SAO//G.U.  黒の剣士と死の恐怖   作:夜仙允鳴

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大変……大変遅れました。
約三ヶ月でしょうか、お待たせいたしました(土下座
しかしエタりません。エタりませんよ。
ALO完結です。かなり長くなりましたので、前後篇に分けました

では、前篇どうぞ


Fragment G《剣語ル詞》

2025年 1月

 

 

 

「……お兄ちゃん、なの……?」

 

「……直葉、なのか?」

 

つい数日前に会ったはずの少女。その金髪に碧眼の顔が、似ても似つかないはずの義妹

(直葉)の顔とピタリと重なった瞬間だった。

 

 

 

無事に……とは言い難いが、《ヨツンヘイム》やら邪神やら、その他諸々を乗り越えてやっとのことでアルンへ辿り着きログアウトしてそのまま就寝した俺は、起きてからスグと共に明日奈の病室へ見舞いに行った。数日前にあの須郷と言う男には金輪際来るなと言われたが、吹っ切れた俺にとっては知ったことではなかった。なんとなくぼんやりしているスグを奇妙に思いつつも帰宅。スグのことも気になったが、リーファとの約束通り十五時にALOへダイブした。

数時間ぶり再会して間もなく、リアルで失恋したのだというリーファの話を聞き、少しでも彼女の力になれればと慣れない励ましの言葉を口にした。その後、『ママがいます』というユイの言葉に従いアスナと会うためにシステム限界まで上昇した俺は、ユイがシステムに干渉して呼びかけたのが功を奏したのか、降ってきたシステム管理者用のアクセスコードを手に入れた。そのアクセスコードをユイの呼びかけに答えたアスナが落としてくれたものだと信じて、リーファの静止を振り切りグランドクエストのポイントであるドームまで行きクエストを受諾。無謀にもたった一人で挑んだ俺は、迫りくる大量のガーディアンに負けて死んだ……筈だった。俺のHPが全損したところで駆けたリーファが、キリト()のエンドフレイムを回収し、ドームを離脱。蘇生アイテムを使用してくれたことで復活した。そこまでして助けてくれた彼女には申し訳なかったが、それでもアスナの下に行かねばと再度クエストへ挑もうとして俺が漏らした言葉に、リーファは反応を示した。驚きと言う形で。

 

『もう一度あそこに行かなくちゃいけないんだ。彼女の……アスナの元へ』

 

そして、今度は俺が、リーファの告げた言葉に固まる番だった。

 

 

 

「……酷いよ……あんまりだよ、こんなの……」

 

そう、涙を流しながら俯いたまま首を小さく左右に振るリーファ……いや、スグ。

左手を振ってメニューを出して直ぐにログアウトボタンを押そうとした彼女の手を、見知らぬ女性が止めていた。

 

「……え?」

 

「はぁ……久しぶりの再会は楽しく迎えたかったのだけれど……そういう雰囲気でもなさそうね?」

 

そう言って俺に視線を向ける蒼銀の髪をした女性。気付けばその女性だけでなく、はぐれたはずのアルゴ達や見知らぬ青年、そして疲れた様な顔をしたアイツがいた。

 

「まぁた修羅場みたいだネ、キー坊」

 

「ったく、次から次へと……どんな状況だっての」

 

「あ、アンタはっ……!?」

 

「あら? 貴方達、やっぱり知り合いだったのね。まぁいいわ、そこのスプリガンさん?」

 

「は、はい!?」

 

様々なことが同時に起こり過ぎて処理限界を起しているところに、突然現れた女性に絶対零度の眼差しで声を掛けられて思わず声が裏返った。なまじ整った顔立ち――アバターだけど――なだけに、そこから作り出された無表情は非常に怖い。

 

「何故リーファが泣いているのかは判らないのだけれど、取り敢えず彼女は借りて行くわ。事と次第によっては、私の友人を泣かせた罪は償ってもらうわよ。行きましょう、リーファ」

 

戸惑うスグの手を取って飛んで行ってしまう女性。

身が竦んでいた俺は、返事はおろか頷くことさえもできなかった。

 

「そういう事みたいだから、ボクもちょっと行ってくるね」

 

女性の傍にいた青年が、苦笑を浮かべて言って、彼もまた飛び立つ。

そして声を掛けられた男は、溜息を吐いて頭を乱暴に掻きながら俺に視線を向けた。

 

「で? 今度は何をやらかしたんだよ、バカキリト」

 

「バカっておまっ……じゃなくて! ハセヲ、アンタ生きてたんだな!?」

 

「人を勝手に殺すんじゃねぇよ」

 

「いやだってお前、あの状況じゃあ……!!」

 

「……まぁよ」

 

そう言いながら、未だ再会の興奮が冷めない俺の頭に手を置いて落ち着けと諌めるハセヲ。

 

「今もこうして生きてんだ。俺のことなんてどうだって構わねぇだろ。それより、今お前がやんなきゃいけねぇことはなんだよ」

 

「……そうだ! 俺、アスナを……アスナを助けなくちゃいけないんだ!」

 

やらなければいけないこと。言われて咄嗟に放った言葉に、ハセヲは少し目を見開いた。

 

「……知ってたのか。いや、でなきゃALOなんかにダイブしちゃいないか」

 

「知ってたのかって……アンタこそ何でそのことを――ぐぁっ」

 

知ってるんだ、と言おうとしたが言葉は続かず、呻き声が漏れただけだった。何でかって? ハセヲが頭に置いてた手でアイアンクローをしてきたからだよ。

 

「あー、なんだ、話が進まねぇから少し黙ってろ。まぁ、知ってんなら話は早いしその通りなんだがな。今直ぐやらなきゃならねぇ事は別にあんだろ?」

「いだだだだだだ!! な、何だよソレって……あっ!?」

 

「はぁ……気付くのが遅ぇよ。ホント、アスナのことになると他のことが目に入らなくなんのな」

 

溜息と共に頭を潰していた万力から解放された。

 

そうだ、たった今スグを泣かしてしまったばかりじゃないか! バカか俺は! 大切にするって現実に還って来れたとき決意したというのに。

でも、何が悪かった? どうしてスグがあんなことを言ったのか、いくら考えても答えは出ない。

 

俺の行動の何が彼女を泣かせるという結果になったのかが判らず唸っていると、横から肩を突かれた。そちらを見ると、呆れ顔をしたアルゴが。

 

「ん?」

 

