レガシー・オブ・ヴァラー〜英雄の誕生〜
魔法帝国の未来を切り開く、壮大な英雄譚がここに始まる!
辺境で生まれたごくごく平凡な魔法使い、ガブリエル・スターリング。家族を守りたいという願いから彼は魔法帝国軍へ入隊する。すると、隠された才能がついに発揮される!厳しい訓練と数々の試練を乗り越え、帝国を脅かす敵に立ち向かえ!戦いの果てに、彼はどのようにして帝国の英雄へと成長していくのか?!
ギルデロイ・ロックハートが熱演するガブリエル・スターリングの物語は、あなたの心に深い感動と共感を呼び起こす。帝国の栄光と英雄の誕生を描いたこの壮大な叙事詩をその目で見届けよ!
「えー…なになに。本作はイギリス映画賞主演男優賞に2年連続で輝き続けるギルデロイ・ロックハートのデビュー作。アクションシーンはノー・スタントで挑戦!繰り広げられる魔法戦はまさに圧巻の一言…。へぇ、この映画でマーリン勲章勲三等までもらってるらしい」
私とセブルスは必要の部屋でいつも通り、グラスを交わしながらだらだらと夏の話や今年のことを話していた。しかし今日はプロジェクターを持ち込み、映画を流していた。音は切っているので話の中身はイマイチわからないが、概ねあらすじの通りの出来事が起きている。
大きく映し出されるロックハートの顔にセブルスが嫌そうな顔をしてグラスを開けた。
「そんな男がなぜホグワーツの教師に?」
「それがな、奴はプロパガンダ局をお払い箱になったのさ」
「これだけ売れていて?」
「ああ、どうも脚本とかなり揉めたらしくてな。どうやらキャリアプランについて食い違いがあったらしい。プロパガンダ局は他の部署より厳しいからな…そして銀幕にでたがるやつなんて山ほどいる」
「揉めたというのは?」
「なんと!この押し付けられたやつの本『私はマジックだ!』に全て書いてあります。なんとこちら、彼のサインとキスマ付きだ。いる?」
「近づけるな」
私はぱらぱらと本をめくり後半の文章を流し読みする。大したことは書いてない。言いたいことだけ繰り返し書いているからわかりやすい(これはプロパガンダの基本である)。
「面白いことにロックハートは自分が脚本を書くつもりだったらしいぞ。ギルデロイ・ロックハートの大冒険。そんななんの思想誘導性もない娯楽作品、作れるわけがない」
「なるほど。頭は空っぽというわけか…」
「そう。だから闇の魔術の教師なんていう職に飛びついたんじゃあないか?生き残った男の子、ハリー目当てで」
「それと君の口利きだろう。ニフラーが金の指輪を持っているようなものだな」
「まったくどいつもこいつも…」
「どうやらルシウス・マルフォイにも苦しめられているようだな」
「君のせいだぞ」
「我輩がどうこうせずとも彼ならばいずれ君に目をつける。脇が甘かった自分を責めるのだな」
「とっくに責めてるさ。だがロックハートに比べちゃルシウスはまだマシかもしれない…」
私はかなり大きめのため息をつく。新学期が始まって一週間、ロックハートは私を見かけてはしょうもない用事で話しかけてくる。さらに私が彼のファンではないどころかこれまで一作品も出演作を見ていないと知るや否や映写機にフィルムを押しつけて感想を求めてくるのだ。
私はプロパガンダ部の作る大作には一切心躍ることはないのだが、あんまりにしつこいのでこうして根負けして音声を切ると言うささやかな抵抗をしながら流すハメになった。
映像は悪くない。音声もないので彼らが何のために戦ってるかもよくわからない。だが逆にアクションシーンに集中できた。ノー・スタントでやっていると言う触れ込みだが、大掛かりで複雑な魔法はロックハート以外の誰かが画面外からかけているように見えた。
「彼は君と同い年だったはずだ。仲良くするといい」
「面白がってるんじゃない」
