吾輩はジムである   作:呼び水の主

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9話 私、私はッ……!?

 

 コロニー落とし。私の故郷を押し潰した宇宙からの厄災。

 100万人以上が住まう、宇宙に作られた新たな人類の大地。

 それを地球へ落とす事に、一体どこに大義があるの!?

 

「ケリィ・レズナー!これが貴方のいう戦争なの!?ラトーラさんみたいな、平和に暮らしている人たちを巻き込んでまですることなの!?」

『違う!俺はッ……!』

「違うもんか!これは戦争なんかじゃない!ただの虐殺だわ!」

『知らなかったんだ!これは交渉の為の脅しだと!そういう命令だったはずなんだ!』

「うるさい!こんなッ!こんな事をするお前たちは──!」

『押し返される!?このヴァル・ヴァロが、たった一機のモビルスーツに!?』

「押し潰せ、ガンダムッ!」

『うぉぉぉぉぉぉぉぉ!?』

 

 ガンダムの双眸が光を讃え、怒りに煮えたぎるように揺らめく。

 最大展開した両肩のバーニアが点火し、赤いモビルアーマーをコロニーの外壁へ叩きつけた。

 ヴァル・ヴァロの堅牢な装甲が陥没し、圧壊していく。そしてその半身を壁の中へ埋め込まれた時点で、遂に限界を迎えた機体がその機能を停止した。

 

「コロニーは私が止めてみせる。過ちは、繰り返させない!」

 

【→】

 

 メンテナンスドックに滑り込ませた2号機のコックピットから飛び出し、コロニーのコントロールルームへと急行する。妨害を受けながらも内部を占拠していたテロリストどもを撃ち倒して、私はコンソールに飛びついた。急ぎコロニー全域へのアナウンスのスイッチを入れ叫ぶ。

 

『コロニーに住まう皆さん!急いで近くの何かに掴まってください!このコロニーは減速します!大きく揺れるので近くの何かに掴まって!』

 

 コロニーの異変に気が付いた全ての住民がテロリストに破壊された宇宙港へと殺到している。このままコロニーほどの質量を減速させれば、僅かな制動でも凄まじい衝撃と混乱で人々は文字通りミンチになってしまう。

 

 はやく、はやく──!焦る気持ちを抑えつけ、宇宙港に設置されたカメラを睨みつける。モニターに映っていた、泣きじゃくる子どもを必死に抱き寄せた女性が近くの柱にしがみ付いたのを最後に、私はコロニーに備え付けられたスラスターを点火した。

 

 凄まじい衝撃と遠く聞こえてくる人々の悲鳴。

 阻止限界点まで、あと!10、9、8、7…………止まった?

 残り6キロという宇宙の規模では限界ギリギリのところで、人の命のゆりかごであるコロニーは地球への落下を停止した。

 

 私、コロニーの落下を阻止できた!?

 やった。やった……!お父さん!お母さん!私やったよ!あの時震えることしかできなかった私が、故郷を守ったよ!

 安堵のあまり、その場に膝をつく。手はブルブルと震え、心臓はうるさいくらいに脈動している。

 

 それでもどこか清々しい気分だった。私を縛りつけていた「呪い」が消えていくような、そんな感覚を覚える。ようやく過去と、家族たちと正しくお別れできるような気がした。

 そうだ、これが終わったら、一度地球に帰ろう。あの大きな鉄の墓標がそびえ立つ大地が、私のかつての故郷だと、今なら向き合える気がした。

 

 大きく息を吸って、立ち上がる。モニターを見る。先程の親子が、安堵したようにお互いを抱きしめあっていた。

 それを笑顔で見守っていたその時、コロニーが、再び大きく揺れた。

 え?な、なに……?

 

 急ぎ機体に戻りコロニーの様子を確認する為に離脱する。

 え、え、え?うそ、嘘!?

 コロニーが、動いてる!?

 

『──中尉!中尉!応答せんか!』

「バスク大佐!いったい何が!?」

『わからんか!コロニーが何者かの工作によって再び動き出したのだ!』

 

 どこからともなく飛来した推進用レーザーが、コロニーの推進剤に点火した?そんなもの、コロニー公社くらいしか保有してないはず!

 混乱する私をバスク大佐が一喝した。そのありえない命令に、私の息がヒュッとつまる。

 

『マルレーン中尉に命ずる!2号機に装備された()()()()で地球へ飛来する()()()()()()の落下を阻止せよ!』

「大佐?ご冗談ですよね……?コロニーにはまだ人がいます!逃げ遅れた子どもたちだって!」

『貴様ぁ!命令が聞こえんのか!ソレは()()なのだ!コロニー一基と地球に住まう()()の命!比べるまでもないであろうが!』

「待ってください!まだ!まだ救う方法があるはずです!なにか……」

『ララ・アンデルセン!』

「うっ……!?」

『貴様はまたシドニーを繰り返すつもりか!』

 

「あ・あ・あ……!?」

 

 操縦桿を握る手の感覚がない。

 知らず、背部の装置に連結されたバズーカの砲身がコロニーを照準していた。バスク大佐は特殊弾頭と言った。薄々、気が付いていたことがある。トリントン基地から奪取されたと思われる核弾頭、そしてコンペイトウでの観艦式を襲ったジオン残党による核攻撃。

 

 なぜあの日あの場所にガンダムがあったのか。

 シールドとして使えないという触れ込みの謎の装備。

 ──核兵器が、このガンダムには積まれている。

 

 条約違反の装備。でも。

 コロニーが地球に落ちれば、今度こそどうなるかわからない。

 シドニー、人の営みを一瞬にて消しさられたあの地獄の光景を、また作り出すわけにはいかない。

 

 でも、これを撃てば、コロニーに住む1000万の人々はどうなるの?さっきの親子は……?

 見てしまった、知ってしまった。見なければよかった、知らなければよかった。これまで見て、出会って来た人たちが私を非難するように見つめていた。

 

 お父さん!?お母さん!?なんでそんな目で私を見るの!?

 見てないで助けてよ!

 私はどうすればいいの!?ねぇ!?

 誰でもいい!誰か!誰か、助けて────

 

『撃たんか!!中尉───!!』

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 その日、連邦軍の必死の抵抗によりその質量の70%を喪失したコロニーは、しかし連邦軍の奮闘むなしく地球の北米大陸へと落下した。

 死者、計測不能。

 時は宇宙世紀0083。人類は未だ、進化の途上にあった。

 まだ人は、過ちを繰り返す──




人の叡智が作ったものが人の命を救いました
ご愛読ありがとうございました!
次回からは鬱クラッシャー・ジムがスタートです。
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