SAO//G.U.  黒の剣士と死の恐怖   作:夜仙允鳴

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何とか間に合いました
どうぞ


Fragment B《妖精ノ世》

2024年 12月

 

「どういうことだ! 未帰還者だったプレイヤーは全員解放されたんじゃなかったのか!?」

 

信じることの出来ない言葉に、思わず声を荒げる。

 

「どうもこうもない。残念ながら言葉通りの意味だよ。十一月七日。君を始めとした大半の未帰還者は、リアルへと無事帰還した。だが、約三百人のプレイヤーが、未だ眠りについたままだ」

 

感情を抑えられていない俺とは対照的に、拓海の声音はどこまでも冷静だった。

その温度差の所為か、発憤しそうだった激情がなりを潜めていく。

 

「…………悪ぃ、取り乱した」

 

「いや、君も当事者の一人だ。仕方あるまい」

 

少し長い話になるからと、少人数での会談か何かに使うのであろう、部屋に備え付けられているソファへと場所を移した。

 

「順を追って説明しよう。先ほども言ったことだが、この事は君達大半の未帰還者が覚醒したすぐ後には判明していたことだ。が、今日まで君に話さなかった理由は二つ有る」

 

「理由?」

 

「一つは単純だよ。目覚めたばかりで日常生活もままならなかった君に、無暗に負担となる様な話を私達がしたくなかった。君にとっては、大きなお世話と言えるものかもしれんがね」

 

言って苦笑する拓海。私達、ってことは、多分令子さんは勿論、智成辺りも知っていたんだろうな。ふと、智成のテンションが高かったのはそれを隠そうとした所為だったのかと、あの日のことを思い出す。まぁ、アイツのことだから普通にいつもの通りのテンションで来ただけかもしれないが。

 

「んなことねぇよ。実際さっき聞いてキレかけたからな。あん時に話されてたら確実にキレて直ぐに貧血でぶっ倒れてたのがオチだ。リハビリなんてやってられる精神状態じゃなくなってたろうしな」

 

「そうか……では、二つ目だが。こちらはもっと現実的な理由だ。当時、日本全国で未帰還者であった数千人が一気に目を覚ましたことで、この件に関するモノだけでなく、様々な情報が錯綜していてね。未帰還者の社会復帰等に時間が割かれ、非常に気にはなる案件であったが、すぐには手を付けられないどころか、詳細を調査することすら儘ならない状態だった」

 

「だった……か。で、今日俺をここに呼び出したってことは、その調査がある程度進んだってことだな?」

 

「ああ、その通りだ」

 

唇の端に笑みを作りながら頷いて見せる拓海。

そこで、一つ疑問が鎌首を擡げる。

 

「でもよ、なんで俺なんだ? 俺に話したってことは何らかの形でこの件に協力しろってことだろ?」

 

「無論だ。申し訳ないとは思うが、君の力を借りるために呼んだのだから」

 

「ああ、それはいいんだよ。むしろ俺個人としては関わらせろって感じだからな。でもよ、確かに俺はSAO事件当事者の一人っちゃあそうだが、言っちまえばそれだけだろ。別に智成みたいにNABの調査員でもなけりゃ、お前みたいにネット産業を支える一企業のトップって訳でもねぇ。そんな一小市民でしかない俺に、しかもお前からその話が来るのはなんでだ?」

 

「ふむ、もっともな意見だ。君が言いださなくても、それも含めて話すつもりだったが」

 

先ほどよりも深く頷く拓海。

話の腰を折られたせいか、微妙に言葉尻に嫌味っぽいものが混じってるが。

 

「質問に答えるとしよう。単刀直入に言ってしまえば、この依頼は公的機関、つまり国家権力によって作られた組織からではなく、私個人からのモノだからだ」

 

「はぁ? じゃあ何か? お前は今勝手に動いてるってことなのか?」

 

「そうなるな。と言うより、元々私もCC社も、組織に所属しているわけではないから、初めから勝手に動いているのだが」

 

「はぁ? なら、情報の出所はどこだってんだよ?」

 

突然のカミングアウトに開いた口が塞がらない。

いや、まぁ、冷静に考えれば大企業のトップであろうとも知っていて問題ないような情報ではないことは判る。が、八咫としての印象が未だに強い所為か、知っていて当たり前のようにスルーしちまっていた。

 

「人の口には戸は立てられないと、よく言うだろう?」

 

「……あー、つまりリークされたもんだってことね」

 

名前を敢えて言わずとも、誰かは判る。大体とかじゃなく、完全に断定の領域だ。

 

