グリンデルバルドが勝った世界   作:ようぐそうとほうとふ

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あなたは騙されていませんか?

 シリウス・ブラック。

 

 ハリーの両親の身辺調査の時に見た名前だ。グリフィンドール出身でジェームズ・ポッターの友人。しかしポッター夫妻が殺された日から行方をくらましている。彼にはピーター・ペティグリューという男の殺害容疑がかかっていた。報告書にはおそらくアメリカに逃亡したのだろうとメモ書きがあった。

 今目の前にいるのは逃亡犯にしてはどこか品のある男だ。

 

 シリウス・ブラックは私の目の前でコーヒー用の湯を沸かしている。

 腕の傷は幸い大したことなく治癒の呪文でほとんど治った。だが私はそんなことよりお気に入りの服に穴をあけられてしまったことに腹が立っていた。

 

 無言の時間が続いた。ハリーは気まずそうな顔をして私の隣に座っていた。

 そして湯がわき、コーヒーを淹れはじめていい香りが漂ってきた頃に外からもう1人、はじめハリーとテントにいた男が帰ってきた。

 

「呪文はあらかたかけなおしたよ。まさか見破られるとは思ってなかったから次はもっと強めにかけてみたんだが…どうしてわかったんだい」

 私に聞いているようだ。私はぶっきらぼうに答える。

「勘」

「勘か。そうか…。次はもっと慎重にキャンプしないとだな」

「で、お前は何者なんだ」

 男はカップを二つとってシリウス・ブラックの横に座った。横のシリウスと比べるとやつれた顔をした男だ。顔面に傷跡があるし頭は白髪混じり。着ているものも全体的によれっとしており対照的だ。

 

「私はリーマス。リーマス・ルーピンだ」

 

 男はそう名乗り私に握手を求めた。私はその手よりもリーマスという名前にあっとなった。

「まさかお前が賢い犬のリーマスちゃんか」

「ブッ…!」

 横のシリウスが吹き出した。リーマスは戸惑った顔をして手を引っ込め、頭をかいた。

「なんだい、それは…リーマスちゃん…?」

「ライアル・ルーピンがリーマスって犬を探していたんだよ」

「ああ…父さんが。そうか…」

 

 リーマスは渋い顔をした。

 なるほど、ライアル・ルーピンの態度の理由がようやくわかった。ライアルはこの二人をホグワーツ敷地内へ入れる手引きをするために教職に応募した。息子であるリーマス・ルーピンもアメリカへの亡命者で、シリウス・ブラックの協力者なのだろう。

 マグル収容所へもぐりこむのはかまわないがまさかホグワーツに潜り込むなんて前代未聞だ。

 

「それで、ワンちゃんズが学校に何の用だ?」

「フレイ…」

 おっといけない、ハリーがいるのについ喧嘩腰になってしまった。

「失礼…アメリカからのお客様につい張り切っちゃって」

「歓迎どうも。我々が子犬(puppy)なら君は…子猫(kitten)か?」

「なんだと?」

「やめてよ二人ともッ…!」

 また取っ組み合いになりそうな私とシリウスの間にハリーが入った。シリウスが入れたコーヒーをひったくり私に渡す。むっとした顔の私をまっすぐ見て、飲むように促した。有無を言わせぬ気迫を感じる。

 ずいぶんとこの得体のしれない二人に肩入れしているじゃないか。ちょっと寂しいのだが。

 それにこの二人はアメリカからの工作員なのだろう。だとすればグリンデルバルド姓の私は彼らにとって特上の獲物だ。二人はなぜか私の杖を奪ったり体を拘束したりしていないが、成り行き次第では悲劇が起きる。

 

 緊張感に包まれる中、まずはリーマスが切り出した。

「まず…我々はあなたに危害を加えるつもりは一切ない。それどころか、あなたにこそ会いたかった」

「…あぁ?身代金でも要求するつもりか?」

「違う違う!そうだな…まず私たちの立場を知ってもらわなくてはいけないね」

 リーマスの言葉にシリウスもうんうんとうなずいた。リーマスは咳払いをしてから両手を広げた。

 

「私たちはダンブルドア軍団だ」

「ああ…そう」

 

