グリンデルバルドが勝った世界   作:ようぐそうとほうとふ

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三大魔法学校対抗試合 新開催方式について

 ハリーにとって夏休みは毎年あっという間だった。

 昨年同様夏季キャンプにも参加し呪文の関連も一通り終わり、フクロウ試験に必要な呪文は一通り使えるようになった。座学はイマイチだが、実技で負ける気は全然なかった。もしかしたら今年の成績はハーマイオニーと並べるかもしれない。

 杖十字会を兼部しようかと頭によぎったが、ロックハートの笑顔がカットインしてきたのですぐにその考えは消えた。

 

 ロックハートは次年度も続けてやる気満々で、闇の魔術の教師の呪いとは一体なんだったのだろうとみなが首を傾げた。

 

 ロックハートは自慢げに言っていた。一年で教師が変わるというのも、初めの方はそれこそ国がゴタゴタしてる中で不幸が相次ぎ、それ以降嫌なイメージに引きずられるようにみな一年の契約で辞めていっただけではないか。2年目にチャレンジする勇敢なものは自分だけだったのではないか。と。

 そういうものなのだろうか。いや、たしかに誰がどうして『教師が一年で辞める』なんてよくわからない呪いをかけるんだという気もする。偶然が気づけば呪いになっていた、というロックハートの解釈はどこか説得力のようなものも感じた。

 いずれにせよ、どんなに授業内容が改善したところであの男を好きになることはないのだが。

 

 しかしフレイは割とロックハートと仲がいいらしかった。同い年というのもあってか学内でもよく話していたし、夏休みにもちょくちょく会っているようだった。というのも、ロックハートのつけている香水の匂いがたまにフレイから微かにしていたからだ。

 ハリーはそれが少し嫌だった。あんな軽薄な人間はフレイにふさわしくない。

 

 だがロックハート以外にも様々な人間に呼び出されているようで、たしか昨年度も同じようにハリーが帰る時間になっても帰ってこなかったり、嫌そうな顔をして出かけたと思ったら菓子を土産に持ち帰ったりしていた。

 

 グリンデルバルドという名前。

 フレイ以外の孫たちは皆、(年若いヴィルヘルムを除いてだが)帝国の中枢にいた。フレイもじきにそういったポジションにつくのだろうか。

 

 この世界を作り上げる側へ。

 

 そんな心配とは裏腹にフレイは夕食作りに失敗して泣いていた。ミートパイを焼いてみたのはいいが、焼きすぎたらしい。

「私が飯に関して努力するといつもこうだ…」

 焦げを取り払えばなんとか食べれた。しかしフレイの機嫌は回復することはなく、寝る前までずっと不貞腐れて本を読んでいた。フレイの読む本はいつもタイトルが何も書いておらず、覗こうとしてもすぐ隠されてしまう。教育によくない本らしい。

 

 夏休みの終わりに滑り込むように荷物が届いた。

 差出人不明の荷物で、フレイが危険がないか慎重に調べ開けてみたところ箒だった。ハリー宛とフレイ宛の二つの封筒があった。ハリー宛のものはシリウスからのものだった。

「こんな不審な郵便が送られたと知られたら面倒なんだが…」

 とフレイは怒っていた。

 

 


 

 

ハリーへ

 

挨拶もなく君の前から消えてしまってすまない。

あの時の私たちには何かを選ぶ余地がなかった。

君に言えなかった私たちの特殊な事情のせいでフレイ・グリンデルバルドにも多大な迷惑をかけてしまった。

私たちは使命を負ってやってきた。だが、本当はただ理屈をつけて君に会いたかったのかもしれない。

そう言う意味では私たちは一番の目的を達成したね。悪戯完了、というわけだな。

会えてよかった。

また時々手紙を送る。なるべくあの口うるさい保護者にバレない方法でね。

 

君に一つプレゼントを。

また会おう。

 

パッドフットより

 

 


 

 

 

 箒はスピントゥィッチーズの最高傑作と呼ばれている、世界でも指折りしか制作されていないとされるファイアボルトだった。購入証明書もきちんとついていた。

 フレイは「へー。いい箒じゃん」とあんまりその価値をわかっていないようだったが、希少品とわかれば足がつくことを恐れて没収されるかもしれない。内緒にした。

 フレイの手紙はリーマスからだったようだが、内容は見せてくれなかった。

 

