人生は小説より奇なりとはよくいったもので、我ながらオカルトちっくで数奇な道を走ってきたなと今までの麻雀人生を振り返ってみる。
入学式の後、迷子の捜索中に出会った生徒会長の勧誘を受けて入った麻雀部は、インハイの団体戦に出場するための人数合わせとこれをきっかけに照さんと和解できないかという打算で誘った咲を含めて全国クラスの強者しかおらず、高校から麻雀をはじめた俺はなんとかして彼女達に追いつこうと死に物狂いで練習していた。
最初こそ生徒会長───部長に団体戦に専念してもらうために独学で練習して伸び悩んだりしていたが、悲願の全国制覇を成し遂げ部活を引退した部長が約束通り付きっきりで面倒を見てくれるようになってからは成長を実感できるようになり、部長のコネで美穂子さんや一さんの師事を受けるようになってからは明確に強くなれた気がした。それでも上には上がいたが。
飛ばされては打ち方を見直して。
放銃しては対策を練って。
ただひたすらにこの二つを繰り返す俺を見て、優希はまるで修行僧のようだと揶揄して咲は無言でそれに頷き、まこ先輩は部長に呆れていた。和さんはそんな所探しても頭のネジは落ちてませんよ、というか外れてないわ。
とにかく高校生活は初心者の心を容赦なく壊す環境ではあったが、俺にとってはこれ以上ない最高の環境だった。これが臨海や晩成のような強豪校だったら心を壊さずにある程度は強くなれたかもしれないが、ここまで強くなることは出来なかっただろう。
大学時代は豪華というかカオスだった。
同じ高校だった和と他県ながら部活ぐるみで交流のあった二人で入部した大学の麻雀部には、かつてのインハイで立ちはだかった実力者の先輩が示し合わせたように集まっていて文字通りの魔境だった。あと何故か若手プロがいた。
俺達が一年前から成長したのと同じで、先輩達も成長というかもはや進化していて、一年生四人揃って頭を抱えた。麻雀のスタイルも性格も四人それぞれ違ったため何度も衝突したが、四人共通で麻雀の相性が悪い先輩もいて、一年生だけで対策会議を開いたりと腕を磨きつつ青春もしてなんだかんだで一番充実していた時期だった。
回想終わり。
手に持っていた珈琲を飲み干し、カップをゴミ箱に捨てて伸びをする。
高校から数えきれないほど対局してきて体力には自信があったのだが、それでもプロの舞台は疲れる。走馬灯のように学生の頃を思い返してしまうくらいには。いや、咲や照さん、大学の同期達と頭を抱えた荒川先輩達が鎬を削っている世界なのだから当たり前なんだけど。
「こんにちは、須賀さん。スカウトを断ったと小耳に挟んで焦りましたが、やはりこの世界に来られたようで安心しました。───これで貴方をコテンパンにすることができる」
これ以上居座るのも迷惑だろうし帰ろうかと思っていると、中々にアグレッシブな言葉をかけられた。
振り返るとそこにいたのは一人の女性。
漆のような黒い髪をポニーテールにして、アグレッシブとは縁遠い彼女のイメージにマッチした白を基調としたストライプ柄のワンピースに身を包む彼女は、見慣れない顔ではあったもののよく見知った顔だった。関係者以外立ち入り禁止の場所で尚且つ首からプロの証をぶら下げているのだから知っている顔でもおかしくないが、俺はプロになる前から彼女のことを知っていた。
「親友との約束を背負って私はここまで来ました」
南浦数絵。
俺と同じく二度目のインハイで開花したと言われ、お互いに優れた師と最高の友に恵まれて、同じ年にプロ入りを決めた同郷の同い年。ここまで共通点がありながら今の今まで決して交わることのなかった彼女が澄まし顔で、それでいて瞳の奥に炎を灯してこちらを見詰める。
「貴方の生き様は私にとっても眩いものではありますが、あまり前ばかり見てると痛い目に遭いますよ。だって───」
「───今の私は東場でも強い」
これが後にルーキーオブザイヤー*1を争うことになる南浦数絵とのファーストコンタクトだった。
[スガスバ放送局 第二回] ON AIR
「というわけで始まりましたスガスバ放送局! 今夜、須賀プロとわたくし××局アナウンサーの花田煌が深掘りしていく第二回にしてこの番組初のゲストはその二つ名に相応しい鉄壁の打ち回しで活躍中の日本で一番振り込まない麻雀プロ───『天王寺』*2の愛宕洋榎プロですっ!」
「よろしく頼むなー」
「なんでやねん───ッ!?」
「ええツッコミやん。さすがうちのライバル」
「すばらですね!」
「誰がライバルだ誰が」
ライバルを名乗るプロと聞いて、初めて会った時の数絵を想像していた俺の前に現れたのは、ポニーテールはポニーテールでも黒ではなく赤みがかったピンク色の髪と垂れ目が特徴的な関西人だった。