「取り敢えず、何があったのかお姉さん三人に話してみなヨ。一人で考えたり、朴念仁二人で話し合うよりも余程マシじゃないカ?」

 

「「誰が朴念仁だ誰が」」

 

「ハイハイ、良いから話しなってバ」

 

アルゴの暴言に反射的に言い返した俺とハセヲの言葉が見事シンクロするがどこ吹く風である。

仕方なしにアルゴ達と別れた後から先ほどまでの経緯を一通り話した。俺とリーファ、スグが兄妹だってことも含めて。

 

「ナルホドね……うーん、これはまた……」

 

「なんだよ、判ったのか?」

 

「うん、まぁ何となくは……因みになんだけどサ」

 

「うん?」

 

バツが悪そうに尋ねてくるアルゴ。司と昴の二人も何とも言えない表情をしている。因みにハセヲはお手上げだと言わんばかりに肩を竦めている。なんだかんだ察しの良い気がするハセヲだけど、やはり女性に関することでは女性陣程とはいかないないらしい。

 

「いやまさか、そんなテンプレエロゲ主人公みたいなことは無いと思うんだけどサ」

 

「だからなんだよ」

 

「……うん、じゃあ聞くケド。答えたくなかったら言わなくていいヨ。大分アレなことだし、マナー違反もいい所だしネ。……で、なんだけど、もしかしてふぁーちゃんって、ホントはキー坊の義妹だったりしないカ?」

 

「なっ!?」

 

まさか言い当てられるとは考えてもいなくて、驚きを隠しきれない。今までの話からどう繋げて行ったらそんなところに行きつくのか。

 

「あー、今の反応からして、もしかしたりするのカナ?」

 

「な、なん……で?」

 

「あぁ、ウン。話聞く限り、もしかしたらそうなのかなってネ。まさかとは思ったんだけどサ」

 

「本当に、そんなことってあるんだね……」

 

「事実は時に小説よりも奇なり、と言うのは判っていたつもりだったのですが……」

 

女性陣三人が全てを悟ったかのように頷いているが。俺にはさっぱり判らないままだ。というか、頼むから俺とスグが本当の兄妹じゃないって判ったことも含めて懇切丁寧に説明してくれ。

と言う訳で説明を要求したわけなんだが。

 

「……うーん悪いけど、これはオレっち達から言って良いことじゃないネ」

 

「そうですね。リーファさんのお気持ちを考えると……」

 

「うん、リーファの口から直接聞かないことには解決法は無い、かな」

 

そんな俺が相談した意味がどこに在るのかと言いたくなる答しか返ってこなかった。

 

「……ったくよ」

 

打ちひしがれる俺に見兼ねたのか、黙っていたハセヲが口を開いた。

 

「何時までもウダウダ考えたって仕方ねぇだろうが。つまりは――」

 

 

 

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「――素直に貴女の気持ちと本音をぶつけるしかないわね」

 

「……え?」

 

アイナ達との唐突の再会の直後、思考の追いつかない内に拉致されてから、何があったのかを尋ねられたあたしは、気付けば訥々と全てを話していた。

 

お兄ちゃんが本当の兄じゃないとお母さんから聞かされてから、お兄ちゃんのことを一人の異性として意識し始めていたこと。

お兄ちゃんが目を覚ましてからは、確りと自分の感情の正体を認識したこと。

けれど、お兄ちゃんにはアスナさんっていうSAOで出会った大切な人がいたこと。

気持ちが揺れている時に、キリト君に出会って、段々と気持ちが傾いていって、お兄ちゃんのことを吹っ切る気になったこと。

そして、そのキリト君こそが、お兄ちゃんである桐ヶ谷和人君だったってこと。

それが判った瞬間、頭の中が真っ白になって、ぐちゃぐちゃになりそうだったこと。

どうしていいか判らなくなって、言い方は変だけど、現実に逃げようとしたときにアイナに止められたこと。

 

洗いざらい、全部話してしまった。

 

そして返ってきた答えが、その一言だった。

 

「まぁ、以前から何となく判ってはいたのだけれど」

 

「や、やっぱり……?」

 

「ええ。前にも言ったでしょ? 貴女がお兄さんの事を話しているときの雰囲気は、恋してる人のことを話してるみたいだって」

 

「すごいね、アイナちゃん。ボクは全然判らなかったんだけど……朔は?」

 

「んー? まぁ、アイナほどちゃんとやないけどな。リーファがゆうとることが全部やないやろなぁとは思っとたで?」

 

「さ、朔にも……そんなに、露骨だった?」

 

確かに顔に出やすいとはよく言われるけど、アイナにも朔にもバレていたと判って、ものすごく恥ずかしくなった。

あたしの顔はさっきまでアイナたちに話していた時以上に赤くなっているだろう。

 

そんなあたしに、アイナは微笑みながら首を横に振った。

 

「誰にでも判る、と言う訳ではなかったと思うわ。現に望だって判らなかったのだし。まぁ、強いて言うのなら――」

 

そう言葉を止めて、アイナは悪戯っぽく、そして少し恥ずかしそうに笑った。

 

「――貴女と同じように、誰かに恋をしている女の子だから、かしらね。私も、朔も」

 

彼女にしては珍しくほのかに頬を紅く染めたアイナ。その笑顔は女のあたしから見ても、とても素敵で魅力的だった。

 

「だ、誰があんのダァホに恋しとるっちゅうんや、こんの色ボケ女!?」

 

「あら朔。それじゃあ語るに落ちているわよ? 私は誰に、とは言ってないわ」

 

「あ、あはは……」

 

自分のことも言われて怒って怒鳴る朔。そんな彼女の上げ足を取って追い打ちをかけてるアイナは、口調はいつも通りだけど、ハッキリと恋をしていると口にするのはやはり恥ずかしかったのか、照れ隠しの様に望に抱き着いて顔を隠している。そしてアイナに抱き着かれている望も、困った様に笑っているけど、その顔は確かに赤かった。

 

四人が四人、全員が顔を赤くしているという奇妙な光景が続くこと数分、顔の赤みが引いたアイナが朔との言い合いを切り上げてあたしに向き直った。

 

「さて、そろそろ話しを戻しましょうか」

 

「う、うん」

 

「リーファ、貴女はどうしたい? 全てはそれ次第ね」

 

「……あたしが、どうしたいか……」

 

あたしは……どうしたいんだろう。

お兄ちゃんと恋人になりたい? 判らない。お兄ちゃんとキリト君、どっちも好きなのは確かだけど。

もう、放っておいてほしい? 判らない。確かに、今お兄ちゃんと顔を合わせるのはとても辛いけど。

じゃあ、あたしは一体どうしたいの? どうしてほしいの?

