国を追放された第二王子は、剣の夢を見るか 作:竹藪
陣所では騎士達が慌ただしく動いていた。
皇国騎士団、帝国残党、聖王のホムンクルス兵が一同に集結し、いずれ来る戦いの時に備えている。
ともに訪れていたセフィリアが兵士に声を掛けると、彼らは道案内に応じてくれた。そのまま軍議が開かれている場所へ向かう。
「無事だったか、ヴィルヘルム」
――シグルーンの声に、ヴィルヘルムは頷く。
眼前の青年の名前を思い出す事に僅かな、時間を要した事は誰にも言わず。
「……事情はジュリウス殿下と聖王殿から全て聞いている。まさか、御伽噺の存在が事実だったとはな。
だが、それでもオレ達に足を止める余裕はない」
「うむ、余達は全戦力を以て魔王軍を迎え撃つ。何せ余はこの時の為にずっと備えてきたのだから。
――だが今のヤツらは不死身だ。魔王の剣の力に引かれ、かつての軍勢が仮初の生を得ている。殺したとて、時間が経てば蘇るだろう。我らに出来るのは時間稼ぎ程度だ」
――この身に何もかもが託されている事だけは分かる。
そのために剣を振るう事も。迷いは無い。
それを成し遂げるために繋ぎ止められてきたモノがある事を知っているから。
「……はい、僕が。魔王を、あの男を倒します」
その言葉に聖王は満足げに頷いた。
「……良い。状況を整理しよう。――魔王が目覚め、ヤツの剣に導かれるように、魔人共が蘇り集結しつつある。
もしこのままでは、魔王が完全に蘇り、人々は蹂躙され人の世は終わるだろう。……聖王殿がかつて経験したモノと同じとするのならば……死山血河としか言いようのない有様だったと聞く。オレの国も帝国も、聖国も亡びるだろう。
――ここに集う誰一人として、そんな結末を許すつもりは無い」
「あぁ、俺も同じだ。……父上は魔王に精神を侵蝕されていたと聞く。だがそれでも抗い、民の治世に全力を尽くしていた。
故に俺はこの世界を、終わらせるなんて認めない」
「――あぁ、良い。良き指導者に恵まれた者だ、二カ国とも。そうだ、人は抗うために生きるのだ。
兵達への魔力強化は余に任せておけ。このために貯蓄してきた全てリソースを、この戦いにつぎ込もう」
……あぁ、そうだ。誰一人として、今を、終末を良しとはしない。
俯く事をせず、ただ前だけを見て抗う。――僕が見て来た人々も、そんな人間ばかりだった。
「僕は、戦線の何処に行けば……?」
「うむ。そなたの魔剣とヤツの魔剣は共鳴している。元々は同じ存在故にな。――そのまま魔剣を振るえば、そこはヤツのいる場所に繋がるだろう。
魔王も、一人の武人であったとは聞く。宿敵だった剣を持つ、そなたとの戦いに水を差す事は、ヤツ自身が許さぬ筈だ」
「後は気にしなくていい。俺達が、指揮して大軍は止め続ける」
背中に無造作に差されている剣に手を触れる。
まだ母の温もりが、そこに残っているような気がした。
軍議は終わった。加えて今後の話となったため、自分は抜ける事となって。テントを出る。
「あ、ヴィル……!」
アイリスと、大剣を持った少年に双剣を携えた少女がいた。
「魔王様の所にカチコミに行くんだろ? 俺も同行してやりてぇけど、魔剣に対抗出来るのは魔剣だからなぁ……」
「私達は、露払いぐらいしか出来ませんからね……。行った所で足手まといになりかねませんし」
それは、何だっただろうか。
記憶を辿るも、ヴィルヘルムは思い出せない。
けれど二人が、二人が戦いを共にした仲間であるという事だけは強く覚えている。幸せになって欲しい人達だという事も。
少年と少女は離れていく。そろそろ持ち場に戻ると。
「……ヴィル」
「どうしたの、アイリス」
「セフィリア将軍から聞いたの……。その、貴方が剣を振るう度に、襲ってくる呪いについて」
「! そっか……」
「あの、忘れないで、なんて言わない。呪いの辛さは私も感じてきた事だから……。でも、帰ってきて。
私は、私は――貴方が、好きなのヴィル」
「……」
「憧れていた英雄の子孫だからとかじゃない。例え幾度の困難と喪失を受けても決して立ち止まらなかった貴方と言う人を……貴方自身を、愛している。
……私を、独りにしないでね」
「……あぁ、帰ってくるよ必ず」
この一瞬を、この感情を。
忘れたくない。
離れたくない。
そしてその時は、唐突に訪れた。
「報告! 敵軍に動き有! こちらへ向かってきている模様!」
「始まったか……! 総員、配置に着け! これよりは世界を救うための戦いだ! ――各々、死力を尽くせ!」
兵士達が盾と剣或いは槍を携え、陣列を組む。聖王が魔術を使用し、兵士達を強化する。
例え生まれが異なろうとも、今は同じ目的を持つ者として。
大平原――霧の軍隊、即ち魔人達が集う。
「――!」
記憶が崩れ落ちる感覚と共に少年は、剣を振るう。
空間が切り裂かれ、そこに空洞が出来る。
「こちらは任せろ、行ってこいヴィルヘルム!」
「そなたなら何の問題も無かろう! 何せ、彼女とあやつの子なのだから!」
「お前の兄を名乗っていた者として、恥じぬ戦いをする。行け!」
空洞を抜ける。
――そこは、白い花々に包まれた庭だった。かつて何度も夢に見ていた場所だった。
その中央に、一人の男がいる。
「……これも因果か。まさかヴィクトルではなく、その子とも戦う事になるとはな」
背中の剣を強く握りしめる。
体も、かつてない程に調子が良い。――胸の奥を今、とても熱く感じている。
「来い、ヴィクトルの息子よ!」
「……!」
言葉は無い。
ただ意志のままに、受け継がれてきた想いと共に剣を振るった。