グリンデルバルドが勝った世界   作:ようぐそうとほうとふ

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『国家への忠誠は栄光への道』

 決闘クラブのデモンストレーションが無事終わり、杖十字会のメンバー募集が開始された。ロックハートが顧問ということで躊躇う生徒が多々いたがそれなりの数入会したらしい。果たしてロックハートが御し切れるのか見ものだな。

 ハリーはロックハートが苦手だから入らないだろうとは思っていたが、興味を示していたロンも入らなかったのは意外だった。

 約束していた土日のピクニックで理由を聞くと、ハリーはもじもじしながらも理由を教えてくれた。

 

「実は、ぼくたちクィディッチのクラブを作りたくて…」

「…え?」

 

 聞くと、ロックハートの杖十字会復活により他のクラブも復活させることができるのでは?という推測がまことしやかに囁かれ始めたらしい。そこで隠れクィディッチ愛好家らは寮を超えて連携し、復活のための下準備を進めているようだ。

 

「ははぁ…良くも悪くも刺激になったわけだ」

「まだ準備している途中だから絶対に誰にも言わないでね?」

「ああ、もちろん」

 

 ハリー、君がそう思ってなくてもこれは密告になっちゃうんだよ。まあ私は上に漏らすことはないが。

 

「顧問はフーチ先生に頼むつもりで、今グリフィンドールのオリバー・ウッドがこっそり話をしてるんだ」

「フーチ先生もクィディッチ復活派だったな、たしか。上手くいくといいな」

「うん!…フレイ、怒らないんだね」

「なんで怒るんだ」

「ハーマイオニーが言うにはクィディッチが解散させられたのは『反体制的』だから、復活は難しいって言ってた。反体制的ってつまり、政府にとってよくないってことだよね」

「まあざっくり言うとね。ふうん…そんな感じだったのか…」

 クィディッチチーム解散令が出たのは確かハリーの両親の在学中で、父親はシーカーをしていた。となるとやはりポッター=反体制グループというのは本当だったのかもしれない。

「仮にそれが事実でも、そのことは言わない方がいいな。純粋にクィディッチがやりたいってことを根気よく繰り返すんだ。ちょっとでも政治色を出したら渋るぞ、校長は」

「わかった。…でもよかった、フレイが反対したらどうしようって思ってた」

「なんでハリーのやりたいことに私が反対したらショックなんだ?」

「えぇ?だってフレイには味方でいて欲しいから」

「ふーん…」

「応援しててね」

「いいよ」

 

 ハリーは去年よりも背が伸びていて、こうしてたまにゆっくりする休日以外を箒の練習に費やしている。そのせいか少しだけ逞しくなった気がする。子供の成長はあっという間とよく言うが、ようやくそれがわかった。

 これまで教卓の上で生徒たちの背が伸びていく様をぼんやりと見ていたが、成長とは単に身体が大きくなることではない。そんな当たり前のことがようやくわかって、恥ずかしい。

 

「ぼーっとしすぎていたかな…」

 

「その通りですね」

 私の独り言に返事をしたのはロックハートだった。見回りの途中で完全に1人の世界に飛んでいた私が悪い。が、突然わかったように同意されるとそれはそれでムカつくな。

 クリスマスを目前にして廊下は大広間に近づくにつれ飾りで賑やかになっていた。ロックハートも観客は誰もいないのに美しいライラック色のマントをつけている。私はいつもの着古したローブなのに。

 

「いい加減『レガシー・オブ・ヴァラー』シリーズの続きは見てくれましたか?二作目の『愛と忠誠』はラブロマンスです。あれで私の人気が爆発したといってもいい。必見ですよ」

「あぁ…?私がラブロマンスに興味あるように見えるのか?」

「だってほら、クリスマスですし。一作目はアクションでしたが、こっちはもっと叙情的なんです。台詞回しについてかなり脚本家と議論しましてね。最終的に私の台詞がより多く使われた」

 ロックハートは快活に笑う。どこまでも自分の話しかしない奴め。決闘で叩きのめしてやったと言うのになんでいまだに絡んでくるんだ。本当にだんだん怖くなってきた。

「そうやってプロパガンダ局をクビになったんだな」

「…おや。差し上げた『私はマジックだ』はまだ読んでいない?」

「私が最後まで読めたのはおまえの調査書だよ。次の映画も決まっていたと言うのに突然退職なんてな。何が気に食わなかったんだ?辞めてまで教師になりたかったのか?」

 ロックハートの顔から笑顔が消えた。そして私に一歩近づき、また笑顔になる。その仮面っぷりに私は少しだけ背筋に冷たいものが走るのを感じた。

 