名を愛宕洋榎。麻雀を続けるうえで必ずぶち当たる障壁の一つと部長が称していた雀士の一人で、愛宕プロが高卒でプロになったため画面越しでしか知らなかったが、プロになり実際に対局してみるとなるほど確かに鋭い読みと勘を持つ手強い相手だった。そんな相手にライバルと言われるのはとても光栄なことなのだが、彼女に限っては素直に喜べない。だって漫才コンビを組まされたり、二人で過酷なロケに行かされたりしそうだもん。*3
「というか愛宕プロとはほぼ初対面ですよね?」
「なんでや!? うちとスガは熱いバトルを繰り広げた仲やろっ!」
「熱いバトルって……それなら俺はいつだって熱いバトルをしてるんですが」
「おおう……なんかカッコいいなそれ。今度、うちも言ってみよう」
「何しに来たんですかほんと……」
「ちなみに愛宕プロは番組の打ち合わせ現場に突然現れて須賀プロをボコボコにしたいとおっしゃっていたため、(面白そうなので)そのままオファーという形になりました!」
「よくそれがまかり通ったな!?」
それ普通に直談判じゃん。
それが無かったら別の人にゲストのオファーがいってたじゃん。
一体何処からこの番組の情報とか打ち合わせ場所を嗅ぎつけたんだろうか。俺ですらいつやってるのかすら教えられていないのに。どうして俺が出演する番組は俺に台本を渡してくれないの?*4
「うちの顔の広さを舐めたらアカンで? 具体的にはお前んとこのマネージャーから情報を買ったッ!」
「そういえば須賀プロのマネージャーさんと一緒に来られていたような」
「他人のマネージャーを買収しないでください」
守秘義務とか大丈夫だったんだろうか。
「それにな? うちの妹がバリバリ大活躍中のプロである姉がおるのに、目ぇキラキラさせてスガのファンやーって言いだしてん……あないな目でファンやなんてうちでも言われたことあらへんのに。これはもうスガをコテンパンにして姉の威厳を取り戻すしかないやろ! ───あ、あとここにサイン書いてくれへん? 『きぬえちゃんへ』で頼むわ」
「嬉しいですけど収録中なんで後にしてくださいよ」
色紙は一応受け取るが、この人は色紙だけ渡してどうやってサインを書かせようとしていたんだろう。*5しかもこの色紙ちょっとお高めな感じがするし、ライバルとか威厳とか色々言ってるけど最初から妹さんへのサイン目的でオファー勝ち取りやがったなこの人。それだけ妹思いなのだと思えばいいのか、ただ単に行動力の化身なのか。多分どっちもだろう。
それよりも愛宕プロの妹さんといえば、あの素敵なおもちをお持ち*6になっていた姫松の愛宕絹恵さんだ。北大阪の竜華さんと南大阪の愛宕絹恵さんでどちら派か玄さんとよくディベートをしていたから記憶に残っている。その時の討論の結論はどちらも素晴らしいだった。
「特殊な打ち方をしてるから目立っているだけで、俺は愛宕プロの方がすごいと思ってますよ? 数多のプロの中で愛宕プロほど終始安定した立ち回りをする人はいませんし、全国やプロを目指している学生さんが一番お手本にすべきプロだと思います」
「ふふん、せやろせやろ。スガのジェットコースターみたいな麻雀と違って、洋榎さんの麻雀はずっと右肩上がりで参考になるからなー。スガがうちに憧れてしまうのも分かるわー。───あ、サイン書いたろか?」
「飛ばしますよ?」
「やってみぃや」
「お、落ち着いてください須賀プロ! 確かに須賀プロのスタイルはトリッキー*7ではありますが、解説が分かりやすくて癖もないと我々アナウンサーの中でも人気ですよ。牌の教室*8の須賀プロがゲストで出演された回もすばらでしたし」
「それでも頑なに番組で俺の解説はされないし、なんなら試合の解説ですら渋い顔をされているらしいですけどね。三尋木プロくらいじゃないですかね俺の解説を歓迎してくれる人」
「そりゃそやろ。下手にスガを番組で解説してテレビの前の視聴者がマネしだしたら、日本中のご家庭のお夕飯が焼き鳥になるで。良識あるコーチやったらその番組を教え子に見せんやろうしな。ところで一番お手本になる うちに全然解説の仕事が来んのはなんでなん」
「試合後のインタビューでいつも脱線するからでは?」
「あー、解説に呼ばれても解説そっちのけで昨日の晩御飯の話とかしてそうですもんね」
「……………………………………」
「黙っちゃった」
「京太郎くんどうしよう! このままでは番組進行がっ!」
「致命傷与えたの花田先輩ですよね!?」
部長達が優勝したインハイの時から思っていたが、あまりにも打たれ弱すぎじゃないかこの人。普段は飄々とした絵に描いたような大阪人なのに。
「もうキレたで! こうなったらたこ焼き早食いで勝負や!! すばらも参加せぇ……誰が本物の大阪人か白黒つけたるわ…………!」
「いや、大阪人なら麻雀でつけろよ」
「あれ? 論点がズレてませんかこれ?」
[勝負の結果、本物の大阪人になったのは花田アナでした。次回も楽しみに!] OFF AIR
<おまけ>
「スガめ…今度会うたらボコボコにしたるからな……!」
「そんな貴女にいい情報があるのよー」
「お、お前は……ッ!?」