グリンデルバルドが勝った世界   作:ようぐそうとほうとふ

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注意!あなたの安全を守るために

 

 

 ハロウィンパーティーが無事終わり、飾りつけのカボチャはスプラウトの温室の植物の肥料になった。

 次のクリスマスに向けて、禁じられた森からツリーにちょうどいい木を仕入れる必要があった。気づけば話の流れで私とロックハート、セブルスの若者教師組でその木を選定することになっていた。

 ロックハートのせいだった。ロックハートときたら持ち前の自己顕示欲が全て裏目に出て、雑用めいた厄介ごとをどんどん引き受けるようになっていた。しかもなぜか、私は確実に巻き込まれる。トム・リドルの監督不行届と言える。

 

 しかしフリットウィックの嬉しそうな顔ときたら。これまでほとんど1人の趣味だったものを共有できてよほど嬉しいらしく、あんなに避けていたロックハートの杖十字会にも時々顔を出してくれるようになったらしい。ここはもしかしたらトムの話術のなせる技なのかもしれないが。なんでロックハートだけ得をしているのだ。

 

 

 そういうわけで雪が降り始めた寒々しい昼空の下、一番暇な私は禁じられた森の入り口にいた。『魔法使いの庇護のもと、安寧と繁栄を』の看板はいつのまにか何者かによって完全に破壊されていた。

 曇り空なので森の奥へ行けば行くほど暗くなるのは必至だった。なるべく浅いところで見つけたいが、当然いい木はなかなか見つからない。()は庭のようにかけていたのだが、今となっては見知らぬ森だ。ライアルはこの森を豊かだと言ったが、私にはそう思えない。全てが管理されるようになった世界の管理しきれない混沌が追いやられた魔境。それが今の禁じられた森だ。

 

 

 

 深い場所へどんどん進んでいくと、それに比例して木は高さを増し、闇も濃くなっていく。湿った枯れ葉がふかふかになって寝転んだら気持ちがいいかもしれない。これだけ深いと何か魔法生物と出くわす危険が増すが、暗いとはいえ真昼間。気配は感じなかった。

 しかし少々奥へ来すぎてしまったらしい。見回せばちょうどいい大きさというにはあまりに高く、また広間に運び入れるのも難しそうな木々ばかりだ。

 

 とりあえず戻ろうと後ろを向いた瞬間、何かが枝を踏む音が聞こえた。音の方を見ると、そこには黒い大きな犬が佇んでいた。

 闇の魔犬か?と思うが違う。どこか知性を感じる。だが野犬には変わらない。私は目を逸らさず、動かなかった。犬も同じく動かない。おそらく杖を握る予備動作で襲いかかってくるだろう。あんまり動物は痛めつけたくはないのだが、やむを得ない。

 

 私は杖へ手を伸ばした。すると犬がバネ細工のようにこちらへ走り出した。私は()()()()()()()。杖なし魔法で飛びかかってきた犬をそのまま横へ吹き飛ばす。

 犬は木に激突し悲鳴を上げる。地面に落ちたのを見て木の蔦を絡ませた。これで私がこの場を去るまでは動けないだろう。殺さずにすんでよかった。

 犬は私を睨んでいた。これではしばらくは禁じられた森に入るたびに付け狙われるかもしれない。ツリー選びはセブルス…はなんかやってくれなさそうだしロックハート…は無理だからトムに任せるしかないだろう。ラッキー。

 

 森の外へ出ようと歩いていると看板のある入り口から少しズレてしまったようだった。なんとなく見覚えのある木々の生え方と隙間から見える景色からおそらく魔法生物飼育学用の建屋のあるほうへ来てしまった。

 すると私からはだいぶ離れた位置だが、誰かの声が聞こえた。それはひどく憔悴しているようで、私はなぜだか父親と呼んだ男の声を思い出した。そう、まるで迷子の子供を呼ぶような。

 

 

「リーマス…!リーマス!」

 

 