「これにも真っ当な理由があるのだよ。その組織自体に些か問題が有ってね。成り立ちから話そうか。判っているとは思うが、彼の組織は本件の為に作られたのではなく、二年前にSAO事件解決のため、政府主導の下、NABと警察で結成されたモノがそのまま解決を引き継いだだけだ」

 

それはそうだろう。別の案件になりつつあるとは言え、大本の原因は茅場晶彦によって起されたあの事件なのだから。

 

「しかし、この組織には途中からもう一つのファクターが追加されることになった。それは事件が発端となり経営が急速に悪化した《アーガス》を買収した企業、《レクト》だ。アーガス買収に成功した直後、レクト側から捜査協力と称して政府に話を持ちかけたそうだ」

 

「それと問題とやらに関係があんのか? 聞いてる限り当たり前の行動だけどよ」

 

「それがあるんだなっと」

 

不意に聞きなれた声がした方に視線をやると、想像通り、拓海に情報を流していたのだろう人物が、ノックもせずに開けた扉から顔を出していた。

 

「智成?」

 

「おっす。悪いな、少し遅れちまった」

 

「遅いわよ、智成君」

 

「すいませんって、令子さん。そう目くじら立てないで下さいよ」

 

言いながらこちらに来て、どっかりとソファに腰を下ろす。

特に驚いた様子のない拓海と令子さんを見る限り、智成がこの場に来るのは規定事項だったらしい。それならそうと初めに言っておいて欲しいんだが…………今さらだろう。

 

「続けても?」

 

「あ、ああ、悪ぃ」

 

俺が呆けている間、今までの流れを智成に説明し終わったらしい拓海に声を掛けられてどうでもいい思考を切る。

 

「では。彼が言った通り関係はある。君達SAO事件の被害者の中で、何故約三百名の未帰還者が未だ目覚めないのか。その原因を調べる過程で、十一月七日、君達が解放された瞬間のデータの調査が行われた」

 

NAB(俺たち)が……てか、対策本部で解析した時は結局なんも判らなかったんだけどな。ちょいと気になって、データちょろまかして別口で再調査してもらったんだ」

 

「別口って?」

 

「君も良く知っている者だ。ことネットワークの情報に関しては《彼》の手腕に疑いは無い」

 

「ああ……アイツね」

 

拓海の言う《彼》を察して何となく気分が萎える。言っちゃなんだが、俺はぶっちゃけ苦手だ。

 

「その再調査の結果、大量のデータが自己崩壊を起こしているどさくさに紛れて、約三百名の情報接続先が書き換えられていたことが判明した。その書き換え先というのが――」

 

「――《アルヴヘイムオンライン》、通称《ALO》。アーガスを買収したレクトの子会社、《レクト・プログレス》が、お前らの眠っている間にサービスを開始したVRMMORPG、そのメインサーバーだ」

 

「……なるほどな」

 

拓海を引き継いだ形で言った智成の言葉で、頭の中でピースが重なった。

 

「判っただろう? この事件の首謀者もしくは内通者がいる可能性がきわめて高い組織では、解決には至れないと彼は判断して私に情報をリークし、個人的な友人である君に協力を仰ごうと考えたわけだ」

 

「判った。勿論協力は喜んでする。けどよ、具体的には何をすりゃいいんだ? それにそこまで掴んでんのに行動に移してねぇってことは、まだ何か問題があんだろ?」

 

「後者から話そう。君の言う通り、まだ問題は有る。残る未帰還者たちの意識が囚われている場所がALOメインサーバー内だと判ったまでは良いんだがね、詳細までは判明していない」

 

「ハッキングでもして確かめたいところなんだけどな。如何せん一番に優先すべきは未帰還者達の命だ。誰が首謀者なのか、それと関わっているのは何人いるのか、その辺がハッキリするまで迂闊に手を出せないってのが現状だよ」

 

「私達はそちらを捜査していくことになる。私は独自の伝手を使って。彼はNAB調査員の権限と、NAB内の信用出来る者たちを使って。各々進めていく手筈になっている。つまりは外からの調査だ。そして、君に行って欲しいのは内からの調査」

 

「内から?」

 

「そう、内から。つまり、アルヴヘイムオンライン内で調査を行ってもらいたい」

 

「ま、要するにALOをプレイして、そん中で色々と調べ廻ってくれってことだな」

 

智成の言葉に合わせて、令子さんから《Alfheim Online》と書かれたパッケージを手渡される。

 

