グリンデルバルドが勝った世界   作:ようぐそうとほうとふ

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何も知らない

 飛ばされた場所は石造りの部屋で、おそらくはホグワーツの地下のどこかなのだろうと思った。高い天井と壁にはキューブのようなものが埋まっていた。かなり古い部屋だ。

 明かりは部屋の四隅に設置された松明で、全体的に薄暗く不気味な印象を受けた。後ろには壁があり、どこかの鍵を開けて入ったというよりも飛ばされてきたような感じだ。

 ドラコは早くも杖を抜いていた。ハリーも慌てて杖を抜く。ロンは立ち上がり、目の前にある扉をじっと見ていた。

 

 きぃーーー…

 

 と軋む音をたて、扉がほんの少し開く。その隙間からは何も見えない。ロンが数歩さがり、杖を抜く。ハリーもゆっくりと扉へ向かって進む。

 扉の隙間を覗こうとハリーがロンよりほんの少し前に出たそのときだった。

 冷気が隙間から部屋へ流れ込み、扉がばんっと音を立てて開いた。

 真っ暗な扉の向こう。冷気が溢れ出す闇の奥から、すぅーっと滑るように何かが出てきた。

 

 ハリーは言葉を失った。黒い襤褸を纏ったそれはあの忌まわしき吸魂鬼だった。内臓を氷でできた手が鷲掴んだようだった。箒で落ちた時のショックが蘇り天地が一瞬わからなくなる。

 しかし、あの女の人の悲鳴は聞こえない。

「まね妖怪だッ!」

 ロンが叫んだ。

「リディクラス!!」

 ハリーの背後から鋭い呪文が飛んできた。2人から一歩引いた位置にいたドラコのものだった。

 目の前の吸魂鬼は黒いレースの服を纏ったロックハートに変わった。

「悪趣味!」

 とロンが悲鳴を上げるとボガートはロンにターゲットを変えた。変身し、巨大な蜘蛛へ姿を変える。

 ロンは悲鳴をあげることすらできなかった。ハリーは恐怖による麻痺がとけ、この最終試験が複数人推奨だったわけがここにあったかと納得した。ボガートは複数人の方がこうやって次々ターゲットを変えさせることで対処しやすい。

 そしてボガートがやってきた扉の向こうに光が見えた。

 

「扉の中だ!早くこっちに」

 ドラコは真っ先に扉の中へ飛び込んだ。

「リディクラス!!」

 ロンは叫んで杖を振ると、蜘蛛の足が途端にタコの足になってぐにゃんとその場に落ちてしまった。ハリーからすれば足がタコの蜘蛛の方が恐ろしい。ロンの腕を掴んで扉に飛び込み、慌てて閉めた。

 扉の向こうは魔法史の教室だった。

 

「お、おめでとう。ギリギリ合格」

 

 その中央ではフレイが椅子に座っていた。

 名簿にハリーたち3人の名前を書き込むとチョコレートをくれた。ドラコは不満があったようでフレイに突っかかった。

「あの鍵とボガート、どっちかで良かったんじゃないですか?」

「私もそう思ったんだけどな。はじめはライアルの残してったボガートでいいやって思ったんだけどな。簡単すぎるって言われて…」

 秋に本の山に囲まれていたのは一連の舞台装置を作るための勉強だったらしい。ハリーはフレイにそういう大掛かりな魔法ができると思っていなかったので少し感心した。一年生の時ヴォルデモートに襲われた時はたしか拳で殴っていたし、決闘をしてる印象が強かった。

 それで羽鍵と鍵穴探しを考案するのは楽をしようとした結果より苦労を背負い込む本末転倒だろ。とドラコは後でぼやいた。

 

「まあギリギリらしいが合格は合格。次は敵同士であることを願うよ」

 

 なんて言って去っていったが、ドラコはある意味最小限の苦労で今回の予選を突破したわけだ。なんて要領のいいやつ。ロンはぷりぷり怒っていたが、クリスマスのダンスパーティーまで時間がないのを見て怒りをおさめ、身支度するために慌てて寮へ行った。