 

 そしてホグワーツ急行に乗る日。恒例となったウィーズリー家との買い物にフレイは用事があると言って外した。教材をあらかじめ買っていて身軽だったハリーはロンの買い物を手伝いながらダイアゴン横丁をまわった。

 たまたま立ち寄ったフローリアン・フォーテスキュー・アイスクリームパーラーで店主がアイスを奢ってくれたものだからハリーとロンはついつい調子に乗ってたくさん食べてしまいお腹を壊してしまった。

 しばらく動けずにいると、大量の本をカートに乗せて駅に向かうハーマイオニー・グレンジャーと出会った。相変わらず彼女は1人で、大荷物だった。選択科目を人より多く取っているせいだ。

「うちの人は?」

 とハリーが聞くとハーマイオニーは気まずそうな顔をした。

「ピンチ=スメドリーさんはとってもお忙しいの」

 ハーマイオニーの身元引受人の名前だった。普段彼女は滅多にその名前を出すことはなかったが、魔法界ではそこそこ有名な家だとフレイは言っていた。ピンチ=スメドリー家は資産を活かしハーマイオニーだけでなくマグル生まれの優秀な魔法使い、魔女を多く引き取って養育することで人材育成と福祉で自分たちの人脈を拡大しているとか。

「荷物持つよ」

 ロンは両手が塞がっているのに自信満々に言うせいでハーマイオニーに呆れられた。しかし彼女が笑うのをみてハリーは少し安心した。

 

 ハーマイオニーは自分の事を話したがらない。普段は聞かれてない質問に対しても答えと解説を言いたがるのに、夏休みの予定や家族からのクリスマスの贈り物についても全然教えてくれなかった。

 マグル生まれの魔法使いについて、ハリーは結局よく知らないままだった。ぽつんと1人でダイアゴン横丁にくるハーマイオニーのことをずっと見ていたのに。

 

 

 ホグワーツ急行に乗り込むとすでに混雑しており、席を見つけるのは困難だった。なんとか3人分空いてる席を見つけて、今年の夏の話をした。

 

「そういえば、さっきフレイ先生を見たわ」

「どこで?」

「ノクターン横丁。ロックハート先生といた」

「またあいつか…」

「でも店の前で口論していたわ。なんだったのかしら」

「ぼくが聞きたいよ」

 グリンデルバルドの孫たちに会った話はできなかった。なんだかそれを話すと、自分がここにいるのが変に思える気がした。あの煌びやかな会場と今、こんな小さなコンパートメントで学校に向かう列車に乗っているのが全然地続きになってない気がした。

 

 ホグワーツにつくとようやくほっとした。ここに着くとなんだか守られているような気持ちになる。

 大広間には料理が並んでいて、見上げると夜空が。再会を喜ぶ同級生たちの楽しそうな顔と、どこか浮ついている教師たち。いつも通りの光景。

 

 ロックハートは引き続き闇の魔術の教師を続け、魔法生物飼育学にはケトルバーンが連れ戻された。どうやら深刻な人材不足らしい。

 フレイは教職員テーブルで隣のスネイプにケタケタと笑いながら飲み物を押し付けあっていた。それをマクゴナガルが嗜めたらしく、フレイだけしゅんとしていた。これもまたハリーにとって不満だが、フレイはスネイプと仲がいい。

 

 全員の腹が膨らみそろそろベッドが恋しくなってきたころ、クラウチ校長が全く楽しくなさそうな顔で立ち上がり、壇上に立った。

 

「生徒の皆さん。おかえりなさい。毎年こう言っておりますが…今年は素晴らしい年になります。今年は、本当に特別に」

 

 クラウチらしからぬもったいつけた言い方に生徒の注目が集まった。クラウチは髭を少し撫でてから続けた。

 

「今年度、当校で三大魔法学校対抗試合が開催されることが決まりました。従来の形式を近代化し、より生徒の資質と能力を測れるよう大幅に変更を加えられましたが…。オホン。従って、学内選抜が行われます。参加希望の学生は学内の予選を経て3月から行われる本戦を戦ってもらうこととなります…」

 