「それがアルヴヘイムオンラインのソフト。基本的にはVRハードの次世代機《アミュスフィア》でプレイするものだけれど、機能面に大きな差があるわけではないから、ナーヴギアでも起動、プレイは可能よ。気になるならアミュスフィアをこちらから提供するけれど」

 

「いや、ナーヴギアで出来るんなら別にいい。けど、実際意味あんのか? 特に権限もない、しかもデフォステのプレイヤーに探れる範囲なんてたかが知れてるぞ」

 

懸念要素を口にする。勿論出来る範囲で調査はするが、それでも限界はあるし、大して情報を掴めない可能性も多分にある。

 

「構わんさ。出来ることはすべてやっておきたい。たとえ何も判らなくとも、全くの無駄になる調査などないよ」

 

それに、と続ける。

 

「かつて私も関わり、勇者カイト率いる.hackersが解決した2010年の事件。君達と共に戦った2017年の事件。そして亮、君が巻き込まれた先の事件。いずれもネットゲームが発端であったこれらの事件だが、大なり小なり外からの働きかけがあったとは言え、実際に解決したのは内側、ゲームをプレイしていた者達であり、その行動だ。そうだろう?」

 

「だから今回も、そうならないとは言いきれないってことだ」

 

「確かに、そうだけどよ」

 

事実なだけに反論できない所だ。

 

「ふむ、では、今日の所はこれまでとしておこうか。次に情報交換をする日時は後日連絡しよう。それから亮、君の他にも内部調査の協力者の候補が三名いる。確定次第そちらも連絡するので、調査を開始するのはそれを待ってから頼む」

 

「あいよ」「了解」

 

智成と二人、各々返事をして解散した。

 

 

 

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「はぁ……そろそろクリスマスかぁ……」

 

現実に戻ってきてから早一ヶ月。リハビリだのなんだのから解放されて、やっと退院できたのが先週。家族が病院に駆け付けたり、友達が見舞いに来たりと何かと騒がしかった日々が終わって、ふと気が付けば再来週にはクリスマス。恋人のいない女友達からコンパやらクリパやらのお誘いは来ているものの、なんとなく乗り気になれずに全部断ってしまった。

なんでかっていうと……

 

「どうやってあの鈍感誘い出そうかぁとか、考えてたんだけどなぁ」

 

とまぁ、そんなわけだ。

まさかあんな中途半端な所でゲームがクリアされるなんて思ってもいなかったものだから、どうにかして彼の鈍感野郎をイヴの夜に誘い出して過ごそうなどと一ヶ月以上も前だったのにも関わらず考えていた。

けれど、所詮は所謂取らぬ狸の皮算用というヤツか、実際には恐らくボス戦中か後にでもあったんだろうトンデモ展開でゲームクリア。私は無事現実へと帰還し、見事クリスマスの予定はご破算。無駄にアレコレ考えてたせいで他の予定を入れる気にもなれない。本当にありがとうございましたって感じ。

 

「……あぁーあぁぁ……」

 

そして両親が律儀に家賃を払っていてくれていたおかげで残っていたアパートのベッドの上で何の気力も湧かずにごろごろとグダっている現在に至ると。

このままじゃニート街道まっしぐらなのは目に見えてる。それだけは避けたいなぁとは思いつつも、なかなかやる気は起きないのだから困ったもの。

 

「こーゆー時、前はなんかしたいことはーって、考えてたっけ」

 

このまま腐っていても仕方ないのは確か。望む結果を手に入れるには行動しなければならない。種を蒔かなければ実らないのは当たり前。つまりはまず望む結果を考えなくちゃね。

 

「……したいこと。私が、今、したいこと……」

 

声に出して自問自答。二年ぶりに取り戻したこの平和だけど刺激の足りない日常(現実)の中で、私が今したいこと。私が手に入れたい実り(結果)

 

そう暫し半ば寝ながら思案して、フッと思い浮かんだ。

 

「……フフ。有るじゃん、したいこと。欲しいモノ」

 

そう、有るじゃないか。あの世界から去る時も自分で言ったじゃないか。忘れていたのは久しぶりの現実という退屈な日常の所為か。はたまた戻ってきた時から感じている虚無感の所為か。或いは私自身が行動を移す前から、無意識に不可能だと諦めていたからか。

 

まぁ、そんなことはどうでもいい。

 

今、私がしたいこと。欲しいモノ。実り(ソレ)はあの鈍感が今現在何処にいるのかを突き止めること。それこそが、この退屈と怠惰に満ち満ちた生活に終止符を打つ鍵だ。

ボス戦の時にくたばったなんて考えは微塵も湧いてこない。殺しても死にそうにないしね。

 

