グリンデルバルドが勝った世界   作:ようぐそうとほうとふ

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ご協力ありがとうございました。


 

 

 

 

 

最近のスパイ活動は、勇敢な市民の通報により無事に阻止されました。

帝国は常にあなたと共にあります。協力し合うことで、どんな敵も倒すことができます。

 

すべての情報提供に感謝申し上げます。

ご協力ありがとうございました。

引き続き、怪しい人物を見かけたら報告してください。帝国の正義は絶対です。

 

共に秩序を守り、栄光ある未来を築きましょう。

 

 

 

 

 


 

 

「…すまなかった」

 

 と、森を眺める背中に声をかけた。育ちすぎた蝙蝠みたいなその背中は振り向かない。

「あの時は君が嫌な気分になるだろうと判断して、言わなかったんだ」

 私が隣に並ぶとセブルスはちらりとこちらをみた。不揃いに短くなってしまった髪は思い切ってバッサリと切ってしまった。昔と同じ髪型になってしまって少し気恥ずかしいのだが、生徒には好評だった。

 

「君の気遣いはいつだって完璧だな」

 

 真っ直ぐ皮肉を言われてしまった。まあその通り。

 

 

 

 

 吸魂鬼襲来後、朝になり諸々のゴタゴタが落ち着いてからセブルスと共にリーマスを迎えに行った。秘密の部屋の中は多少床に引っ掻き傷が残っていたがきちんと狼男を閉じ込めるという役割を果たしていた。

 扉を開けて、憔悴したリーマスを見てセブルスは顔を歪めた。

 

 リーマス・ルーピンは父親が逮捕されたことを聞き、顔を覆った。

 

「私のせいだ」

 

 とリーマスは言った。狼人間から戻ったばかりだからか、かなり消耗していた。

「いや、シリウス・ブラックが邪魔したせいだ。ピーター・ペティグリューを逃がしさえしなければ…」

「私が彼に生きて突き出すように言ったんだ。私たちは正しさで立ち向かわなくてはならないと…。私が、誓わせた。私が、父に無理を言った。私がホグワーツに潜伏しようと言った。全部私のせいだよ」

「…多分誰に聞いても自分のせいって言うんだろうな」

 

 私の言葉に返事はなかった。

 

 私は一足先に出た。セブルスとリーマスは何かを話したが、すぐに会話は打ち切られた。昔知り合いだったことは確実なのだが、そこまで深い仲でもないのだろうか?それともセブルスが一方的に嫌っているだけだろうか。

 

 リーマスはもう一度透明マントを被り、教師陣の監視網をなんとか潜り抜けて森へ辿り着いた。魔法生物飼育学用の建屋は荒らされてライアルの持ち物は全部押収されていた。

 リーマスは空っぽのクローゼットや床に落ちた毛布をしばらく眺めていた。

 

「私は父を苦しめてばかりだな…」

 

 リーマスは絞り出すような声で言った。

「ライアル・ルーピンは、お前と妻を苦しめてしまっていることを悔いていたよ」

 リーマスの肩は震えていた。

 セブルスは小屋の周囲を警戒するため入り口に立っていて表情は読めなかったが、リーマスが泣いているであろうことはきっとわかっただろう。

 彼の家族はもう1人もいなくなってしまった。ライアルはアズカバンに入れられるか、そんなこともせずに処刑されるか、運が良ければ更生施設にはいるかもしれない。いずれの運命を辿るにせよ、もう2度と会えないだろう。

 リーマスは自分が両親を不幸にしたと思っている。しかし狼人間になってしまったのは彼のせいではない。けれどもそう簡単に飲み込むにはあまりに大きすぎる苦しみを抱えている。何をしても、何を言っても、苦しみそれ自体を取り除くことなんてできない。

 

「確かに彼はお前を愛していたからこそ苦しんだ。だが誰かを愛する苦しみは数ある苦痛の中では悪くないほうだ」

 

「…独特な慰め方だね」

「慰めてなんかないが」

 リーマスは顔を拭い、前を向いた。

 セブルスは森に近づくのを嫌がったので私とリーマスだけで暗い森の中へ足を踏み入れる。遠吠えが聞こえた。シリウス・ブラックのものか、それともただの野犬かはわからなかった。

 