 生徒たちが急にザワザワし始めた。といっても多くの生徒が三大魔法学校対抗試合というものがなんなのかわからず困惑しているようだった。

 ハーマイオニーの方を見ると

「名前の通り、魔法学校同士の魔法試合よ。危険すぎて200年くらい前に中止になったものだわ」

 と教えてくれた。

 

「詳細は掲示されるので、それを参照するように。歴史と伝統のある祭典ですので…よく考えて参加するように」

 

 生徒たちはワッとその話で持ちきりになった。ハーマイオニーなど物知りな生徒は試合についての説明を何度もする羽目になった。ハリーも少なからずワクワクした。

 せっかく自分の成長に手応えがあるのだし、参加する以外の選択肢はない。

 寮のベッドに潜り込むと、興奮で眠れそうになかった。ついさっきまで次の一年はできれば穏やかに、そしてクィディッチの邪魔が一切入ることなく終わることを願っていたが、そうもいかなさそうだった。

 

 

 三大魔法学校対抗試合についての詳細と選手選抜の方法について正式にアナウンスされた。

 

 

 


 

 

三大魔法学校対抗試合 新開催方式について

 

親愛なるホグワーツ、ダームストラング、ボーバトンの生徒諸君へ

 

本年度の三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)について、これまでの形式に大きな変更が加えられることをここにお知らせします。今回の試合形式は、選手の安全を最優先に考慮しつつ、試合の公平性と楽しさをさらに高めるため、新たな方式で開催されることが決定しました。

 

 

試合期間

 

本年度のトーナメントは、春から夏にかけて従来よりも短期間に、集中的に行います。

 

選手選抜方式

 

従来、炎のゴブレットによって代表選手が選ばれていましたが、今年度は全生徒に挑戦の機会を提供します。代表選手は各学校の内部予選を通じて選抜されます。予選競技では諸君の魔法能力、知恵、勇気が問われることになります。

 

選抜された者には学校を代表するための栄誉と挑戦権が与えられます。

予選を勝ち抜いた者のみが炎のゴブレットに名前を入れることが許されます。そこから各校1名ずつの代表が選ばれ、いよいよ三大魔法学校対抗試合に参加することになります。

 

優勝を勝ち取った者には名誉と栄光、そして多額の賞金が与えられます。

 

 


 

 

 要するに、以前はエントリーするのにゴブレットに名前を入れるだけだったが、今回は入れるための予選があるということだった。

 これでは手間を増やしてるだけではないかと思った。そのことをクィディッチの練習後にぼやくと

「教育的な催しだ」

 と箒の泥を落としながらドラコは言った。

「つまり?」

 ロンが聞き返す。ドラコはふわっとバカにしたような笑みを浮かべて続けた。

 2人は青チーム(イーグルノワール)に揃って合格した。ロンはキーパーでドラコはチョウ・チャンを下剋上してシーカーになった。2人は相変わらず口論が絶えなかったが、意外とうまくやっている。ハリーとドラコも一年生の時の仲の悪さから考えたらかなり打ち解けた方だった。

「だから、この試合は伝統とか格式とかじゃなくて学生への実践的な教育なんだよ」

「君のお父さんがそう言ってたの?」

「ああ。当然父上は知っていたからね」

 道理でやけに格式張った言い方をするわけだ。ロンも受け売りかよと言わんばかりにムッとしながら答えた。

「へぇ。だからなんだよ全く…」

「それで、みんなは出るの?」

「そりゃ出るだろ!」

 ロンはワクワクしている様子だった。ドラコもいつもの青白い顔にやや赤みがさしており興味はあるようだが、なぜか斜に構え出した。

「僕はどうかな…大人の思惑に乗っかるみたいじゃないか?」

 ハリーはそんなドラコの姿勢をむしろダサいと思ってたので堂々と返す。

「ぼくは出る。腕試ししたいから」

「みんなの前で負けるのが怖いんだろ、マルフォイ」

 ロンはそれに乗っかってマルフォイをからかった。

「はあ?!出ないとは言ってないぞ、ウィーズリー」

 

 

 教育的イベント。そう聞くと確かに納得だ。後で図書館で調べたところ、従来の三大魔法学校対抗試合は一年を通して行われるイベントだった。一番初めに炎のゴブレットに名前を入れて、魔法契約により選ばれた代表が死の危険もある課題に挑む。

