俺だけ新世界で銃を撃てるらしい   作:Kikurage_81

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 「ちょっと失礼します......はい、特に体に異常とかもなさそうですね。健康そのものです。すぐにでも退院していただいて結構ですよ。」

「―――ありがとうございます。」

初老を迎えているであろう、白髪白衣の治療者(セラピスト)にそう告げられ、俺は深くため息をつく。大丈夫と言われるだけ安心するべきなのだろうが、こちらからしたら得体のしれない爺さんに軽く触られただけでこれだ。素直に安心できるほど俺も能天気ではない。診察室に飾られている賞状の数々や壁の書籍を見る限り、どうやら目の前の先生は(この世界に『先生』という単語が存在するかは不明だが)それなりに経験を積んだベテランなのだろうが、それでも心配するべきことは山ほどある。考えるだけでも再入院しそうになるレベルなので、努力で一旦意識の外へと追いやる。目の前の先生は何やら虚空を手でまさぐりながら、物憂げな表情をしていた。あれも魔法か何かなのだろうか。

 

 あの後、何とか数々の単語を誤魔化しきった俺は、診察という名目で診察室に連れてこられていた。もちろん異世界のことはおくびにも出さない。変に言及して、研究対象にされてしまったら困る。

 

 そんなことを考えながら悶々としていると、再び先生に声を掛けられる。

「実は、貴方がお眠りになられていた間に、貴方のことを少々調べさせていただいたのですが...」

背筋が伸びる。今は無い、いつ戻るかもわからない記憶。俺はどこで生まれ、何をしていたのか。好奇心がないと言えば嘘になる。固唾をのんで治療者(セラピスト)の言葉を待つ。

「―――なにも分かりませんでした。貴方何者なんですか?」

「俺が聞きたいです。」

即答してしまった。そりゃそうだ、こっちは記憶を失っているわけだから。

「職業も経歴も、『技』も分かりませんでした。こんな人初めて見ましたよ。」

「―――『技』?なんですか、それ。」

「『技』も知らないのですか。記憶を失ったというのは本当のようですね。」

先生は半分驚き、半分呆れたようにそう答える。悪いな、知らなくて。

 

 

 それから先生はまるで子供に説明するかのように、この世界の仕組みを嚙み砕いて説明してくれた。曰く、この世界の魔法には2種類ある。先天的に与えられた『スキル』と、後天的にも習得できる『技』。それらを『魔力』なるもので発動し、使用する。どうやらこの国、ひいてはこの世界はどうやら魔法ですべてが回っているようで、それほど魔法はありふれたものらしい。そして往々にして―――と先生は言っていた―――技よりもスキルのほうが()()()()()、とのこと。『魔力』は魔法を使うと減るらしいので、俺の世界で言う『バッテリー』みたいなものだろうか。そう考えると、『スキル』はLED電球、『技』は白熱電球と同じと言えるだろう。

 

 また先生曰く、『スキル』は一人一つしかなく、生まれた()()に定まるのに対し、『技』はその気になればいくらでも覚えられる。

「ただし、です。」

そこまで説明して、先生は人差し指を立て一息つく。

「大前提として、人間は千差万別です。それら人間が努力すれば全員、ないしは大部分が覚えられるものが『技』です。これがどういうことかお判りでしょうか?」

「―――すみません。俺にはさっぱり。」

先生は鋭い眼光でこちらを見据える。小さく息を呑む。

()()()()()()()。『()()。」

 

「『魔力』というものは、人間の体に根付いた複雑なものです。当然『魔力』の扱いも人それぞれ。生まれ持った『スキル』以外の魔法は、基本的に習得が難しく、それ故に『技』とはスキルに比べて今だ単純なのです。」

―――なるほど納得だ。よく考えてみればみんなで同じことをしたとして、全員が同じようにできるわけではない。それが『技』の発展を妨げている障害なのだろう。そう考えると、この世界における『スキル』の比重はとてつもなく大きなものになってそうだ。

 

 ―――ふと。一つの疑問が浮かぶ。

「先生、一つ質問いいでしょうか。」

「ん?いいですよ。私が答えられる範囲でなら、喜んでお答えいたします。」

「ありがとうございます。先生は、どのようにして俺の『技』を確認したのでしょうか。」

「ああ、簡単ですよ。『技を確認する技』を使っただけです。」

...なるほど、盲点だった。『技』があるなら、『技』を確認する『技』だってあって構わないだろう。

 

 そうなると気になってくるのが俺の『スキル』だ。この世界では全員が『スキルを生まれ持っているらしいが、俺はこの世界の住人じゃない。果たして、俺のスキルは何なのだろうか。

「それならば、『スキル』を確認する『技』とかはあるのでしょうか?」

「残念ながら、『スキル』は『技』では確認できません。その人の本質ともいえるものですから。付け焼き刃の『技』程度では判別は不可能、というのが近年の研究の結論だそうです。」

私もよく知らないんですけどね、と笑いながら先生はいう。優しい笑顔だ。それを受け、俺もつられて笑ってしまう。一度笑い始めると、もはや止まらない。起きて以降一度も休まらなかった頭は、これ以上考えるにはすでに疲れすぎた。しかしやはり笑いはいいもので、今までうんうん考えていたもの、受け入れがたかった事たちが自然と自分の中に入ってくるような感覚がした。

 

 「ですので、普段は生まれたら鑑定者(アプレイザー)と呼ばれる方たちに判断していただくのが普通です。彼らは『スキル』を鑑定する『スキル』を持っていますので。そうだ、よろしければ紹介状を書きましょう。普通だと生まれた時にしか鑑定してくれないのですが、貴方も『スキル』がわからなければ生きづらいでしょう。」

「よろしいのですか?それならば是非いただきたいです。」

先生は朗らかに笑い、そうおっしゃった。もちろん断る理由などないので即答しておく。俺はすでに、このすべてを全く知らない新世界にワクワクし始めていた。

「わかりました。それならば今から書きますので、もう退出されて結構ですよ。紹介状は後ほど窓口でお渡しいたします。細かい案内などもそこでお尋ねください。これからはまず彼らを訪ねるとよいでしょう。もしかすると『スキル』の判明によって何かを思い出せるのかもしれません。」

「ありがとうございます。先生のおかげで何とかやって行けそうです。」

「ハハハッ、そう言われると治療者(セラピスト)冥利に尽きますよ。お大事になさってください。お疲れさまでした。」

「ありがとうございます。失礼します。」

立ち上がり、先生に一礼して診察室を出る。先ほどひとしきり笑ったおかげか、見知らぬ世界に一人放り込まれても、俺ならなんとかなると楽観できた。

 

 

 ―――その楽観が10分後に会計の窓口で粉々に砕かれることを、この時の俺は知らない。




先生は糸目です。これは筆者の解釈なので100%正しいです。
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