グリンデルバルドが勝った世界   作:ようぐそうとほうとふ

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獅子の心
魔法使いの庇護のもと、安寧と繁栄を


 

 入学式もおわり、ドタバタの1週間が始まる。面倒臭いのが6年生以上の履修登録の確認だ。

 フクロウ試験を終えた生徒たちはその結果に記されたいくつかの適性にあった就職先にあわせ授業を取ることになる。そして、魔法史が必要な就職先はない。故に6年生以上を受け持つことなんてほぼ皆無なのだが、たまに『グリンデルバルド』と個人的に仲良くなろうと目論み登録するバカがいるのだ。

 私は仕事にも家にも愛着がないのは言葉の端々にいつも含ませているのに何を期待しているのだか。

 

 ハリーの後見人になったはいいが、ホグワーツにきてからはもうほとんど私にしてやれる事はない。だがハリーはいつも人だかりの間から職員テーブルにぼうっと座る私を気にしているようだった。

 人気者になったのはよかったが、そのぶん不自由してそうだ。そこで私は魔法史の授業がある日の前日、短い手紙を彼に送った。たしか『調子はどう?授業で会えるのが楽しみ』くらいの社交辞令のような手紙だったが、翌日返ってきた手紙は長かった。

 

 


 

 フレイへ

 

 手紙をありがとう。本当は何度もあなたに話しかけたかったけど、なかなかタイミングがあわなくて。

 もう、話したいことが本当にたくさんあるんだ!ホグワーツ城のこと、授業のこと、魔法のこと!ここは全部がすごい。(動く階段だけはどうかなって思うけど)

 グリフィンドール寮もとても快適だよ。友達もできたんだ。やっぱりフレイの言うとおり汽車に1人で乗ったのは正解だった。

 ロン・ウィーズリーという子と乗り合わせてそのまま仲良くなれたんだ。彼と同じ寮になれて嬉しいよ。

 

 ただ少しわからないことがあって。困ってるというか、なんで言えばいいんだろう。手紙だと上手く書けないから、今度会えませんか?

 

 

 P.S 魔法史はちょっと、ぼく苦手かもしれない。ごめんね!

 


 

 確かに魔法史の授業で彼は舟を漕いでた。しかしまあ、古代の魔法史は専門家がいまだに説を出しては覆しの歴史家激戦区だ。故に学校では概略しか教えない。つまらないのもわかる。それに教師をしといてなんだが私は歴史が嫌いだから、教え方もちょっと投げやりかもしれない。

 

 新しい友達、ロン・ウィーズリー。彼については私も知っていた。正確には彼の兄弟を。

 彼の兄貴は4人も入学していて、しかも全員グリフィンドール。全員学力や魔法力は水準を満たしているが、良いとも言えない。それでも枠が用意されているのはウィーズリー一家が純血である点、そしてたくさん子供をもうけたことが大きかったのだろう。

 産めや増やせやは国家の基本。子供こそが最も尊い国家の財産だ。

 

 私は土曜の午後を空けておくと返事を書いてフクロウに持たせた。お互い学校にいるんだから別の手段もあったが、フクロウが飛んでくるときっと嬉しいだろう。可愛いしな。

 

 約束の日はあっという間で、からりとした秋晴れだった。屋敷しもべ妖精にたのみサンドイッチを包んでもらって教授室がノックされるのを待った。

 

「フレイ!」

 

 約束の十分前にハリーは飛び込んできた。心底嬉しそうだった。私はサンドイッチと自分で入れておいた紅茶の水筒を持ちピクニックに誘うと、笑顔はより輝く。

 

「ほんとうに、1週間があっという間だった」

 

 私たちはあまり人が来ない城の裏手にある桟橋まで来ると流木の上に座り、城の影の向こうでキラキラと照らされる水面を眺めた。ここはだいたい北西にあるためいつも日陰であまり生徒も寄りつかないししもべ妖精や『猫』も見かけない。

 巨大なイカの目撃例はここに集中しているのだが、残念ながら見たことはない。ホグワーツ周辺の森やこの湖は魔法生物および自然保護区に指定されており、調査の手があまり入っていないのだ。なお魔法生物『特区』の場合、魔法生物の繁殖や研究、あらゆる用途における有効活用が認可されている。

 

魔法使いの庇護のもと、安寧と繁栄を

 

 これはそれら牧場にかかげられているスローガンだ。禁じられた森の入り口にもかかっていたが、誰かに破壊されてそれっきり替えられていない。

 

 まあ、本当になんの変哲もない日陰の湖の辺りだ。百年前とほぼ変わらない、あまりにただの自然だ。私はこの落ち着いた時間を気に入ってるのだが、もしかしたら子供にはつまらないか?