あたしは……あたしは……

 

不意に、電子音が鳴った。ハッとなって顔を上げると、視界の端でメッセージ受信アイコンが点滅していた。

開いてみると、送信主はお兄ちゃんだった。そして書いてあるのはほんの一行。

 

『アルンの北側のテラスで待ってる』

 

「お兄さんから?」

 

「……うん」

 

「それで、決まったかしら。貴女がどうしたいのか」

 

アイナが再度問いかける。それにあたしは、しっかりと頷いた。

 

「うん……色々考えたけど、あたしはどうしたいのか、結局判らなかった。だから――」

 

腰に佩いている、あたし(リーファ)の愛刀を手に取って、前へ出した。最初にアイナが言ってくれた通り、それしかあたしには答えが見つからなかったから。

 

「――ぶつかってみる。あたしの中でグルグルしてるもの全部、お兄ちゃんにぶつけてみる」

 

「そう」

 

アイナは短くそれだけ言うと、優しく抱きしめてくれた。

 

「精一杯、貴女の気持ち、ぶつけてきなさい、リーファ」

 

「ありがとう、アイナ。やっぱり、ちょっと怖いんだ。あたし、お兄ちゃんに酷いこと言っちゃいそうだから」

 

「大丈夫。貴女とお兄さんは、たとえ本当のでなくとも兄妹なんだから。どんなことがあっても、どういう結果になっても、その繋がりが切れることなんてないわ」

 

「そっか……そうかな」

 

「ええ、そうよ。兄っていうのは、妹に対しては絶対的に甘いものみたいだから」

 

「それって、経験談?」

 

「ええ。私の兄さん、とってもシスコンだったから」

 

アイナの言葉に思わず笑ってしまった。アイナもくすくすと笑っている。

暫らく二人で笑い合って、お互い自然に抱擁を解いた。

 

「じゃあ、行ってくるね」

 

「ええ、行ってらっしゃい」

 

「ま、気張りや」

 

「がんばって、リーファちゃん」

 

「うん。ありがとう、みんな…………行ってきます!!」

 

アイナと朔と望。三人に貰った勇気を抱いて、大空に舞う。

 

 

大樹を回り込むようにして飛ぶこと数分。その姿が目に入った。

胸がちくりと痛んだけど、抑え込んでそこに降り立つ。

 

「やあ」

 

「ごめんね、待った?」

 

「いや、今来たとこさ」

 

そんな、デートの待ち合わせみたいな会話。

自然に笑えていたのは、自分でも少し驚きだった。

お兄ちゃんが何か言おうと口を開いたけど、それを遮って声を発した。

 

「ねぇ、お兄ちゃん」

 

「……うん?」

 

「試合、しようよ。この間の続きをさ」

 

「……ああ、判った。スグ、今度はハンデ無しだぜ?」

 

「うん、寸止め無しの真剣勝負で」

 

「ああ」

 

お兄ちゃんが病院でのリハビリを終えて家に帰ってきてから直ぐ、あたし達は軽く剣道の試合をした。あの時、お兄ちゃんの奇妙な構えや動作、あたしの攻撃を避けれた理由、何も判らなかったけど……今ならわかる。アレは全部、ソードアートオンラインに囚われていた二年間、お兄ちゃんが鍛え続けていた技。その凄まじさは、この数日間で何度も目にしてきた。

 

前は私が勝った。でも、今回はどうなるか判らない。

 

未だ、 あたしの中ではいろんな感情がグルグル渦巻いているけど、もう気にしない。それも

これも、全部ひっくるめて、お兄ちゃんにぶつけるんだ。

 

お互い、無言で剣を構える。

合図は無い、示し合せた訳でもない。

けれど、剣を構え、目と目が合った瞬間、どちらからともなくあたし達は駆け出し、ぶつかり合った。

 

一合、二合、三合と斬り結び、鍔迫り合いとなったところで、互いに翅を出して空に舞い距離を取った。前はあたしが押し勝ったけど、今回力負けしていたのはあたしだった。

 

「なあスグッ!」

 

「なにっ!?」

 

舞台を空中に移してから先手を取ったのはお兄ちゃん。大声で呼びかけながら、何で片手で振れているのかが判らないほど重い大剣をぶつけてくる。それを何とかいなしながら、こちらも大声で応えた。

 

「俺の何が悪かった!? 何で俺はスグを泣かせちまった!? 俺がまたナーヴギアを……VRMMOをしているのに気が障ったのか!?」

 

「違う……違うんだよ!!」

 

会話の最中にも、斬撃の応酬は止まない。

 

「じゃあ……なんだってんだ!」

 

そして、その一言が、あたしの感情を刺激した。

 

「あたしはっ……!!」

 

「くっ!」

 

再び鍔迫り合っていたお兄ちゃんを力任せに押し飛ばした。

そのまま感情に任せて体勢をやや崩したお兄ちゃんに突撃していく。

 

「あたしは……自分の心を裏切った! お兄ちゃんが好きだって気持ちを裏切った!!」

 

「なっ!?」

 

お兄ちゃんはあたしの言葉に目を見開いた。当然だと思おう。妹としか思ってなかった相手にこんなこと言われてるんだから。でもあたしは言葉も剣も止めない。お兄ちゃんもそれが判っているのか、驚きながらも回避と防御は冷静にこなしていた。

 

「でもっ! あたし達は兄妹で! お兄ちゃんには大切な人もいて! 全部忘れて、閉じ込めて! キリト君のことを好きになろうとしてた!! でも、キリト君はお兄ちゃんだった!!」

 

「っ!?」

 

湧きあがる感情の奔流を一撃毎に込めながら、叫びと共に剣を振る。けれど、一撃たりとも致命打となることは無い。

 

「好きって……そもそも俺達は兄妹だろう!? お前も自分で言ったじゃないか!!」

 

「あたしは、もう知ってるの!!」

 

「何をッ!?」

 

激流のような感情の隆起に身を任せて言葉を紡ぐ。それは、確実にお兄ちゃんを傷付ける言葉。けど、躊躇はしない。全部ぶつけるって、決めたから。

 

「あたしとお兄ちゃんは……あたしと和人君は! 本当の兄妹じゃないって! 二年も前から知ってるのよ!!」

 

「……な、んで……!?」

 

