「恐怖のディメンター、収容所を支配」
イギリス魔法省、ディメンターを使いスパイ狩り
イギリス魔法省では収容所内のスパイ摘発のため、悪名高い
アメリカ政府は、この非人道的な行為に強い非難を表明。戦争の火種がさらに燃え上がりつつある今、世界は衝突の危機に直面しています。
ライアル・ルーピン。
ポルターガイストやボガート研究の権威であり、魔法生物規制管理局の霊魂科の主任も務めていたそうだ。今年退職した魔法生物飼育学のシルバヌス・ケトルバーンの後任教師としてホグワーツへやってきた。
人の良さそうな老人だが、どこか表情には影があった。どうやら訳ありらしい。ホグワーツ新任教師あるあるだ。
しかし人となりは善人そのもので、生徒に対する態度も我々に対する態度もまるで善き隣人を体現したような男だった。では一体彼に何があったのだろう。霊魂科は魔法生物規制局の管轄ではあるものの、実質的に闇の魔術に近しい分野だ。
アレックスにまた調べてもらおうとして、やめた。敵対的でない人間の腹を探るのはよくない。私は一昨年セブルスを傷つけたことをちゃんと覚えているのだ。
そんなセブルスはやっぱり去年より輪をかけて不機嫌そうで、必要の部屋に現れたのも学期が始まって2週間経ってからだった。私は毎日待っていたのに。また何かで怒らせたのかと思いきや、セブルスの表情は私に苛立っているようなそれではなかった。
「何かあったのか?」
と聞いたところでセブルスが私に心のうちを素直にぶちまけたことは一度たりともなかった。
「私に会えない夏休みが相当こたえたようだな」
と言うと不機嫌そうに
「我輩に何かあるように見えるならそれは新学期が始まったせいだな」
と返した。まあ機嫌は悪いようだが調子は悪くなさそうだった。セブルスが座り、私はショットグラスをわたすがセブルスは辞した。
「おじい様からなにかあったか?」
「……残りの分霊箱をみつけよと」
「はは、それ言われた。だがちょっと変だと思わないか?」
「何がだ?」
「どうして分霊箱が複数あるって知ってるんだ?君、教えた?」
「いや…クィレルがこっそり抜き出した記憶と日記については報告していない」
「だよな。分霊箱を作ったから死の呪文が跳ね返っても死んでない。ここまではおじい様なら簡単にわかるかもしれない。だがどうして複数個ある前提でいるのだと思う?」
「それは我輩も疑問に思った。だがあの方は闇の帝王について以前も独自に調査していたようだから我々のまだ知らない情報を持っているのでは?」
「それも妙なんだよ。
「しかし同時にそれほどの闇の魔法使いは近代では存在しなかった。それも事実だ」
「…やな感じがするんだよなあ」
カウンターに突っ伏す私にセブルスは水の入ったグラスを差し出した。私は素直にそれを飲む。セブルスは慰めるように言った。
「ゲラート・グリンデルバルドの本心をよめたことがあるか?」
「…どうかなあ」
セブルスはおじい様にヴォルデモートの情報を伏せている。その言葉を信じるかは一考の余地がある。また、おじい様が私がヴォルデモートについてどこまで突っ込んでいるか知っているのかについても私からは全くわからない。
だが問題はそんなことじゃない。おじい様がヴォルデモートを消したがっているのか面白がっているのかよくわからないところだ。本気で消したがっているなら私を泳がせてヒントを与えたりもしないだろう。一方で面白がっているなら複数個あるなどとわざわざ言ったりするだろうか。
ゲラート・グリンデルバルドの本心を読めたことがあるか?