私だけならまだいいが、結局金の指輪はハリーの方なのだ。聞くところによると、ロックハートは何かにつけてハリーに用事を押し付け、自分のことを売り込んでいるらしい。
ロックハートは映画の舞台裏を話そうとして、ハリーがそれを見ていないと言うと次の授業で上映する。そして映画を見終わったあとはもったいぶりながらその舞台裏を話したり、映画のシーンの再現をする。不思議なことに呪文の実演は絶対にしてくれないらしい。生徒たちからは賛否両論だ。
そもそもホグワーツに来れるような優秀な子供たちはあまり彼の映画を見ていない。なぜならロックハートの出る映画というのは
世界の仕組みを作るごく一部の人間と、それを支える人々(と、マグル)。一番危険なのは支える人々だ。彼らはすぐに現状に不満を抱き、敵を作り、不満を募らせて爆発する。プロパガンダ部はそれらを抑えるため、または発散させるために常に目を光らせ、または創意工夫を凝らしている。
いい機会だからプロパガンダ局の構成を簡単に説明しておこう。プロパガンダ部は主に5つの部門により構成されている。
まず政策・戦略室。帝国魔法議会と連携しプロパガンダの方針と戦略を策定。各部署に命令を下す部門。
次にメディア文化推進部。新聞、ラジオ、本、映画などを統制し戦略に従ったものを制作する。ロックハートの属していた映画部門もここにある。もちろん映画以外のものも大量に制作しているため一番人数が多い。
次に教育・訓練局。魔法学校からマグルの職業訓練学校まで、教育現場で行われる思想教育や再教育プログラムを担当する。
そして検閲部。国内ではいまだ完全な統制下にない出版社や映像作家などがいるが、それらの出版物を検閲し不適切な表現がないか取り締まる部門だ。もちろん現行の出版物だけではない。彼らは過去にどんどん遡り不都合な記述を消し去り、修正し続けている。アンブリッジが勤めているのはここだ。
最後に内部監査室だ。早い話プロパガンダ部の人間の監視をする部署。ロックハートもここの連中に目をつけられたせいでこんなところで教師になろうなんて考えてしまったんだろう。
ロックハートも思い描いていた教師生活と違ってかなり苛立っているように見える。生徒全員にチヤホヤされると思いきや、彼を知ってるのは全校生徒の3割ほど。そのうち熱心なファンは1割程度か。歓声が圧倒的に足りないだろう。
しかもよく迷子になっているのを目撃されていた。無理もない。ただでさえ広い上に移動する階段だの、あったりなかったりする部屋だののせいで私ですら時々気付けば知らない廊下に出たりする。だがロックハートは頑なに助けを呼ばないせいでしょっちゅう授業に遅れていた。生徒たちにとって彼の授業とはどうせくだらない話を聞かされるだけの時間なのでむしろ歓迎された。
「フレイ先生!」
ある朝、ロックハートがギラギラの笑顔で近づいてきて、私はすぐに嫌な予感から踵を返して逃げようとした。しかしロックハートはかつてないほどの早足で私に接近し肩をガッチリと掴んできた。
「レガシー・オブ・ヴァラーシリーズはもう見てくれましたよね?」
「え…?シリーズものなのか…?………見たよ」
「嘘はいけないですねぇ」
ロックハートはチッチと舌を鳴らし、ニヤリと笑った。
「ですがいいでしょう!フレイ先生は大変お忙しいでしょうから。それよりもとてもいい考えを思いつきましてね!どうでしょう。私と一緒に…」
「断る」
「私と一緒に杖十字会を復活させませんか?」
「…は?」
「ご存じありませんか?決闘クラブですよ!昔ホグワーツにあった伝統的な決闘クラブ!」
「いや、知ってるが…。なぜ今?」
「私が闇の魔術の教師だからに決まってるじゃないですか」
「じゃあなんで私を誘う?」
「そりゃあなたより相応しい魔法使いはこの学校にいないからですよ!グリンデルバルドの血筋、しかもダームストラングを首席で卒業されている生え抜きじゃないですか!」