今度こそ、お兄ちゃんは動きを止めた。私がハッキリとお兄ちゃんの名前を呼んだのも原因かもしれない。けど、事実を伝えるにはこうするのが一番だと、なんとなく思った。

 

「お兄ちゃんが剣道を止めてあたしを遠ざけたのも、昔からそれを知ってたから……あたしが本当の妹じゃなかったから、そうなんでしょ!?」

 

「くっ……うぅ!」

 

完全に構えを解き掛けていたお兄ちゃんに猛然と斬りかかる。あたしはまだ、全部をぶつけきってない。

 

「だったらなんで、今更優しくするの!? あたしは、お兄ちゃんがSAOから戻ってきてくれて、昔みたいに仲良くしてくれて嬉しかったのに! やっとあたしのことを見てくれるんだって、嬉しかったのに!!」

 

気が付けば、あたしの瞳から止めどなく涙が零れていた。でも拭うことはしない。決して剣から手を離さず、攻撃の手は緩めない。そして溜まりに溜まった言いようのない膨大な感情を吐き出した。

 

「こんな現実しか待ってないなら、冷たくされてた方が良かった! お兄ちゃんのことを好きだって気付くこともっ!アスナさんのことを知って悲しむこともっ! 諦めてキリト君のことを好きになることもっ! 皆なかったのに!! もう――」

 

万感の意を籠めて放った一撃。

 

「――放っておいてよ!!」

 

けれど、やっぱり。それすらも、お兄ちゃんには届くことは無く、しっかりと受け止められた。そして聞こえてくるのは微かな声。

 

「…………ないだろ」

 

「え?」

 

その声に顔を上げ、涙でぼやけた視界に映ったのは、見たこともないような、怒りに満ちた瞳をしたお兄ちゃんだった。

 

 

 

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瞬間、全身の血が沸騰した。激情が駆け巡る。

スグは今なんて言った?

放っておいてくれ?

そんな……そんなことっ!

 

「できるわけ、ないだろうっ!!」

 

「きゃっ!」

 

刀身で受け止めていた剣ごとスグを押し飛ばす。

先とは逆の形で、俺がスグに迫る。

 

「確かに、俺はお前を遠ざけた! ガキだった俺は、それがお前をどれだけ悲しませるかも判らずに!!」

 

今でも、スグがどれだけの痛みを受けていたのかは判らない。否、判るなんて言っていいわけがない。何故なら、その痛みを与えていたのは俺なのだから。

 

そも、俺がスグを遠ざけたのは何かを意図してではなかった。言ってしまえば、真実を知ってしまった当時の俺は、表面的な心的外傷の様な物は無かったが、精神の根本的な所で、人を芯から信じることが出来なくなっていたのだ。対面する人間全て、家族でさえも、この人は誰なのだろうかと。自分を知っているのか、信じて良いのかと。軽度の人間不信の様な物。けれど、精神形成の根幹とも言える部分に抱えたそれは、呪いの様に長く俺から離れることは無かった。

 

「お前の気持ちに応えてやることも出来ない! 俺には、アスナがいるから!!」

 

その呪縛から俺を解き放ってくれたのは、他でもないアスナであり、ユイを含めた家族三人での数日間の暮らしだった。

 

それ故、現実に還ってきてから、長年に亘ってスグを傷付けていたことを理解した。だからこそ、これからは家族を、スグを、大事にしようと心に決めた。

 

「でも、だからって!!」

 

けれど、その行動さえもスグを傷付ける一因になっていた。

しかも、その気持ちに気付かず、アスナの話をし、泣きもした。それが更にスグを傷付けることになった。

過去から今現在に至るまで、スグのことを傷つけ続けた俺が、スグの受けた痛みを推し量り、理解できるなどと言えるわけが、言っていいわけがない。

 

だが、いや、だからこそ。

 

「放っておけだって!? ふざけるな! 出来るわけないだろ! そんなこと!!」

 

「!!」

 

「俺達は家族だ! お前は俺の、大事な妹だ! 何があっても、それだけは変わらない! 絶対にだ!!」

 

多くのことに気付かず、スグを傷つけ続けた俺自身に。そして放っておけのと言ったスグに。綯い交ぜ(ないまぜ)になった怒りを言葉と剣に乗せる。

 

たとえ、この世界が偽物(ヴァーチャル)でも、剣には想いが籠る。

あの鉄の城で闘ったヤツの剣がそうであったように。

俺に感情をぶつけてくれたスグの剣がそうであるように。

 

だから今度は、俺がスグにこの想いを届けよう。

 

「俺が還ってきたあの日、俺の為に泣いてくれたお前を――!」

 

「……あっ」

 

その一撃で、ガードの為に構えていたスグの剣を弾き飛ばす。

 

「――放っておけるわけ、ないだろ?」

 

その勢いのまま剣を投げ捨て、茫然としたままのスグを抱きしめた。

 

「……おにい、ちゃん……」

 

「放っておけなんて馬鹿なこと、二度と言うなよ?」

 

「……うん。ごめんなさい、おにいちゃん」

 

そう謝るスグ瞳から零れる涙を拭ってやりながら、首を横に振る。

 

「いや……俺の方こそゴメンな。今まで悲しませて。お前の気持ちに気付いてやれなくて。応えてやれなくて」

 

「ううん、いいの。あたしの気持ち、全部伝えられたから。お兄ちゃんの気持ち、全部伝わったから」

 

「そっか」

 

「うん」

 

そのまま俺の胸に顔を押し付けて涙を流すスグの頭を、ゆっくりと撫でてやる。今まで傷付けてきた分を、少しでも埋めていくために。

 

 

暫らくそうしている内に、スグも次第に落ち着いてきたところで、再び俺は口を開いた。

 

「なぁ、スグ」

 

「ん?」

 

「さっきも言ったけど、俺はアスナを救い出さなくちゃいけない。彼女が目を覚ますまで、俺の時間はあの闘いから止まったままなんだ」

 

「……うん」

 

俺の眼を見ながら小さく頷くスグ。

 

「これは完全に俺の我儘だっていうのは判ってる。でも、言わせてほしい。一緒に、闘ってくれないか?」

 

「……判った。あたしも闘う。お兄ちゃんが本当の意味で家に帰ってきてくれるために。お兄ちゃんの時計を動かすために」

 

「ありがとう、スグ」

 

「そうと決まれば……行こう、お兄ちゃん!」

 

「ああ!」

 

俺に手を差し出すスグ。その笑顔は、とても綺麗だった。

その手を取り、力強く頷く。

 

