国を追放された第二王子は、剣の夢を見るか 作:竹藪
「――しっ!」
夢幻闘技――第二十四階層。
そこでの敵は中々にしぶとい。巨大な壁を人の形に並べたような魔物が複数。それぞれ単独で戦闘しながら持ちこたえている状況。あまりよろしくない趨勢だ。
時間を掛けていられないと判断する。
「一点集中……! ぶっ飛ばすッ!」
亀裂を狙うように、ただ一点。穿つように拳を振りぬいた。それは致命傷。届いた手応えはあると感じる。
故に、他の救援へ急ぐ。
「アイリス!」
「合わせて!」
身体強化の魔術――勢いを伸ばしたまま、一点を蹴り穿つ。感じる力は先ほどよりも遥かに強い。
感覚で仕留めたと理解する。すぐに次の行動へ移る。
「ジーク!」
セリカの援護はアイリスへ頼み、魔物の足元へ潜り込む。
一捻りの回転を加えた一発は、魔物を転倒させた。
「助かる! このまま行くぜ!」
「あぁ!」
ジークが脳天から大剣を叩き込む。
その刃先に合わせるようにこちらも踵を振り落とした。
まさしく一刀両断と言うべき太刀筋で魔物が消滅する。
「ナイス、アシスト」
「そっちこそ、良い剣だった」
物音がしてみると、アイリス側も終わったらしい。交差された断面のまま消えていく魔物の姿が在った。
「ありがとうございました、アイリスさん」
「それより怪我してない? 大丈夫」
「はい、この程度なら全然」
こちらも終わった事を目線で合図する。
室内の中央に現れたのは光る魔法陣。そこに足を踏み入れると次の階層へ進むのだ。
「次で二十五、ですか……」
「大分ハイペースらしいぜ。二週間でここまで行くのは」
「他の子はまだ四階層とか五階層なの考えると、異常でしょうね」
その場で腰を下ろして少し考える。
進み方から考えると別段期限まで焦る必要は無い。
この中では怪我や死ぬ事こそ無いが、だからこそ自分の調子に気付く必要がある。現実の戦闘では一回死ねば終わりなのだから。
「今日はもう戻ろうか。ここまで硬い奴が出てくるのは予想外だった」
「ええ、今まではこちらを殺す満々のヤツだけだったもの。全然、賛成よ私は」
「二人が決めたなら、私はそれで。兄さんは?」
「俺も同意見だ」
魔法陣ではなく、室内の壁に手を当て続ける。そうする事で夢幻闘技から出られるのだ。
眩い光に包まれて――目を開くと、そこは学園の受付だった。他の三人も同様に戻って来られたようである。
「はい、こちらお預かりしていた学生証です。もう二十四階層なんですね」
受付の人から学生証を受け取る。
中の夢幻闘技証明欄には、二十四と刻まれていた。
「仲間に恵まれているのもありますから。ありがとうございました」
礼を言って、今度は腹の満たしに学食へ向かう。
「なぁ、ヴィル。明日の一限目って何だっけ」
「えーっと、確か……アイリスなんだっけ」
「歴史学よ、ちょっと言い方が目につくような人」
「うへぇ、マジかよ。俺、あの先生、苦手なんだよなぁ」
歴史学を担当するのは、何でも帝国貴族の一人である教師らしい。
ものすごく立場に拘っていて、まあ要するに頭が固いのだとか。ストレア先生は苦手な分類の人種だと言っていた。
「あら、ちゃんと聞いておかないとダメよ。特にまだ帝国と皇国は停戦中で、戦いその物が決着を迎えた訳じゃないんだから」
「……そうですね、私達もいつ招集がかかるか分かりませんから。しっかりしておかないと」
アイリスがいい感じに話を逸らしてくれたから良かったけど、実は言うと僕とアイリスは皇国の新しい歴史にガッツリ関わっている。
何ならその中心にいたと言っても過言じゃない。
先代が現代皇王に代わる際、色々とあったのだ。
「まあ、いつ歴史が変わる分岐点になるか分からないからなぁ。シグルーン王は和平的な王だけど、帝王はそうじゃなさそうだし」
「……親父も遠征中だからなぁ」
ジークやセリカの親は、皇国の三騎士に属しているらしい。何でも今は先代の命令が残っていて遠征中で不在なのだとか。
それは王が変わっても。任務自体に変更はないそうだ。
「三騎士ねぇ……」
「何だよ、知ってるのか」
「……あぁ、剣のリグレアとかね」
三騎士――剣のリグレア。今となってはもう離れてしまったが、深い付き合いだった。何ならある程度仕事をこっちにも回したりしてくれたり、色々と思い出す事はある。