 その間選ばれなかった大多数の生徒はそれを見物するほかない。確かにちょっとつまらない。開催地でない他の学校の生徒も一年も外国で過ごす羽目になる。

 今回のイベントは確かにそういったデメリットを抑え、多くの者に実りある形式に作り変えられている。だがある種の儀式だったはずのその試合を換骨奪胎するようなやり方だとも思った。

 

 しかし、それでも挑戦できることは嬉しかった。

 ハリーはエントリー受付にサインをし、予選の内容が明かされるまでをウキウキで待った。

 フレイは憂鬱そうな顔をしていた。なにか仕事を任されてしまったらしい。図書室の本の山に囲まれて項垂れていた。

「予選って何をやるのかな」

 と聞くと「その話禁止」としか言ってくれなかった。

 これまでにみたことがないくらいに憂鬱そうだったのでフレイが借りていた本をかわりに返してあげることにしてあげた。本を返しに行くついでに自分も何か吸魂鬼に関する本を借りようと本棚の間を彷徨っていたらハーマイオニーがいた。

 熱心に何かを書いていたので、ハリーはそっと後ろに近づき声をかけた。

「ハーマイオニー」

「きゃっ…!」

 ハーマイオニーは小さな悲鳴をあげてから書いているものをさっと隠した。

「びっくりした…ハリー!」

「ごめん。そんなに驚くとは思わなくて。何してたの?」

「ちょっと書評を…」

「書評?」

 ハリーは隣に座った。ハーマイオニーはちょっとやりにくそうな顔をして原稿をハリーからは見えないように紙束の下へ潜り込ませようとした。紙束はだれかの書いた小説のように見えた。

 

「その小説の書評?」

「ええ…うん。ああ…そうよ」

 ハーマイオニーは観念したと言いたげに手を離した。ここまでバレバレではもう隠しても逆にハリーの関心を引くだけだろうと思ったのだろう。

「『蒼夜のグリモワール』に寄稿するように頼まれたの。これまで書かれたシリーズものをまとめて一冊にするから、それのレビューをね」

「え?雑誌に寄稿するの?」

「あ…っていっても文芸同好会の部誌よ。まあ、お声がけいただけたのは嬉しいけど」

「そんなのがあったんだ。知らなかった」

「最近有名だから」

「へー。どんな本なの?」

「えっ?!えっと…」

  ハーマイオニーはなぜかとっても困ったような顔をした。そして絞り出すように答えた。

「…これは…その。恋愛…小説だから、ハリーは、気に入らないと思う。うん」

「ふうん。そうなんだ」

 ハリーが興味を失ったのをみてハーマイオニーはホッとした表情を浮かべた。

「ねえ、ハーマイオニーは出ないの?トライウィザードトーナメント…」

「えっ…でないわ!私わかってるもの。勉強は得意だけど実技はイマイチだわ…」

 ハーマイオニーは少し顔を曇らせた。勉強に関して彼女が弱音を吐くのを初めて見た。

「そんなことないよ。いつも授業で完璧にやってのけるじゃない」

「やることがわかってたら練習できるでしょ?それに授業でだって毎回万が一間違っていたらどうしようって頭によぎるわ。不安よ、ずっと」

「そうなんだ。いつも自信満々に見えたのに」

「そうよ。私のボガート見たでしょう?」

「ああ、うん…」

 ハリーはハーマイオニーのボガートを思い出してつい笑ってしまった。なんと全科目落第を告げるマクゴナガルだったのだ。

「もう、笑わないで!」

 ハーマイオニーはぷんすか怒った。すると誰かが咳払いをしたので2人は慌てて口を塞いだ。

 その後ハリーは吸魂鬼について書かれてる本について二、三アドバイスをもらい、本を借りて談話室に戻った。

 

 そして談話室に帰ると第一回めの予選の内容が明らかになっていた。

 ごくごくシンプルな予選方法だった。

 


 

 参加者が多いため、第一回めの予選は一対一の決闘となりました。

 決闘はハロウィンパーティーの日、クィディッチ競技場で行われます。

 決闘相手はくじ引きで決まります。

 今回の決闘にはルールはありません。

 事前準備、武器の持ち込みあり。

 禁じられた呪文、および相手を殺傷しうる直接的な攻撃魔法以外のあらゆる呪文が許されます。

 


 