二人手を繋ぎ、再び世界樹へ飛翔した。

 

 

 

 

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「ぶつかって全部受け止めてこい、カ。ハセヲっちらしい助言だったネ」

 

「ソレ、褒めてんのか?」

 

「褒めてる褒めてる」

 

「ウッソ臭ぇ……」

 

飛んで行ったキー坊を見送りながらついさっき再会したハセヲに話しかけた。

 

彼と再会したのは全くの偶然……っていう訳でもないけど、結構偶々だった。もしかしたら擦れ違ってたかもしれないし。

キー坊達と別れて――というか強制的に別行動になって――から、仕方なしに当初の予定通り三人でアルンを目指した。特に目立った障害もなく無事アルンに着いた頃には、丁度定期メンテの時間で、取り敢えずそこでログアウト。

十五時に再集合してさぁどうしようか、と思ってた所、まるで狙ったかの様なタイミングでこの唐変朴は現れた。そこそこの人混みに中だったのにちゃんとお互い認識できるように会えたことは神様とやらがいるのであれば、今日くらいは感謝してあげてもいいかなって、そんなバカなことも思ったりした。

突然黙り込んで歩き出した私に、司と昴はどうしたのかと目を慌ててたけど。二人を奇異する余裕は無かった。

 

『……久しぶりだネ、ハセヲっち』

 

『……おう、丸二ヵ月ぶりってとこか?』

 

もしかしたら人目も憚らず泣いて飛びついちゃうかなぁ、とか思ってたけど、そんなこともなく。自分でも不思議なくらい自然に笑いながらそう口にすることが出来た。キリトに死んだかもしれないって言われたけど、私は自分で思っていた以上にこのバカの生存を信じていたらしい。

 

『帰ってくるって言ったくせに……うそつき』

 

『あー、なんだ……悪かった。でもまぁ、クリアはしたんだ。プラマイゼロだろ?』

 

『仕方ないなぁ……今度どこかで甘いもの奢ってくれたら、許してあげる』

 

『判った判った。今度リアルでなんか奢ってやるよ』

 

『うん。それなら、許してあげる』

 

口調は自然とロールではなく、本来の私のモノに変わっていた。

でもまぁ、約束は取り付けたし、そろそろいつもの(アルゴ)に戻ろう。司や昴、それにハセヲの連れっぽいカップルもいるみたいだしね。

 

だから、感動……とはいかないけど、再会の雰囲気はこれで最後。

 

『おかえり、ハセヲっち』

 

『……あぁ、ただいま』

 

SAOではいう事の出来なかった言葉。それをやっと、場所は変わってしまったけど、言うことが出来た。

 

 

そんなこんなで再会した私達は、お互いの連れを軽く紹介して――司の名前を聞いたときハセヲが妙な反応してたのは気になったけど――から、私が登録していたキリトの居場所をフレンド追跡してグランドクエストの地まで脚を運ぶことになった。なんかハセヲもソッチに用が有るみたいだったし。

で、行ってみたらまさかの修羅場展開。これは私も予想外。しかも話を聞いてみればどこのエロゲだと言いたくなるようなキリトの身辺状況。全く以て珍妙極まりないわね。

まぁ、それは置いておいて。

 

「でさ、話は変わるんだケド。オレっちやハセヲっち、それにキー坊のアバターがなんだかんだSAOの時のとあんまり変わってなかったり、スキルとかステとか所持金とかがトチ狂ってたりする理由。それにキー坊がアーちゃんをALOで探してる訳も。知ってるカナ?」

 

前々から気になっていたことを聞いてみた。アレだけのスピードで、しかも特定の目的が有る訳でもないのに各地を転々としていたのだ。何かしらの情報は掴んでいるのだろうという確信はある。それがどの程度のモノなのかは判らないけど。

 

「……その辺は当然の疑問だとは思うけどよ、なんで俺に?」

 

「オレっちの情報網を舐めてもらっちゃ困るナ。ハセヲっちの名前がALOで聞くようになるのが大体一月前。その間色々調べ回ってたみたいだしネ。何か知ってるって思うのは当然じゃないカ? CC社なんかとも繋がりが有るみたいだしナ」

 

「お前……どこまで調べてんだよ? 最後の奴とか絶対ぇ犯罪一歩手前だろ」

 

「それは乙女の秘密……ッテナ。で、どうなんダ?」

 

苦虫を噛み潰した様な顔をしたハセヲに、再度問いかけると今度は思案するように眉根を寄せた。

あと一歩ってところかしら。それなら、最後の札を切ってみることにする。これはそもそも本当なのかどうかすら怪しいけど。

 

「……もしかして、まだ目が覚めてないSAOプレイヤーがいるらしいっていう噂と、関係してたりするのカ?」

 

「……ホント、テメェはどこまで調べてんだよ。一応それ、まだ一般公開されてない筈だぜ?」

 

「あっ、ビンゴ?」

 

返ってきたのは、予想通りとも、予想外とも言える答え。多少なりとも関係は有るかもって思ってたけど、まさかドンピシャだとは思わなかった。つい素で返しちゃったよ。

けど、これでやっぱり割とヤバ気なことに片足突っ込んでるのは確信した。

 

「……っておい、ちょっと待て。今『あっ』って言ったか、『あっ』って?」

 

「……にゃ、にゃハハ~……いやぁ、何のことか、オレっちにはちょっと判んないナ~」

 

「テメェ、鎌掛けやがったな?」

 

「にゃ、にゃハッ……にゃハハハハッ……」

 

ギロリと目を細めて睨みつけられて、私は引き攣った笑みを浮かべるしかなかった。まさに蛇に睨まれたカエルの如きって感じ。いやぁ、久々に見るけど、やっぱりハセヲの眼光を直接喰らうのは精神にとても宜しくないわね。仮想世界の癖に律儀に再現してる背中に流れる冷汗と一緒に寿命が縮みそう。

暫くジト目のまま私を似た見続けたハセヲだけど、唐突に溜息を吐いて『やれやれ』と言わんばかりに首をゆっくりと横に振り、軽く私の頭を小突いた。

 

「ったく」

 

「イタっ!」

 

「イタじゃねぇ。探り入れんのも良いけど、程々にしとけよ? 痛い目見てからじゃ遅ぇんだしよ。でないと、その内ホントに公僕の世話になっちまうぞ」

 

「は~い。気を付けますよっト。オレっちもまだ手に縄はかけられたくないからナ」

 

