スガスバ放送局   作:こども

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恋する乙女よ、逞しく強かであれ

 猫が顔を洗うと雨が降る。

 ツバメが低く飛んでも雨が降る。

 世の中にはたくさんのジンクスが存在するがその中の一つに初恋は実らないというものがあるらしい。恐らく恋愛経験がないゆえに上手くいかないとされているソレは、幼馴染の彼への想いを自覚した私にとって悪夢そのものだった。

 

 彼にもっと近づきたい。

 でもその一歩がとても怖い。

 

 そんなジレンマを抱えた高校一年のインターハイ。

 彼に手を引かれ、再び牌を握ることなった私は頼れる先輩と同級生達と共に全国へ行き、並み居る強敵達を倒して団体戦で日本一になった。長年確執のあった姉に思いの丈を全部ぶつけて仲直りできたし、今まで牌をあまり握らず私達のサポートに徹してくれていた彼とも積極的に打つようになった。

 

 何もかもが順風満帆で、有り体に言えば最高だった。このまましれっと恋仲にもなれるんじゃないかと浮かれてしまっていた。

 

 

 

 

 幼馴染面をしている姉の姿を見るまでは。

 

 

 何処の世界に冷戦状態の妹の幼馴染とメールをしあう姉がいるのだろうか。この事実を知ったのが仲直り直後じゃなかったら、その場で取っ組み合いの大喧嘩になるところだった。あの時の私は笑えていただろうか。*1

 昔から好きなものがよく被っていたが、好きになる異性も例外ではなかったらしい。

 

 とにかく。

 私の前で厚かましくも彼に甘えている姉を見て私は吹っ切れた。

 ジンクスがなんだ。ジレンマがどうした。

 そんなもの幼馴染の私には関係ない。

 

 

 

 何があろうと(誰が相手でも)京ちゃんの隣は(その場所は)私のものだ(渡さない)

 

 

 

 

 ○ △ □

 

 

 

 

『いやいや、そんなこと言っても貴重な情報なんて持ってませんって。恥ずかしい黒歴史とかも一通りゴゴゴの方の宮永プロに暴露されてますし』

 

「…………むむむっ。京ちゃんめ」

 

 

 日曜の昼下がり。

 事務所の大型のテレビの前にて。

 

 あんまりな呼び名に思わず画面に向かって苦言を漏らしてしまった。画面に何と言っても向こう側の彼には届かないし、今ここで怒っても不毛でしかないのは分かっている───分かってはいるが、体の内側から溢れる感情を止められなかった。

 エンタメとしてそう言ったんだろうけど、だとしても幼馴染の女の子のことをゴゴゴで表現するのはひどいと思う。私達の仲はみんな知ってるんだから普通に下の名前でよべばいいじゃないか。そんなに幼馴染の私よりテレビの仕事が大事なのか。

 

 そもそもだ。最近の京ちゃんは私を蔑ろにしていて、見ていて目に余る。やっぱり私がいないと京ちゃんはダメダメみたいだし、そろそろ昔みたいに家に行ってあげた方がいいのかもしれない。*2大学時代も私が一時離れたスキを狙って擦り寄ってきたお姉ちゃんをお世話してたみたいだし……まぁ、お姉ちゃんは所詮ギギギだし言うほど脅威じゃないけど。*3

 

 危険なのはやっぱりペアを組んでる()()()だ。京ちゃんが個人的に交流していた高校の人だからよく知らないけど分かってることだけでも、和ちゃんほどではないにしても充分ある胸、国際戦でも圧倒的だった完璧で息の合ったコンビ打ち、京ちゃんと同じチームに入るために法や友情など色んなしがらみを潜り抜けてきた行動力。どれを取っても和了るだろう。これでまだ私の知らない待ちがあるのだろうから末恐ろしい。

 なんなの? 麻雀では地獄単騎のくせに現実では多面待ちなの?

 もしかして京ちゃんは国士無双でも作ろうとしてんの?

