スガスバ放送局   作:こども

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第一回

 大人になるまでに幾つもの別れを体験した。

 その全てが満足のいくものとはならなくて、心にしこりを残したものもあったが、だからといってやり直したいかと問われたら胸を張ってノーと言える。虚勢や強がりなどではなく、心の底から首を横に振ることができる。

もちろん後悔はあるが、それでも、決して間違いなんかじゃなかったから。

無駄なことでは断じてなかったから。

 正解なんて見当もつかないが、そう信じている。

 

 

『私ね、このままプロになろうと思うんだ。どこまでやれるか分からないし、一人じゃ不安だから……ううん、不安だけど一人で頑張ってみる。だからね……その…………待っててもいいかな?』

 

 カルガモのように後ろをついてくるばかりだった咲はいつしか隣に並び、次第に追いかける存在となって、気がつけば大人になっていた。少しは近づいたと思っていた幼馴染の変化にまだ子供だった俺はまた背中が遠のいたように感じて何も言えなくなり、それでも何か言わなくてはと口を開いても言葉が続かなくて。

 そんな不甲斐ない俺に対し、咲はいつものようにまたねとニッコリ笑って先へ進んでいった。

 

 

『腑抜けたら、いくらでも喝を入れてやるからの。いつでも遊びにきんさい』

 

 どうせお前は何があろうと諦めたりしないんだからうじうじしてる時間が勿体無いとまこ先輩は背中を叩いて激励してくれた。

 どっかの誰かさんとは違って、卒業してからもOGとして見守ってくれたこの先輩は俺自身以上に須賀京太郎のことをよく分かってくれていた。たくさんの人のお陰で麻雀は強くなれたが、ここまで強くなれたのはこの人が背中を押し続けてくれたからだろう。実際、何か困った時に一番に思い浮かべるのはまこ先輩の顔だ。

 頭を深く下げて、後にした。

 

 

『最後だからぶっちゃけるけど、私はお前を尊敬していたんだ。最初のインハイが終わるまで私達を一人でバックアップしながら独学で腕を磨いて、その後も腐らず努力を続けて一年も経たずに実を結んでみせた───お前を知らない奴は努力なんて当たり前と言うかもしれんが、あのしごきを見たらきっと手のひらを返す。だから誇れ京太郎、お前はこの優希様が認めるくらいすごい男だじぇ!』

 

 赤裸々に暴露したからか、はたまた鳴りを潜めていた懐かしい語尾を使ったせいか顔をほんのり赤らめながら優希は言った。

 初めて会った時から馬があって異性ながら悪友としてよくつるんでいた優希と麻雀の話をすることはあまりなかったが、裏ではこんなことを思っていてくれたらしい。何というかその言葉だけで一生頑張れる気がして、こんなことならもっと麻雀の話をすれば良かったと後悔していると、柄にでもなく優希を誉め殺しにしていた。

 案の定柄にでもないなと言って優希はゆっくりと手を差し出し、最後は笑顔で握手をした。

 

 

『今もですが最初は特に胸ばかり見てきて、正直苦手でした。でも部活で一喜一憂を共にして、部活外でも麻雀の話をするようになって、学部は違えど同じ大学の麻雀部で鎬を削って今では一番の親友だと思っています。私のもう一つの夢、任せましたよ?』

 

 告白されたら即オーケーしてしまうくらいストライクな見た目だが、それ以上に友情を優先させたい、一生親友でいたいと思える存在が和だった。高嶺の花だと目の保養にしていた高校入学時の自分が聞けば卒倒するだろうが、今や咲や優希よりも異性として見れない存在でもある。悲しい男の性でおもちはどうしても見てしまうが。

最後の会話は和が一番少なかった。だけど一番語りあったような気がした。

 リレーのバトンを受け取るように静かにグータッチして別れた。

 

 

 ぱちん、と。

 頬に手を当てて目を閉じる。

 不思議とあの時のように誰かさんの熱を感じられたような気がして、我ながら元カノに執着している男のようで気持ち悪いなと自嘲した。和あたりが知ったら辛辣に切り捨てられるだろう。

 

 

『いってきなさい』

 

「いってきます」

 

 

 須賀京太郎。

 

 高校生活は大分前。

 

 大学生活は少し前。

 

 辛いこともありました。

 

 楽しいこともありました。

 

 色んな出会いと別れを繰り返して。

 

 

 ──────プロ雀士になったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

[スガスバ放送局 第一回] ON AIR

 

 

 

「というわけで始まりましたスガスバ放送局! この番組では今最も熱い若手プロの一人と名高い須賀プロとわたくし××局アナウンサーの花田煌が毎回ゲストをお呼びして、テレビではあまり見られない素の姿を深掘りしていくのですが、初回の今夜は須賀プロを深掘りしていきます!」

 

「………………」

 

「どうされましたか須賀プロ? プリンを食べられて激怒している荒川プロの前に出された時のようなすばらくない顔をされていますが」

 

「あぁいえ、こんなふうにスタジオでトークするのあんまりやったことないので少し緊張しちゃって───あとプリン事件*1はトラウマなんでやめてくださいマジで

 

 

 懐かしい顔触れを思い出していたせいか惚けていたらしい。茶化しながらもこちらを気遣った様子の花田先輩に対し、大丈夫ですと目で伝えて意識を仕事に切り替える。

 麻雀のプロなんだからこの番組がこけようが麻雀さえできれば問題ないのだが、花田先輩はそういうわけにもいかない。花田先輩がせっかく掴んだチャンスなのだ。大学時代に色々とお世話になった恩を返すには絶好のタイミングだろう。

 それに見た目はクールなのに中身は誰よりもキュートなあの先輩がニコニコとこの番組のことを話していたから、間違いなく今日の収録をチーム全員で鑑賞会するつもりだ。ヘタなことをすればその分ダメージが増える。

 

 ここが正念場だぞ、須賀京太郎……!

