グリンデルバルドが勝った世界   作:ようぐそうとほうとふ

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「蓋を開けてのお楽しみ」

 私はピカピカになったクィディッチ競技場の観客席で、空を飛び回るハリーを見ている。初夏の空にはたくさんの箒にまたがる生徒がいて、ボールを回して遊んでいる。今日はクィディッチ愛好会のメンバー選別発表がある。メンバーはどこかそわそわしながらもじっとしてられない気持ちを箒に乗って発散していた。その中にはもちろんハリーもいた。

 ハリー、ロン、ドラコが競うようにスピードを出しては何かを言い合って、またくるくると旋回し出す。

 

「コマドリの群れみたいだな」

 

 私がボソッというと横にいるセブルスは「ああ…」と言う。お互いに少し日の光を浴びるべきと外に出たはいいが、セブルスはいつもの黒装束なせいか暑そうだ。あっという間にまた一年が経ってしまった。

 

「トム・リドルは君を殺すために秘密の部屋を開けた…」

「うん?」

「君は本気で()()と手を組むつもりなのか。必ずまた裏切るぞ。君が思っているよりもはるかに危険な品物だ」

「まあ十中八九奴は私を裏切るだろうな。利用するだけしてから」

「だったらなぜ…」

「私の利用価値は高い。そう簡単には裏切らない」

 私が断言しているのにセブルスはどうしても信じられないらしい。いや、まあそれももっともだ。この疑り深い友は何においても慎重だ。私が軽薄すぎるのかもしれない。

「だったら聞かせてくれ。そのリスクを抱えてまで、どうやって君はこの世界を変えるつもりなのか」

「えー?君に話すとおじい様に伝わっちゃうだろ?」

 私がニヤッと笑うのを見てセブルスは困ったような怒ったような顔をする。

「茶化すな。我輩は君を…」

「わかってるよ。それに君が私の情報を流すのはむしろ都合がいいんだ。おじい様も安心するだろ?」

「そのことも、だ。なぜ我輩が二重スパイと知って尚仲間に引き入れる?我輩こそ裏切る危険があるというのに」

「それはトムに対してと同じ答えだ。私の利用価値が…いや。私の真意がわからないかぎり君は…おじい様は私を切れないよ」

「…君の言葉を信じていいのか?」

「自己責任だ」

 

 そうやって話しているともう1人誰かが現れる。ロックハートだった。いつも通り、これから舞台挨拶にでもいくのかという華美な服装でキラキラとした笑顔と綺麗に整えられたブランドの髪を靡かせている。

 

「悪巧み中ですか?私も仲間に入れてもらっても?」

 セブルスは露骨に嫌そうな顔をした。もちろんロックハートに対しては彼は元々こういう態度を取っていたが、今まさに話していた不安要素も宿している張本人のため嫌さが2倍になっているようだ。もはや嫌悪感を隠すつもりもないらしい。

「そんな顔されると傷付きますね。いえ、気持ちはわかりますけどねぇ」

「トムにかわってくれ」

「ええ、もちろん」

 ロックハートは目を閉じる。するとすぐに纏う雰囲気が一変した。

「こんな青空で浮かない顔の教師が3人。目立つな」

「生徒はみんなクィディッチを見ているよ」

 

 私とトムはこうなる前からいくつか約束をしている。

 それは『ロックハートはどうなっても構わない』という約束。

 トムはロックハートと私との決闘で体を操る試運転をした。おそらくそれで彼の体をいずれ万全に操れると確信したのだろう。ロックハートが追い詰められてるように感じたのは自身の体の制御が次第に奪われてるのがわかっていたからと思われる。

 あの日記のタチが悪いのは、そう言った弱みにつけ込み心までも操ること。

 ロックハートは自分の現状を正しく認識しているのだろうか。トム・リドルによる精神の支配はもはや自分の中にトムがいて彼に隷属するのが当然だと思わせる領域に来ている。

 

 

「で、セブルス。こちらトム・リドル。トム、こちらはセブルス・スネイプ」

「セブルス・スネイプ。未来のぼくの忠実な僕にして不死鳥の騎士団員か。フッ…真に忠実な人材は君の祖父に皆殺しにされたのか?」

 セブルスはトムに対する態度をいまだに決めかねているようだった。危険因子であると同時に将来的に(こいつは成長することはないが)自分が仕える主人でもある。

 