「よしっ……と。それじゃ、やれることから始めますかね」

 

思い立ったが吉日。善は急げ。気になることは即調査。それが昔からの私の信念だ。早速ハンドメイドのカスタムPCの電源を入れる。

 

「……フフ、待ってなさいよ」

 

PCの起動画面を見ながら、私は約一月ぶりに自身の中に好奇心と探究心、そして充実感と言う炎が灯ったのを感じ、その快感に自然と唇は笑みを形作っていた。

 

やっぱり、生きてるってのはこういう感じでなきゃね。

 

 

 

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先の会議から約二週間、クリスマスも目前に迫り、街がカップルやらケーキの予約やらで賑わってきた今日この頃。そんな中、俺は自宅のベッドでVRダイブの準備をしていた。

まぁ、準備と言ってもナーヴギアをLANに繋ぎALOのROMカードをセットするくらいだが。

 

「ああ、あともう一つやることがあったな」

 

ハッと思い出してスマホを手に取る。昨日拓海から届いたメールに予めアバターの種族を決めて返信するよう言われていたのだ。

ALOにおいてプレイヤーが所属する種族は九つ。

鍛冶と錬金魔法を司る、工匠の妖精《レプラコーン》

発掘と幻影魔法を司る、影の妖精《スプリガン》

治癒と水氷魔法を司る、水の妖精《ウンディーネ》

夜闇と暗黒魔法を司る、闇の妖精《インプ》

剛力と火焔魔法を司る、火の妖精《サラマンダー》

敏捷と疾風魔法を司る、風の妖精《シルフ》

魔獣と隷属魔法を司る、猫の妖精《ケットシー》

享楽と音声魔法を司る、音楽の妖精《プーカ》

頑健と土砂魔法を司る、土の妖精《ノーム》

 

どの種族が強くて、どの種族が弱いということはないが、それぞれに扱えるスキル、及び成長パラメータに特徴が有るそうだ。

同じ土属性魔法が得意なレプラコーンとノームでも、前者は土や石などから金属を作り出す錬金魔法や形を創り変える工作魔法を習得、熟練しやすい一方、後者は大地を操り攻守へと用いる戦闘魔法を習得、熟練しやすいetc...

 

つまるところ、ここで種族の選択を間違えると、自分に合ったプレイスタイルと全く合致しないステータスを持つアバターになりかねないということだ。まぁ、ただ遊ぶだけ、もしくは初めてMMOをやるなら感性で種族を選んで、それに合ったプレイスタイルを構築すればいいんだが。

 

そんな訳で、俺が選んだ種族は闇妖精《インプ》。広域殲滅や干渉魔法、その他色々と特殊な効果を持つ闇魔法を得意とする点で《スプリガン》との二択まで絞った末、ステータスがAGIに秀でる代わりにSTRが若干伸びにくい《スプリガン》よりも、DEFが脆いものの他のステータスは全て平均よりも少し伸びやすいこちらに惹かれた。よく言えば比較的万能、悪く言ってしまえば器用貧乏で、非常に尖ったステータスを持つ他種族の専門分野には生半可なプレイ時間では勝てない廃ゲーマー向けの種族だと聞いて決めた訳ではない。そんなことは絶対にない。重要な事だから二回言った。

 

「って、俺は一体誰に対して意地になってんだよ。んなこたどーでもいいんだよ」

 

謎な電波を受信しかけたのを回避して、拓海に返事を書く。ゲームのスタート地点は選んだ種族のホームタウンだ。つまり、連絡しておかないと協力者とINしたあと何時まで経っても合流できないことになり兼ねない。そのための処置だ。

書き終えたメールを送信。

余談ではあるが、俺の持っているスマホは現実に帰還してから新調したものだ。流石にVRが本格稼働してからの二年間は他の精密機器の技術革新も進み、OSの処理速度が前の機種とは雲泥の差になっていた所為だ。とは言え、形が大きく変わっているということはない。と言うか、スマホの形も基本的な機能も普及し始めた十数年前から然程変化は見られない。どこぞのアニメに出てくるような黄色だったり緑だったりする両生物(?)な形で、グニグニ弄繰り回すとメールが打てたり、電話が鳴ると飛び跳ねたり、何故かマイクに変わったりすることもなく、画面やらキーボードやらを立体投影したりすることもない。そんなトンデモSF技術――立体投影の方は現在開発中らしいからなんとも言えんが――を見たいなら、一世紀か二世紀くらい後にしてくれ。青い猫型ロボットが出てくるくらいになれば存在してるだろう。