 

「君は誰を誘ったの?」

「ここまできたらパーティー開始まで内緒にしようかな」

「うわ、気になる…」

 

 寝室では男子達であーでもないこーでもないと髪型を変えては元に戻してみたが、髪がベタベタになるだけだった。結局ハリーは普段よりちょっと毛先を立てたものに落ち着いた。ロンは新品のドレスローブを着て少し地味かな?などと言っていた。

 

 着替え終わり一階に降りると、なんと階段からすでに雪景色。昨年度よりも豪華な装飾が施されていた。大広間の入り口には朝はなかった氷の彫像が置かれており、着飾った生徒たちが入り口へどんどん入っていた。ロンはケイティを見つけ、ロボットのような挙動でそっちへ向かって言った。

 ハリーもハーマイオニーを探した。しかし彼女の姿は見当たらない。まだ来てないのだろうか?そう思った矢先、つんつんと後ろから肩をつつかれた。

 振り向くと美人が立っていた。一瞬誰なのかさっぱり分からず心臓が訳のわからないリズムを刻みかけたが、よく見ればハーマイオニーだった。

 いつもはくしゃくしゃの髪が整えられ、ほんのりと化粧をしている。ドレスもピンク色でふんわりとした生地が幾重にも重なり、なんだかお人形のようで、普段机に齧り付いているハーマイオニーと全然違った印象だった。

 

「すごい…可愛いね、ハーマイオニー」

「ありがとう。ハリーも素敵ね!いきましょう」

 

 ハリーはなんだか足の裏がむずむずして体が浮いてしまいそうな感覚に陥った。これまで感じたことのないむず痒さになんだかキョロキョロ辺りを確認してしまう。

 周囲の生徒もだいたいそわそわしていたが、ハリーと一緒に歩く謎の美少女は誰だと注目する生徒がたくさんいたのもわかった。

 ダンスフロアにはすでに何人かが立っていて、演奏の始まるのを待っていた。セドリックも青チームのシーカー、チョウ・チャンと立っており、その笑顔から彼も余裕で予選を突破したのだろうと思った。

 大広間は真っ白な雪化粧が施されており、教師陣の他に何人か魔法省の制服を着たものや大会関係者と思しき見知らぬ魔法使いがいた。

 フレイはどこだろうと探す暇もなく、演奏隊が楽器を構えた。

 

 マクゴナガルのレッスンはかなり役に立った。ハリーはハーマイオニーのドレスの裾を踏んづけることもなく、腰に回す手はほんの少し浮いていたが、なんとか踊り切ることができた。ダンスはやはり純血の家の子たちの独壇場で、ドラコのダンスは付け焼き刃でギクシャクしたハリーの踊りの数倍優雅に見えた。

 一曲踊り切るだけで緊張のせいか足が震えてしまった。ハーマイオニーも同じなようで2人してダンスフロアから出て飲み物を飲んだ。

 

「緊張した!」

 

 と微笑むハーマイオニーにハリーは少しドキッとした。着飾っているのもそうだが、普段は知性でつんとしている彼女が無邪気に笑うギャップが心をくすぐる。

 ハーマイオニーの大変身に驚いたのは男子だけではなかった。ダンスを切り上げた女子もいつのまにかハーマイオニーの元にやってきて次々に称賛を送った。

 もう一曲、次は初めの曲よりもずっとポップな曲を踊って戻ると、初めからずっと踊りっぱなしだったらしいロンがテーブルで突っ伏していた。

「やあロン」

「あ…ハリー。や…ウンッ?!」

 ロンはハーマイオニーを見て椅子から転げ落ちかけた。

「驚きすぎじゃない?」

「君、ハーマイオニーを誘ったのか!ぁァ…大変身だな」

「どうも」

 ハーマイオニーはちょっと得意げに笑った。

「ケイティは?」

「彼女まだ踊ってる。さすが一軍のチェイサーだよ。体力がすごいや」

「ケイティ・ベルを誘うなんてロンもなかなかやるわね」

「あー、うん。でもなんていうか…全然いい先輩って感じ。あいつらみたいな雰囲気ではないね。うん」

 とロンが指し示したのはセドリックとチョウ・チャンだった。なんというかただ踊ってるだけではなく、体が密着してお互いをじっと見つめ合いながら体を揺らしている。そういう生徒は隅の方に多々みられた。