「…トムと呼べば?それとも闇の帝王?」

「トムは穢らわしいマグルの父親の名で、闇の帝王は負けて惨めな霞になってるじゃないか。ずっと使いたくてうずうずしていた名前がそうなってしまったのは残念だよ。…だがまあいい。トムで結構。何より平凡な名前だからな」

「ではトムと呼ぼう。…フレイからあなたが秘密の部屋を開けたと聞いたがそれは事実か?」

「ああ。肝心のバジリスクが君たちに倒されてるとも知らずにね…」

 トムはよほど悔しかったのか苦々しい顔をした。まあ確かに、満を持して部屋を開けて中身が空っぽではこんな顔になるか。

「生徒に危害が出るような事態は我輩とて許せぬ。事実ならば手を組むことは不可能だ」

「いや、勘違いしないでほしい。あのバジリスクはパーセルタングを持つものの命令を聞く。あの時のぼく…というかロックハートの目的はフレイを殺すことだった。ぼくとしては殺せたら殺せたで御の字、無理なら無理でロックハートを切るつもりだっただけさ」

「はあ?私を殺した後ハリー、そしてマグル生まれの生徒だろ…。口先で誤魔化すんじゃない」

「…まあハリー・ポッターの殺害までは考えた。だが、今思えばそれで自分の存在を危険に晒すのは馬鹿馬鹿しいな」

「決闘で負けて悔しかったんだろ」

「あれはロックハートの体をどこまで操れるか試していたにすぎない。…負け惜しみに聞こえるかもしれないが完全な憑依をしても自分の体のようにはやはりいかないな。実体化さえできれば君をきちんとあそこで葬れたのに。この社会ではすでに死亡した人間じゃ大手を振って歩けやしない…」

「フン。実際負け惜しみじゃないか」

 トムは眉を吊り上げて私を睨む。しかしそれはどこか親しみのあるような目線でもあった。ロックハートの顔だがまったく違う印象を受けるのは何回見ても奇妙な感じだ。

 セブルスは不信を深めたようで、普段の不機嫌を通り越して敵意すら感じる眼差しだ。やはり彼の本心はもはやヴォルデモートに忠誠など誓っていないのだろうか。

 

「…生徒に危害は加えない。それを信じろというのか?」

「信じられないならそれで結構。ぼくはフレイ・グリンデルバルドとは手を組んだがスネイプ、あなたと手を組んだつもりはないからね」

「闇の魔術でできた品物の…あの人の記憶と手を組むなんて…我輩には正気とは思えない」

「まあ君ら2人は気が合わなさそうとは思ってたがね…」

 私がそういうとトムは腕を組み、セブルスを睨みながら挑発的に言い放った。

「友情が問われる瞬間だな、スネイプ。今ここでフレイとの友情を捨ててぼくを秘密警察に突き出すのも面白いんじゃないか?」

「それもやぶさかではない…」

 セブルスはそういうと背を向けて競技場をさっていってしまった。それをみてトムは肩をすくめる。

 

「行かせていいのか?本当に密告するかもしれないのに」

「しないよ。私はセブルスを信じてる」

 ある意味では、おじい様を。

「ぼくは二重スパイを飼うことには反対だ。ゲラート・グリンデルバルドにどこまで話すかわかったもんじゃない」

「たとえ全部話していても、おじい様は間違いなく私をしばらく泳がせる」

「なぜそんなことがわかる?」

「前に一度やったことあってね」

「へえ。その話は詳しく聞きたいな」

「今度だな。ほら、そろそろ練習が終わる時間だし」

「君は随分とハリー・ポッターを気にかけているんだな」

「ああ。だから絶対関わるなよ」

「さあどうだろう…ぼくの放った死の呪文を跳ね返したんだろう?あまり近寄りたくはないね」

「お前の言ってることはまったく信用できない」

 

 私はトム・リドルを信用していない。だが、彼の存在だけがこの世界にある綻びなのだと感じている。

 セブルス・スネイプとの会話で私はやっと気がついた。この邪悪な日記が単に動く絵画のように記憶を込められ、動きをトレースするような代物ではないと。

 このダンブルドアが敗北しグリンデルバルドの勝った世界をひっくり返すには、私が知らない未知の力に縋るほかあるまいよ。

 トム・マールヴォロ・リドル。ゴーントの最後の血族。その記憶の断片。そして、()()()()

 闇の魔術に関する本は禁書の棚にいくらでもある。おそらく随分と間引かれたのだろう、棚がスカスカだったが。分霊箱という魔術を見つけるのは比較的容易だった。そしてクィリナスから託された記憶と照らし合わせれば推察は容易だ。魂の裂け目とは自分でも的確な表現だったわけだ。