 

 他にも荒川プロとか鶴田プロとか私のいない大学生活で随分とまぁお楽しみにされてたみたいでさぁ───

 

 

「この女たらし」

 

「なんや? 急にモジモジしだしたん思ったら、今度は恨めしそうな顔で悪口言いはじめたで」

 

「幼馴染やしなんか思うことがあるんやないですか」

 

「ふぇっ!? す、末原さんと絹恵ちゃん……」

 

「おつかれ。なんで家やのうて事務所で見とるん? いや、別にええねんけど」

 

「お疲れ様やな咲ちゃん。色々教えてもらおう思ってスガスバ録画しとったんやけどせっかちさんやなー」

 

「あぅ」

 

 

 声が聞こえた方に振り向くと、飲み物を片手に半笑いで私を見ている同じチームの末原さんとチームをサポートしてくれている絹恵ちゃんがいた。会話の内容からして一連の痴態を見られていたようだ。死にたい。

 

 あぁ、京ちゃん。私はもうダメかもしれない。

 

 でも原因は京ちゃんだから責任取ってね。*4

 

 

「ご、ごめんなさい。その……間違えて裏番組しちゃってたみたいで、もしかしたら事務所のテレビなら誰かが録画してるかもと思って急いで確認しにきたら、本当にあって…………思わず見ちゃってました」

 

「全然えぇよっ! 咲ちゃんのピンチを救えたみたいで私も嬉しいわー」

 

 

 天使だ。うぅ、私の目の前に天使がいる。*5

 いつもありがとう絹恵ちゃん。今までたくさん迷惑をかけてごめんね。

 

 

「裏番組を録画ってなぁ。いまどきアニメでもそないなぽんこつおらへんで、咲?」

 

「ぐぅ*6

 

「あんまり意地悪せんといてあげてくださいよ末原先輩。試合前の迷子とかと比べたらかわいいもんやないですか」

 

「せやけど……そっかぁ…スガプロは高校時代に一人で咲の面倒を見てたんやなぁ。頼んだら咲のトリセツとかくれへんかな…」

 

「た、たしかに多少は迷惑をかけちゃいましたけど、お姉ちゃんなんて長野にいる京ちゃんに東京の道案内*7をさせてたらしいですし、それと比べたら私はまだ同じ長野だから……」

 

「──────(絶句)」

 

「さ、咲ちゃん? それスガプロが余計不憫になっただけやで? 罪を薄めるどころか姉妹分濃くしただけやで?」

 

「あっ」

 

「フ、フフフ。妹が妹なら、姉も姉なんか」

 

「アカン。末原先輩の目がぐーるぐるや」

 

 

 終いには頭を抱えて唸りだした末原さんを見て心が痛くなった。ほとんどの原因が私にある分余計にいたたまれない。一応弁明しておくと、これでも学生の頃よりも進歩しているのだ。実際、道が分からなくなってもスマホのナビで一人でもなんとかなっている。スマホを忘れたらどうしようもないが。

 

 そういえば似たようなことを弘世プロから言われたような気がする。さすがに今の末原さんほどではないけど、とても疲れきった顔をしていた。お姉ちゃんと違って大学に進学したらしいけど、荒川プロと鶴田プロのことを大学の後輩と言っていたからつまるところ()()()()()()()()()出身ということで……弘世プロはお姉ちゃんと強い絆で結ばれているんだろう。だからお姉ちゃんの幼馴染は弘世プロでいいよね?

 

 

 

 ○ △ □

 

 

 

「スガプロってまだスーツ着とるんやな」

 

 

 もはやトレードマークになっとるやん、と絹恵ちゃんの斜め四十五度チョップ(高校の先輩なのにいいのだろうか)でしょうきに戻った末原さんが京ちゃんのスーツを指差した。ネクタイはころころ変わっているが、スーツの方はデビューした時からずっと使ってるものだ。見た目こそやんちゃではあるが意外と物持ちは良い方なのだ。

 

 成長期のせいで制服や体操服は途中で買い替えていたものの、通学鞄や教科書とかも誰よりもきれいに扱っていた。

 

 

「ですねー。それが原因で戒能プロに目をつけられとんのに全然堪えとらんようで…私らからしたら面白いからありがたいんですけどね」

 

「普段は空気読むのに肝心なところでいっつも地雷を踏みますからね」

 

「それが()()()()に繋がった、と」

 

「はい」

 