 多分私はその言葉によほど顔を顰めたのだろう。ハリーが私の反応にやや驚き、リーマスは眉間に皺をよせた。

「なるほどな。道理で。最近ハリーの様子が変だと思ったら、お前らの妄言めいた思想を吹き込んでたというわけか」

「思想を吹き込む?よく言ったものだ!」

 私の言葉にシリウスが噴き上がる。こいつ打てば響くな。そんなシリウスを宥めるようにリーマスは言った。

「パッドフット。シーッ…落ち着いて」

「リーマス、やはりこいつと()()なんて無理だ」

 敵対心が強いシリウスに対してリーマスの方は冷静だった。興奮するシリウスを前にリーマスは困ったような顔をしてハリーに視線をやった。

「ハリー、悪いがシリウスとちょっと外に出ていてくれるか?」

「わ、わかった…」

 ハリーは心配げな顔をしながらもシリウスを引っ張るようにして出ていった。

 

 私は手に持ってたコーヒーを飲んだ。安物の酷い味だった。

「すまない、彼はよく言えば熱い男でね…」

「それでお前の話の続きは。私の杖を取り上げないあたり敵対する気はないというのはわかった」

「それはよかった。私もあなたが反撃してこない点からやはり話し合いに応じる気があるようで安心している。…私たちはダンブルドア軍団。そして我々はアメリカのスパイとは違う」

「信じられないな」

「そうだろうな。だが、実は我々もアメリカでは特殊な立場でね…」

 リーマスはため息をついた。そのやつれた雰囲気から()()という言葉が特権的な意味でないことはありありと想像できた。

 

「アメリカには自由がある。この魔法帝国支配圏と比べれば遥かにね。だが帝国とは違った形の分断と格差が存在する…。もちろん魔法帝国での非人道的な仕打ちと比べれば可愛いものだ。だが、その分覆し難い。…とにかく、亡命してきた我々が祖国のために立ち上がってくれといくら叫んでも誰も聞いちゃくれない。まあ、当然だよな」

 ガブリエルのところで見せられた記事にはまるでアメリカ市民は団結して我々に立ち向かおうと煽るようだったが、それはあくまで戦争それ自体を煽るためということか。

 そこにあるのは人権や道徳ではなく、単に世界の覇権を握る戦い?イデオロギーのぶつかり合いなんてくだらないね。本当に、くだらない。

 

「私たちは世界をもっとマシにしたいだけなんだ」

 

 その願いを私だったら叶えられるかもしれないよ?なんて言ったらこの男はどんな顔をするだろうか。はは、嘘だよ。多分もっと悲惨なことになる。この世界がクソだと思えば思うほどに馬鹿なことを考えてしまう。

 

「だから子供に世界の真実を教えてやったとでも?」

「私たちとハリーは他人じゃない。彼の父親は私たちの親友だった。シリウスなんて生まれたばかりの彼を抱いたことがあるんだよ」

「…お前もジェームズ・ポッターの友人?調査書には名前がなかったが…」

「ああ…私は訳あって5年生で()()したんだ…。だからハリーに色々ジェームズとリリーの話をね…。本当にどんな巡り合わせかと思った。フレイ・グリンデルバルドがジェームズの忘れ形見の後見人をしているだなんてね。一昨年そのことを知ってから、我々はずいぶん慌てて計画を立てたよ」

 

 リーマスは笑う。5年生で転校ね。私と逆だ。一体何があったかは知らないが特殊な事例なのは確かだった。父親と友人だったというのならハリーと話したいと思う気持ちもまあ理解できる。

 

「だがなぜ私に目をつけた?」

「もちろん、あなたがグリンデルバルドの一族の中で一番私たちに協力してくれる可能性が高かったからだ」

「…はあ…。私を賢いとか思ってるのか?無能なボンクラすぎて本国を追い出されただけかもしれないぞ」

「あなたが無能なボンクラ?そんなのはあり得ない。だってあなたはグリンデルバルドなのだから」

 その物言いに私は引っかかった。ダンブルドア軍団、その謎めいた組織の実態はいまだに当局も掴みきれていない。マグル収容所などでゲリラ的に活動しているものと思い込んでいたが、もしかして思っているよりもきちんと諜報活動をしているのか?