 

 

「確かにプロの方々の話題やロケによく出てこられるので気付きませんでしたが、言われてみると須賀プロがこうしてトークする場面は滅多にありませんね。これは初回から貴重な回になりそうで実にすばらっです!」

 

「いやいや、そんなこと言っても貴重な情報なんて持ってませんって。恥ずかしい黒歴史とかも一通りゴゴゴの方の宮永プロ*2に暴露されてますし」

 

「ゴゴゴの方って……分かりやすいですけども。宮永咲プロと須賀プロが幼馴染なのは有名な話ですが、お姉さんの宮永照プロとも昔から仲がよろしかったんですか?」

 

「生憎幼馴染といっても話すようになったのは中学からなんで、すぐにギギギの方の宮永プロ*3は県外に進学しちゃってたまにメールするくらいでした。それから里帰りした時にちょこちょこ遊んだりはしてたんですけど、今くらい仲良くなったのは上京してからですね」

 

 

 正確には大学に進学してから、だが。

 当時からすでに若手トップとして活躍していたくせに部室に入り浸ってからなあの人。当たり前のように寛いでる姿を見て、表の姿しか知らなかった和達が揃って呆然としているのを見て笑ったのはいい思い出だ。その後お世話係を命じられて心底同情されたが。

 

 

「なるほど、ちなみに帰郷時に宮永プロ両名と卓を囲んだりは?」

 

「してないですね。せっかくの里帰りですし、あんまり拘束しちゃうとゴゴゴの方の宮永プロに申し訳ないんで」

 

「そうでしたか、残念です」

 

「といいますと?」

 

「長野出身の若手プロ───長野セブンの試合はチケットが人気ですからね。その中でもファンが心待ちにしている試合の一つである宮永姉妹と須賀プロの一戦*4が過去に行われていたのなら、一ファンとして是非ともお聞きしたいなと思いまして」

 

 

 ほへぇー。そうなんだー。

 

 ………………ん?

 

 

すとっぷ。ながのせぶんてなんですか?

 

「長野のセブンサミット*5の略称ですが」

 

 

 ながののせぶんさみっと

 

 

「ださッッ!?誰が言いだしたんですかそれ!?」

 

「三尋木プロです」

 

「あー」

 

 

 そういえば玄さんの阿知賀のドラゴンロードもあの人が命名したんだっけ。あの人のことだからその場の思いつきで適当につけただろゆるせねぇ。

 他人事のように副部長の二つ名を笑っていたが、いざ当事者となると全くもって笑えない───というか副部長からきた『お互い、頑張ろう』のメールってそういうことだったのか!?*6

 じゃあ、あの時の優希の電話ってそんなまさか。*7

 あの三人の羨望の眼差しはもしかして。*8

 

 

「待ってたのはプロ入りじゃなくてサミット入りだった……?*9

 

「多分違うと思いますよ?」

 

「いや待って! お待ちください!! 俺なんて二部のチームなうえに一人だけ性別も違いますし、ここは実力不足の俺を抜きにして長野のセクステット*10の方がよろしいのではなくて!?」

 

「三部リーグから最速で二部上位にまで駆け上がって一部昇格も確実だそうですが」

 

「でもウチのチーム六人しかいないし、スタッフもどこよりも少ないもん……」

 

「少数精鋭ということですばらだと思いますが」

 

「ソンナー」

 

 

 これって引退まで続かないよね。まさかそんな。これから長野に帰るたびにセブンサミットの長野入りだとか、咲や照さんと話しているだけで首脳会議とか言われたら泣いちゃうんだけど。

 そんな(S)オカルト(O)ありえません(A)よね、和さん。

 

 

心の中のマイフレンド のどっち「………………(ぷいっ)」

 

 

 

「…………ッ!?」

 

「というわけで、須賀プロが限界を迎えてしまったようなので今夜はここまでです。次回からゲストをお呼びして、今回の須賀プロのように素の姿を丸裸にしていきますのでお楽しみに!」

 

「……あっ、そういえばまだゲストが誰か知らないんですけどもう決まってるんですか?」

 

「もちろん決まっておりますとも。須賀プロにもできるだけ素で話していただくために名前は教えられませんが、須賀プロのライバルを名乗るとあるプロの方です」

 

「ライバル?」

 

 

 ライバルと聞いてパッと思いつくのはやはり同い年のプロ達だが、その中で俺のライバルを自称するような奴に検索をかけても誰もヒットしない。

 だとしたら年上が濃厚なのだがそんな人いただろうか。

 

 

「本当に俺のライバルだと名乗っていたんですか?」

 

「はい。この番組で白黒つけると息巻いておられました」

 

「いや、麻雀でつけろよ」

 

「そこはまあすばらですから」

 

「便利ですねそれ」

 

「すばらっ!*11

 

 

 

 

 

[次回、須賀プロの因縁のライバル登場? お楽しみに!] OFF AIR

 

 

*1
嫌な…事件だったね…

*2
もしかして:宮永(妹)

*3
もしかして:宮永(姉)

*4
他にも長野のゴールデン対決などが挙げられる

*5
長野の七つの頂点

*6
ようこそ

*7
ようこそだじぇ

*8
(きらきら)。羨ましいです。いいなー。

*9
京ちゃん……

*10
長野の六重奏

*11
それほどでも!




<おまけ>


二部上位チーム『?館』(一部トップを目指して爆進中)

『六?』(先鋒)
『赤? ??』(次鋒) (ペア)
須賀京太郎(中堅) (ペア)
『東???』(副将)
『二??』(大将)

『L♦︎H?ND』(ピンチヒッター)
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