「彼女は本物の騎士だったよ」
誰かの命令で流される事無く、自分の信念を、筋を貫き通した。
僕もアイリスも、彼女に救われたのだ。そこだけは絶対に否定しない。
「後は槍のヴァリアスだけど、会った事ないんだよなぁ」
剣、槍、盾――それらの称号を与えられるたった一人の騎士を、三騎士と言う。
今剣は空席だが、そこは時期に新しい者が据えられるだろう。
「あの方は基本、極秘任務を遂行する事が多いと聞きますから」
「帝国で言う暗部みたいなものね。それをたった一人で担うなんて、余程の力量よ」
「あぁ、間違っても戦いたくはないよ」
食堂へ着く。
もう見慣れた職員の方へ挨拶しながら、今日は焼き物を頂くとした。
――皇国では色々とあった。それはもう思い出すだけで一日が過ぎてしまう程の事ばかりが。
夜――常に開放されている図書館で私、アイリスは書物を開いていた。
魔術では無く、今度は帝国に関しての事だ。
「……」
帝国の歴史に視点を巡らす。帝国が成立する前の事は記録に無い。だが代々、王の血筋を引く者が国を統治し後世へ伝えていく事に変わりはなかった。
「……聖剣拝礼の儀?」
帝国で伝わる聖剣――これは王の血筋を引く者のみに扱う事が許されたモノ。曰く、王権を示すための儀礼なのだと。
それは帝国王家へ受け継がれている。今も尚。
「ヴィルは……何故、追放されたの……?」
何故そうなったのか。それに関しては恐らく聖剣が関係していると私は踏んでいる。
何せ王家の者が追放される、など初めての事らしく記録には残されていない。或いは汚点は残さない、という事だろうか。
「でも、他の王子の歴史だって綴られているわ……」
王位を継承した者しか記されていないのではなく、それ以外の者がどうなったのかに関しても、そこは記録されていた。
王権から離れて暮らしたとされている事実に変わりはない。そしてそれらに追放と言う銘文はされていない。
何故、ヴィルだけが。
「……」
元々、私は帝国暗部の所属だ。ヴィルに関しては接触しろと言う任務しか与えられず、彼と出会った。
――もう彼とは切っても切れない関係。暗部からは何の情報も無いし、何なら従うつもりもない。そもそも皇国で一度殺されかけているのだし。
ある意味、私はもう根無し草のようなもの。
「アイリス……」
聞き覚えのある女性の声。
振り向くと見覚えのある顔。残っている記憶から大きく成熟している。
「……姉さん」
アリシア――正真正銘、私の姉。
才能に恵まれた人。不可能など無く芸達者でありながら、誇り高き魂を持つ人。
かつて私の憧れだった人。
「……久しぶり、だな」
「ええ、そうね。……最後に会ったのはまだ幼い時だったもの」
「……その、壮健そうで、何よりだ。私はもう会えないと思っていたものだから」
「皇国で、ある奇跡に救われたのよ。とある少女の願いにね。私が生きているのはそのおかげ。
……きっと、ヴィルと行動している事に疑問を覚えているんでしょう? 姉さん」
「……ああ、彼の事を悪く言うつもりは無い。だが……彼は曰く付きだ」
「曰く付き?」
余り帝国での彼の事は触れられていない。そこは彼にとって傷だと分かっているからだ。
だから私にとって大事なのは今。ただそこだけ。
「聖剣から拒絶された者即ち呪いの子――そう言われている。たった一人に暗部が何度も動かされている辺り、彼には何かがある」
「……えぇ、そうみたいね。私だって、皇国でやりあったわよ猟犬部隊と」
「! アイリス、お前それは……お父様へ、枢機卿に対する……」
「背信、でしょうね。でも構わないわ、この剣はたった一人の主君のためにある。そう決めたのよ」
姉さんの瞳は揺らいでいる。
どうやらそこまで深く、彼の事情を知っているようだ。
帝国の枢機卿――私の父さんから色々聞いているのだろう。
「……残念だ、再会出来た事こそ喜ばしいが」
「私もよ」
「……次は、闘技祭でまた言葉を交わす事になるだろうな」
闘技祭――学園最強を決める二人一組でのトーナメントだったか。
去年は姉さんとヴィルの兄のペアが優勝したと聞いている。
「えぇ、挑ませてもらうわ。全身全霊で」
ただ立ち塞がるなら斬るだけだ。
彼の為に、全てを。