「まぁ、判ってんならイイけどよ」

 

呆れたように……と言うか、まさに呆れてますという雰囲気でもう一度溜息を吐き出すハセヲ。なんだかんだ心配してくれてるんだろうなっていうのはよく判るんだけど――

 

「……で?」

 

「あ?」

 

「いや、事の詳細を聞きたいなぁ、と思ってサ」

 

――如何せん、何でも知りたがるのはアルゴ(ロール)じゃなくて(栞里)の性分らしく。ついつい、知的欲求――というか詮索欲求?――を抑えられない私なのでした。

 

「お前なぁ――」

 

「アルゴさん。そろそろストップ、ですよ?」

 

しつこく食い下がろうとする私に何か言おうとしたハセヲが何か言おうとしたがそれよりも先に、私の後ろにいた昴が肩に手を置いてそう言った。

 

「そうだよ、アルゴ。あまり深入りしない方が良い事も、世の中にはあるから」

 

「……つかっちとすばすばにまで言われると、なんかやっちゃいけない感じになるんだよネ」

 

「そうね。その方が賢明だと思います」

 

「わわっ!」

 

突然後ろから聞こえた声に驚いて振り返ると、そこにはついさっき知り合ったばかりの二人――一応三人なのかな?――の姿が。

 

「ビックリしたヨ、アイちー。心臓止まるかと思ったじゃないカ」

 

「あら、ごめんなさい。驚かせるつもりは全くなかったのだけれど……」

 

「アイナちゃん、後ろから突然話しかけられたら誰でも驚くと思うよ?」

 

「そうね、今度から気を付けるわ」

 

「……絶対反省してへんでこの女」

 

苦笑いを浮かべる望の言葉をさらりと受け流すアイナを見ながら、ボソッと悪態を吐く朔。すっごいジト目だ。

 

「そんなことないわよ、朔。人を性格悪いみたいに言わないでくれる?」

 

「いや、実際性格最悪やんアンタ」

 

「朔には言われたくないわね」

 

「な、なんやってぇ~! ウチのどこが性格悪いっちゅーねん!!」

 

「自覚症状が無いのが一番かわいそうな事ね」

 

「それこそアンタに言われとーないわぁ!」

 

「……止めなくて良いのカ、ハセヲっち?」

 

「いつものことだから気にすんな。止めるだけこっちの体力の無駄だ」

 

あまりにも凄い勢いで喧嘩してるから一応ハセヲに聞いてみたけど、そんな風に軽くあしらわれてしまった。これがいつものことって……まぁ、喧嘩するほどってやつなのかな?

それにしても、感情的になって怒る朔を見れば見る程とてもただのAIには見えない。キー坊と一緒にいたユイちゃんにしてもそうだし。本当にレアなモノらしいから他に見たことないけどプライベートピクシーって皆こんな感じなのかしら。

片や双子の姉で片や娘っていうトンデモ設定してるけど……気にしたら負けってやつだろうか。

 

「まぁ、朔のことなんかは放っておいて」

 

「ちょっ! なんかってなんやムゴッ!」

 

私の方に向き直って言いながら、浮かんでいた朔を引っ掴んで自分のポケットに入れてしまうアイナ。朔がかわいそ過ぎるんだけど……ハセヲとか望が反応しない辺りこれもいつものことなんだろう。

 

「さっきの話なのだけど、ハセヲや司さんが言っていた通り、あまり深入りしない方が良いですよ。闇……とまでは言わないけれど、深淵というのは意外に深いものですから」

 

「ぷはっ……ま、隠されてるのには隠されてるなりの理由があるっちゅーことやな」

 

真剣な表情で言うアイナに続いて、ポケットから這い出した朔も同じく達観したように口にした。望を見れば、何も言いはしないものの同意見だろうというのが表情から何となくわかる。

 

「『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている』カ。ニーチェかナ? まぁ、そこまで言われちゃ仕方ないネ。ハセヲっちにも釘刺されちまったサ。ケド、大丈夫そうなことは後ででもいいから教えてくれよナ、ハセヲっち」

 

「あー、判った判った。取り敢えず粗方片付いたらな」

 

と、いうわけで、この件に関する詮索はここまでにすることにした。まぁ、気が向いたらそのうち話してくれるでしょう。

それにしても、ハセヲもそうだけど司や昴、アイナに朔と望も、一体どんな経験をしてきたのか……非常に気になるところではあるわね。

追々調べてみようかな、なんて考える辺りやっぱり懲りないな私も、とちょっと自嘲。でも、こればっかりは性分だから仕方ないよねって正当化してしまおう。

 

「この話はもういいだろ。それより、思ったより戻るの早かったな」

 

これ以上何か言われるのを嫌がったのか――私的にはそのつもりは一応無かったんだけど――ハセヲがそう話題を変えてアイナに話を振った。

 

「ええ、私達はちょっと背中を押してきてあげただし、なによりリーファは強い娘だから。それに後は本人達の問題でしょうしね。貴方もそうしたのでしょう?」

 

お兄さんの方からメッセージを飛ばしたようだし、と不敵な笑みを見せるアイナ。ハセヲのことお兄ちゃんって呼んでる望の彼女――リアルでも――らしいし年下だと思うんだけど……あんまりそう見えないのよね、この娘。さっきまでの話をしてる時の雰囲気と言い妙に大人びてるというか。朔と口喧嘩してるときは割と年相応な感じもするんだけど。

 

「別に俺はなんもしてねぇよ。ただウジウジ悩んでたガキにアイアンクロー喰らわせてやっただけだ」

 

「アイアンクロー喰らわせただけ、ネェ?」

 

「ふふ、相変わらず素直じゃないのね」

 

「まーバカヲやからな。しゃーないやろ」

 

「……ウッゼェ……」

 

素直じゃないハセヲをからかう様に唇と目の端をニヤリと歪めて言ってやると、同じように追随するアイナと朔。即席にしては中々のコンビネーションね。対してハセヲはこめかみがひくついて今にも爆発しそうな感じ。これ以上やるとヤバそうだから仕方ないのでお終いにしようか。

 

「気が合いそうだナ、アイちー、朔ちん」

 

「ええ、そうみたいですね。今後とも仲良くしましょう、アルゴさん」

 

「せやな。おもろい人やわ」

 

イイ笑顔で改めて友誼を深める。リズとも気が合いそうだし、機会が有れば紹介したいところね。まぁ、そのためにはどうにかしてリアルでリズとコンタクトを取らなくちゃいけないわけだから、追々になるけど。