「ちょっと…アレな雰囲気ね?」

「オホン…」

 ハリーはなんだか気まずくなって飲み物を取りに行くと言ってその場を離れた。

 ドリンクサーバーを探していると、突然後ろから肩を抱きすくめられた。

 

「やあハリー、楽しんでる?」

 

 やたらと上機嫌なフレイだった。

 見たことない服を着ていた。黒いローブのような形状の上着で、胸部分には試験管か何かを差し込めそうな筒のポケットがついていた。腰にベルトが巻いてあり、杖がぶら下がっている。肩には藍色のスカーフが緩やかに巻かれていた。

「楽しんでるよ、フレイも楽しそう」

「私は親族と偉そうなやつのいないパーティーは好きなんだよ」

「なるほど。じゃあ最高の夜だね」

「ああ。見たぞ。グレンジャーと踊っていたな。ふふ、ぎこちなく」

「いや、だってちゃんとしたダンスなんて普通踊れないってば!」

「まあ転ばなかっただけ上出来だよ」

「フレイはやっぱり踊らないの?」

「うん?ああ、さっきマクゴナガルも踊ってたし踊ってもいいのかも」

 フレイはお酒でもこっそり飲んだのだろうか。はっはと楽しそうに笑い髪をかけ分けた。

「よし、行こうハリー!」

 フレイはハリーの腕を引っ張りダンスフロアへ連れ出した。

 曲はタンゴに変わっていた。これはマクゴナガルのレッスンの中でも一番難しかったもので、マクゴナガルの相手をした生徒は皆足を引っ掛けてすっ転んでまともにレッスンできていなかった。フロアにいるのは数組で、リズムに乗れてるかは少し怪しいがなんとか踊っていた。

 

 フレイはハリーを立たせ、ハリーの手を握った。

 

「私の真似をしてご覧」

 

 そう言うとハリーの体を引っ張るようにステップを踏む。ハリーはほとんど操り人形のように同じように足を出す。

「いいね」

 そしてあっという間にリズムに乗って足が動く。まるでフレイが音楽に乗ってハリーを導いてるようだった。ハリー自身ほとんどステップを知らないのにフレイに合わせて動くとくるくると勝手に体が回って、踊りになっている。

 ステップなんてきっとひどいものだったが、情熱的な音楽とリズムに乗せてあまりに楽しそうに笑いながらハリーをリードし踊るから、気づけば曲が終わって周囲が拍手を送っていた。

 

「ごめん。やっぱり意外だった。フレイがこんなに踊れるなんて」

「ふふふ…タンゴは流行ってたんだ、ちょうど」

「どこで?」

 

 フレイは得意げだった。フレイが礼をすると女子たちから歓声が上がった。ハリーはフレイの手を引っ張りダンスフロアを抜け出した。

 

「ロックハートの気持ちがわからなくもないな。キャーキャー言われるのは案外気分がいい…」

「やめてよね、あいつみたいになるのは…!」

「もしかして私の話をしていましたか?」

 気づくと観客を求めてかロックハートがやってきていた。相変わらずごてごてとしたドレスローブで、しかも今日はいつもよりもフリルが多く、自分が主役かのような派手さだった。

「素晴らしいですね、フレイ先生。あなたにダンスの才能があったとは驚きです」

「ふ…そうだろう。ロックハート、お前では相手にならんぞ」

「おおや、そうでしょうか。どうです?一曲」

「お前が女役なら踊ってやらんこともない」

 フレイはこのままロックハートとも踊りかねない調子だったのでハリーは大きく咳払いした。

「フレイ、飲み物運ぶの手伝ってくれるんだよね?」

「え?ああ…そうだっけ?」

 ハリーは無理やりフレイをロックハートから遠ざけた。近くの椅子に座らせてからハリーは腕を組みフレイを叱った。

 

