっと、何で先輩は」
「決まってんだろ、俺も今から潜るんだよ。もうすぐ五十に届きそうなんでな」
「待ってください、もしかして一人で、ですか?」
「そいつはそうさ。俺のやる事は俺一人じゃないと意味がねぇ。だから潜る時は大概一人さ」
それは道理で。あの多人数を相手にしても動じない訳だ。
余りにも戦い慣れしすぎている。
「――ま、たまには先輩らしい事ぐらいしてみるか」
クイ、とテーブルカウンターを親指で指さした。
「受付で人数の登録を済ませろ。そこから先に進んで水晶に触れたら夢幻闘技――後ろに戻るまで戦い尽くめの始まりだ。相手は魔物だったり人間だったり、規則性は無い。
別の登録したヤツとは同じタイミングで入っても、会う事はねぇから安心しろ」
「? ……よく仕組みが……塔を登るんじゃないの?」
「一説だが、塔に埋め込まれてる水晶あるだろ? 恐らくはあの中に転送される。そっからずっと戦い続けるだけだ。休息はその都度その都度とりゃいい。体感時間は外とほぼ同じ。
最初は楽勝で行けるか十階辺りから少しばかり面倒になってくる。二十から本番だ。そこから一階を登るのに数時間、下手すりゃ数日はかかる」
「は……?」
「そんだけ容赦ねぇって事だよ。
ま、世話になるのは学生時代の時だけだ。こいつに潜れるのは学生と言う立場の人間だけでな。学長の徹底的な指示さ。だから卒業して力をつけてまたリベンジ――なんて甘い話は出来ない」
一見すると穏やかかつ柔らかな印象を受けたシルファだが、かなり厳格な人物らしい。そうでもしなければ、この学園を背負っていく事は出来ないのだろう。
「んじゃ、またどっかでな。気が向いたらメシでもおごってやるよ」
そういって、先輩は先に向かっていった。
オンオフがしっかりしていると言うか、公私を分けていると言うべきか。
気持ちを切り替える。
受付に行って、登録を済ませる。ただ学年と名前を言うだけ。
それでパーティとして登録される。これで転送されても全く別の場所に飛ばされる事は無いらしい。
「どういう原理何だろうねコレ。あんまり聞いた事ないや」
「私も聞き及んだぐらいですが……何でも戦いの痕に刻まれた武器の痕や魔力反応を採取して、その戦場を再現しているとか。
ただ、学園は詳細を明らかにしていません。この戦闘訓練が行えるのは世界広しと言えども此処だけですから」
「成程ね、奥の手は出さないってコト。学園らしいや、手は明かさないのが戦士の基本ってワケか」
受付を済ませて、専用の腕章をつける。これがないと水晶に触れても反応しないらしい。本当に良く出来た仕組みだ。
「そういえば陣形、どうする?」
「私とヴィル、ジークとセリカ。それぞれペアで動きましょう。慣れた方法の方がいいでしょうし」
「うしっ、じゃあ行こうか。後は状況に応じて、互いにフォローしあえるようにね」
そうして僕達は水晶へと手を触れた。
瞬間、意識が光に包まれ――視界に飛び込んできたのは先ほどまでとは異なる光景。
眼前に広がるは魔物の群れ。街の外に出れば遭遇する事は避けられないモノ達。
拳を鳴らし、手を打ち付けて、眼前の獲物へと向かっていった。
夢を見た。剣の夢程では無いけれど、それでも同じ物を見た事があるような気がする。
牢に繋がれる女がいた。質素な服に身を包んでおり、どこか儚げに佇むその姿。それはまるで暗闇の中で仄かに光る灯火のよう。
『……貴方は何故剣を振るうの?』
『……何故だろうね、分からない』
女は立ち上がってこちらへと向かってくる。その体は柵に塞がれているため抜け出す事は叶わない。
『キミはもうすぐ処刑される。なのに何故笑っていられるんだ』
『だってすごく強いのに理由が分からない、なんて面白くて。……ねぇ、貴方名前は何て言うの? 貴方の話を聞きたいわ』
女は、まるで少女のように微笑んだ。
その会話に意味は無くとも確かな答えを得たのだと、彼女の笑顔が告げていた。
『僕は――』
「……夢、か」
時折このような夢を見る。まるでとある映像の一部でも見せられているかのように、鮮明によぎる夢があるのだ。
剣の夢以外はしばらく見る事は無かった。最後にそれを見たのはいつだったか。
目頭を揉む。映っていたのは一人の女性。あの雰囲気からして、高貴の生まれだろう。国を束ねるにしては若すぎる。
後は剣の夢。二人の男がずっと斬り合っている光景。――特にこの夢は酷い。見ていて動きの参考になる事もあるが、毎晩と言っていい程必ず夢を見る。そして起きた後は必ず、夢の中で聞こえた剣戟が喧しい程に耳に残っていた。
「……」
天井を見上げた後、室内へと目を向ける。――見覚えのない風景。
「ここ、どこだったっけ……」
「ヴィルー? 起きてる?」
声と共に響くノック。
聞き覚えのある少女の声。
薄い毛布を軽く蹴り上げる。
「起きてるよ」
時間と共に意識が、記憶がぼんやりとはっきりしてくる。
この感覚にはどうも慣れない。
「大丈夫? 眠たそうな顔してるけど」
「柔らかいベッドが慣れなくてね」
「あら、奇遇ね。私もよ、硬い床と毛布の方が性に合うわ」
「お互い、そういう生活が向いてるのかも」
そうだそうだ、昨日から入学したんだっけか。確か、皇王の推薦を貰って……。
時計を見ると、まだ授業までは早い。
「食堂、行こうか」
「えぇ、行きましょう。雑談するぐらいの時間はあるでしょうし」