グリンデルバルドが勝った世界   作:ようぐそうとほうとふ

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友と共に、善なる道を歩もう

 学期が始まり慌ただしい日々がすぎ、あっという間にハロウィンパーティーが目前となっていた。広間は大きなカボチャと蜘蛛の巣と、普段よりも闇が濃い夜空に彩られ、魔法で作られたコウモリが旗の隣にぶら下がっている。生徒達もどこか浮き足立っていて、常にどこからかくすくす笑いが聞こえてくる。

 ハロウィンパーティーの前には決闘クラブの催しがあるため、呪文部は特に張り詰めた雰囲気で呪文を練習している。監督生と首席は参加の義務があるため、フリットウィックの授業後ひっそり特訓が行われているとかいないとか。

 まあ要するに、私はテーブルにご馳走が並ぶのを待っているだけだ。

 

「君、ハリーに意地悪らしいじゃないか」

 

 私の言葉に紅茶をすすっていたセブルスは一瞬止まった。私をじろっと睨んでからまた紅茶を啜り、飲み終わるとため息をついた。

 私たちは久々に必要の部屋に集まり、今学期問題を起こしそうな生徒についてや変わったことがないか、あとはなんでもない雑談などをしていた。

 

「我輩は指導をしているだけだ」

「やだな、責めちゃいないよ。君が誰かを贔屓したりいじめたりは毎年のことだしね」

 

 セブルスの生徒の好き嫌いは露骨で、基本的には自分を好くスリザリン生に甘く、生意気なグリフィンドール生に厳しい。寮監が自分の寮に甘いのはよくあることだが、グリフィンドールのマクゴナガルは厳格なため自身の監督するグリフィンドールへの贔屓はしていない。そのため彼の好き嫌いは寮の得点に如実に出ていた。

 

 

「君がハリーに厳しいのは、彼の父親のせいか?」

 

 私の言葉に、こんどこそセブルスの動作が止まった。今まで見たことないくらいに眉間に皺を寄せ、私を睨む。そしてやっと言葉を絞り出した。

 

「………調べたのか?」

「ジェームズ・ポッターとリリー・ポッターについてだ。君のことを詮索しようとしたわけじゃない。が、結果として知ってしまったのは謝る」

 私のうわべだけの謝罪なんて初めから耳に入ってないようだった。いつもは土気色の顔もやや紅潮しているように見える。話題の切り出し方を間違えたようだが仕方ない。時間は簡単には戻せないしな。私はアレックス・サロウから受け取った書類の中身を思い出しながら言う。

 

「ジェームズ・ポッターは優秀だったが素行に問題があったようだな。彼は公的には魔法秘密警察に所属していたが、私の経験上彼のような人物は秘密警察になんてなれやしない。リリー・エバンズの方ならまだしもな。そして…クィデッチが廃止された年だが、彼はグリフィンドールのキャプテンをやっている。撤廃運動とやらに噛んでたんじゃないかと思ってる」

 

 私の捲し立てるように言葉を吐く間にセブルスは怒りをいくらか鎮めてくれたらしい。鉤鼻を膨らませてため息のように息を深く吐く。

 

「公的にはそのような運動は起きていないことになっている。しかし確かにクィデッチ廃止の撤廃運動はポッターが率い、多くの生徒がヤツに倣い授業を一月近くボイコットした」

「なるほど、ますます体制向きじゃないな。死喰い人…はないよな。純血みたいだが妻がマグル出身なんだから。ダンブルドア軍団かアメリカ軍に接触されたに違いない。…なぜヴォルデモートに殺された…?君、ヴォルデモートから何か聞いてないのか」

「久々にゆっくりとお茶でも飲もうと誘ってきたのはこれが聞きたかったからか。道理でいつもよりいい茶葉を使っているわけだな」

 

 セブルスは嫌味っぽく笑う。私はふん、と鼻を鳴らす。

「なんだい?君が闇の帝王の手先だったのは周知の事実で、勲章だろ?」

 いつもの調子の軽口を叩いてみたつもりだった。しかしセブルスの表情は険しいまま。私の顔から目を逸らしてとびきり冷たい声で言った。

 

「我輩が知られたくない過去を勝手に調べられてなんとも思わないとでも?」

 

 

「あァ…?な…それは…、だって記録に残ってるんだぞ。調べたら必然、わかってしまうんだ。私は別に君の過去を…‥暴くつもりはなくて…」

 

 どんどん尻すぼみになっていく自分の言葉に私はより自分が情けなくなった。私は私の知りたいことを調べただけだ。ジェームズ・ポッターと彼が犬猿の仲であったことは資料に書かれていた。彼に聞けばジェームズ・ポッターのことがわかると思ったし、ついでに11歳の子供に辛く当たる彼を少し嗜めてやろうと言う気もあった。

 だがセブルスの心の傷について私は全く考えていなかったのだ。

 

「……すまない」

 

 私の言葉にセブルスからの返事はなかった。ただ無言で立ち上がり、必要の部屋から出ていった。

 

 

「はあ…何やってんだクソ…」

 

 私のつぶやきを聞くものはいなかった。まったく、これだから。私は学生の頃学んだことなんて何一つ覚えちゃいないらしい。人を傷つけることばかりが得意だ。

 

 

 そんなわけで、私のハロウィンはあまり楽しいものではなくなった。人の喧嘩を仲裁したことはあれど当事者になることはなかったので、どう話しかければいいかわからなかった。ダームストラングでは名字のおかげで大体のトラブルは回避していたし。

 