「おまえ私を巻き込めばなんでもうまく行くと思ってるだろ!」
「やだなぁ。そんなことありませんよ」
「いいか?」
私は周りを見回す。女子生徒数名が熱心にこっちを見つめていた。ロックハートの首根っこを掴むようにして一番近い謎の空き部屋に引き摺り込んだ。
「言っておくが、私に政治的影響力なんてものは一切ない。プロパガンダ局に戻りたくても手を貸すことはできない」
「プロパガンダ局に戻る?!ははは…そんなの望んじゃいませんよ」
「はあ?じゃあ一体なんなんだよ」
「それを知りたいならもっと私と親密になってからですよ、フレイ・グリンデルバルド先生。なにせこれから出す本の重要な元ネタになりますからね…」
ロックハートはニコッと笑って私から離れていった。意外すぎる答えに気を取られて煙に巻かれてしまった。
しかしロックハートの杖十字会再発足に関しては、結局私に手伝えることなど一つもない。学校のクラブ活動に関しては校長であるバーティ・クラウチと副校長、ミネルバ・マクゴナガルが決めている。マクゴナガルはまだしも、校長と話す機会なんて平教員である私にはまずなかった。
なのでハロウィンの日に決闘クラブが開催されると聞き、私は驚いた。
「デモンストレーションです。反響次第では復活もありえると校長はおっしゃってくださいました!」
「まさか直談判したのか?」
「もちろん!」
「…なるほど、お前みたいな奴がスターになれた理由がわかってきたぞ…」
「おやおや。褒めても何も出ませんよ。そういうわけで名誉あるデモンストレーションは私とあなたで…」
「断る」
「どうして!」
「私は自分の力を誇示したいと思わないから」
「私に負けるのが怖いんですか?」
「ッ…ハァ〜?」
私は拳を握って振り上げかけた。が、なんとか堪えた。この減らず口と不遜な態度はどんなに冷たくあしらっても無駄だと悟った。こうなったら一度思い切り叩きのめしてどちらが上なのかをわからせる必要がある。
「いいだろう。ただし一度私に決闘で勝ったらだ」
私のそんな決意を知らず、ロックハートはぱあっと嬉しそうな表情をする。
「素晴らしい!ではいつにします?」
「今日の夜、時計塔で。人を呼ぶなよ。誰かいたら私は帰る」
「わかりました。それでは今夜」
ロックハートは自信満々だった。どこから自信が湧いてくるのかわからない。だんだん怖くなってきた。
夜、時計塔の入り口に行くとそこにはロックハートと、なぜかセブルスがいた。
「なぜ君が?」
「必要ないほど勝敗ははっきりするからと強く辞退したのだが、審判で」
「お互い災難だな…」
「さあさあ!始めましょう」
ロックハートは始業式の日と同じ儀礼用のマントを羽織っていた。私がロックハートの前へ行くとそれをバッと脱ぎ捨て、華麗にお辞儀をした。なんと。観客もいないというのにこいつは何処までも
私も杖を抜き、礼をする。そして三歩離れて向き合った。
フェンシングの如き構えをするロックハートに対して私は普通の構え。ロックハートは笑みを浮かべる。
「フ…」
ロックハートの杖先が動いた瞬間。私は杖を少しだけ振る。すると脱ぎ捨てたマントがロックハートの顔面に飛びかぶさる。詠唱を邪魔されたロックハートは慌ててマントを手で払おうとするが、マントは蜘蛛の巣に変身させられており、そのまま彼の手を絡めとる。
ロックハートは悲鳴をあげるがそれを無視し、変身を解除した。マントに編み込まれるような形になったロックハートをそのままマントごと宙吊りにする。
つま先がギリギリつくかつかないかのところでとめて、私は一歩も動かないままロックハートを眺めた。
「大勢の前でやらなくてよかっただろ」