 私は出て行くか迷った。リーマスという名前に聞き覚えはない。だがもし助けが必要な状況だったら?結局気になった以上確かめずにはいられなかった。声の方へ向かって歩くと、そこには杖を構えたライアル・ルーピンがいた。

「ヒッ…」

 目は見開き、いつもは撫で付けられた髪が乱れていた。私をみて唇の隙間から悲鳴が漏れ出る始末。明らかに取り乱していた、

「どうしたんです?」

「あ…い、いや。わ…私の…‥犬が、逃げてしまって」

「犬?犬なんて飼って…あ」

 

 もしかしてさっきの犬か?だとしたらけがをさせてしまったかもしれない。

「く、黒い犬でしたか?」

「え…?い、いや。その…」

 ライアルはハッとして口を押さえ、そのままひげを撫で付けた。まるで指先の感覚から正気を取り戻そうとするかのようだった。

「黒くは、ありません。大丈夫…。大丈夫です。賢い子なのできっと…」

「はあ。ならよかったのですが。さっき森の奥で黒い犬に襲われたんですよ。もしそっちの方へ逃げていたらリーマスちゃんも危ないですね。探すのを手伝いましょうか?」

「絶対にダメですッ!」

 ライアルは強く言った。あまりの語気に私は気圧されてしまった。そんな私をみてライアルは再び我に帰り、慌てて取り繕ったかのような笑顔を作った。

「もう夜になりますし…リーマスは賢い子ですから、必ず帰ってくるでしょう…ご心配ありがとうございます」

「はあ…ならいいんですが…」

 私は森を出ようとする。ライアルはまだ同じ場所で立ち尽くしていた。気になるがこれ以上話しかけても彼の邪魔になると思い、とにかく森を出た。日が暮れかけて、夕陽の向こうにおおきな月が見えた。今日は満月だ。

 

 大広間に戻り教職員テーブルで飯を食っているとロックハートが話しかけてきた。犬に狙われているのでもう木をとりに行けないと話をすると、私が犬に負けたかのように大声で復唱し始めたので、もう一回本気で殴りつけてやろうかと真剣に考えた。私の動物愛護の精神を理解してくれたのはマクゴナガルだけだった。

 じゃあお前が恐ろしい野犬を撃退し木をとってこいと煽るとロックハートは大勢の前で誰よりも立派な木を持ってくるし、ついでに犬も撃退すると豪語した。これでうまく仕事を押し付けられたわけだ。しかも苦労するのはトム・リドルだろう。いい気味だ。

 ライアルはその夜現れず、翌日の朝食にもこなかった。犬と会えてるといいのだが。

 

 それからまた数日、ロックハートが木を必死になって運んできてクリスマスツリーの飾り付けが始まった。今年は生徒からもオーナメントを募集してちょっとした手芸大会のようになってきている。

 ルーナ・ラブグッドというレイブンクローの生徒が作った飾りは大きく、巨大な鷲の下に謎の生き物がじゃらじゃらとぶら下がっていた。これはフリットウィックが特別に頭上を旋回するように魔法をかけた。ハーマイオニー・グレンジャーは大広間のテーブルで飾り付け用の靴下を編み上げようと奮闘していた。うまく行かなくて泣きそうになっていたが、マクゴナガルがそっとコツを教えたらするすると編めるようになり、今は友達の分の靴下を編んでいる。

 

 そういえばここ最近ハリーを見かけなかった。雪がこう積もる季節はクィディッチの練習もないはずなのに。今年のクリスマスの予定だって聞いていない。

 私は授業後のハリーを捕まえようとした。しかしハリーは授業が終わると私が話しかける隙もなくするりと教室から逃げてしまう。仕方がないので次の授業中、直接残るように伝えた。ハリーは気まずそうな顔をして席に座ったまま、どこかむすっとしながらそっぽをむいていた。