「うっわ…すっげー…!」

 フレッドがそれを呼んで興奮した声で言った。

「ルール無用はアツいな」

「え?じゃあ魔法薬とかも飲んでいいの?」

 生徒たちはみんな興奮していた。ドラコが言ってたよりも何倍も実践的だ。

 ハリーはクィディッチの練習と呪文の練習でてんやわんやになりつつも、予選突破を目指した。

 フレイと話す機会は減ったが、それも気にならなくなるくらいに夢中だった。

 

 あっという間にハロウィンパーティーの日がやってきて、参加者と見物人が山ほどクィディッチ競技場へ押しかけた。そしてこの予選第一回の発案者がフリットウィックだったことを知り、ハリーは笑った。

 

 開会式では

「楽しいですよ…ルール無用の決闘は」

 と笑顔でいうフリットウィックと杖十字会の顧問として鼻高々のロックハートの間で

「どんな卑劣な戦法が見れるか非常に楽しみです」

 とフレイが壇上でコメントしていた。

 

 そしてくじ引きが行われた。ハリーの初戦の相手はレイブンクローの3年生で、試合自体も楽勝だった。

 幸先のいいスタートを切ったといえよう。

 

 


 

 

 

 父と呼んだ男の死後、私は手紙に従いあの渓谷から出て、車に揺られ、列車を乗り継ぎ、船を使ってイギリスへ渡った。私を待っていたのはエリエザー・フィグ教授。ホグワーツで魔法理論学を教える教師だった。

 彼は私にとってよき師だった。一緒にいれた時間はとても短かったが、これまで魔法界から隔絶された私にとって、彼はまさに架け橋だった。杖の扱い方も、魔法界での過ごし方、学校生活の楽しみ方も彼が教えてくれた。

 それからの一年は私の人生の中で最も楽しい一年だったといえよう。まず何よりも、同い年で魔法を使える子たちがたくさんいるのに感激した。そしてほとんどが私を歓迎してくれたのだ。

 なにぶん閉鎖的な村で、その上村八分状態で過ごしてきたものだから普通に話しかけてもらった時の感動がすごかった。そのせいで頼み事をなんでも聞いてしまい余計なトラブルに足を突っ込んだりもしたが、その分だけ友人ができた。

 

 1890年に起きた古代魔術に関連した事件は公の歴史に刻まれることはなかった。なぜか学校中の人間は私が関わっていたのを知っていたが、まあ魔法界ではよくあることだ。歴史なんてものは実際に起きた出来事の表層でしかない。

 その事件を経て、私はこの世界で唯一古代魔術を行使できる存在となった。

 私は少し天狗になっていたのかもしれない。自分は過ちは繰り返さないと。

 

 夏休みが終わって、セバスチャン・サロウが失踪したという知らせを聞き、私は迷わず学校を去った。

 

 

 セバスチャン・サロウは永続的に苦しむ呪いを受けた妹のアン・サロウを救う方法を探すため様々な犠牲を払い、結局全てを失った。

 

 彼は私の初めての友達だった。

 

 その知らせをもたらしたオミニス・ゴーントはセバスチャンの親友であり、彼の過ちに誰よりも心を痛めていた。しかし彼は盲目で、セバスチャンを探すために世界中を探し回るのは現実的でなかった。

 私は箒一本でホグワーツを飛び出した。当時は魔法の才能があれば小銭を容易に稼げたのでそうそう困らなかった。マグルの目も節穴だったし、私の旅は苦労からは程遠かった。

 しかし、肝心のセバスチャンの行方はなかなか掴めなかった。

 

 

 その旅の終りに、私はゲラート・グリンデルバルドと出会うことになる。

 

 

 古代魔術の唯一の使い手として守り手となった私はセバスチャンを探す道すがら、あらゆる場所でその痕跡から力を収集していった。時には邪悪な闇の魔術に関連した遺物や書物にも遭遇し、それらを収集した。

 それらの強い魔術に晒されるうちに、私は杖を新調する必要を感じた。

 古代魔術の力はゴブリンの銀でできた保管庫に収容されていた。それの応用で杖をゴブリン製の銀で作ることを思いつき、それを実現できる杖作りを探した。オリバンダーとも迷ったが、結局はグレゴロビッチのもとを訪ねた。