 ヴォルデモートは少なくとも5つ分霊箱を作成している。

 一つで十分なところをよくやるよな。生に執着しすぎだろう。

 だがそこが気に入った。

 

 

 

 

 

 

「フレイ!見てくれてた?ぼくシーカーに内定したよ!」

「すごいじゃないか。今度箒を買いに行かなきゃな」

「本当?!フレイ貧乏なのに大丈夫?」

「君の家のお金でね?」

 

 ハリーは赤いゼッケンを脱いで暑そうに服の襟をひっぱる。他の子達も青、緑、黄色と色とりどりのゼッケンを待って一喜一憂している。

「ハリーすごいんだよ。2年生の中で選抜されたのハリーだけだもの」

 ロンはがっかり半分、憧れ半分でハリーの方を見た。7人×4チーム、たったの28人に選ばれたのはかなりすごい。しかもシーカーは各チームにたったの1人だ。どうやら本当に才能があるらしい。

「次があるさ、ロン」

「うん…それに選ばれなかったメンバーもそれぞれチームを組んで練習することになったんだ!ぼくはキーパー。…まあ枠が空いていたからなんだけど…」

「へえ。みんな随分とやる気だな」

「そりゃそうだよ!フレイ先生がこんなに興味ないのがおかしいよ!」

 

 チームごとの決起会があるから、とハリーは赤ゼッケンの集団の元へかけて行った。背が二回りは大きい上級生たちに囲まれて目立っていたが、堂々としている。

 よかった。そう小さく呟いてからクィディッチ競技場を後にした。

 

 

 

 

 私は魔法史の教室へ戻り頬杖をつきながら窓から差し込む陽光が照らす埃をぼうっと眺めた。ビンズはもういい加減私に正しいゴブリン史を仕込むことを諦めて、最近は教室に現れなくなった。

 

 私はやらなきゃいけないことを整理する。

 セブルスは多分怒ってるだろうからご機嫌取りに何かいい酒でも持って行かなくては。夏、トム・リドルが何かやらかさないようにちゃんと定期的に会わなくては。あとルシウスにも一言文句を言って、それにかなり気が進まないが兄に会いに行かねばならないだろう。

 夏はやることが山積みだ。しかし手を抜いてはいけない。

 

 今年度の出来事に関しては、すでに夏休み中に決着がついていた。バジリスクを倒すのを面倒くさがってトムと同時に襲われていたらさしもの私も死んでいたかもしれない。あの時私(とセブルス)が頑張ったからこそ今年は1発ぶん殴る程度の労力で済んだのだ。

 

 

 さて、今年の夏はまず何から片付けよう。

 夏休みに何をするか迷うなんて()()()ぶりだ?

 

 

 私は若き日のある夏の日を思い出した。私の望みが絶たれて、夢が始まった日。

 あの日もこんな初夏の日差しだったような気がする。もうぼやけて掠れて本当にそこにあったのかもわからない思い出。それなのに感情だけが鮮烈に脳裏に蘇るのだ。そして、その目眩がするような切望に視界が朱く染まってしまう。

 こんな思いを忘れるためにホグワーツに逃げ込んできたのに、結局この場所でまた私は希望を見つけてしまう。それとも本心ではここでまた何かを見つけたかったのかな。

 

 愚かだな。

 

 わかってる。

 でも、捨てられないんだ。

 

 まだ未練がましく夢を見ている。

 

 

 

 

 

 

「うわ。怖い顔…」

 

 

 

 教室の入り口を見るとロックハートが立っていた。口調からして中身はトムだろう。

「何の用だ」

「聞きそびれた疑問があってね。夏休みを前に聞いておきたい」

「疑問?」

「そう。君と日記上で交わした会話なんだが…覚えているかい?」

「ああ。なんだ?」

「では聞くが、君が友人について色々話してくれただろう?その中に、ちょっと気になる名前があってね」

 いやにもったいつける。なぜか普段のロックハートとほとんど見分けがつかなくなるな。ただでさえセンチな気持ちだったのにムカついてきた。

「周りくどいな。早く言え」

 私が明らかに苛立ってるのを見てトムは勝ち誇ったような笑みを一瞬見せてからたずねた。

 

「オミニス・ゴーントとは誰だ?」

 

「…友達だよ、昔の」

「へえ。だがゴーント家はすでに断絶しているばかりか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のに?」