「無、無言呪文…それに杖なしの魔法ですか?さ、さすがダームストラング首席ですね…!ですが決闘にしてはいささか…いささか陰湿では?」
ロックハートは苦しそうに爪先立ちを続けているが辛そうだった。
「おろして!!」
私は渋々マントを下ろしてやった。しかし絡まってしまった頭や腕はどうしようもなく、ロックハートは布地に埋まったまま途方に暮れていた。
「相棒は別のやつを探してくれ」
私はセブルスに目で合図して一緒にその場を去った。
月明かりの差す渡り廊下で、ロックハートには聞こえないだろうところまできてから私は笑った。
「見たか?あの顔」
「やりすぎだ」
というセブルスも少し笑っていた。
「人前で恥をかかすよりはまだ優しいだろ?」
「驚いた。君にそんな親切心があったとはね」
「まあね。恨まれたら恨まれたで面倒くさそうな相手だしな」
「今ので恨まれてない保証はないがな」
「どうかな…」
その答えを私はすぐ知ることになった。
ハロウィンパーティー当日の朝食の席で、フィリウス・フリットウィック呪文学教授がウキウキで私に握手を求めてきたのだ。
「今日の模擬決闘、楽しみにしておりますぞ!」
「………ん?」
「ん?」
「私ですか?」
「そうですぞ?」
「聞いてないですよ?」
「おや?確かにロックハート先生から対戦相手はフレイ先生だと聞いたのですが」
「…………なるほど」
あのヤローブチギレてやがる!フリットウィックはたしか若い頃に決闘のチャンピオンだったはずだ。私を自分と同じ目に合わせてやろうという気に違いない。
「ロックハート先生も困った人ですね」
「そうですね…本当に」
「いやぁ…残念だ…。久々に本気で決闘をやれると聞いて張り切っていたのですが」
「フリットウィック先生は意外と武闘派でいらっしゃる…」
「ええ。なんせしょっちゅう襲われていましたからな。それこそ死喰い人や…まあ過激な思想の連中から」
小鬼の混血なため随分と苦労したようだ。私は小鬼が苦手だが、フリットウィックのことは好きだった。実力もさることながらその人格も非常に優れており、全ての寮の生徒から慕われている。
「困りましたなぁ。私がただ出ると呪文学の授業と変わらなくなってみんな退屈してしまう…しかしミネルバに頼むというのも…。セブルスは受けてくれんでしょうし…」
「はあ…わかりました。やります」
「本当ですか!」
「ただ私は弱いので…その…加減していただけると」
「また何をおっしゃる!ダームストラングといえば決闘士の名門でもあるでしょう?そうとうやられてたんじゃ」
「まさか。おじい様の威光をいいことにサボりまくってましたよ」
そういうわけで私はまんまとロックハートの復讐にのっかった。だが彼にとって想定外だったのは、私は全員の前で無様に武装解除されたところでなんとも思わないということだったろう。
決闘本番、私はフリットウィックの鋭い杖捌きを2発ほど防げたが、連射速度についていけずにあっさりと杖を弾き飛ばされた。…やや本気だったのだが、私は1発もフリットウィックに当てられなかった。悔しくないといえば嘘になる。
そして生徒同士、希望者が実際に何回か決闘をしてみてデモンストレーションはなかなかの好評に終わった。ロックハートはハリーたちに慰められていやあ…と笑う私を見て珍しく口をへの字にしていた。もしかしたら司会をしたくらいで全然目立たなかったのを後悔しているのかもしれない。
「フリットウィック先生ってかっこいいね」
「ほんっとに!」
ロンなんかは目を輝かせており、決闘クラブへの入会をかなり悩んでいるようだった。これで呪文学にも一生懸命になる生徒が増えただろう。フリットウィックのおかげでうまいこと目立たずに終わらせられてよかった。
「フレイはさ、まだ若いから」
「うん。まだまだ伸び代あるから頑張ろうよ」
「ッ……!」
よかったと思ってるからな。