「いいかな?まず、私がなりたかったのは作家だ」

 

 ロックハートは前髪をついっと指で整える。いつもはナルシズムに満ちたその仕草が今日は神経質な男のそれに見えた。

 

「もちろん、俳優も私の天職だった。それは間違い無いでしょう。だがあの…ッ…はあ。あの業界はいささか、私には狭すぎた。あなたは映画がどうやってできてるか知っていますか?」

「あー…まず話を作って…役者を決めて、画を撮る…」

「いいえ、違います。一番初めに決めるのは、メッセージです。この作品で何を伝えたいか。レガシー・オブ・ヴァラーシリーズは『国家への忠誠は栄光への道』でした。そして主役の選考。その後、脚本が作られます」

「プロパガンダ局だものな。メッセージありきなのはわかる。だが…それがなんだよ。何が言いたいんだ」

「見事役を射止めた私は『ガブリエル・スターリング』の人生を演じ切った。『愛と忠誠』と三作目の『永遠の栄光』はイギリス映画賞にノミネートされましたしね。彼は私そのものだ!私は彼のように国家に尽くし、人々を勇気付けた。素晴らしいコトでしょう?」

「あ、ああ…」

 

「私は…ホグワーツに来れるようないい家の子ではなかった。そんな私でも、物語の力で英雄になれるのです。でも次にきた映画のメッセージは『創造性を捨てよ』でした」

 

 さっきまでの熱っぽい語り口からとても冷淡なものに変わっていた。降っていた雪が手のひらであっという間に消えるように。ロックハートは私から数歩離れて壁にもたれて小窓から真っ暗な外をじっと見つめていた。

 

「私は想像力や、物語の力を信じています。だってそれは私をいつだって主役にしてくれる…。でもプロパガンダ局はそれを検閲し、統制する。それがおかしいと思ったにすぎません」

「反社会的だな〜」

「どう思われても結構!私はね、自分が主役になれない世界なんて我慢がならない!そう、あなたにはわからないでしょうが…なにせ、グリンデルバルドの孫なのだから。私の気持ちなんて絶対にわからない!」

 

 ロックハートはこの時初めて私に対して上べではない、はっきりとした感情と本音を向けてきた。それは嫉妬なのか怒りなのか八つ当たりなのかわからなかったし、私には全く共感できないものだった。

 

 

「私は、物語にこそ魔法が宿ると信じている!」

 

 

 でもそれだけはわかるよ。

 私も彼同様、物語を、虚構を愛しているから。もうここに存在しないものこそを

 

 

「なるほど。あんたが名優なのは納得した。今のは少しばかり胸に響いたぜ」

 私はロックハートの横に並び、肩を叩いた。ロックハートは少し恨んだ瞳で私を見つめ、にっと笑った。

 

 

「だが少々脚色がすぎないか?ロックハート。あんたはガブリエル・スターリングとか言うキャラじゃあない。脛に傷持つ人間だろ」

 

 私は大量のスクラップが挟まった手帳を見せ、笑い返してみせる。

 

「脚色だと…?」

「そうとも」

 私はロックハートから少し離れ歩き出す。ロックハートも私についてくる。

 見回りも最後、大広間だ。フリットウィックが特に気合を入れて飾り付けているクリスマスのホグワーツ。当日になるとほとんどの生徒は実家に帰っているが、それでも彼はこうして飾りつけている。こんなものは、国家への忠誠や栄光から程遠いのに。

 世界は必要ないものをどんどん削ぎ落としている途中だ。

 それはこういう季節のイベントだったり、飾りだったり、花だったり、創造性だったりする。

 そんな世界が正しいわけないだろ。

 

「どこから突っ込めばいいかな。まあまず、あんたがガブリエル役を射止めたってところだが…あんたがあの役を掴んだのは、クランクイン直前に決まってた役者が事故で退職したからだろ?」

 

 ロックハートの笑顔がスッと消え去った。反して私は笑う。

 

「アクションシーンのリハーサルで杖の損傷に気付かずに逆噴射。気の毒に。役者は記憶を失い再起不能。スケジュールはずらせない!そこで颯爽とあんたが現れてこう言う。『私なら彼の役を演じられる!』あんたは主役のそばで、アシスタントスタッフとしてやたらと熱心に演技を見ていたからな」