 

 

閑話休題(話を元に戻そう)

 

 

約束している時間は午前11時。俺はゲーム開始時点から動かなくていいとのことなのでキャラメイクその他諸々含めて大体10分程度だろう。丁度頃合いだ。

 

「んじゃ、行くか」

 

ナーヴギアの電源を入れ、頭に固定し、ベッドに横たわる。

 

「リンク・スタート」

 

そうして、俺は約一月半ぶりに、仮想世界へ意識を旅立たせた――

 

 

 

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The visual nerves connecting............OK

 

The auditory nerves connecting............OK

 

The body surface nerves connecting............OK

 

The gravitational nerves connecting............OK

 

The pain nerves connecting............OK

 

..................................................

..............................................

.........................................

....................................

................................

............................

 

All senses connecting............Complete OK

 

 

《Alfheim Online》

 

 

Welcome to Alfheim Online.

Plese input your account information.

 

Player Name 《Haseo》

 

Fairy type 《Imp》

 

First setting all completes.

I hope the best for you.

 

 

 

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――んだが。

 

「どぉおおおおなってんだぁぁああああああ!!」

 

全ての初期工程が終了し光に包まれた後、浮遊感と共に視界に洞窟の中に作られたような町が見えたのも束の間。

全てのグラフィックがフリーズし、ポリゴンが霧散。今度は闇に包まれながらどこまでも続く洞穴へと落下を開始した。

 

「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああァァァァァァァ!?」

 

 

 

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「もぉー、望が寝坊なんてするから、約束の時間に遅れちゃうじゃないの」

 

「うぅ、ごめんね、アイナちゃん」

 

「まーしゃーないわなー。久しぶりにお兄ちゃんと一緒に遊べる―ゆーて、昨日明け方近くまで興奮して眠れてへんかったからなー。遠足前の小学生かって」

 

「朔も朔よ。なんで起こしてあげなかったの?」

 

夕暮れのウンディーネ領上空をインプ領目指して飛びながら、ニヤニヤと嫌らしい笑みでボクをからかうお姉ちゃんと、頬を膨らませて可愛らしく怒っているアイナちゃんに挟まれてしどろもどろになってしまう。

お姉ちゃんもそこまで言うことないじゃないか。流石に小学生はヒドイと思う。確かに楽しみで眠れなくて寝坊したのは事実だけど。

 

「ウチはちゃんと起こしたで? 望が何時までもグースカ寝こけて起きなかっただけや」

 

「まったく、お姉さんならもっとしっかり弟のお世話をしてもらいたいものだわ」

 

「えぇー、メンドクサイわー。そない言うなら、アイナが望の面倒見ればえーやんか」

 

「あら? それは同棲の許可を貰ったと捉えて良いのかしら?」

 

「あー、ウチはかまへんけどな。それはオトンとオカンに聞かへんと。ちゅーか、せめて望が高校卒業するまでは待とうや」

 

「そんなのあと三ヶ月くらいしかないんだから、前倒ししても良いじゃない」

 

「アンタが住んどんの東京やんか。都内の大学行くようなったらええけど、少なくとも卒業までは望は和歌山居んで?」

 

「むぅー」

 

「ま、まぁ、二人ともそれくらいで……」

 

気付かぬうちになんかおかしな方向に進んでいた二人の話を中断させる。話をうやむやにされて不満なのか、むくれながら僕の腕にしがみつくアイナちゃん。歩いてる時とかならともかく、飛んでる――しかも急いでるから結構な速度で――時は飛びづらくて危ないから止めてほしいんだけど…………言うともっと不機嫌になるだろうから言えません。けど、なんだかんだ言ってこうしてる時のアイナちゃんは少し子供っぽくて、いつもの大人っぽさとは違った可愛さがあるから好きなんだけど。

え? 唐突に惚気るなって? え、えと、えと、なんかよく判んないけど、ごめんなさいって言うべきなのかな?