「君には本当に世話になった。ハリーによろしく伝えてくれ」

「2度とくるなよ」

 私は小さく折りたたんだ羊皮紙を押し付けた。そこには脱狼薬のレシピが書かれていた。

「フレイ…これは…」

「狼人間に出歩かれるのは迷惑だからな」

「…君たちは…本当に…」

「あ?たち?」

「ほら」

 リーマスはポケットからもう一枚羊皮紙をとりだした。

「さっきセブルスがくれたんだ」

「なッ……クソォ〜…!被ることあるか?!」

 リーマスはようやく笑った。

 笑ったリーマスを見て私は少しだけ安心した。私はきっといろんなものを重ねてみてしまっているのだろう。余計な情が湧いてしまったのを断ち切るように私は立ち止まった。

 リーマスは少し進んで振り返る。

 

「さようなら。きっとまた会う事になるだろうけど」

「ダンブルドア軍団なんてもうやめておけ。あいつは…そんな立派な人間じゃない。まだアメリカの工作員の方がマシだ」

「ダンブルドアはまだ生きていて、私たちに向けてメッセージを送っている」

「…なに?」

「信じられない気持ちもわかる。だが、私たちには彼は変わらず希望なんだ」

「……不愉快な連中だな本当に。早く海を渡って帰れ!」

「ははは…それじゃあ、今度こそさようなら」

 

 リーマスは手を差し出した。私はその手をバシッと叩いた。リーマスは苦笑いしたまま森へ行き、そのまま姿を見せなかった。

 

 

 

 

 

「シリウス・ブラックばかりかリーマス・ルーピンも逃す。君は本当に勝手だ」

「当局の尋問で私の名前が上がったら困るんでね」

「今後捕まったら同じこと」

 

 ふう、とセブルスはため息をついた。私はセブルスを怒らせてばかりだ。それでも彼がそばにいるのは任務のため?彼が共犯関係なんて言葉遊びをいつまでも覚えていてくれているのは私に何かを期待しているからか?わからなかった。

 

「なあセブルス。どうせ君は私が隠している経歴の全てを知ってるんだろう?」

「…職務上必要なことは全て知っている」

「じゃあ私が神秘部で何をしていたかも?」

「なぜそんなことを聞く?」

「セブルスから言ってくれただろう?私たちは共犯だと。だから、私の秘密を教えてあげるよ」

「…確かに、我輩は君がかつて何をしていたかを知っているが…」

「言ってみてくれよ。答え合わせをしよう」

 

 セブルスは少し黙り、何かを思い出すように目を閉じた。そして懐かしい言葉を言った。

 

「……逆転時計を用いた、選択的時間利益反映実験」

 

「ああ、その名称か。それカッコ悪くて使ってなかったんだよ。うちのチームでは選択的世界改変実験とよんでいた。わかりやすいだろ」

「荒唐無稽だ。君がそんな空想的な実験に打ち込んでいたのは意外だった」

「そうだな。でも私にとっては…変えるための最後の望みのようなものだったんだ」

「帰る…?」

 

 

 セブルスは初めて私をちゃんとみた。春の気配を感じさせる湿った風が短くなった私の髪をふわりと浮かせる。

 

 

「そうだよ。()()()のさ」

 

 

 


 

 

遡り、

 

 クリスマス休暇が始まって、年末。私とロックハート…じゃなかった。トム・リドルは冷たい潮風の吹き付けるロンドン近郊の海岸線、ある洞窟へ来ていた。ロックハートの馬鹿げた金キラ衣装は寒々しい灰色の海から明らかに浮いていた。

 私たちは当初建てていた計画通り、分霊箱を入手すべくトムの心当たりを訪ねることにしたのだ。セブルスは誘わなかった。トムが拒否したからだ。出先で私を殺す気かとも思ったが、そんなことをすればどうせセブルスがおじい様に報告する。トムにメリットがない。

 今の私はトムに殺されることよりもよっぽど悩ましいことがあるのでどこか気もそぞろだった。

 

「浮かない顔だな。そんなに不安か?」

「あー?いや、親権についてちょっと悩んでた」

「は?集中してないと死ぬかもしれない。しっかりしてくれないと困るな」

 

 岩場を下って洞窟の入り口までつく。黒い水の渦巻く狭いトンネルを見つけた。今は水は引いているが、それでも腰までぬれてしまいそうな深さがある。満潮時はおそらく完全に水没するだろう。

