国を追放された第二王子は、剣の夢を見るか 作:竹藪
学園でのアイリスの評判はすこぶる良い。
見た目もさながら、学園においても決して遅れは取らない剣術、効果の高い治療術、芯の通った性格、戦闘においても自身の役割を果たし生存へ導く能力。――すぐさま人気が沸騰し、スカウトが殺到した。
けれどその悉くを既に彼女は断っている。
『生憎ですけれど、私にはもう決めた人がいるので』
そしてその言葉は火が燃え盛るように学園中を巡った。要するに人の恋路が気になる年頃の少女達へ。
「アイリスさんって、絶対ヴィルさんの事好きよね!」
「な、なななな何かしら急に」
放課後、急遽食堂スタッフの体調不良のためヴィルヘルムに白羽の矢が立ち、彼は食堂へ向かった。
彼はこう見えても皇国では食事担当である。
そんなこんなでやる事無いなー、と思っていたら急にそんな言葉をかけられたのだ。
アイリスとて戦闘なら幾度もこなしてきており、ある種の常在戦場の心構えはある。
だが事、色恋沙汰においては本当に年相応の少女だった。
「えー、だってさぁ」
「だ、だっても何も、その私、は……」
「先輩たちのスカウトや貴族様からのお誘い、全部断ったんでしょ?」
「皇王様の推薦で、ヴィルさんと共に入学したんでしょ?」
「大体いつも一緒にいるし、何なら部屋に入る所だって見られてるんでしょ?」
これが恋じゃなくて、何だって言うのー。
そんな言葉が一斉にかけられて思わず机に突っ伏した。
うううー、と普段の自分らしからぬ声が出てしまっているような気がする。
「そ、その……付き合ってだって、いないんだし……」
「えー!?」
「長年のパートナーです! みたいな雰囲気漂わせておいて!?」
「あー、でも分かるかも。ヴィルさん草食系男子みたいな顔してるもんね」
「紳士的、と言うか気のいいお兄さんって感じ?」
「子ども達に好かれそうよね」
顔が赤いと、自覚する。
分かってはいた。自分がヴィルヘルムへ向ける感情について。
けれど、それをいざ言葉にされるともう恥ずかしさしか出てこない。
「じゃあもしかしてアイリスさん、恋愛結構奥手……?」
「なら私達に任せて!」
「何なら今年の闘技祭、ヴィルさんとアイリスさんペアを推薦にするから!」
きゃっきゃっやいのやいの。
周囲がどんどん盛り上がっていく事に、顔を上げる事が出来ない。
「早く終わって……」
こんな時間はストレアが声を掛けるまで続いた。
「……酷い目に会ったわ」
「災難でしたね……」
そんな時間の後、食堂でセリカに愚痴を聞いて貰っていた。
ちなみに彼女が注文した料理は、ヴィルヘルムお手製である。
「恋愛なんて、全くの無縁だったのよ。本当に困ったんだから」
「……私も確かに同じ状況なら、アイリスさんと同じようになると思います」
遠くから聞き覚えのある声が聞こえてくる。
どうやら彼は盛大に腕を振るっているようだ。『炒め物、出来ましたー!』と、元気の良い声が響く。
「その……蒸し返すようでしたら申し訳ないんですけどアイリスさんにとってヴィルさんってどんな存在なんですか」
「どんな、って……剣を預けた人だけど」
「……」
思ったよりこっちも重症だなぁー、とセリカは目を逸らした。それを言おうか言うまいか少しの間悩んで。
結局、言葉に出す事にした。何だかんだで引きずられても嫌だなぁと考えて。
「あの……それ、多分告白と同じですよ」
「え、ええええぇ……! そんなやましいつもりは、ないんだけど……!」
「一生貴方の傍にいると、愛していますに何の違いも無いと思いますが……。それにアイリスさんの言い方の方がその、ちょっと、重そうで」
「……」
ぷしゅーと音が聞こえてきそうなほど、顔色を変えて机に突っ伏すアイリス。
トドメになってしまったかなぁと思いながらデザートを口に頬張る。
「美味しい……」
ヴィルさん、料理結構何でも行けるんだなぁと考える。何度かあの人の作った料理を食べた事はあるが、結構甘いのが多く子どもが好きそうな味だった。
「……もしかしてヴィルもそれ、知ってる?」
「どうでしょうか。でも、他の方々とアイリスさんを見る視線は異なっているなって感じますよ」
「まぁ、付き合いはこの学園じゃあ一番長いもの。それはそうなんでしょうけど……」
「それに皇国動乱の話は、私達も聞いてます。あの死線を共に超えた仲なら、それはもう相棒ですよ相棒」
「そんなに有名なの? その話」
「それはもう。私達が騎士候補生だった頃には」
皇国動乱――かつて皇国で起きた争乱。その真っ只中に二人がいた事はセリカとて知っている。まだ騎士候補生に過ぎなかったが、それでも噂では聞き及んでいたのだ。
学園の入学試験は厳しかったけれど、兄と共に合格出来た時、それはもう嬉しかったし。けれど一番嬉しかったのは、噂で聞いていた二人と知り合えた事。そして戦いを共に出来た事。
騎士である父はしばらく遠征の為、不在であり兄と共に訓練をしながら過ごしていた。そんな中で、齢はほとんど変わらないのに第一線で戦っていた二人は、セリカにとって憧れだったのだ。
「ま、私もヴィルもあの時は必死だったものね……」
ただアイリスの表情を伺う限り、どうやらこの話はあまり触れたくないらしい。
それはそうだ。だって皇国側には死人が出たのだから。二人にとってあまり気持ちの良い話では無いだろう。
でもきっと、二人は喪失を乗り越えて先に進んだのだ。それをセリカは心の底から尊敬している。
「幸せになって欲しいから、何かあれば私に相談してくださいね」
「ちょっ、まだ続いていたの!? その話!?」
『揚げ物一丁上がりましたー!』と元気な声が響いた。