 

「……あの三人揃うと、本ッ当にウゼェな、オイ」

 

「ま、まぁまぁお兄ちゃん、落ち着いて、ね?」

 

そんな私たちを物凄く嫌そうに見ているのが若干一名いるみたいだけど、気にしない気にしない。

 

 

 

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やいのやいのと姦しくしゃべる女三人を傍目に今日もう何度目になるのか判らない溜息を吐いた。『女三人寄れば~』とは言うが、アレは姦しいというよりも喧しいだ。

 

「てか、アンタらはあそこに入って行かなくていいのか?」

 

ふと気になって、アルゴ達の会話に入らずに二人でいる司と昴に尋ねた。

 

「え? あぁ、うん。楽しく話してるのを邪魔しても悪いしね」

 

「わたし達はアルゴさん達ほどお話が上手じゃありませんから」

 

「別に気にしなくてもいいと思うけどな、ンなこと。まぁ、無理強いする気もねぇし、そもそも好き好んで入って行きたい面子でもねぇか」

 

「そ、そんなこともないと思うけど」

 

「確かに、皆さんちょっと変わってるかもしれませんけど……それはわたし達にも言えることでしょうし……」

 

「そうだよ、お兄ちゃん。その言い方はちょっと酷いんじゃないかな?」

 

「そうか? 少なくとも俺はあの中に飛び込んでいくのは死んでも嫌だね」

 

「うーん……じゃあ、君達が話し相手になってくれるかい?」

 

少し考えるように唸ったと思えば、司がそんなことを言ってきた。

昴の方はと見れば少し驚いているのが判る。

まぁ、二人の名前を聞いたとき何故か頭の隅になんか引っ掛かった様な気がした――そんな名前の知り合い、リアルでもゲームでも心当たりがない筈なんだが――原因を知るのには渡りに船ではある。

 

「俺は構わねぇけど……昴の方はどうなんだ? なんか驚いてるっぽいけどよ」

 

「あ、いえ。わたしもお話ししたいとは思っていたので良いのですが……司さんが男の人にそういうこと言うのって、すごく珍しくて」

 

「そうなんですか、司さん?」

 

「うーん、僕自身そんなこともない気がするけど……昴が言うならそうなのかもしれないね」

 

困ったように笑う司。口調も相まって中性的に見える彼女の儚げな笑みに、再び俺は既視感を覚えた。が、この引っ掛かりと既視感の元の記憶が何なのか一向に思い出すことは出来ない。

考えても仕方ねぇか……その内判んだろ。

 

「まぁ、なんでもいいけどよ。で、話し相手っつっても、何か聞きたいことでも有るか?」

 

「うん、取り敢えず聞きたいことが一つ」

 

ついさっき知り合ったばかりに相手だ。特に話題も思いつかず――思考放棄と言わんでもない――司に投げてみたら意外な返事が返ってきた。

 

「おう」

 

「《ハセヲ》って名前の由来って、有ったりする?」

 

「名前の由来……ですか。確かに《ハセヲ》ってちょっと不思議な名前ですよね」

 

「あ~、ボクもそれは聞いたことなかったなぁ。有るの、お兄ちゃん?」

 

「由来ねぇ……まぁ一応はな」

 

今までそこに突っ込まれたこと無ぇから、話すのは初めてだな、多分。確かにネトゲで一番手っ取り早そうな話題ではあるが……この由来、割と俺のキャラじゃねぇんだよな……。

つーわけで、取り敢えず他に投げてみることにする。

 

「因みに、アンタらの名前には由来有んのか?」

 

「うん。ボクのはお姉ちゃんが考えたんだ。ボク達は二人で一人だから、月の満ち欠けから取って《朔》と《望》にしようって」

 

「なるほど、朔が新月、望が満月、ですよね。わたしは結構単純な理由ですね。わたし、四月生まれで牡牛座なんです。だから、牡牛座のプレアデス星団っていう散開星団の和名から《昴》、と」

 

「それを言ったら僕はもっと単純だよ。名前の一部から取っただけだもの」

 

「ふーん、割と皆ちゃんとした由来有んのな」

 

「それで、ハセヲは?」

 

随分サラッと戻ってきちまった。……まぁ、面倒くさいのはアッチで話してるし、構わねぇか。

 

「……松尾芭蕉、いるだろ? 俺、ガキの頃から芭蕉の句とか読んだりしてて、結構好きでな。んで、芭蕉を読み換えて《ハセヲ》ってわけだ」

 

「幼少の頃から俳句ですか。随分大人びていたんですね」

 

「いや、単にマセてたってだけだろ。ガキの頃なんてホントにただのクソガキだったしな。よく覚えてねぇけど」

 

「ん? お兄ちゃん、覚えてないって?」

 

首を傾げる望。そういや前にもこの話リズに聞かれてしたな。

 

「まぁ、色々有ってな。ガキの頃の記憶だ。そんなモンだろ?」

 

「う、うん」

 

気ぃ遣わせても面倒だから煙に巻くことにした。初対面の人間にする話でもねぇしな。

 

「……松尾芭蕉、か。確か、彼の名前も……」

 

「ん?」

 

司が何か言ったのが聞こえて彼女の方を見てみるが、その顔は思案気だ。

 

「どうかしたか?」

 

「いや、ううん。なんでもないんだ。ただ、昔知り合いに君と同じように松尾芭蕉から名前を取った人がいたから」

 

「なるほど……俺が言うのもなんだが、そいつも大概変わってんな」

 

「うん、そうだね。彼は、変わった人だったよ……ねぇハセヲ、松尾芭蕉の――」

 

「ハセヲっち、キー坊達帰って来たみたいだヨ」

 

思い切った様な表情で司が何か言おうとしたが、丁度被せる様にアルゴが声を掛けてきて聞けずじまいだった。仕方なしにアルゴの指さす方を二人で見てみれば、確かにキリトと……確かリーファだったか、が手を繋いでこちらに飛んできてるのが見える。

 

「って、アレ? お話し中だったかナ?」

 

「まぁな。司、何言おうとしてたんだ?」

 

聞き直そうと尋ねたが、司は苦笑して首をゆっくりと横に振った。

 

「いや……彼らも返ってきたことだし、この話はまた今度にするよ」

 

「そうか、悪ぃな」

 

「ううん、いいさ。今度話すときに聞いてくれれば」

 

「おう」

 