 

 ロックハートのいた俳優部門では役を張られなかった奴はアシスタントディレクターのような雑用を押し付けられる。ロックハートは主演俳優の付き人のようなことをしていたらしい。さぞかし苛立っただろう。自分が落ちた選考に見事通ったライバルの使()()()()()は。

 

「…ええ、私の才能がようやく発揮されたと言うわけですよ」

「よく言うね。プロパガンダ局が捜査を拒まなければあんたは今頃もっと()()()()職場にいる」

「でも、証拠はない」

 

 そう、証拠はない。だが彼の周りではやたらと物忘れの激しい人間が多い。レガシーオブヴァラーの続編に反対したディレクターは別シリーズの構想を急に忘れ、すでにあった続編の企画を動かすしかなくなった。共演した女優…彼女に至ってはなぜか自分が女優だったことも忘れていた。彼女の家族はマグルで、口をつぐむほかなかった。

 彼のスキャンダル記事は当然プロパガンダ局が検閲した。ロックハートの兄弟がスクイブなことも無かったことにされている。

 わがままが祟ったか、トラブルの隠蔽が追いつかなくなったのか。とにかくロックハートはヤキが回った。結果が今、この状況。

 

「イギリス映画賞なんてのはそもそもが出来レースだ。メッセージとやらを決めた段階で全て上で決まってるだろ。魔法帝国のショービジネスは全てが虚構だが、虚構を虚構で上塗りするあんたはなかなか大したタマだと思う」

「…フッ…ははははは!さすがはグリンデルバルドの孫ですね。この国の腐った点をよくご存知だ」

「どうも」

「それで?名探偵さん。あなたのその『物語』を使って私をどうにかするつもりですか?あなたには『物語』なんか必要ないくせに」

 私に物語は必要ない。確かに。望んでここに来て6年を無為にして、しかもこのままずっと変わらないこの場所でぼんやり生きていこうとしていた自分には必要ない。だが今は少し違う。

 

「勘違いするな。こんなのはただの売り言葉に買い言葉だ。うざいこと言われてムカついたんだよ。ただ、あんたの本音が聞けたのは素直に嬉しく思うがね…」

「それはよかったですね。口喧嘩は久々にしました」

「友情は深まったりしない類のだがな」

「残念です」

 

 ロックハートはため息をついて腰に手を当てた。私は大広間の天井を見上げたまま、彼が立ち去るのを待った。何か話したそうにしていたが、私はもうそれに付き合う気を失っていた。

 1人きりの夜の大広間はとても居心地がいい。クリスマスの飾り付けがあれば格別である。

 

 

 そして、クリスマス休暇がやってくる。ハリーは今年ウィーズリー家に泊まるかすごく悩んだ結果、ウィーズリー家のクリスマスを堪能することに決めたらしい。ホッとした。私は私でクリスマス当日にマルフォイの家に呼び付けられているのだ。

 

 マルフォイ邸へ呼びつけられてるのは私だけではなかった。セブルスも呼ばれているというので、よくよく聞くとクリスマスパーティーだった。どうしてか私は密室でいかがわしい会話をするものと思い込んでいたのだが、パーティーなら別だ。美味い飯が出る。

 

「にしても先生が生徒の家のパーティー行っていいものなのか?贔屓してるとか言われないだろうか」

「そう思われるようなことをしなければいいだけでは?」

「君が言うのか?」

「我輩は贔屓などしたことがない」

「ヒェ〜〜ホンモノじゃん」

 

 そんな風に軽口を叩きながらマルフォイ邸に着くと、控えめながらも精巧な氷の像などで飾り付けられていた。ドレス姿の魔法使いも多く、前回のハリーのパーティーとはまた違った面子が揃っていた。

 前回私の周りにいたのは冴えない感じの奴らばかりだった(そういえばあいつらほとんど全員元犯罪者みたいなもんだし、それは冴えてなくて当然である)が、今回は華やかだ。多分魔法省の役人と海外の客が多いようだ。ルシウス・マルフォイの表の顔というわけか。

 ああ、だからセブルスも今日は普段よりいい生地の服を着ているのか。しまったな。私はおめかしの方向性を間違っておじい様からもらったヴィンテージのコートを着てきてる。中の服もちょっと新しめなだけのスーツだ。まさかおしゃれバトルでセブルスに負けるなんて思ってなかった。