「フレイ、うわつきすぎだよ」

「あー、悪い悪い。さっきこっそりシャンパンを飲んだからかな…?」

「教師なんだからしっかりしてよね」

「はい…」

 フレイはしゅんとした顔をした。そして本当にハーマイオニーとロンのための飲み物を運ぶのを手伝ってくれた。一曲踊ってしまったせいでもしかしたらハーマイオニーに呆れられているかもと思ったが、ハーマイオニーは元いた席でまっていてくれていた。ロンはまた踊りに行ってしまったらしい。ちょうど入れ違いだ。

 

「フレイ先生、素敵なダンスでしたね」

「ふふふ…これでグレンジャーも私の評価を改めてくれたかな」

「いえ。授業の質は前お伝えしたとおり最悪です」

「そうか…」

 フレイは微妙な顔をしてしゅんとなった。それをみてハーマイオニーは慌てて付け足す。

「でもすごく…魅力的でした。これはもう…盛り上がるに違いないわ」

「何が盛り上がるの?」

「あっ…えっと…界隈が」

「界隈…?」

 ハーマイオニーはまずいという顔をして急に話題を変えた。

「それよりどこでダンスを覚えたんですか?やはりグリンデルバルド家としての教養ですか?」

「違う違う。好きな人と踊りたかっただけだよ」

「えっ?!」

「あ、違う。趣味趣味」

 フレイの爆弾発言にハーマイオニーは口を押さえ、ハリーはあんぐり口を開けた。フレイはしまったという顔をしてからそそくさ立ち上がった。

「いかんな。ちょっと頭を冷やしてくる」

 そして呆然とするハリーとハーマイオニーだけが残された。

 

「これは…大変なことよ」

「うん……。え?大変かな」

「常識が変わるわ」

「常識?」

「謎の民族衣装、ダンス上手、ほろ酔い、果てに好きな人への言及…こんな情報、この世が変わってしまうわ」

「ちょっと待って。なんの話?」

「『蒼い瞳』シリーズの設定が根底から覆るって話よ!ああ…私これみんなに言うべきかしら?」

「よくわからないけど…フレイの個人情報だから言わないほうがいいんじゃない?」

「ああ!そうだったわ。それもそうね」

 

 ハーマイオニーは混乱しているようだった。ハリーも十分混乱していたが、自分よりも心乱れている人を見ると急に冷静になった。というかハーマイオニーは終始何の話をしているのだろう。

 なんだかもうダンスパーティーという気分でもなくなってしまったため、ハリーとハーマイオニーはそこで解散した。

 最後にちらっと見たフレイは嫌がるスネイプに無理やりステップを教えようとしていることろだった。

 

 フレイが好きな人のために踊りを覚える。そんなの微塵も想像できなかった。その人とあんな風に踊ったんだろうか。どんな人だったんだろうか。フレイも恋をする?そんなの考えたこともなかった。

 

 フレイのことを何も知らない。

 

 近くなった分改めてそれを痛感した。

 けれども、フレイは全然自分のことを話さない。ずっとそうだ。

 

 

 そんなことを考えてるうちにクリスマス休暇は来年のフクロウ試験に向けての勉強や苦手な科目の復習をしているうちにあっという間に過ぎていった。

 年が明けて、最後の予選の内容が発表された。

 それはこれまでの予選の中である意味一番衝撃的だった。

 

 その驚きの内容とは、面接だった。

 

 

 

 

 

 そしてバレンタインデー直前の雪の日。その面接官であるフリーダ・グリンデルバルドはハリーの顔を見て「フン…」と鼻を鳴らした。

 

 キツそうな目に浅黒い肌。前と同じ、黒い服に体のラインがよく映えるよう金色の装飾が施されている。鼻は高く頰はしゅっとしている。ただその目つきだけが異常に険しい。化粧も相まってどぎつい印象を受けるが、おそらくそれはハリーへの敵意を隠そうともしないせいだ。