「この後予定でもあったか?」

「べつに…ないよ」

「なんか不機嫌だな。セブルスみたいになってるぞ」

「スネイプよりかはマシだよ!…そうじゃなくて…何?」

「いや。最近君の姿を見てなかったし話してもいなかったから。クリスマス休暇はどうするのかも全然聞いてないだろ」

「……クリスマスは学校に残るよ。忙しかったんだ、最近」

 ハリーは何かに怒っているようだった。しかし私に心当たりはない。知らない間に怒らせるようなことをした覚えもなかった。

 

「どうした?何を怒っている?」

 

「怒ってなんてないってば!」

 ハリーは声を荒げた。私はやっぱり怒ってるじゃないかと思いながらも顔に出さないように努めた。

「…私が何かしたなら謝るが…」

「フレイは何もしてない」

「じゃあなんでそんなに不機嫌なんだ?」

「……どうしようもないんだ」

「…あ、恋?」

「違うよッ!」

 より怒らせてしまった。ピンときたぜと思ったのに。

 

「フレイは…悪くない…。けど……」

 

 ハリーはどうやら複雑な感情に陥っているようだった。どうにかしてやりたいが、私には話したくないらしい。困ったな。

「話したくないならそれでいい。私にできることがあれば言ってくれ。気晴らしでもなんでも付き合うから」

「……うん。ごめん」

 ハリーはそれだけ言って立ち上がり教室から去った。

 反抗期ってやつか?わからん。わからないが、何か嫌な予感はこの時から感じていた。

 

 

 

 その嫌な予感が現実のものとなったのはクリスマス休暇直前の深い雪の積もった日のことだった。

 私はハリーが1人森へ向かったという話をグレンジャーから聞いた。グレンジャーは最近ハリーの様子がおかしいことに気づいており心配していたらしい。しかし本人にそれとなく聞いても教えてもらえなかったそうだ。よくよく観察すると透明マントを持ち出して何度も寮を抜け出していることに気づいた。どこへ行っているのか、これも観察しているうちに靴の泥や持ち込まれた葉っぱなどから森と分かったらしい。

 今回はあまりに雪が深く、心配で後見人である私に言いにきたらしい。

 

 私はグレンジャーに礼を述べ、真っ白になった禁じられた森まで雪を掻き分けやってきた。入り口あたりにはしっかりと足跡が残っており、追跡は容易そうだった。

 

 一体どうしてこんな日に森へ入ろうとするのだろう。そもそも校則違反なのだが、ハリーが積極的に校則違反をするようになったのは少しショックだ。まさかグレはじめてしまったのか。だとして、私にできることとは?全くわからなかった。

 足跡を追っていくとそこまで奥まっていないちょっとした湖のある開けた場所へ続いていた。ここはかつての道の名残があるおかげで雪が積もっていながらも歩きやすく視界も良好だった。

 

 ハリーらしき人影がないかとキョロキョロしていると、ちょうど湖の対岸にテントのような白い塊が見えた。よく見ると、ただの雪の塊だった。

 と、普通の魔法使いならここで見逃すだろうが、このような見え方をする『それっぽい何か』について過去に私は何度も出くわしている。周辺をぐるりと見回す。こういう時は特に空と木々を見るといい。

 ほんの少しの違和感。風に揺れる葉、雪の落ちる音。そこに言葉にし難いひっかかりを覚えるのなら、そこには人払いの呪文がかかっている可能性が高い。

 もちろんこれは経験からくる直感に等しいものだが、ある程度熟達した魔法使いなら…まあつまりは隠れる人間を見つけ出す必要に駆られたことのある魔法使いならば…身につくものだった。そしてこのレベルの人払い呪文は未成年の魔法使いがかけられるようなものではない。

 私は杖を出す。どこか遠くで大きな鳥が鳴いて飛び立つ音が聞こえた。神経を研ぎ澄まし、入念に周りの音を聞いた。静かな森。この森の中でし得ない音がするまで。

 しばらく目を瞑って立っていると、雪に閉ざされた静寂の向こう側で焚き火の木が燃え落ちる音がした。

 

 その方向に向かって呪文を発射する。するとその呪文は見えない壁にぶつかったように爆ぜて消えた。

 認識阻害のみならず、外敵を完全に拒む守護呪文の一種が張られているようだった。なるほど、きな臭い。さてこの森に一体何が潜んでいるのかな?