 

 南北戦争。

 きのこたけのこ戦争に続くとも言われる仁義なき争い。

 事の発端は京ちゃんがデビュー戦でスーツ姿で現れたことだった。基本的にプロの試合では服装が自由なため多くのプロは私服で、詠さんのように着物や衣装などで試合に挑むプロは少数だ(詠さんの場合は着物が私服だが)。そんな中でのスーツは当然浮く。とても目立っていた。最初こそ緊張していたからだと流されていたが、あの幼馴染はその後も素知らぬ顔で着続けやがったのである。

 

 さて。

 これが仮に和ちゃんだったらまだ分かる。*8だがしかし、愛嬌があってノリもいい、堅物とは程遠いキャラの京ちゃんが頑なにスーツを着るのは何故なのか、業界内外で様々な憶測が飛び交った。

 

 その中でも一番有力とされたのは戒能プロに憧れてで、あくまでも憶測でしかなかったのだが、当時のファン達の間ではほぼ事実として認識されていた。というのも大学時代のインタビューで戒能プロをべた褒めしていたことがあったらしい。こういった根拠もあってまず間違いないと言われていた。

 

 

  そして ひげきが おきた!

 

 

 素直にスーツを着ている理由を聞けばいいものを、ネットの情報を鵜呑みにしたのかどうか知らないが、あろうことか戒能プロのファンなのかと聞いた人が現れたのだ。

 

 聞いた人の名は戒能良子。

 

 

 まさかのご本人登場です。

 

 

『スーツ姿とてもクールですね。もしかして私のファンだったり?』

 

『いえいえ、全然そんなことないですよ。実はこれ普通に就職するつもりで買ったリクルートスーツなんですけど、このまま使わないのは勿体無いし仕事着にしちゃおうと思いまして。着ていく服を考えるのも面倒ですしね』

 

『………………………………………へぇ』

 

『!?』

 

 

 こうして京ちゃんのスーツ姿の謎が解けるのと同時に、それぞれの出身地と所属チームにちなんでつけられた南北戦争の火蓋が切って落とされた。どうでもいいことだけどファンの比率は南北逆らしい。出身地の戒能プロはまだいいとして、京ちゃんは活動拠点なのに応援されないってどういうことなの。*9

 

 

 

 ○ △ □

 

 

 

「あの時の戒能プロ、顔は笑っとったけど目は全然笑っとらんかったな」

 

「『クール』に対して『そんなことない』って言ったとは思うんですけど…」

 

「あんなん誰が聞いてもファンであること拒絶しているようにしか聞こえへんで? 最後のセリフも、同じくスーツ着とる戒能プロも着ていく服を横着してるーって言ってるようなもんやし」

 

「おまけにチーム全員でスーツ着た写真をホームページに載せて煽っとったしな。いや、これはスガプロやなくて()()の悪ノリなんやろうけど。そういや南北戦争って今どっちが勝っとるん?」

 

「えっと……前回は戒能プロが勝ったからお互い三点です」

 

「またドローか。多ない?」

 

「どっちもリードされたら得意分野を持ち込みますからねー。この前の白くまアイス早食いも戒能プロが持ち込んだ勝負やったし、やっぱ本場生まれは違うなー」

 

「本場関係あるのかな…?」

 

「いやいや、ないやろ」

 

 

 ですよね。

 

 

 

 ○ △ □

 

 

 

『すとっぷ。ながのせぶんてなんですか?』

 

「あっ」「あ」「あー」

 

 

 別番組の話題に花を咲かせていると、画面の向こうの幼馴染はどうやら世界の闇を知ってしまったらしい。私は身近に張本人がいたから広まる前から知っていたけど、試合の映像を見ないようにしている京ちゃんからすると寝耳に水だろう。最近は長期のロケ続きで忙しいそうだし。

 

 長野セブン。通称、長野のセブンサミット。

 以前から最恐チーム長野などと言われてたりしていたけど、京ちゃん達が合流して長野出身の若手が七人に増えたことによってこの名前が定着した。ちなみに最初は長野セブンだけで、後からサミットを付け足したのは詠さんだ。思わず掴みかかってしまった私は悪くない。*10

 

