グリンデルバルドが勝った世界   作:ようぐそうとほうとふ

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生かさず、殺さず

 クリスマス休暇は毎年ホグワーツに残っていた。独身で実家も遠いと必然そうなる。ほとんどの子は実家に帰るが、実家との仲がイマイチだったりマグル生まれだったりする子は結構残る率が高い。

 ハリーに戻るか残るかどちらがいいか聞いたところ残ると答えてくれたので、今年もクリスマスはホグワーツだ。よかった。クリスマスディナーなんて私には作れない。

 

 ホグワーツで過ごすクリスマスは最高で、実はハロウィンパーティーよりも豪華なご馳走が出る。

 教員も休暇中は多くが帰省するため、今年学校に残っているのは私、クィリナス、セブルス、天文学のオーロラ・シニストラ、そしてハッフルパフ寮監で薬草学を教えるポモーナ・スプラウトくらいだった。

 シニストラが教鞭を取るのは()()()で星空しか興味がない。一方でスプラウトは植物を育てることの次くらいには生徒を大切にしているようだった。

 

「これだけしかいないんだし、せっかくだから同じテーブルで食べましょう」

 

 クリスマスのご馳走を前にしてスプラウトは本当に、まったく悪意も他意もなくそう提案した。

 学校に残っているのはハリーとその友達2人、レイブンクロー生が2人に、スリザリン生が1人だった。しかもシニストラは天体観測のため夕食は欠席していた。たしかにテーブル一つでも事足りる。

 

 しかしここには複雑な人間関係がギュッと詰め込まれている。セブルスとハリー、私とセブルス、ハリーとヴォルデモート、私とヴォルデモートとクィリナス。ああ、これは大変だ…。

 

 教員と生徒入り混じってクリスマスを祝おうというスプラウトの提案により席順はこのようになった。

 

 私、ウィーズリー、スプラウト、レイブンクロー6年生、レイブンクロー4年生。対面にセブルス、ハリー、グレンジャー、スリザリン4年生クィリナス。なんとなく顔見知り同士で固めたようだ。

 

 クィリナスとハリーが遠くて安心すると同時に、ハリーとセブルスが隣同士になってしまった私の心境の気まずさときたら。それになんで私とセブルスが対面なんだよ。スプラウトのことなので私とセブルスの間の緊張に勘づいて余計な気を回したのかもしれない。

 

「メリークリスマス!」

 

 大広間の天井から降る雪は人に触れる瞬間にふっと消えてしまう。帰る瞬間宙を浮くキャンドルに照らされて、またたく。実は大広間のことを私は必要な部屋と同じくらい気に入っていた。自然と同じように美しく気まぐれだが、私たちへの慈しみがどこからか感じられる。

 

 さて、私の前にいるセブルスはいつもと同じ不機嫌顔で無愛想。ハリーは横にいるセブルスにやや怯えつつも、正面に友人のウィーズリー、反対側にはグレンジャーという配置なので楽しそうにしている。

 教師陣が何も喋らずクリスマスパーティーを切り抜けるのはあまりに態度が悪いため、私はとりあえず隣のロン・ウィーズリーに話しかけた。

 

「えーっと…ウィーズリーは今年、家族はいいのか。上3人は帰っているのに」

「ああ、今年はチャーリーに会いにルーマニアに行くっていうから…。ルーマニアは吸血鬼がうようよいるんでしょ?襲われたらヤダから…」

「いや。吸血鬼はもうあまり残ってないよ」

「そうなの?!」

 ウィーズリーはそんな!と目を丸くする。吸血鬼は魔法生物管理局が厳しくその個体数をマークしており、魔法族を襲うことのないよう強い統制をしている。

 

「お兄さん、ルーマニアにいるんだ?」

「うん。ドラゴンの研究で」

「すごーい…」

 

 彼が言ってるのはチャーリー・ウィーズリーのことだろう。去年の卒業生で30年ぶりにこの学校からドラゴン関係の仕事の内定を勝ち取ったので話題になった。

 ドラゴンは1960年ごろまでは重要な兵器だった。もちろん彼らは決して人間が乗りこなせるわけもなく、制空権をとるには最適とは言えなかった。しかし目の前にあるあらゆるものを攻撃し確実に仕留める執念深さは有用だった。