「おおっと。どうやら本当にありそうな雰囲気」

「ああ。僕ならここに隠すだろうと思ってた」

「最悪な物件選びだよ全く…」

 覚悟を決めて水に飛び込みじゃぶじゃぶと進むと、洞穴にたどり着いた。小さい洞穴で、よく見ると階段が続いている。

「よくわかるな」

「こういうの見破るの得意なんだよ」

 壁に杖をむけると入り口が出現した。しかしそれだけでは通れないようだった。どうやらここを通るには通行料を支払う必要があるようだった。

「…コイントスだな」

「なに?」

 私はコインを投げた。勝手に表に賭けたが残念、私の負け。私がおもむろに手を切りつけるとトムはひいた。未来のお前が作った罠だぞ。

 血を捧げるとアーチは無事通れるようになった。進むと開けた場所に出た。

 ずいぶん大きな洞穴だった。大きな黒い水の湖が広がっていて、遠くにポツンと小島があった。

 ちょっと探すとちょうど小舟が沈んでいるのを見つけた。トムは「だからなんでわかるんだよ」といらだっていたが、私には魔法の痕跡を見つける才能があるからとしか言いようがなかった。

 

「これ…二人乗れるか?」

「乗れない。僕ならそう作るね」

「んー…とりあえずせーので乗ってみるか」

「やめておけって」

「なんだ、作りたい罠リストに心当たりがあるのか?」

「…まあ…。これは一人の魔法使いしか乗れないようになってるはずだ。偉大な闇の魔法使いの宝を取りにくるんだぞ?2人なんて野暮だ」

「なるほど?じゃあ私と君と二人で行けるはずだ」

「はぁ!?」

「君16才だろ。そのうえ魂の欠片だから人じゃないし」

「………たしかに…。いや、だがロックハートはどう扱われるんだ?」

「考えてもしょうがないからやろう」

「もっと慎重になれよ」

「夕食までに帰りたいんだよ」

「敬意を払え、闇の帝王が作った罠だぞ」

「うーん…新しすぎて全然そそられない」

 

 私は船に乗る。トムも恐る恐るだが船に足を乗せた。だが船は問題なく浮いていた。

「私の勝ちだな」

「勝ち負けの話なんて一度もしていない」

 黒い水の下には何かがある気配があった。水魔だろうか?どちらにせよ小舟でそっと渡る分には襲いかかってはこないだろうが、最悪は常にイメージしておかねばいざという時に動けない。

 

 船が小島に着岸し、私たちは慎重にそこへおりたった。本当に小さな島で、周りは結晶体のような岩に囲まれて中央に台座があった。黒い水晶のように見えるそれは中央に窪みがありそこに水が満たされていた。その水の底にきらりと輝くロケットがあった。

 

「…あった。分霊箱で間違いないか?」

「さあな。触れないことには…」

「役に立たないなぁ」

 

 私は水の中に手を突っ込みロケットを取ろうとした。しかし何も掴むことができない。水をいくら掬ってもかさが減らなかった。いやらしい罠だ。横にこれ見よがしに置いてある貝殻で掬って飲めということか。

「毒?」

「当然そうだろう」

「…じゃあどうぞ…」

「は?なんで僕が」

「いやいや。私が飲んで死んだら困るのは君だろう?」

「絶対に嫌だ。死にやしない。多分死ぬほど苦しいだけで大丈夫だ」

「はあ?何がどう大丈夫なんだよ。私はさっき血を流したんだぞ。次は君の番だ」

「その程度で!」

 

 私たちは罵り合ったが、遠くからじゃぼんという水音がして黙った。お互い冷静になろうと深呼吸した。

 

「…君が飲む必要はないんだ、トム。ロックハートに飲んでもらおう」

「名案だな。しかし毒の種類によるが僕の制御ができないくらいに弱って飲み切れないかもしれない」

「安心しろ。縛り付けて全部飲ませる」

「…見捨てたりはしないよな」

「絶対にしないよ」

 トムは私を見定めるようにみた後、ため息をついて頷いた。

「……では代わろう」

 

 そしてロックハートがキョトンとした顔で周囲を眺めた。

「え?なんですかここ。すごい岩ですね」

「トムに言われた仕事ができるか?ロックハート」

「え…ええ。取材ですよね?…ああ、この水を飲むんですか。……これって安全な水?」

「どうだろうな」

「はい、わかりましたよ。ええ…では…いただきます」

 ロックハートは水を掬って飲んだ。一口目を飲み干した途端、貝殻を落とした。視線が定まらなくなり、ガクガクと震え出す。

 

「ちがう…ちがう!私じゃない…」

 