 

「ハリー・ポッター。聞いていたよりもちんちくりんで、平凡で、なんだか貧相ね。成績も…イマイチ」

 

 意地悪で子供っぽい口調だった。ハリーはなんだかムッとしてぶっきらぼうに答えた。

「以前お会いしました」

「あらぁ。覚えてないはずだわ…。それで、なんであなたは三大魔法学校対抗試合にエントリーしたのかしら?」

「自分の能力を試すいい機会だと思ったからです」

「能力?フ…そういうのは選ばれし人間が言うことだわ。まあそう勘違いしても無理ないのかもしれないけれど、あなたは運良く生き残っただけの普通の子じゃないの」

「…ぼくは自分を選ばれし者なんて思ったことはありません。ただ授業以外の場所で自分の能力がどこまで通用するか挑戦しただけです」

「つまらない受け答え。練習でもしてきたの?どうせフレイが何か知恵を吹き込んだんでしょう?これまでの予選だってそうに違いないわね。

わかるんだから」

「フレイはそんな人じゃありません」

「へえ?フレイの何を知ってるって言うの?」

「ぼくに対してのフレイなら、知っています」

「フッ」

 フリーダは勝ち誇ったように笑った。

「あなたはフレイを心優しい後見人だとでも思ってるんでしょうけど、違うわ。あいつは私たち『グリンデルバルドの孫』の中でも一番残酷で、無責任で、冷血。そのくせ全てを投げ出してこんなところで遊んでるクズよ。あなたのことだって休暇の多少の刺激としか思っていないわ」

「フレイはそんな人じゃありません」

「あらどうして?あいつがここに来る前何をしていたかも知らないでしょ?」

 ハリーは少し勢いが削がれた。シリウスの以前言っていたフレイが言わないでいること、その事を言っているのだろうか。

「何をしていたんですか…?」

 ハリーが少し動揺したのを目ざとく感じ取ったのか、フリーダはニヤッと笑ってわざと声を落とした。

 

「フレイはね、馬鹿げた実験のために数万人のマグルの命を奪ったのよ」

 

「そんなのでたらめだ」

「嘘だと思うならあいつに聞いてみたら?苦い顔をするんじゃないかしらぁ。目に浮かぶわ」

 フリーダは嘘を言っているようには見えなかった。ハリーの反応に愉快そうな笑みを浮かべて肘をつく。フレイを嫌っているというが、こんなに露骨に悪辣に人を貶めるような笑みは見たことがなかった。

 

「どうしてフレイをそんなに憎むんですか?家族でしょう」

「家族ぅ?ああ、そんなことも教えてもらってないのね」

 

 フリーダは顔を歪めた。それは嫌悪と嘲笑の入り混じったひどい顔で、人間はここまで意地悪な顔つきになれるのかと感心しそうになる。

 

「どういうことです?」

「私たちグリンデルバルドの孫はね、全員ゲラート・グリンデルバルドと血なんて繋がってないの」

 

 ハリーは驚く。あまりにあっさりとした告白に。

 フリーダはむしろ誇らしそうだった。

 

 

「私たちこそが、選ばれし者。ゲラート・グリンデルバルドの見通す目によって選ばれた選りすぐりの魔法使いなのよ」

 

 

「…じゃあフレイも…」

「あんなやつのどこがよかったのか私にはわからないわ。おじい様の目も曇ることがあるってことかしら」

 ハリーがぐるぐると考え事に没頭しそうになるところを引き止めるように、フリーダは机をバンと叩いてハリーへ言い放った。

 

「わかった?生き残った男の子くん。特別なのはあなたじゃなくて、あなたを守ったお母さんなの。あんたの後見人は嘘つき人殺しで、あんたは成人したらこの最前線の国でちっちゃな神輿に祀られて、それでおしまいなの。感謝して欲しいわ。これまではっきりとあなたはお飾りだって言ってくれる大人がいなかったでしょう?」

 