 

 

「ようこそ。やはり同僚ということで仲がよろしいようで」

「お招きいただき感謝します。ミスター・マルフォイ」

「パーティーならそう言って呼んでくれればよかったのに」

「クリスマスによんだら自ずとそう解釈するかと。ああ、フレイ・グリンデルバルト様に我々俗人の常識を当て嵌めるのは失礼でしたかな」

 ルシウスはフン、と笑う。普段なら煽られて怒るところだが、今日のルシウスは親しみと上機嫌から出る軽口のような感じだったので私も煽り返す。

「ああ、だってほら…クリスマスパーティーを家でやるなんて聞いたことがなくてな。城とかでやらないか?」

「フ、さすがグリンデルバルドですな。ささやかなパーティーをどうぞお楽しみください」

 ルシウスはボールが帰ってきたことを楽しんでまた別の集団の方へ行ってしまった。私とセブルスはグラスを持ってとにかく一杯飲んだ。

 

「意外にもルシウスともうまくやれているのだな」

 とセブルス。

「どうかな。心の底では足元掬われろとか思ってるんじゃないか?」

「掬われる?何に」

「さあね」

 

 ルシウスは私の様子を遠くから観察しているようだった。なぜ話しかけてこないのか。周りの客が私より上等だからなのだろう。この中だと私とセブルス教師コンビは浮いており、結局2人で固まってチビチビ酒と料理をつまむことになった。

 

「おや?セブルス。セブルスじゃないかね?」

 

 そんな我々に声をかけてくれたのは恰幅のいい人物だった。人慣れしたセイウチみたいな(そんなのがいるのか知らないが)男だ。

 

「お久しぶりですな、スラグホーン先生」

「おやおや。今は君が先生だろう?」

「フレイ、こちらはホラス・スラグホーン。我輩の前に魔法薬学の教鞭をとってらした。ホラス、こちらはフレイ・グリンデルバルド。魔法史の後任教師です」

「ほほう!お噂はかねがね」

 スラグホーンの目が輝くのがわかった。まあ、この名前を聞いてそんな目をしないやつの方が珍しいが。

「はじめまして」

 私はややぶっきらぼうに返事するが、スラグホーンはしまったという顔も失敬なという顔もしなかった。

「まさかルシウス・マルフォイとあなたに交流があったとは、驚きですな!彼はもしかしたら私以上に人脈が広いかもしれないな」

「セブルスがパーティーに行きたがらないもんで、付き添いですよ」

「違う」

「セブルスとも仲良くしているんだね。安心安心…」

「前任…ということはもしかしてセブルスを担当してらした?」

「そうだ。お気に入りの1人、でほら!立派にしている。今日ここに来たのも教え子たちがたくさんくると聞いてね。本当はルシウスとはあまり気は合わないのだが」

「へえ」

 ふいっと横を向くといつの間にかセブルスが消えていた。もしかしてスラグホーンのことが苦手なのか。まあ確かに、この独特の人懐っこさというか距離の詰め方は無口には嫌かもな。しかしセブルスがいないならそれはそれで好都合だ。幸いスラグホーンは私に興味津々だ。

「セブルスを見ていたということは、ポッター夫妻もご存知ですか?」

「ああもちろん!特にリリーはマグル生まれなのに魔法薬学に特別才能があった。お気に入りの1人だったよ」

「そうですか。父親の方は?」

「うむ、ジェームズもとても才能溢れる子だった。クィディッチではシーカーをしていてね…。プロになっていれば…」

「クィディッチの学内リーグが廃止されなければなれてたかもしれませんね。たしかちょうど廃止された世代ですよね。何があったんですか?」

 スラグホーンは困ったという顔をした。

「ん…私はスリザリンの寮監だったから、詳しいことは…」

「そうですか…」

 聞き出すには時間がかかりそうだ。しかし知り合いがほとんどいないパーティーならば彼から情報を聞き出すのに時間を使ってもいいだろう。ルシウスやお仲間に絡まれるのも面倒だしな。

 

「まあとりあえず飲みましょう。おい、そのワインボトルで置いていってくれ」

「おお、お好きですか?」

「ええ。かなり」

 

 

 そしてパーティーの後フラフラになった私は姿くらましの負荷に耐えきれずセブルスの前でしこたま吐くことになるのだが、詳細は省くとする。

 

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