 私は貝殻を拾い水をすくいロックハートに手渡す。払い除けられるかと思ったがロックハートの腕は鉛でできたかのように動かなかった。

「やだ…やだ…!私は私なんだ…!こんなの違う…」

「飲め」

「お前はなんなんだッ…!やめろ触るな!私をそんな目で見るんじゃない」

 しかし口で喚いても体は動かない。トムが抑えているのだろうか。貝殻を唇に当てて喉に流し込んだ。ロックハートはさらに苦しみ、うわごとを繰り返す。だんだんトムの制御も効かなくなって暴れ出すから私は彼を縛る羽目になった。

 ようやく全部飲み干す頃にはロックハートは地面に落ちて動かなくなった。生きてはいるようで何より。

 

 水の底にあったロケットを持ち上げた。鈍色のロケットで、あまり特別な感じはしなかった。私はそれを胸ポケットにしまう。ロックハートのまま意識を失ったということはあの船は乗れない可能性が高い。トムにもどるまでここで待ってもいいがここに長居するのも気が引ける。水の底の何かがいつ襲ってくるかもわからない。

 

「…水…をくれ」

 

 ロックハートが唸った。いや、トムか?わからない。

 私は残酷な気分になる。冬に入って私の周囲には敷地に無断で踏み入るような連中ばかりが登場した。余計なことばかり思い出して思考が鈍る。

 だから今、邪悪なものに囲まれて正直冴えた気分だ。

 

「そんなものよりいいものを見せてやろうじゃないか」

 

 私は水辺に近づいた。そしてそこに落ちていた小石を蹴り飛ばした。石は水辺に落ち、黒い水滴が跳ね返った。波紋が水面に広がり静まり返った洞穴内にちゃぽんという音が響いた。

 それが合図だった。

 ゴボゴボと水音がして何かが蠢く。真っ暗な水面があらゆるところで隆起して、そこに眠っていたら何かが這いあがろうとしていた。

 

「な…あ…あ…」

 

 ロックハートの呻き声が聞こえた。私は杖を構える。

 水面から無数に湧き出てきたのは無数の死体だった。

 亡者の群れ。以前ヴォルデモートが使ったという闇の魔術により動く死体。彼らの厄介なところは打たれ強さで数がいるとそれなりに倒すのに手間取るということだ。

 この閉ざされた空間において亡者は最も効果的な罠であると言える。

 

 

「見てろよロックハート。これは多分、本でもかなりの見せ場になるだろうさ」

 

 私は杖を振った。よほどの時にしか使わない奥の手の魔法だ。

 銀の光が周囲に瞬いた。轟音と共に雷が水面に落ちるとそのまま水面が燃え上がる。銀の炎にまかれた亡者は苦しむように足掻いて水にまた落ちる。しかし火は消えず、次々と亡者どもに燃え移り仕舞いには水全体が煌々と燃える。

 

 銀の火に焼かれた亡者の目が真っ赤に染まって動きを止めた。そして陽炎のように揺らめく炎に包まれながら、全ての亡者がギシギシと関節を軋ませながら両手を前で組んだ。

 祈りの姿勢をとっても彼らにはもう魂は存在しない。だからこれは単なる私の悪趣味だ。

 

 水は全て燃え上がり洞穴を満たす炎となる。しかし感じるのは炎と同じくらい肌をさす冷気。

 

 私はロックハートの襟をむんずと掴み、引き摺った。ロックハートは段差で頭をしこたま打ち悲鳴らしき唸り声を上げた。私は構わず露出した湖の底の土を踏む。

 私の進む方向に炎は開き、そこに祈るように手を組み膝を折った亡者が並んだ。

 

 私はその道を進む。

 亡者は苦しみ叫んでいるように見えた。彼らはただ人の形をしてるだけだから苦しみなんて感じていないのにそう感じてしまう。

 燃えながら祈るように彼らの体は崩れ、炎に巻き上げられて消えていく。

 

「この魔法は…なんなんだ?」

「失われた魔法の残滓だよ」

「こんな魔法は知らない」

「知らなくて当然だ。ないものは知り得ない」

「なぜ君がそんなものを…」

「それはまた次の冒険で話してやろう」

 

 

 湖を渡り切ると亡者は燃え尽き、銀の炎は消え去った。湖の水は元に戻り、洞窟は元通り暗く静かな場所となった。魔法の痕跡はまるで夢のように跡形もなくなった。

 

 これが古代魔術だ。

 真の意味で失われた古い古い魔法。

 何人もの人生を狂わせた強大すぎる力の残滓だけが、私がかつて別の世界に生きていたことを証明している。

 誰も覚えていない、私だけが知ってること。

 

 それは私がグリンデルバルドでなかった世界。

 大切なものを失くした世界。

 