 

「ごめんなさい……」

 

「ん? なに唐突に謝ってるの、望?」

 

「うん、なんか謝らなくちゃいけないような気がして」

 

「ダメやで、変な電波受信したら。そういうんはどこぞの野菜嫌い電波女とかバカヲだけで十分や」

 

「そうよ、望。あの人たちみたいにちょくちょく怪電波を受信するようになったら真人間じゃなくなっちゃうんだから。私、望があんな風になるのはイヤ」

 

「う、うん、気を付けるね。でも、お兄ちゃんたちをそんな風に言っちゃダメだよ」

 

そんなやり取りをしつつもインプ領へと急ぐ。一応前回落ちた時に一回の飛行可能時間で行ける距離にいたから、何十分と遅れることはないだろうけど、それでも時間は既に11時――当たりが夕焼けなのは、ALOの内部時間と現実の時間にズレがあるから。ALOでは一日が二十四時間じゃないんだ――を回ってる。連絡している訳でもない――というかフレンド登録してないからそもそもゲーム内じゃとれない――から、すごく怒っているかもしれない。二人の口論(?)の仲裁もそこそこに、速度を更に上げた。

 

 

更に数分飛んで、もう一息でウンディーネ領を抜けてインプ領に入ろうかという所になって、急に朔がボクの肩から離れた。

 

「え? ちょ、ちょっと朔!?」

 

「なに? どうかした?」

 

不意のことでボクは止まることが出来ず、10メートルほど進んでから慌てて引き返す。アイナちゃんも同じように引き返してきた。表情は訝しげだ。

 

「ねぇ、どうしたの朔? 早くしないと――」

 

「なんか聞こえへんかった?」

 

「――って……なにかって?」

 

当たりを何か探すようにキョロキョロと見渡す朔。

 

「なぁんか、声みたいなもんが聞こえてきたような気がしたんやけど」

 

「声? 私は聞こえなかったけど。そんなのその辺にいるプレイヤーが叫んでたんじゃないの?」

 

「そうだよ。そんなことより急がないと」

 

「うーん、確かに聞こえたんやけどなぁ。しかも聞きなれた――」

 

どうしても気になるようで、腕を組んだまま何かを思い出そうとウンウン唸っている。こうしている間にも時間が気になるボクとしては早く先に進みたいんだけど…………と思っていた矢先。

 

「……………………ぃくしょおおおぉぉぉぉ……………………」

 

「――そうそう、こないな声や。いやー、スッキリ…………へ?」

 

「ど、どこから?」

 

「あ、あそこ!」

 

急に聞こえてきた声に驚きながらも音源を探し、アイナちゃんが指さす方へ視線を向けると、そこには遥か上空、明らかに高度制限以上の高さから墜落する人影が。

 

「な、なにあれ?」

 

「さ、さあ? ウチには紐無しバンジーかスカイダイビングに見えへんこともないけど……」

 

「ていうか、なんとなく見覚えのあるカラーリングな気がするんだけど……」

 

「奇遇やな、ウチもや」

 

「それに声もどことなく聞き覚えがある様な……」

 

「それにも同意やなぁ……」

 

あまりの光景に開いた口が塞がらず呆然としているボクの傍らでは、アイナちゃんと朔が何か遠い目で淡々と会話している。視界の中では人影が落ち続け…………地面に飲み込まれた。

 

「ね、ねぇ、朔、アイナちゃん。今のってもしかして……」

 

何となく思ったことを二人に聞いてみると、二人とも肯定とも否定ともつかないあいまいな感じで頷いた。信じられないのはボクも同じだけど。

 

「いやぁ、でも、んなことあるん? ここ一応まだウンディーネ領やで」

 

「そ、そうだけど」

 

「どうする? 助けに行く? もしかしたら、もしかするかもしれないし」

 

「う、うん。ボクはその方が良いと思う」

 

「ま、これで人違いゆーても、遅れた理由はできるからええんとちゃう?」

 

「人助けしてましたーって?」

 

「そーゆーこっちゃ」

 

「よし、じゃあ行こう」

 

頷き合って進路をインプ領から、さっきの人影が落ちていった数百メートル先に変更して飛ぶ。

 

数分で着いた先で立っていた人物は、僕たちの思った通り、よく知っている人。

インプの特徴である灰色の髪を、もっと鮮やかにしたような銀髪。サラマンダーの様な紅い瞳。闇色で統一された軽装の革製装備。

 

そして、カーソルに表示されたプレイヤーネームは《Haseo》。

 

「ん? なんだ、アンタら」

 

これからインプ領まで迎えに行くはずのハセヲお兄ちゃんだった。

何故か――もしかしたらやっぱりって言うべきかもしれないけど――、ランダムで構築されるはずのアバターはThe Worldのモノと酷似していたけど。

 

 

 

------------------------------------------

 

 

 

「ぬぅぅうおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

突然の叫び声で申し訳ないと思うが、俺の現状をありのままに説明しよう。

目下、スカイダイビングの勢いで空中を超速度で落下中……勿論、パラシュートは無しだ。

何を言ってるのか判らんだろうが事実だ。てか、俺にだってよく判らん。

 

「ドチクショォォォォォオオオオ!!」

 

あーあ、このままじゃ落下死になんじゃねぇのか? ログイン早々落下死とか有り得ねぇだろ。無理ゲーじゃねぇか。言っちまえば地球八個分の広さのフィールドで完全自由にブロックを壊しまくって、炭鉱掘って、ゾンビやらスケさんやらエンダー先生と死闘を繰り広げる一昔前の某ゲームで、新ワールド作った自キャラの初回スポーン地点がマグマの中だったのと同レベルだろ。完全無欠の無理ゲーだろ。あぁ、別に落下死ってだけなら闇魂とか悪魔魂とか某変態企業のゲームでもいいけど。ローリングとかバクステちょっとミスるとそのまま真っ逆様だかんなアレwwwマジウケルwww

 

え? なんでこんなに冷静に存在しない人物に状況説明してんのかって? ンなの簡単だ。あまりにも訳が判からな過ぎて思考回路が軽くショートしちまってんだよ。まぁ、あれだ。俗に言う現実逃避ってやつだ。頭の中じゃ冷静にうだうだ言ってるけど、実際にはさっきからずっと意味のない叫び声上げ続けてるっての。たぶん現実(リアル)だったらとっくの昔に喉潰れてるレベルでな。

 

おっと、そうこう言ってる間にそろそろ地面に到着だ。このままじゃグシャっと潰れたトマトになるのは確定事項だが如何せんどうにもならん。一応この世界(ALO)では羽使って飛べるみたいだが、ほんの一分かそこら前にログインしたての状態じゃどうやって飛べばいいのかなんて判らん。取説を読まなかったのかって? 悪いな、ゲーム始める前に批評は見ても取説は読まない人間なんだよ俺は。プレイングは習うより慣れろだ。初期設定が終わった後に左手でメニュー表示と飛行コントローラ操作が出来ると聞いたが、どうすれば飛行コントローラが出てくるのかが判らないんだから無意味なことに変わりない。

ふむ、あと五秒ってとこか。5、4、3、2、1、ゼ――

 

「へぶぅう!!!!」

 

――ロ。ああ、予想通りだ。落下速度と重力加速度から高度を計算するのはなんか物理系の講義で習った。完全に体感速度だったから当てずっぽうも良い所だがな。

あぁ、しっかしなんだ。ツいてねぇな。ログイン初日から唐突に明らかにホームタウンじゃない素晴らしい夕焼け空(クソッタレな所)に投げ出されて地面と熱いベーゼ(顔面墜落)を交わすことになるなんてよ。いや、死ななかっただけツいてんのか? どうやらHPも減ってねぇみたいだしな。あれか? これは全プレイヤーが遭遇する事態なのか? 仕様なのか? 必須イベントだからダメージが無ぇのか? そうかそうか、それなら仕方ねぇよな。仕方――

 

「なくねぇよ、ボケがッ!! ンな訳あるか! あって堪るか!!」

 

溜まりに溜まった鬱憤を罵声と共に吐き出して解消する。全く収まる気配はないけどな。

GMに抗議のメールでも送りつけてやろうかと、左手を振ってメニュー画面を表示させたところで、再び状況が俺の理解を追い抜いた。

HP380、MP95という数値は別に問題ない。MMOなら妥当な初期値だろう。だがその下の取得スキル欄がどう考えてもおかしい。《逆手短剣》1000、《両手剣》982、《体術》993、《料理》1000etc...《処刑鎌》を始め幾つか無くなっているモンもあるが、まかり間違ってもデフォステであっていい値じゃない。というより――

 

「SAOの時のステータスじゃねぇか、これ」

 

更にステータス詳細を表示させると、INTやらその他魔法に関するようなSAOにはなかった要素は普通に初期値だと思われる値だが、STRやAGIといったSAOから存在するパラメータは大変なことになっていた。

 

「何だってんだよ、オイ」

 

アイテム欄へ移ると、大量の文字化け。何が何だかわからんが、何かしらのセーブデータを引き継ぎ、フォーマットが合わなかった為に破損した痕跡は残っている。

挙句の果てに所持金だと思われる値もヤバい。ALOにおける相場が判らないから何とも言えないが、七桁以上の金額が安いなんて言うインフレにはなっていないだろう。

これらから考えられることは一つ。

 

「SAOのフォーマットが一部採用されている……?」

 

常識的に考えれば、殺人ゲーム同然と化していたSAOのデータを移植して使うなんてのは有り得ないことだが、残る未帰還者三百人の居場所となっているらしい所だ。そもそも正気の沙汰じゃないことをしてる人間の考えは常識で判りうる範囲ではない。

 

内部調査で判ることなんてたかが知れてると思ったが、どうにもそんなことはないようだ。

それに――

 

「ん? なんだ、アンタら」

 

どっぷり思考の海に浸かっていると、不意に上空から二つの人影が現れ、数メートル先に着地した。

 

まさかPKに来たプレイヤーか?