たしかに。本心なんて実は一度だって理解できてなかったのかもしれない。
新学期が始まって浮かれていた空気がだんだん落ち着いてきた頃、さっそくクィディッチ愛好会あらため、クィディッチクラブのクラブ内リーグの開会式があった。
ハリーは赤いユニフォームを来て新品の箒を脇に抱え誇らしげに立っていた。色分けから寮ごとのチームなのかと思ったが、よく見ると玉石混交。どうやらキャプテンの寮に習ってユニフォームの色が統一されているだけで所属メンバーはバラバラだ。
赤いユニフォームはオリバー・ウッドのチームだった。クィディッチクラブは寮ごとの対立を乗り越えて団結しているようで何よりである。
開会式で一番熱視線を向けていたのは意外にもマクゴナガルだった。というかちょっと泣いていた。あとでフリットウィックに教えてもらったのだが彼女はかつて寮対抗でクィディッチをプレイしていた頃、かなりの熱を上げていた。時には慣例を覆すこともあるほどの身の入れ用だったらしい。
そして前代未聞の続投を果たしたロックハートも(いや、一年で代替わりしていた方が前代未聞続きだったのだが)ウキウキで出席していた。もちろん誰も彼の飛び入りスピーチを歓迎しなかった。
初戦は赤チーム(グリフィンウィングス)vs緑チーム(シャドウパイソンズ)ということで、セブルスも日差しの中教員席で観戦していた。そしてセブルスも感情を露わにはしなかったもののクィディッチに熱中しているようだった。
私はどうもクィディッチと出会うタイミングが悪く、なかなか熱中できない。これは生まれとフィニアス・ナイジェラス・ブラック校長のせいでもある。だがハリーや魔法使いの多くを夢中にさせる魔力のようなものはあるのだろう。
「スニジェット…繁殖してるといいな…」
私の呟きにセブルスははあ?という顔をした。
ハリーたち3年生は魔法生物飼育学を習い始める。つまりはライアル・ルーピンの授業だ。ハリーは週末クィディッチの練習があってなかなか私との時間を取れないので感想を聞く機会がなかった。
若干の寂しさを覚え始めたある水曜の夜中。早めに寝るつもりでいた私は着替えを済ませて本を読もうか悩んでいた。
なかなか読む本が決まらず困っているとドアがノックされてさた。開けてみると、ハリーの生首が廊下にあった。
私は特大の悲鳴をあげて拳を振りかぶった。しかしハリーも同時に悲鳴を上げてすっ転んだ。すると胴体が現れたのだ。
「ごめん!そんなに驚くとは思わなくて!」
「と…透明マントか?!」
「そうだよ。こっそり抜け出してきたんだ」
「ハァ〜〜…バカ…ッ」
見回りの教師に見つかる前にハリーを部屋の中に入れた。
案の定ドタバタという音がして今日の見回り当番であるマクゴナガルが飛んできた。私は大きくて気味の悪い蜘蛛をみたと言い訳した。マクゴナガルは悲鳴の主が私なのかを疑いつつ、帰って行った。
ハリーはサプライズがすぎたことを笑いまじりに謝罪しつつ、かぶってきた透明マントを畳んでポケットに捩じ込んだ。
それはぱっと見でかなり質の良さそうなものだった。夏休みに買ったのだろうか?見慣れないものなのでついジロジロみてしまった。ハリーは誤魔化すように椅子に座り、私が普段寝起きしている部屋をぐるっと眺めた。
私の書斎は教室同様いろんなものが積み重なっているが、ベッドの置いてある部屋は物が少ない。
「えーと…ココアでも飲むか」
「うん」
私がココアを出すとハリーはそれを飲む。
「で、なんで夜中に抜け出してきた?何かあった?」
「何もなかったら来ちゃいけない?」
「校則違反だからな」
「それは…ごめん。最近フレイと全然話してなかったから」
「それで夜中に?不良だな」
「えへへ」
ハリーはなぜか照れた。
そうか、ずっといい子で探していたから不良と呼ばれると嬉しいのか。万年不良気味の私と対照的である。クィディッチ愛好会で年上と話す機会が増えて少し大胆になってきたのか、それとも元からこういう性格なのか。意外な側面だった。
ハリーは最近1番の出来事であるクィディッチの試合について話してくれた。観客も込みで試合をするのは初めての経験で、箒が空を切る音、遠くで聞こえる歓声、捕まえたスニッチの感触まで全部が素晴らしかったと言った。その後勝利の打ち上げパーティーでウッドが60分越えのスピーチをかますまでは興奮冷めやらなかったそうだ。
「授業はどう?」
「そうそう、魔法生物飼育学でボガートの撃退方法を教えてくれたよ。専門分野なんだって。次からパフスケインの世話になっちゃったけど」
「真似妖怪か。いいね。君は何に化けられた?」
「ぼくはやらせてもらえなかった。…きっとヴォルデモートが出ると思ったんじゃないかな?」
「ああ…確かに」
「フレイは相手にしたことある?」
「ああ、あるよ。当時の私は正直怖いものなんてなかったからな…フッ…全く大したことなかったが、まあ…ドラゴンが出てきたかな」
「え?ドラゴン怖いんだね」
「実はちょっと苦手だ。あいつらは一撃で倒せないし」
「ドラゴンを倒そうだなんて無茶すぎるって」