 

 私は杖を振った。

 次はちゃちな魔法ではない、防壁を破壊する意志を込めた強い魔法を。銀の光が見えない壁にあたり、その部分が焼けていくヴェールのように消失した。

 呪文の燃え滓のようなものが雪景色に舞って溶けていく。

 私は少しワクワクし出していた。禁じられた森で野営をするような人物、どう考えたってやましい何かを抱える者だ。もしも密猟者だったら…今そんな商売成立するとは思えないが、万が一というとこもある…心置きなくやっつけられる。どうやら一昨年、昨年のトラブルで魔法使い同士で戦う楽しさを思い出してしまったらしい。

 ただこの時の私はそこにハリーが絡んでくる可能性をすっかり忘れていた。

 

 やはり、湖の向こうにはテントがあった。今度は細い煙も見えた。そして、誰かがテントから出てきた。

 それは全く見覚えない男で、私より若干年上。やつれた顔だが着ているものはわりかし新しく、髭も髪も無造作ながら整えられていた。私の姿を見て驚いたような顔をし、杖を構えようとした。

 私が武装解除をかけようとすると、テントからもう1人が出てきて男の腕にしがみついた。

 ハリーだった。私は思わず立ち止まる。

 

「フレイ…なんでこんなところに?」

「それは私のセリフだよ。その男は誰だ?」

「この人は…ええっと…」

 

ハリーは困ったような口ぶりだった。

 私がとりあえず相手を動けなくしようと僅かに杖先を動かした瞬間、私の背後から雪を踏む音がした。

 

 振り向く前に、勢いよくかけてきた何かが私の体にぶつかった。

 やけに熱い吐息と獣のにおい感じた。黒い鼻先が私の腕にガッツリ噛みつき、コートの生地を突き破っているのがわかった。

 

 巨大な犬だ。

 そう、この間のあの犬に違いなかった。

 

 私は雪に足を取られていたのもありそのまま地面に倒れてしまう。ハリーが私の名前を叫ぶのが聞こえた。

 

 雪に突っ込んで思考が一瞬停止した。

 そして気づくと私に覆い被さった犬は人へと変わっていた。

 

 こいつ、動物もどきか。

 

 黒い服。ボロのようにも見えるがよく見ると洗練されたデザインのコートだ。大柄で、私よりも背が高い。純粋なフィジカル勝負では私は到底敵わなそうだった。事実、私の腕を押さえつける手を払いのけることができない。

「グリンデルバルドの孫というからどんな恐ろしげなやつかと思ったら、驚くほどに細腕だな」

「わかってて襲いかかったのなら後悔するぞ」

「私の友人に手を挙げようとしていたから咄嗟にね…」

 

 男はニヒルに笑った。ロックハートとはまた違った方向のかっこつけた笑いに苛立つ。その男の後ろからハリーがひょこっと顔を出した。

 

「やめて、シリウス…!」

「すまん、ハリー。ついかっとなってしまって…」

「シリウス…?」

 

 男は私からどいた。噛まれた腕に熱さを感じた。コートに穴が開き、そこから血が出て雪が赤く染まっていた。

 シリウス。どこかで聞いた名前だった。そのシリウスは私に手を差し出すが、私はその手を取らずに自分で立ち上がる。シリウスの後ろにはテントから出てきた男も心配そうな顔をして立っていた。

 

 シリウスは大仰に礼をして私に名乗った。

 

 

 

「2度目まして、フレイ・グリンデルバルド。私はシリウス・ブラック。ハリーの名付け親だ」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

注意!あなたの安全を守るために

 

 

 

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