 

 

 もしくは、()()()()()()()()()()()()

 

 

 


 

 

 

「私は全く違う世界の記憶と魔法を持っているのさ」

「…馬鹿げてる」

「私からすれば馬鹿げてるのはこの世界だよ。まあ…私の自業自得なのだけれどもね」

 

 しかしこれでいろいろ合点がついたのだろう。セブルスは私をまじまじと見てそれ以上否定も肯定もしなかった。

 

「私のいた世界とここはよく似ている。この世界から消え去ったはずの古代魔術の痕跡が遺構としていくつか残っているし、私の知る人物も多くいた。だが、私の世界にはトム・リドルは存在しなかった。ゴーント家最後の1人は私が弔ったからね。ヴォルデモートこそが、この世界を…グリンデルバルドが勝った世界での特異点だ。私の知る理では世界に太刀打ちできなかった。だが、彼ならもしかしたら…と思ってしまう」

「……頭の整理が、追いつかない。君は一体何をしてこの世界にきたんだ?」

「その理解は間違っている。私()この世界をこんな形に変えてしまった。そう、変わったのは世界の方。それを覚えているのは私だけだ」

 

 選択的時間利益反映実験。

 または選択的世界改変実験。

 それはすなわち、私がしてしまったことをどうにかして無かったことにしようとする無謀な実験。

 それは結局失敗してしまったのだけれども。

 ゲラート・グリンデルバルドはあの全てを見通すような目で、私の心が完全に折れる様を見たのだろう。私が何をしたかったなんて全然理解しようともせず。

 

 私がなぜ古代魔術を使えるのか、世界を変えようとしていたのかなんてゲラートは知らない。私が言わない限り絶対にわからないだろう。だから、私を泳がせているんでしょう。

 ゲラート・グリンデルバルトが私に刻んだ爪痕を今のゲラートは知る由もない。それがたまらなく悔しい。

 

 

 

「この秘密を話したのはこの世界で君だけだよ」

「………途方もないことに我輩を巻き込んだな」

「知ることというのは時に想像以上の危険を伴うのさ」

 

 セブルスはまた感情を悟られまいとするような不機嫌顔になる。私はセブルスにぐっと顔を近づける。

 

「君にも変えてしまいたい過去があるだろう?こんな世界、壊れてしまえばいいと思ったことくらいあるだろう?違う人生を想像したことがあるだろう?私はそれを実現した。もう一度やるだけだよ」

「…馬鹿げた空想だ。君は一度失敗したのだろう?一体どうやって…」

「私が失敗してしまったのは…どうしても殺せない奴がいたからだ。だがヴォルデモートならおそらくそいつを殺せる。それを殺して、ある物を手に入れなくてはならない」

「あるものとは?」

 

「ニワトコの杖」

 

「…君は正気か?」

「ハッ…。そういうと思った!それがあるんだなァ〜!」

 

 私はセブルスから離れた。セブルスは本気で私がいかれたと思ってるかもしれない。はは、事実イカれてるんだよ。自分の中にしかない思い出と()()()()()()なんて希望だけで動く私なんて、本当にイカれてるんだ。

 

 本当は諦めていたかった。

 だから遠く離れた場所で静かに忘れて生きようと思ったのに。

 どうして愛おしさが消えてくれないんだろう。

 

 

 私を華と呼ぶあなたの声がずっとずっと耳に残って、幻みたいに絶望を掘り起こす。その度に私は失ったものの形をなぞって二度と埋まらない空白を前に立ち尽くす。

 時間が癒してくれないものがあるなんて思いもしなかった。

 

 私の願いと裏腹に、歪な形をしたあなたが生きている。

 それを見せつけられるたびに悔しくて死んでしまいたくなる。

 私はわかっていたはずなのに。一度壊れてしまったものは完全には元に戻らない。それをわかっていたはずだったのに。

 

 永遠なんてものは存在しない。ならば絶対も存在しない。

 もしかしたら、今度こそは、なんて夢を見ている。

 だからこれから私がすることもきっと果てしない空洞を埋めようとする途方もない失敗の一つかもしれない。

 

 

 

 

 

 それでも、今のあなたを私は許せないよ。

 

 

 

 

 

「…なあ、もうないものの為に、全部を捧げようなんて愚かだと思うか?」

 

 

 セブルスは私を見た。まっすぐと。そして縦に首を振った。

 

 

「ああ」

 

 

 そして、私から視線を外して呟いた。

 

 

「だが……わかるよ」

 

 

 

 

 

 

 





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