 

思考を中断して初期装備と思われる腰の剣に手を伸ばす。純粋な直剣は使ったことがないが、戦えないことはないだろうとその柄に手を掛けた所で、背の高い方の人影から声を掛けられた。

 

「ハセヲお兄ちゃん……だよね?」

 

「は?」

 

突如名前を呼ばれ呆けてしまう。思考が追いつかず混乱していると、声をかけてきた男――中性的な声だから確証は持てないが――が更に近づいてくる。夕日の逆光の所為でよく見えなかった姿がハッキリと見えるようなり、次いでそのカーソルに表示されるプレイヤーネームを改めて見直して、今日何度目になるのかもう判らない驚愕を得た。

 

 

「……望か?」

 

「うん、久しぶり……でもないかな。この間ぶりだねハセヲお兄ちゃん」

 

《Bou》というプレイヤーネームに、The Worldの《朔望》のアバターを彼の年相応に成長させたような姿。そして中性的なその声。まさしく、先日俺の見舞いに訪れていた望こと中西伊織がいた。

 

「お、おう、久しぶりだな。つか、ランダムエディットにしては《朔望》に似すぎじゃねぇか?」

 

「ソレ、貴方が言えることじゃないわよ、ハセヲさん」

 

もう一人、蒼銀の髪に白いゴスロリを着た女も近づき望に並んだ。

 

「ん? お前、アイナか?」

 

「ええ」

 

頷くアイナ。つか、コイツもThe Worldのアバターに似すぎだろ。どうなってんだランダムエディット。

 

「って、俺が言えることじゃねぇって?」

 

「こーゆーことや、バカヲ」

 

俺の疑問に答えるようにどこからか望に似た声と共に何かを投げつけられる。

それをキャッチしつつ声のした方、望を見る。

 

「今度は朔か?」

 

「うん、そうだけど、ボクじゃなくて……」

 

「コッチやダアホ!」

 

「アダッ」

 

いつもの様に入れ替わったのかと思い尋ねれば、望は困った様に笑い、次いで何かに額を蹴り飛ばされた。

 

「なんだよ……って朔!? お前朔なのか!?」

 

「やーと気付いたんかい。やっぱりバカヲは何時までたってもバカヲやな」

 

そこにいたのはこれまた《朔望》によく似た姿。だが、こっちは極端に小さくなっている。

 

「なんで妖精みたいになってんだよお前は。つかなんで別々に存在してんだよお前らは。てかそもそもなんでお前らがここに――」

 

「なんでなんでうっさいわ!! いいからその鏡で自分の顔見てみぃ!!」

 

「あ?」

 

質問を封殺されては仕方ないので、さっき投げ渡されたもの、手鏡を見てみると、そこに映っていたのは――

 

「オイオイ、マジかよ。つかまたかよ」

 

――銀髪に紅眼。まごうことなき《ハセヲ》の顔。奇しくも、SAOの初日と同じような状況になっていた。

 

「あーもう、付いていけねぇ」

 

完全に思考を放棄。意味が判らん。

 

「取り敢えず、最初の二つは置いておいて。私たちがここにいる理由を説明すると」

 

「拓海さんがお兄ちゃんに言ってた協力者っていうのはボクたちのことなんだ」

 

「判ったか? このバカヲっ!!」

 

「あぁ、そう……」

 

もうどうでもよくなってきた。

 

そうして、この意味不明な状況を整理すべく、この近くに有るらしい村目指して移動を開始した。

 

ログインしてから十数分しか経っていないのにも関わらず、謎の超展開にひどく疲れた俺は、さっきまで考えていたことが意識から霧散していた。

 

――ALOに来てから感じる、欠けた半身と、それを埋めるために何かに惹かれる様な感覚を。

 

 

 

 

 

 




割と急ピッチで仕上げたので誤字脱字が多いかもです
何かありましたら感想の方まで宜しくお願いします


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