 こんなにはっきりとした敵意を向けられたのはヴォルデモート以来だった。自分を傷つけようとする剥き出しの悪意にハリーは気分が悪くなり、同時に怒りが沸々と湧いてきた。

 

「あんたを合格になんてしないわよ。あははは。フレイに泣きつきても無駄だから!」

 

 しかしその怒りをぶつける術もなく、ハリーはそのまま部屋を追い出されてしまった。

 

 

 

 

 


 

 アルバスと名乗った少年の私を見る眼差しは闘志を秘めていた。きっと杖十字会の連中に私の有る事無い事を吹き込まれ煽られているのだろう。こんな小さな子相手に決闘は気が引けるが、断ったらまるで逃げているようではないか。

 私は決闘を引き受けた。

 

 アルバスは多くのギャラリーに囲まれながらもリラックスした構えを取った。12歳でこの落ち着きようは確かにただものではないと感じさせた。

 それでも普通、こんな小さな男の子を前にしては本気で魔法を使うのを躊躇うだろう。だが私は種族も性別も年齢も超越し誰であろうと対等に扱うべきという信条をもっていた。

 

 戦闘開始の合図とともにアルバスの杖から赤い閃光が発射された。

 武装解除呪文。

 しかし私は防御し、返す杖で石化呪文を放った。アルバスも盾の呪文を貼りそれを無効化する。

 2年生で盾の呪文がこれだけ見事にできるなら確かに手強い。

 

「フリペンド!」

 

 その上、速い。すかさず次の魔法が飛んできた。

 これは本当に、特に手加減する必要もなさそうだ。

 

 私は次の魔法を打とうとするアルバスに向かって走った。

 通常、魔法使いの決闘は距離をとった方が避けるにも攻撃するにも有利なため、真逆のことをし出した私に驚く。

 私はアルバスの後ろにあったテーブルを引き寄せる。

 アルバスはハッとして後ろから飛んでくるテーブルから身を守ろうとした。アルバスは無事粉々呪文でテーブルを粉微塵にした。そして振り向いた先に私の杖先があるのを見て

 

「…負けました」

 と言った。

 

「き、きたないぞフレイ!」

 ギャラリーのダンカン・ホブハウスが叫んだので私は言い返す。

「はあ?勝ちは勝ちだが!」

「そーだそーだ大人気がないぞー!」

 リアンダー・プルウェットが茶化すように笑い、ナツァイ・ナオイやギャレス・ウィーズリーらグリフィンドール生がアルバスの方へやってきて健闘を讃えた。

 

「お手合わせ感謝します」

 

 アルバスは照れるような、少し悔しいような顔をして私に言った。

 

「やっぱりちょっと卑怯だったかな」

「テーブルがぶつかってもぼくは負けていました。いい手です。ぼくがあなたでもそうしていたと思います」

「それは違うね。私が君ならテーブルなんて見なくても粉々にしてたから勝ったよ」

 

 私の言葉にアルバスはキョトンとした。そして、笑う。

 

「そうか。さすがですね、聞いた通りの人だ。デッサウアーさん…」

「フレイでいいよ、アルバス。君こそ二年生でこの腕前とはね。将来が楽しみだ」

「次は勝ちます。絶対」

 

 負けず嫌いのアルバス。

 私にとってのアルバス・ダンブルドアはこの時の一見内気で穏やかそうだが、内には強い意志を秘めた少年の時の印象が強く残っている。強い意志、優しさ。それらを内側へ隠す年齢離れした思慮深さ。私は彼に親近感を持った。

 

 後から聞いた彼の境遇を自分に少し重ねてしまったのかもしれない。周囲からの白い目、孤独。ただし彼は私よりもはるかに深い絶望を感じていたに違いなかった。

 私を縛るものは何もなかったが、彼は家族という絆で雁字搦め。私は身軽でどこにでも行けるが、彼はそうではなかった。

 

 

 私はその夜、オミニスとしばし語り合った後にホグワーツを発った。

 

 

 そして、もう戻ることはなかった。

 

 

 

 

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