 ゴブリンの銀の杖というアイディアは杖作りの野心をいたくくすぐったらしい。とはいえすぐに成功するような試みではない。私は一年おきに彼の店を訪ねると約束し、完成を待った。

 

 セバスチャンはなかなか見つからなかった。彼が行くであろう場所に先回りしても、いつも数か月前には旅立った後だった。姿現しと煙突飛行粉が憎かった。その足跡から推察するに、セバスチャンの探す≪妹を助ける方法≫は、迷走を始めていた。

 狂ってしまった歯車は壊れて止まってしまうまで自分がそうであると気づかないのだろうか。もっと前に私ができることがあったのではないか。考えれば考えるほど足が動かなくなりそうになる。

 オミニスには旅先で手紙を送った。杖でなぞると声が出る魔法の手紙だ。私は転々としているからオミニスからの返事は期待できないけど、今何をしているのかは知っていてほしかった。

 

 2年がたつころに私は一度イギリスにもどった。季節は春で、私の同級生たちは今頃七年生をやってるはずだ。

 ホグワーツへ行くとウィーズリー先生がとっても怒った顔をして私を出迎えた。てっきり退学だと思っていたのだが、私の籍は残っていた。戻ってすぐに闇の魔術に関する防衛術のダイナ・ヘキャット先生からお呼びがかかった。

 彼女は元魔法省神秘部の無言者であり私の師匠とも呼べる人だ。そう、フィグ先生が師なら彼女は師"匠"だ…戦闘の。

「あんたに出頭要請がきているよ」

「出頭要請?」

「無言者から。大方、あんたの特殊な力をどうにか利用したいんだろうね。あんたはずいぶん派手に暴れまわってたから目についたんだろう」

「そうですか。でも私っておしゃべりだからな。せっかくの勧誘ですが無言者は向いていないかも」

「そう言うだろうと思って断っておいたよ」

「じゃあなんでそれを教えてくれたんですか?」

「…それが、その無言者が言うにはあんたの探し人の行方を知っているというんだ」

「なんですって?」

「知りたいようなら、この名刺に書かれた場所に行って確かめるんだね。…ただし、その無言者には絶対に心を開いてはいけないよ」

「危険な人物なんですか?」

「いいや…ただ…。いや、それはあんたが判断するんだ。…私も本当は会わせるべきではないと思った。でも見つけたいんだろう?セバスチャン・サロウを」

「…はい」

「警告はしたからね。…それと、今日くらいはゆっくりしなさい」

 私は思わぬ手掛かりに小躍りしそうだった。そして大広間でオミニスや友達と再会して少し泣いてしまった。私にとってここはもう家だった。

 

「しばらく学校にいるの?」

 

 一通りの歓迎が終わった後、桟橋に座っていた私にオミニスが話しかけてきた。アストロラーべのために潜ったあの桟橋だ。

「一週間くらいかな」

「もっといればいいのにな」

 そういってオミニスは手紙の束を手渡してきた。

「出先で読んでくれ。ぼくからの返事だ」

「え…すごくうれしい。ずっと書いててくれてたの?」

「ああ、ぼくにできることはそれくらいしかないからね」

「そんなことないよ。…手紙を出す相手がいるから、旅先でも心細くなかったし。今回はこれのおかげでもっとさみしくなくなった」

「それはよかった」

 オミニスは優しく微笑んだ。セバスチャンのことはなんとなく話題にしなかった。お互い避けていたんだと思う。セバスチャンを探す事こそが私たちにとっての最重要課題だったけど、今は何もなかったころのように振舞っていたかった。でもそうやって昔を演じれば演じるほど、セバスチャンの不在が際立った。

 早く彼を見つけないと。

 

 翌日、私はさっそく名刺に書かれていた場所へ向かった。ホグズミードにあるさびれた酒場、ホッグス・ヘッドだった。

 昼間だからか客はおらず、私はとりあえずバタービールを頼んでぼうっと待つことしかできなかった。一口飲んで、三本の箒とあまりにも違う味に顔をしかめると店の外でバシッという音が聞こえた。すぐに誰かが店へはいってきた。ローブを脱いで暑そうにしている魔法使いだった。

 その魔法使いは私の元へまっすぐやってくると、朗らかに微笑んだ。

 

「はじめまして。フレイ・デッサウアーさん。私はソール・クローカー。お会いできて光栄です」

 

 

 

 

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