 

「えーと…一週間どうだった?」

 

 私が話をふるとハリーは紅茶を一口飲んで言った。

 

「すごく楽しい。みたことないものばっかりだし、それに自由に魔法が使えるのも楽しいよ」

「それはよかった。授業で気に入ったのはあった?」

「うん!飛行訓練が一番楽しい!一年生で一番に乗りこなしたんだ」

「箒か。私は得意じゃなくてすぐに逆さになってしまうんだ。ハリーに教えてもらおうかな」

「えー!簡単だよ!背筋を伸ばすんだ」

 

 箒が気に入ったとは。もう少し早く生まれていればクィディッチを楽しめたのに。残念ながら12年ほど前に学内リーグは廃止されてしまったと聞く。(抗議運動のため学校はひと月以上機能不全になったらしいが、詳しいことは不明。)

 プロリーグはまだ残っているが、強い選手は大陸の方の地方リーグなんかに引き抜かれてしまうのでイギリスでの盛り上がりはいまいちだ。国際戦のチケットはいつでも売り切れだし、一応テレビ中継はあるが白黒で味気ないし、かなり大きな酒場にでも行かなければお目にかかれない。テレビはマグルの発明なため媒体としての優位性が低く、開発が後回しになっている。テレビ、つまりは『映像』というメディアは新聞や写真の百倍面白いのだが、その分強烈だ。

 映画は検閲まみれにすればいいが、中継などはそうはいかない。きっとプロパガンダ部が研究と開発を止めているのだろう。

 

 しばらくハリーの子供らしい純粋なこの城の感想を聞いたのち、私は切り出した。

 

「困ったことはない?」

「困ったこと…」

 ハリーは話しにくそうな顔をする。手紙で相談したがっていたからもっとスッと話すと思ったがなかなかしゃべりださない。まだ緊張がほぐれていないのか。子供はいきなり本題を話すほど無粋じゃないのかもしれない。

 

「少し歩こう」

 

 私とハリーはそのまま湖のほとりを歩き出した。

 

 禁じられた森こと魔法生物および環境保護区の木々が空のさめざめとした青に混ざり合い、鬱蒼としている。遠くから生徒がはしゃぐ声が聞こえてきた。土日はクラブ活動が盛んだ。ただしこれも昔と比べるとずいぶん減ったし、内容も変わっただろう。

 ゴブストーンやチェスなどのボードゲーム、合唱部あたりは昔と変わらず教師の監督のもと運営されているが、決闘部や呪文部なんかは魔法省の人間がやってきて指導している。クラブ活動とは名ばかりの職業訓練だと思うのだが、生徒の質はかなり向上しているようだ。

 

 本当に人気のない、校舎からかなり歩いたところにちょうどいい倒木があった。私たちはそこに腰掛けしもべ妖精のサンドイッチを頬張る。

 

「フレイはさ……」

 

 とようやくハリーが話し始めた。

 

「ぼくの両親のこと知ってる?」

「え…?ああ。彼らは勇敢な魔法使いで、国家のために…」

「それは知ってる。そうじゃなくて…えっとね。言われたんだ。ぼくの両親は…『不穏分子だった』って」

「何?誰がそんなことを…」

「ドラコ・マルフォイ」

「マルフォイ…ああ、あの…」

 

 マルフォイといえばイギリスの名門純血一族で、資産家だ。この国は共産主義ではないので資産家がいること自体罪ではないのだが、どの組織にも属さず悠々と暮らしてけるのはこのマルフォイ家くらいだろう。魔法生物、特に魔法薬学に使う材料の売買の権利を独占しているらしい。彼らが狡猾なのは決してイギリスの外へ出ないこと。利益の拡大を図らないこと。けちらずばら撒くこと。上に目を付けられないように巧妙にやっている。

 そしてかなりたちが悪いことに、家長ルシウス・マルフォイは元死喰い人だ。正確には『と疑われている』だが事実そうだと思う。捕まらなかったのは先ほどと同様の理由。彼らが狡猾だから。大方仲間を売りまくったんだろう。

 

「不穏分子が何かわかってる?」

「うん。魔法使いの社会を壊そうとする人たち…」

「まあそうだね。うん…。でもそんなのはでたらめだよ。彼の親はヴォ…『例のあの人』に仕えてたんだ。君が主人を倒したからムカついてるんだよ」

「本当にそうかな。マルフォイは何か知ってるぞって顔してた」

 

 ハリーの表情は曇っていた。ここで私が何を言いつくろっても心の疑念は晴れないだろう。

 

「わかった。じゃあ私が君の両親についてもっと詳しく調べよう」

「えっ…」

「そうすればスッキリするだろう」

「うん…でも…」

 ついつい軽率に人助け癖が出てしまった。大昔、私もこういう親切な時期があった。最近忘れていたけれど。子どもが悲しい顔をしているのは流石の私も胸が痛む。いや、実は彼の両親の死について私自身非常に興味が湧いたというだけの話なのだけど。

 

「それに、ハリー。大切なことは両親がどんな人物かじゃない。君がなにをするかだ。…私がいっても説得力がないかもしれないがね」

「そんなことない!…うん。ちょっと気にしすぎてしまったかも…それに今の家族はフレイなんだしね」

「……まあ、私に関してもあまりいい噂はないだろうね。授業もつまらないようだし」

「あ!

