国を追放された第二王子は、剣の夢を見るか 作:竹藪
学園に所属しており、学園内にいる限り生徒は生命の安全を保障される。これを破った者は学園及び国の総力を挙げて罪に問うモノとする。
この学園の文言――つまりここにいれば、権力争いなどで暗殺される事は決してない。そのために入学を試みる貴族もいると言われている。
「……その筈、なんだけどなぁ」
監視されているな、と視線で感じる。ここ数日――と言うよりも付け回すような気配がずっと漂っているからだ。
隙あらばと思っているのか或いはただ動向を見ているだけなのか。
“面倒臭いなぁ……”
今からアイリスやストレア先生に頼めば魔術で逆に探知して突き止める事も出来るだろう。
ただ前者は学園生活を満喫しているようだし、後者は仕事で忙しそうだからあまり手間を増やしたくない。
人気のない所に来れば、と思い敢えて誘導したのだがただ見ているだけだったのだ。探っている事はバレても構わないと思っているのだろうか。
「こんなことする奴……ばっかりだなぁ帝国」
頭に過ぎるのは鉄面皮の男。表情顔色を何一つ変えようとせず、ただ淡々とそこに在るだけの人間。
僕が帝国を追放される切欠になったのもアイツの言葉だった筈だ。何と言われたのかなんて、思い出したくもないから。
「ああ、こんなところにいたのか丁度良かった」
「? どうしたんですかストレア先生」
「キミに帝国からの来客だ。それもとびっきり特別なね」
貴賓室――面会などに来た者を通す一室。学園直属の警備がいるそこは、関係者が生徒と立ち会いたい時に使える部屋となっていた。
あるのは高そうなソファと机、そして調度品。
「……にしても、僕に面会?」
心当たりはない。あるとすればシグルーン王ぐらいだが、多忙なあの人がここに来る余裕は無いだろう。
「ヴィルヘルム殿、面会者様をご案内しました。どうぞごゆっくり」
警備の人の声と共に一人の女性が入ってくる。
腰まで伸びた金の髪、端正で凛々しく美しいその表情は瞬く間に多くの人を虜にするだろう。
「お久しぶりです、ヴィル様」
「……セフィリア?」
セフィリア――帝国の女将軍であり、突如として現れた彼女はあっという間に騎士達の頂点まで上り詰めた。清廉潔白が人になったような性格。
まだ僕が帝国にいた頃、彼女は一端の騎士でしか無かったがそれでも僕を守ろうとしてくれた事は覚えている。
「はい。……大きくなられましたね」
「皇国で色々あったんだ。セフィリアも将軍になったんだって?」
「力を、立場をつけてきました。貴方を、守れませんでしたから」
帝国にいたままだと殺害されると思ったのか、僕を皇国まで船を用意して脱してくれた人物。
……その罪を問われて始末された、と思っていたのだけれど。
「ヴェインの事はお気になさらず。今では私の方が立場は上です。……有能故に処理出来ないのが悔やまれますが」
「……学園にいる間の監視は、アイツが?」
「いえ、私直属の部隊をつけています。貴方に何かあればすぐ駆け付けられるために」
「帝国の事はいいのか」
「私にとっては、それよりも貴方の方が大事ですから」
……正直な所、そこまで思われるのがよく分からない。
セフィリアと僕の過去に一体、何があったのだろうか。不明な所が多すぎる。
「なら帝国の事を聞いても大丈夫?」
「はい、何なりと」
「帝国が魔剣の製造に関与している事は」
「知っています、枢機卿が計画を進めているようですが。……魔剣は奇跡を伴って生まれる産物。今となってはその奇跡もか細い以上、研究しても意味は無いでしょう。他に関与している者はいない筈です」
「……という事は兄上は白か」
何だか安心した。
あの人はそういう真っ直ぐな性格の人間だったと、心の何処かで信じていて、願っていたから。
「はい。……そしてヴェインも関わってはいないでしょう。あの男は無駄な事を嫌う主義です」
「……」
「故に貴方に猟犬部隊を差し向けたのは恐らく枢機卿です。……ですがその」
「?」
「撤収させたのは、ヴェインです」
「……は?」
どういうことだと、思考が固まる。
暗部の猟犬部隊に、僕とアイリスは皇国で戦いを繰り広げた事がある。その最後は記憶も朧気ではっきりしないけど。
あの男が、僕を追放する言い分を作った人間が?
「もしかして、アイリスを差し向けたのはセフィリアじゃない?」
「……はい、私ではありません。それもヴェインです」
「――」
アイリスと出会った時、彼女は帝国暗部の所属であり、任務で僕と接触したと言っていた。
――ヴェインが? 何の為に?
「私が問い質しても、あの男は何一つ答えませんでした。……ヴィル様が訊ねても恐らく同じ結果でしょう」
「……だろうね」
頭が痛くなる。ますます分からない事が増えた。
アイリスが皇国で『私だってこんな任務初めてよ』と愚痴っていたのを思い出す。……それから暗部の襲撃があって。とある事件があってから、彼女は完全に帝国を見限った。
「……私が把握していて、今話せるのはこのぐらいです。後は……申し訳ありませんがまだ話せる時では、ないのです」
「大丈夫、セフィリアの事は信頼しているから」
「……!」
帝国にいた時、守ろうとしてくれた人は彼女ぐらいのものだった。
そんな人物を何故、疑う事が出来るだろうか。
でも時々、どうしてだろうか。
僕を見るセフィリアの瞳は、どこか違う所を見ているような気がする。懐かしい面影を、探すような。
学園の、誰もいない場所。
――人気のない所にセフィリアは立っていた。
「久しぶりですね、シルファ」
「えぇ、本当に。長かったですよ、この時間は。セフィリア」
学園理事長――シルファ。
彼はいつものような柔和な表情で、彼女を見る。
「……彼はどうでしたか?」
「ユリウスの所に預けられたと聞いて不安でしたが、逞しく育っていました。……少し羨ましいですね」
「えぇ、それが彼の、たった一つの理由でしたから。勿論私もそうです。……最早、こちらの生き残りは数人だけとなってしまいましたが」
「私は来たるべき時の為に準備を進めます。……そう近くない未来、帝国は戦争を仕掛けるでしょう。
――その時、私は彼を導きます。例え帝国に背く事になったとしても」
「……精神の侵蝕は凄まじい。現帝王はよく耐えている方ですが、それも時間の問題。聖王もその事は知っている筈です。彼らから支援は?」
「必要ありません、全てこちらで揃えています。今日、私が学園を訪れたのも、それが理由です。
あ、いえ。あの人に、彼に会いたかった。顔が見たかった、と言うのもありますが……」
「気持ちはよく分かりますよ、私も顔を見た時思わず目線を合わせてしまいましたから。
――貴方の身体に影響は無さそうで、安心しましたよ。時渡りの禁術を使った以上、何かあると予想はしてましたが」
「そこは何も。嬉しい誤算でした。……ただ可能であればもう少しだけ後の時間にするべきだった。そうすれば……そうすれば、私が彼を守れたのに……!」
「過ぎた事を気にしていても仕方ありませんよ。今は私達が自分に出来る事をやりましょう」
「それが、貴方の師であり、私の友との約束ですから」