 しかし近年は敵国の航空機技術の発展によりドラゴン空挺部隊は解散。急ピッチで箒をベースにした魔法飛行機がその代わりとして配備されている。今ではすっかり『ホーンテールホール』のような闘竜や観賞用、種の保存という限定的な目的でのみ飼育、繁殖されている。そのためドラゴン関係の就職は間口が狭く、その分野に秀でているものでなければまず無理だ。

 

「兄貴の出来がいいとホントプレッシャーだよ…」

「兄弟、羨ましいな」

「そんなにいいものではない」

 私の相槌にハリーが反応した。

「フ…グリンデルバルド先生も兄弟いるの?」

「え…ああ。兄がたしか…3人と、姉が1人。弟が1人…だったかな?」

「多ッ!」

「まあ上とは結構離れてるから、あまり兄弟らしい思い出はないがな」

「へー…なんか意外」

「ハーマイオニーは?」

 ここでウィーズリーが急にハーマイオニー・グレンジャーに話を振った。グレンジャーはつんと済ました顔を装いつつ、咀嚼中だったパイを慌てて飲み込んだ。

「いないわよ。私はマグル生まれだもの。子供ができない家庭に引き取られたの」

「え?じゃあマグルの兄弟もいなかったの?」

「ええ、そう。……ちょっとあなた、ほんとに授業ちゃんと受けてるの?常識なんだけど」

「え?常識かな…」

「常識よ」

 マグル生まれの境遇について堂々と尋ねるのは確かに常識を疑われる。まあ、これまで散々言ってきた現状を聞けばわかってくれると思う。とはいえ彼は純血の家系で、マグル出身者もその子を引き取るような家も見たことがなかったのだろう。

 

「ウィーズリーはいつもながら配慮と常識に欠けるな。休暇中でなければ減点するほどに」

 ナプキンで口をぬぐったセブルスまでが苦言を呈した。

 

「ッ………ご、ごめんなさい」

 ウィーズリーも流石に自分が常識知らずな発言をしてしまったことがわかったらしい。慌ててグレンジャーの方へ頭を下げた。

 しかしグレンジャーはなぜかセブルスの方へ向き直った。

「お言葉ですけれど、配慮という言葉は私、好きじゃありません。マグル生まれは魔法使いの家庭に預けられているだけです。だって名字がそのままでしょう。私は配慮を受けるような境遇じゃありません。ごく自然に、ありのままに、魔法使いとして生まれた義務を果たすべく勉強しているだけです」

 

 ヤバい。

 セブルスの顔がかなり不機嫌そうになっている。眉間の皺の深さがとんでもないことになっている。まずい、グリフィンドールに−300点くらい入れられるぞ。気まずさを超えて一触即発になった空気を変えるため、私は柏手を打ってから勤めて大きな声でいった。

 

「うん!!グレンジャー君は本当に素晴らしい。君のような魔女が私たちの未来を作るのだと確信した。私の代わりにグリンデルバルド家に加わって欲しいくらいだ」

 

「えっ…そんな、恐れ多いことです!」

 

「さーて。スプラウト先生、ミートパイはまだありますか?好物でして…」

 

 突然ハキハキ喋り出した私にスプラウトはあらなに?という顔をしつつも、パイの皿を渡してくれた。あ、クィリナス…?何でそんな目で私を見ている?