あ!いや~…ぼくは、あんまりってだけで…ほら。ハーマイオニーはすっごく興味津々に話を聞いていたよ?」

「ハーマイオニー?」

「ハーマイオニー・グレンジャー。グリフィンドールの一年生だよ!どの授業も一番前の席に座ってる」

「ああ、そういえばいたな。最前列に1人だけいて、しかも目を見開いてノートをとっていた…彼女も友達?」

「うーん…どうだろう。彼女は誰とも友達じゃないかもしれない…。勉強はすごいみたいだけど、あんまり人と打ち解けてなさそう」

「ふうん…。そういう子とは仲良くするといいよ。宿題を手伝ってくれるかもしれない」

「そんなつもりないよ!…でもまあ、今度話しかけてみようかな」

 

 がり勉タイプの友人は一人いると助かる。一般論として。そうでなくとも交友関係の幅を広げるのは大事だ。この子が将来何になるにしても、友人は大事だ。…多分。

 

 

 気になっていたことを話せたからか、それからのハリーは夕方まで元気いっぱいだった。水を飲みに来たパフスケインを見つけて捕まえたり、湖に石を投げて遊んだり。そんな素朴な遊びの喜びなんて忘れていたが、やってみると楽しいことを思い出す。

 どうして生き物は子供を産み、苦しみを再生産するのか不思議に思っていたが、こうして忘れかけていた自分の人生の喜びを追体験するためというのもあるかもしれないな。本能と言われればそれで終わりだけれど。

 

 夕方、ハリーと別れて私はすぐに電話をかけた。

 電話は校長室と職員室に一台しかない。幸運にも職員室には誰もいなかった。私は誰にも眉を顰められることなく受話器を取り、番号をプッシュする。

 

 相手は2コール目ででた。

「はい、こちらイギリス魔法省魔法治安警察庁、アレックス・サロウのデスクです」

「フレイ・グリンデルバルドだ。アレックス」

「ああ、閣下!お久しぶりですね。今日はどうしたんです?」

 

 アレックス・サロウ。昔馴染みの中で唯一イギリス魔法省に勤めている。本国を出たのは私と同じく変わり者だから。だが彼のほうが仕事ができる。治安警察の上層部はなろうと思ってもなれるものじゃない。

 私を閣下と呼んでいじってくるのは彼くらいのものだ。

 

「閣下はやめろ。調べてほしいことがある。ジェームズ・ポッター夫妻について全部だ」

「あぁー…ポッターですか。噂は本当だったんですね?閣下が親役とは、想像できない」

「やるのか?やらんのか」

「やりますよ、やります…。ただご存じの通り、例のあの人に関するアレですからね。時間がかかります。下手したら一月…いや、もっとかも」

「急ぎじゃないから構わない。ありがとう、アレックス。お礼におじい様に紹介状を書いてやる」

「うひゃぁ。ごめんですよ、身分不相応な仕事なんて。…では、失礼します」

 

 私は電話を切る。

 すると背後に気配を感じ、振り向くとクィレルが音もなく近づき立っていた。

 

「クィリナス。びっくりした」

「そうは見えないが…。すす、すまない、盗み聞きするつもりはなかったんだが…ポッターの身元調査を?」

「ああ。親の方だよ。私はヴォルデモートのことをよく知らないから…」

「そッ…その名はやめてくれ」

「おっと失礼。例のあの人について私はよく知らないから、ちょっといろいろ調べてみようと思ってね」

「そうか。そそそ、そうやって好きに情報を調べられるのもグリンデルバルドの特権だな…」

「あァん…?」

 クィレルの態度は妙だった。今までこんな風に強気で私につっかかってくることはなかったのに、やけに好戦的だ。汽車でのふるまいも妙だし、夏休みに何かあったんだろうか。

「いま私に嫌味を言ったのか?」

「いや、事実を言ったんだ。き、きみは…恵まれている。そのことに無自覚すぎる」

「…なんだ?なにがあったんだよ、クィリナス」

「なにもない。なにも…」

 

 クィレルはそういうと亡者のようにおぼつかない足取りで職員室を出ていった。

 

「いったいなんなんだ、あいつ…」




タイトルを誤字していた事に気づいたのでこっそりなおしました
自分に驚きました
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