どうやらルーピンは一応存在する指導要領に沿った内容をやっていくつもりらしい。(いつ誰が作ったのか忘れ去られるくらい昔に作られたもののようだが)
彼の専門であるボガートは魔法生物ではあるが、やはりどうしても魔法生物飼育学の教育現場で求められるような教材ではない。しかし生徒の心を掴むには抜群だったらしく、ほとんどの生徒が彼を好意的にみている。
そんなライアル・ルーピンと話す機会が不意に訪れた。それは私がフリットウィックに頼まれてハロウィンの飾り付け用のかぼちゃを禁じられた森の近くにある畑にとりに行った時のことだった。
畑のそばには農具などをしまっている納屋と魔法生物を世話できる専用の建屋があった。ちょうどそこに教材用とおぼしきディリコールをブラッシングしていたルーピンがいたのだ。
「こんにちは。ワオ。なんてふわふわなディリコール」
「ああ、どうもこんにちはグリンデルバルド先生」
と言った端からバシッと音を立ててディリコールはどこかへ瞬間移動してしまった。
「あ…すみません」
「いやいや。また腹が空いたり、撫でて欲しくなったらここにきてくれますよ」
ルーピンはやはり穏やかな人柄で、親切にもかぼちゃを収穫するのを手伝ってくれた。積み上げれば小屋より高くなりそうなカボチャを7つ。収穫を終えるとお茶をご馳走してくれた。
建屋には簡易だが宿泊できる設備が整えられていた。生活感が出ているところから、ルーピンはここに泊まることが多いようだ。
「聞きましたよ。ボガートを授業で取り扱ったとか。たしかご専門でしたよね」
「ええそうです。やはりこんな慣れないことをするからには一番初めは自分の得意なことをやりたくて」
「いいですね。正直ここに通う生徒にとって動物よりかはああいうやつらの方が身近ですよ」
「そうですね。専門の仕事にでもつかない限り魔法生物はその辺を歩いたりしておりませんしな…。この森は素晴らしい。多種多様な生き物が生態系のバランスをとって未だに息づいている。私も専門ではありませんが、やはり携わるものとしてはワクワクしますね」
やはり少し気になる点がある。この物言いだとやはり魔法動物それ自体に元々強い関心があったとは思えない。専門分野でもない教師を志したのは一体どういう理由だろう。
「教職には自ら応募なさったんですか?」
「ええ…まあ」
まずい、尋問のようになってしまった。ルーピンもやや警戒してるように感じる。私は空気を変えるべく、ベッドの端をもぞもぞと動く黒い塊を指差した。
「お、あれニフラーじゃないですか?私の生まれ育った所では夜中にゴブリンが金貨を盗みに忍び込む…なんて話があったんですが、あれって絶対ニフラーの仕業ですよね」
「おっと!また忍び込んで…!そう、ニフラーは他の生物にたくさんの濡れ衣をかけてきた歴史があるんですよ。ほら、でておいき」
ルーピンは銀紙を持ってはて?と首を傾げる二フラーを摘み出した。ニフラーのおかげでやや空気も打ち解けたところで、私はカボチャを魔法で浮かせながら城へ帰った。日はすっかり暮れていたが満月もちかく、月の光で道は明るく照らされていた。
「遅い」
となぜかセブルスが待っていて、かぼちゃの運搬を手伝った。フリットウィックに手伝いに行くよう言われたらしい。だったら畑まで来いよ。
大広間の片隅に置かれたかぼちゃ。フリットウィックがこの後顔を掘るらしい。たしか一個一個表情がちょっと違うんだよな。今年の飾り付けはぜひ私にも手伝ってほしいという。
去年の決闘以来フリットウィックにはかなり気に入られてしまったようで、何かとつけて呼び出される。しかし悪い気はしなかった。ロックハートも手伝いに名乗りをあげたが、フリットウィックは丁重に断った。英断である。
ロックハートは多分もうほとんど正気ではないと思う。
闇の魔術の授業の質は向上したと言う。つまりは、授業時間もトムに操られている状態ということだ。それ以外の自由な時間は多分ロックハートのままなのだろうが、それでも騒ぐことなく(いや、目立とうとして騒いでいるが)暮らしているあたり、自分が多くの時間操られていることすらまるで気にならないほどに洗脳は進んでいるようだ。
闇の魔術の教師が続投することについて初めは大いに話題だったが、ロックハートがその盛り上がりをかぎつけてニコニコで飛んできて自分の素晴らしさを演説してくるものだから、みな彼は呪いに気づかないほど鈍感なのだろうと結論づけ話すことを避けた。
トムは闇の魔術の教師を楽しんでいるように見えた。たしか一度ホグワーツの教員を志したことがあると言っていた気がする。意外だ。
今年のハロウィンは後頭部に闇の魔法使いが生えてる奴もいないし、うざい同僚に絡まれたりもしないからきっといいハロウィンになる。ハリーの初のホグズミード行きも何事もなかった。
私は私で悩み事こそたくさんあるが、学校でやれることは少なかった。結果的に常に肘をついてぼーっとする元のぼんくら教師に逆戻っている。それもまあいいかもしれない。
そう思った矢先のことだった。
私の目の前にハリーの名付け親だと名乗る人物が現れたのは。