「なんだ?家系図暗記してるのか?それに私はダームストラング出身なんだよ。外国にはいるさ」

「そう言うと思ってわざわざ現代版の魔法族血統図を全て調べたんだぞ?ゴーント家はイギリス以外に存在しない。グリンデルバルド政権の始めた登録事業に間違いがなければな」

「…ふーん…」

「で、君の知ってるオミニスは…。ゴーントとは、一体どこのゴーントなのかな」

 

 

「……どうやらおしゃべりがすぎたようだな」

 

 

 


 

 

 

 薄暗い地下室。魔法薬の煮える煙がすっかり絶えた夏休みでも染みついた匂いと湿気は相変わらず。しかしながら近場に湖のある地下は非常に涼しく、煮えたぎる大鍋がない限りはローブを羽織っていても時々寒気がするほどだった。

 スネイプは1人、その地下室でポツンとテーブルの前に座っていた。テーブルの上には部屋の雰囲気に似つかわしくないタイプライターが一台。ひとりでに動き文字を吐き出していた。

 

 

 フレイは無事正解に辿り着けた。ついさっき帰っていったが随分怒っていた。むべなるかな。これでフレイが見つけた分霊箱は指輪のみか…。今年の予定はどうだね、セブルス

 

 スネイプはタイプライターに返信を打ち込む。

 

 フレイはもう分霊箱集めに関心を失っているようです。今年はハリー・ポッターのために旅行するとか

 

 あれにそんな甲斐性があったとはな。だがそれでは困る。分霊箱は複数個ある可能性が非常に高いのだから。君ののぞみはなんだったかな

 

 スネイプはその文面からまるでグリンデルバルドの声が聞こえてくるような気がしてゾッとする。あの胸の深いところをざらりと撫でるような声色。指が震えぬようにしっかりとタイプする。

 

 ハリー・ポッターを守ることです

 

 ならばヴォルデモート卿を滅ぼすために全力を尽くしなさい。フレイを上手く使うのだ

 

 あなた様はフレイにかなりの期待をかけていらっしゃるようですが、それは何故ですか

 

 あの子は私の孫の中でも一番特別なのだよ。

 

 特別?

 

 孫たちはそれぞれ様々な才能に突出した子たちだが、フレイの才能だけは別格だ。一度折れたようだがヴォルデモートのおかげでいくらか立ち直ったようでなによりだ。

 これからも孫をよろしく頼む

 

 スネイプはしばし迷い、結局返信はやめた。

 タイプライターをトランクにしまい、普段使っている方の机へ向かった。そこにはフレイから贈られた上等な蜂蜜酒があったが今は飲む気にならなかった。

 あの日記のことは言わなかった。いや、言いそびれたのだ。自分は、不覚にも言いそびれた…。そう思うことにした。

 

 しかしなぜグリンデルバルドは分霊箱が複数あるとわかるのだろうか。殺人を持って魂を引き裂き、物に宿す闇の魔術。何度もやる魔術ではない。

 しかし事実として、分霊箱は今手元に二つある。日記、そしてゴーント家の指輪。

 そしてクィレルの記憶で見たという《魂の裂け目》にあった光景は全部で5つあった。そのうち3つは夏休みに現場を訪れ、徒労に終わった。

 

 しかし2つは冒険だった。秘密の部屋、そしてゴーント家の跡地。

 そこで目にしたフレイ・グリンデルバルドの魔法は()()()()()()()()()()()()()()()()

 それがゲラート・グリンデルバルドのいう特別な才能だというのなら期待をかけるのは納得だ。しかし、同時にフレイを自分一人に監視させるのはいささか不用心でないかとも思う。

 

 

 しかし、これまで一度としてグリンデルバルドの目的や真意を知れた例があっただろうか?

 

 

 フレイとゲラートは根っこの部分がよく似ている。フレイは嘘こそめったにつかないが、一度だって誰にも本当のことを言ったことがない。これはもちろん直観に過ぎないが、フレイを監視しともに過ごす中でひっかかった数多の違和感。

 そう、なぜフレイは通ったこともないホグワーツの廊下をよどみなく進める?生徒もめったに知らない抜け道を通り、穴場でこっそりタバコをふかすのだろう。時々話す思い出が、どれも遠い昔話のように感じるのはなぜだ?

 

 きっと直接聞いたところでフレイは笑ってこういうだけだ。

 

 

 

 

「蓋を開けてのお楽しみ」

 

 

 




 
【挿絵表示】

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