 

「……お前たちダンブルドア軍団がどれだけうちに潜り込んでるんだか知らないが…私を情報源にしようとしてるならあまり期待しない方がいい。私の動向はおじい様に監視されてる。怪しい動きをすればすぐにバレるのだから」

「それはそうだろうね。ただ、それでもあなたと接触する価値は高いと思った」

「なぜだ?」

「あなたはこんな世界を望んでいない。そうでしょう?」

「なぜそう思う?」

 リーマスは私の顔をじっとみた。顔の傷でだいぶ厳つい印象を受けたが、よくみると年相応。なにかを確信した目をしていた。

 

「あなたは世界を変える力を研究していた」

 

「…はあ?なんだそれ」

「あなたの実験に参加した魔法使いの一人がそう証言したんです」

「…嘘だね。参加者はそれぞれ何をやっているか知らなかったはずだ」

「その魔法使いは知りたがった。無言者としては失格だが我々には僥倖だったよ。仮にグリンデルバルド政権をひっくり返す者が現れるならそれは彼に近い人間だと思っていたから」

 

 まったく。チーム解散時に全員記憶の処置をするべきだとあんなに言ったのに、ソール・クローカーめ。情なんてものはろくな結果を招かないと相場が決まっている。

 

「だが世界を変える。その意味は知らんだろう」

「ええ。わからない。私にとってはそこは重要ではなかった。結果はどうあれ、あなたは今の世界を変えたいと強く願ったことがある。そうなんでしょう?」

「………で、ハリー在学中の今が絶好のチャンスだったと」

「そう。予想外のタイミングだったがね」

「…なるほど。お前たちの思惑は理解した。だがはっきり言って、協力はできない。私は私で今忙しいんでね。しかしお前たちのことをわざわざ密告してやるほど国に愛着がないのも事実だ」

 

 私はタバコを取り出して吸った。リーマスは煙の匂いが苦手らしく顔を顰めたが構うもんか。

 

「見逃してやろう。生徒に危害を加えない限りは」

「ここで教師らしいことを言うんだね」

「前職より教師生活の方が長いんだよ」

 

 話がまとまりかけた矢先にテントにシリウス・ブラックが戻ってきた。私たちの話が聞こえていたらしく、不愉快そうな顔で私を見てくる。

 

「そんな風に上からものを言える立場か?」

「…なんだ?今は対等を建前にしてるんじゃないのか」

「建前はな」

「シリウス、やめてくれ。ハリーだってそんなの望んでいない」

「はっきり言って一番気に入らないのはそこだ。グリンデルバルドがハリーのことを利用するために近づいて、後見人だなんて」

「私の意思ではない」

「そうか。ならば今日から君はお役御免でも構わないな?」

「は…?」

「ハリーは私といればいい!この任務が終わったら一緒にアメリカに連れて行く」

「くだらない…。危険なことに子どもを巻き込むな」

 

 テントの入り口にはハリーも立っていた。シリウスがキラキラした目でハリーを見ると、ハリーは視線を彷徨わせ、唇を噛んだ。彷徨う視線は私をしばらく見つめた。そしてその後真っ直ぐシリウスを見つめ直した。

 

「ぼくは行かない」

 

「ハリー…」

 シリウスは落胆した声を出す。ハリーはシリウスのそばに寄り添いしっかりと自分の意思を述べた。

 

「ごめん、シリウス。色々教えてもらってわかったよ、確かにこの世界は変なのかもしれない…。でもだからって、これまでここで築いてきたものを全部捨ててどこかに行こうとは思えないんだ」

 

 有無を言わせない強い意志のある言葉だった。目はしっかりシリウスを見て、立ち姿もぶれがない。

 シリウスは呆然としてハリーを見つめた。その目はすこしだけうるみ、まるで愛おしい思い出の景色を見るようなそんな憧憬を映しているようだった。

 

「ああ、ハリー…君はジェームズと同じことを言うんだな…」

 シリウスはハリーを抱きしめた。私はコーヒーの残りを飲み、カップを床に置いた。

 

 

 

 私とハリーは雪道を並んで帰ることになった。

 ハリーは黙ってて、なんだか叱られるのを待ってるようだった。私はそんなつもりはなかったのでふうっと息を吐いてなるべく軽い口調で話しかけた。

「そういえば君がこそこそしてるのを心配してたぞ、グレンジャーが」

「え…ハーマイオニーが?」

「ああ。こんな雪じゃ遭難するかもって教えてくれたんだ」

「なんでわかったんだろう…?」

「ハーマイオニー・グレンジャーが知らないことなんてないのさ」

「本当にそうかもね…アッ」

 