 京ちゃん…強く生きてほしい…。

 一度つけられた愛称は一生消えないから諦めて。私はもう諦めた。この業界には私達なんかよりもひどい愛称をつけられている人達もいるんだから、あの人達よりはマシだと思って生きていくしかないんだよ。*11

 

 

「長野セブンはグループ名やからまだええやん。私の二つ名なんてオカルトスレイヤーやで? はよ誰かに継承したいわ」

 

「ええやないですかオカルトスレイヤー。かっこいいのに」

 

「アホか。完全に名前負けしとるやんか。むしろ私がスレイヤーされる側やんいつも」

 

「オカルト(ニ)スレイヤー*12ですもんね」

 

「そんなにオカルトスレイヤーが好きならおでこにサイン書いたろか?」

 

「まぁまぁ。相手を攻略していくスタイルの末原先輩にはぴったりの名前だし、ファンメイドのゲーム*13も作られるくらい人気ですごいと思いますよ」

 

 

 私がラスボスだったのは解せないけど。

 

 

「咲ちゃんの言う通りですよ。二つ名は人気の裏返しーなんていいますし」

 

「まぁ、私もアイツの二つ名*14と比べたらマシやと思うしかないか。流石に()()はひどいを通り越して可哀想やった」

 

「末原先輩や小鍛冶プロみたいにネタにもならんですしねー」

 

「咲みたいにもな」

 

「飛び火した!?」

 

 

 長野セブンの話だったから油断してたら急に矛先を向けられてしまい大きく退けぞってしまった。言われはじめてからもう三年以上経つけど未だに慣れる気がしない。お姉ちゃんと衣ちゃんはそういうの全然気にしてなさそうだし、他の人はどう思ってるんだろう。そういう意味では部長の二つ名の悪待ちを受け継いだ京ちゃんは勝ち組だと思う。

 

 

「あっ、もう番組終わっちゃう」

 

「『ライバルを名乗るとあるプロ』って誰のことやろ」

 

「ライバル……私、とか」

 

「打ち合わせしとらんやろ」

 

「オファーも来とらんでー」

 

 

 オファーはまだないらしい。おかしい。

 初回のゲストに一番相応しいのは私だと言うのに偉い人はそこが分かっていないのだ。もう一個の番組でもお姉ちゃんは何度も呼ばれてる*15のに私はまだ一度も呼ばれてないし、なんなら最近は試合の時しか会ってないような気があれぇ? いや…落ち着け宮永咲、大丈夫、私は幼馴染だから大丈夫…!*16

 

 

「やっぱり戒能プロやないですか? 南北戦争あるし」

 

「いや、途中で抜け駆けしたり仲間割れしたけど一晩中夜釣りしとったし、あれはライバルというより年の離れた悪友やろ。そもそもスガプロが分かってない───というか本人にも秘密なんやから、私らでも想像できる人は除外してええんやない?」

 

「なるほど」

 

「でも末原先輩、それだと一人で勝手にライバルだと騒いどることになってしまうんですけど、そんな痛いプロおるんですか?」

 

「まぁ、少なくとも私の知り合いにはおらんなー」

 

「…………………………」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ………………まさか、ね。

 

 

 

*1
引き攣っていた

*2
遊びに行きたいだけ

*3
姉も同じことを思っている

*4
怨霊化

*5
浄化した

*6
ぐうのね

*7
高難易度GeoGuessr

*8
のどっちへの熱い風評被害

*9
主に地元のローカル番組のせい

*10
返り討ちにあった

*11
下には下がいる理論

*12
ネット用語

*13
横スクロールアクション

*14
下の下の下

*15
一度も呼んだことがない

*16
自己暗示





<おまけ>


 宮永咲

 一足先にプロになった京ちゃんの幼馴染で所属は『横浜』
 社会に出て経験を積んだ結果、つよつよにはなったが代償に色々と拗らせてしまった。どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!
 京ちゃんとは遠距離恋愛のつもりで離れたはずなのに疎遠気味になってしまいあれぇとなっている。

 現在、改善に向けてスマホと睨めっこ中。


 姉に負けるとは微塵も思ってない。

 だけど、目障りだから倒す。
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