 そして、クィレルもやっぱり様子がおかしいままで、私にあまり話しかけなくなっていた。というよりも1人でこそこそ何かやってるようだった。

 しもべ妖精に言えば監視させることもできる。だが教師はしもべに指示は出せても命令はできない。私が「やれ」と言って言うことをきくのは私がグリンデルバルドだからだ。それこそクィレルの皮肉の通り、私は自分の恵まれた立場で無自覚に人の秘密を暴くことになる。セブルスにやってしまったことと同じだ。

 それの何が悪い?と、これまでは思っていたのだが、正面から人を傷つけてしまった(それも仲がいいと思っていた人を)せいでなんだかそんな考えがよぎったことにもうんざりしてしまう。

 

 

 

 

 

 そういうわけで私が悩み相談できるのはハリーだけだった。なさけないことに。

 

 

「友達と喧嘩とかしたことある?」

「え?したことないなあ…」

「そっか」

 

 ハリーは大きなクッキーを頬張りながら答えた。なるほど、いい子だな。悩み相談は無理そうだ。現在ハロウィンパーティー直前の午後10時。5時間後には決闘クラブが始まる。お菓子かいたずらか?をしにきてくれたハリーをそのまま教員用の準備室へ招いたのだ。

 

「友と共に、善なる道を歩もう。だよね」

 

 ハリーは廊下に貼られた標語を言う。

「ああ。そうだな。…まあスローガンってのは大抵理想で、理想ってのは今叶ってないからあるんだ」

 私の言葉にハリーはきょとんとする。しまった。反社会的だったかもしれない。

「じゃあ、より大きな善のためには?」

「今はまだ小さいからもっと大きくしなくちゃってこと」

「大きくって…?」

「アメリカやアジアも、全世界が私たちと同じように善のために行動することかな」

「ふうん…」

 

 全世界の、その先は?なんて聞かれなくてよかった。

 善って何?とか、私には答えられない。

 

「…フレイ、友達と喧嘩した?」

「……なんで?」

「元気ないから。それに急にぼくに友達と喧嘩したことある?とかきくから」

「……鋭いな」

 

 私はタバコを取り出しかけ、やめた。代わりにウィスキーボンボンを口に放り込む。

 

「友達かどうかはわからないんだが、仲のいい人に失礼なことをしてしまったんだ」

「そっか…それはやっちゃったね」

「ああ、やっちゃったんだ」

 

 ハリーはクッキーの最後のひとかけらを飲み込む。

「謝るしかないよ。とにかく、きちんと」

「そうなんだけどね。大人になると急にできなくなっちゃうんだよ」

「ふうん…大人は大変なんだね」

 

 ハリーは私の背中を軽く叩いて友達のところへ帰って行った。ああ、なんということ。子供に励まされてしまった。せめてハリーの望みである両親についてもっと調べを進めたいが、これ以上調べても彼にとって悲しい結果になるのは目に見えている。

 

 

 ハリー・ポッターの両親はダンブルドア軍団、もしくはアメリカの息がかかった工作員だった。

 

 これはほぼ間違いないと思う。

 秘密警察に属していたというのは捏造された経歴であるのは間違いない。ことジェームズ・ポッターに至っては学校生活での問題行動、他の生徒まで巻き込むカリスマ性、そして優秀さから、この社会におとなしく従うとは思えない。

 『不穏分子』。的確な言葉だ。リリー・エバンズの方は学校の成績を見る限り、模範的な社会の一員になる素質があった。可哀想に。選んだ相手が良くなかったな。彼の危険な行動に巻き込まれてしまったのだろう。

 しかしまあ、これが事実だとしたら間違いなく隠さなければいけない。

 

 ダンブルドア軍団やアメリカはずっと存在する恐怖であるが、その恐怖はプロパガンダや教育、社会生活においてコントロールされていた。私たちはそれら恐怖の対処方法を叩き込まれている憎しみの方法を知っている。

 しかしヴォルデモートという恐怖に対しては無防備だった。

 

 私たちの知ってる恐怖。それは言ってしまえばマグルという存在への恐怖だ。

 マグルの欲望は制御が利かない。制御の利かない欲望はどんな魔法よりも残酷な結果をもたらす。彼らが剣で互いを傷つけあっているうちは我々魔法族も世界の裏側でゆっくり魔法薬を煎じながら魔女狩りの篝火の元笑いあえた。しかしある日を境に彼らの技術力(科学…なんと如何わしい響き)は飛躍的速度で世界を覆っていった。

 そしてあとは、歴史の示す通り。

 ゲラート・グリンデルバルドが全てを正しく導いてくれた。ダンブルドアやアメリカにしたって、彼が打倒した旧世界の象徴(icon)にすぎない。これらは克服し、しぶとく残る悪に過ぎない。敵はいつだって私たち魔法使いのすばらしい新世界の外からやってくる。

 

 しかしヴォルデモートは違う。

 ヴォルデモートは、魔法使い社会の内部から現れる脅威である。彼の掲げるマグルの完全排除、純血主義は我々の『善』を揺るがした。

 私たち魔法使いはいつも世界を善い方向へ導くはずだ。しかし最も血の濃い純血、魔法使いの中の魔法使い(と、彼らは主張している)の提示する世界は恐怖と混乱、悪徳に満ちている。

 彼の思想は、私たちの社会規範と矛盾する。

 

 ゆえに、ポッター夫妻への襲撃は筋の通らない話ではない。変な話だが、ヴォルデモートの敵もまたマグルと共存するアメリカやマグルへの弾圧をよしとしないダンブルドア軍団である。

 しかしやはりどうしてもしっくりはこなかった。

 ポッター夫妻襲撃にはまだ別の理由がある気がする。

 

 

「はあ…パーティーに出たくないな…」

 

 私は机に突っ伏す。そしてアレックスからもらった書類の一枚をぼんやりと眺めた。

 そこにはヴォルデモートの本名と経歴。そして『秘密の部屋事件』の極秘ファイルが添えられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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