 ハリーが雪に足を取られて転びかけた。私はマフラーを巻いた首根っこをつかみ支える。ハリーの顔が見えなくなって私はようやく本音が言えるような気がした。

「…私も心配したよ」

 ハリーは私の言葉を飲み込むように頷いた。

「…うん、ごめん…」

「君がグレたんじゃないかってね。まあ半分当たっていたな」

「う…」

 ハリーの耳がパッと赤くなった。やさぐれていた自覚はあったらしい。

「どうやって奴らと知り合った?」

「ああ…ライアル・ルーピン先生が授業のあと手伝ってほしいことがあるって森のそばの小屋に行くよう言われたんだ。それでそこから…」

「なるほど…」

「お願い、フレイ。密告しないで」

 ハリーは本気で私に懇願していた。安心させるように頭に手を乗せてついた雪を払った。撫でるように。

「…しないよ。大丈夫」

 ハリーはそれを聞くと跳ねるように数歩遠ざかった。

 

「ぼく嬉しかったんだ。これまで誰も僕の両親のことを教えてくれなかったから。ぼくの父さんもシーカーだったんだよ?見た目も本当にそっくりなんだって。でも100倍校則違反をしていたって」

「ウィーズリーの双子みたいなやつだったのか」

「そうみたい」

 

 ハリーの顔は見えなかった。雪の白と黒いコートのコントラスト。赤いマフラー。色彩の乏しい景色の中でハリーの吐く息の白さが見えた。聞こえるのはざくざくと雪を踏む音とどこかで枝から雪が落ちる音。私たちの吐息。冷えた頭に血液が流れ込むさーっという音。

 ハリーは言う。

 

「…この国のことを聞いて、悲しくなった。わからなくなったんだ。ぼくはついこの間まで自分が幸せだと思ってた。でも僕たちの見えないところで毎日マグルが何百人も殺されてる。部品みたいに使われて捨てられて、恐怖に晒されながら暮らしてる。それを聞いてぼくの感じてる幸せってなんなんだろうって考え始めてしまったんだ」

 

「…そうだな」

「誰かの苦しみの上に…残酷な出来事の上に成り立つ幸せって、本当に幸せなのかな」

 

 私は答える。

 

「…どんな出来事もそうだよ。ハリー。フレームを大きくしていくほど世界は残酷で悲しくてクソまみれになっていく。ゲラートの成した偉大なことは、我々を盲目にしたことだ。どんなに悲惨な出来事が背景にあっても幸せだけ見つめていれば私たちは幸せになれるんだから」

 

 ハリーは私の答えを受けて振り返った。

 

「そんなの間違ってるよね?」

 

 間違ってるよ。

 

「間違ってるかの判断は誰がするんだい。神様かな、それとも民衆?神様はいない。そして民衆()この道を選んだんだ」

 

 ハリーは首を横に張った。そして緑の瞳でまっすぐ私を見据えた。そのあまりに真剣な緑に私は影を掴まれたような気分になった。

 私はこんなに真剣な眼差しには応えられない。いつの間にこんな情けなくなってしまったのだろうね。

 

「フレイは…ゲラート・グリンデルバルドの作る世界をどう思ってるの?」

「…ここはある意味究極的解答の一つだ」

「それは…これでいいと思ってるってこと?」

「知性の部分では、そうだな」

「心は?」

「……心か…」

 

 

 答えは出てる。

 

 こんな世界、ぶっ壊してやりたいと思ってるよ。

 

 それなのに私の脳裏によぎるのはやっぱりあの日の切望で、思い出を美しく彩る光はこんな雪の日の日差しみたいに目に染みた。

 未練がましい夢がいつまでも燻って私を灼くんだ。多分この夢から覚めるには私は完膚なきまでに壊れるしかないのだと思い知った。

 心が本当にあるのならば、私のは今どんな形をしている?

 私を華と呼ぶあなたの声がずっとずっと耳に残って、幻みたいに絶望を掘り起こす。その度に私は

 

 

「そんなものはどこにもないよ」

 

 

 

 ハリーは近づいてきて、私の手をとった。

 

 

 

 

「ちゃんとここにあるよ」

 

 

 

 

 


 

あなたは騙されていませんか?

 

 

 

ダンブルドア軍団は、帝国の敵だ。

彼らが約束する「自由」は、あなたの未来を奪う罠だ。

彼らに手を貸すことは、あなた自身と大切な家族の自由を捨てることと同じだ。

彼らの嘘に騙されるな!

あなたが選ぶのは、秩序混乱か?

 

選択の時は、今だ!

 

 


 

 

 

 

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