 

「グリンデルバルド先生はホグワーツの立場についてどのようにお考えですか?」

「は?」

「つまり、世界最高峰の学校なのに魔法帝国連盟内では軽んじられていると思うんです」

 グレンジャーはなぜか私と意見交換がしたいらしい。お世辞を真に受けるタイプ?いや、多分私が何か崇高な志を持ってこの学校で教鞭をとっていると勘違いしているんだ。

「……私も今の状況を憂いている。中央集権は腐敗を招く…ので…ホグワーツからも…より本国の中枢にだね…うん。入るべきだよね?」

「たしかに。イギリス魔法省の人事交流も、多いとは言えませんよね。直接登用されるよう、生徒も視座を高くすべきだと思うんです」

「そう、その通りだと思う。…グリフィンドールに10点」

 グレンジャーの問いかけに窮している私を見てハリーがくすくす笑ってるのがわかった。ウィーズリーは退屈な話がまた始まったと言いたげにパイをむしゃむしゃ食べている。

 セブルスは多分少しだけ笑っていた。

 

 

 クリスマスのご馳走をすっかり片付けて、みな寮へ帰ろうとしていた。3人で仲良く帰ろうとしているところ、私はハリーを呼び止めた。

 

「悪いね。すぐ済むから」

「どうしたの?」

「これ。メリークリスマス」

 

 私はハリーにスニジェットを模った小さな鈴をわたした。

 

「包装が間に合わなくて。そのままですまないな。この鈴を鳴らせば私にわかるようになっている。何か危険なことがあったら鳴らしなさい」

「わあ…!ありがとう!これ…スニッチだよね?」

「正確にはスニジェット。スニッチの元になった魔法生物だよ。くちばしがあるだろ」

「あ、ほんとだ!すごい!ありがとう、フレイ」

 

 ハリーは嬉しそうにそれを手のひらで包み、ちょっと先で待っていたグレンジャーとウィーズリーに合流した。私はとりあえず防犯ベルを渡せてホッとした。

 

 

 ヴォルデモートはハリー・ポッターにあんな状態にされた。

 そのことについて本人に聞く機会が一度だけあった。1回目の対面と同様に地下聖堂で、体を拘束しての対話。

 

「あんたはなぜハリーを狙ったんだ?両親の方ならまだわかるんだが」

「ハリー・ポッター…忌々しき予言のせいだ。神秘部の内通者が齎した情報によれば、予言者の1人が俺様に破滅をもたらす子が生まれるという予言を出したのだ」

「予言…そりゃ厄介だな」

 

 予言されたことは必ず起きる。ただ予言というものは大抵曖昧な言葉で綴られているので、起きた出来事を後から振り返って『的中』とみなすこともある。

 未来は不確実だ。ありとあらゆる可能性を内包したモヤのようなもので、これからどの可能性が発露し現実になっていくのか誰にもわからない。しかし予言はその無限の可能性を一つに収束させてしまう。

 可能性の一つが予言という形で現れた場合、その未来は確定してしまったということだ。

 

「それでハリーを自分の手で殺しに行った。…自分から予言を実現させに行ったようなものだ」

「俺様が()()なったのはハリー・ポッターの力ではない。やつの両親のかけた守護のせいだ」

「死の呪いすら跳ね返す守護…か」

「だが俺様はまだ生きている。辛うじて」

「…このままクィリナスの体に寄生して?」

「どうだろうな。クィレルは今()()()()()()()の状態だが、このまま奴の魂が俺様に屈服しなければ消耗し、肉体が果てる。…グリンデルバルド、お前のしていることはクィレルの苦しみを伸ばしているだけだと思わんのか?」

「ああそうだな…あんたは湿気った花火みたいに退屈だし、()()()()追い出せるよう試すのも有りかもしれない」

「腕に自信があるようだな」

「まあね。老耄に負ける気はしないね」

「若さとは実に羨ましい。強い言葉を使い自分を飾るのに躊躇いがないとはな」

「………えい」

 

 私は生ける屍の水薬をスプレーした。ヴォルデモートは怒りと眠気の混じった凄まじい顔をした。私はターバンでそのままヴォルデモートを覆い、寝息を立て始めたクィリナスのロープを外した。

 

 

 

 ハリー・ポッターの命を守った魔法。

 その魔法はきっと私には使えない。

 

 

 そうして私は来たるべく終わりを予感しながらも見ないふりをして日常に戻る。セブルスとは相変わらずだったし、クィリナスは次第に弱っていった。

 そして雪が溶け始めるころ、クィリナスは私に一つの小瓶を渡してくれた。

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