そうして司との会話を打ち切ったところで、タイミングよくキリト達が到着した。

 

「悪い、皆。待たせた」

 

「別に構わねぇよ。その様子じゃ、取り敢えず和解は出来たみてぇだな」

 

「ああ、お陰様でな」

 

リーファと手を離し、照れくさそうに笑いながら頬を掻くキリト。

ふと気づいたようにリーファに視線を移して、そのまま俺を親指で示した。

 

「ああ、スグ……じゃなくてリーファって呼んだ方が良いか。一応紹介しとく。コイツはハセヲ。こんななりしてるけど何かと頼りになる奴だ」

 

「一言余計だっつのアホが。ハセヲだ。好きに呼んでくれて構わねぇよ」

 

「あ、よ、よろしくお願いします、ハセヲさん。リーファです」

 

「ンな畏まらなくていいっての」

 

「いやいや、ハセヲ。畏まってるんじゃなくて、お前の眼が怖くてリーファが怯えてるんだよ」

 

「ア゛?」

 

「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!? ご、ごめんなさいハセヲさん! そんなこと全然ないですから!」

 

「いや、事実だろ。お前の見た目が怖いのはさ」

 

「ンだテメェ、ケンカ売ってんのか? 買うぞ?」

 

「はぁ……リーファ、二人は放っておいてあっちで話しましょう」

 

「え? と、止めなくて良いの?」

 

「いいのよ別に。二人とも本気じゃないでしょうし」

 

俺達がしょうもない言い合いをしている間に、リーファがアイナに連れて行かれた。それを見送って、アイコンタクトを交わし口論を止める。

 

「テメェ、妹からかうダシに俺を使うんじゃねえよ」

 

「いや、判ってて乗ってくるお前も相当歪んでると思うけどな。で、あの二人、いや三人は?」

 

そう言ってアイナと望、朔に視線を移すキリト。そういやまだ話してなかったな。

 

「今リーファを連れてったのがアイナ。隣にいるのが望。で、一緒にいる小さいのが朔だ」

 

「へぇ……ユイ以外にもああいう娘っているんだな」

 

「ユイ?」

 

「ん、ああ。ユイ、もう出てきていいぞ」

 

聞き慣れない名前に疑問符を浮かべると、キリトが胸ポケットを叩いた。

 

「……ふぁ~あ。おはようございます、パパ」

 

すると出てきたのは、朔と同じくらいの大きさの女の子だった。

てかちょっと待て。今パパっつったか、パパって。

 

「何時の間に寝てたんだ?」

 

「いえ、パパとリーファさんの闘いが思いのほか激しくて……思わずスリープモードにしちゃいました」

 

「そっか、そりゃ悪いことしたな……っと、改めて紹介するよ。この娘はユイだ。で、ユイ。コイツはハセヲ。SAOの時からの知り合いなんだ」

 

「あ、そうだったんですか。初めまして、パパとママの娘のユイです。パパがお世話になっています」

 

「あ、ああ。ハセヲだ。てかパパって?」

 

「? パパはパパですよ、ハセヲさん?」

 

可愛らしく首を傾げるユイだが、さっぱり判らずキリトにアイコンタクトで説明を要求する。苦笑いを浮かべて頬を掻くキリト。

ンなことしなくていいから早く説明しろ。

 

「ああ、実はユイ、SAOのカウンセリング用AIでさ。ほら、七十五層のボス戦の前。俺とアスナが二週間くらい前線から離れてただろ? その時に出会ったんだ。それで……色々有ってさ、アスナと俺がユイの両親になることにしたんだ」

 

「……なるほどな。だが、なんでSAOのAIであるユイがALOに?」

 

「……色々有った時にユイがカーディナルに消されかけてさ。どうしても諦められなくて、GM権限のあるコンソールでシステムに割り込んで、消去される前にユイのデータをオブジェクト化して俺とアスナのストレージに保存したんだ。で、そのままALOに移ったら……」

 

「何故だかSAOのフォーマットが使われている所為で、プライベートピクシーの姿を取る形でユイを実体化出来たって訳か」

 

「うん、まぁそんな感じだ。ホントは別にプライベートピクシーの姿になる必要はないみたいなんだけどな」

 

なるほどと頷いて見せる。キリトの話の途中に割と聞き流せないような単語も有ったが、今は別に構わないだろ。

 

「それで、あの朔って娘もユイと同じAIなのか? どう見ても普通のプライベートピクシーには見えないんだけど」

 

「あぁ、なんつーか……」

 

何と答えたものか。なまじユイって言う規格外(イレギュラー)をキリトが理解してるだけに上手い言い訳が浮かばねぇ。まさか本当のことを言う訳にもいかねぇし。

そんな具合に悩んでいると、思わぬところから答えが出た。

 

「いえ、わたしとは違うと思いますよ、パパ。構成データがあまりにもわたしと異なっていますから。勿論、一般的なプライベートピクシーともですが」

 

「「え?」」

 

俺とキリトの声が重なる。つか待て。構成データって……まさか。

 

「オイ、キリト。さっきGM権限がどうとか言ってたが、まさかユイって……」

 

「あ、ああ。SAOの時からなんだけど、ALOでもシステムにある程度介入する権限は持ってるらしい」

 

「オイオイ……」

 

それ、運営にバレたら結構……つか絶対にヤバいだろ。そう言う意味じゃ朔もヤバいっちゃヤバいけどよ。

 

「まぁ、なんだ。アイツにも色々有んだよ。そういうことにしとけ」

 

「わ、判った。まぁ、ユイと友達になってくれそうな気もするし、良いか」

 

これ以上ヒントを出すとユイに解析されかねないと判断して強引に誤魔化すことにした。キリトも勝手に納得してるしいいだろ。

……実はあんなんでも多分キリトより年上だろうってことは黙っとこう。面倒な事にしかならねぇ。

 

そんな俺の謎の葛藤の一方、リーファはアイナたちと会話していた。

 

「じゃあ、ちゃんと貴女の気持ちは伝えられたのね、リーファ?」

 

「うん。あたしの気持ち、全部お兄ちゃんに伝えたよ。お兄ちゃんも受け止めて、抱きしめてくれた……ちゃんと仲直り、出来たよ」

 

「そう……良かった。頑張ったわね」

 

「ううん、アイナ達のおかげだよ。あたしだけだったら、勇気、出なかったと思うから」

 

「そんなことないわ、リーファ。貴女は強くて優しい娘だもの。そんな貴女だから、お兄さんも受け止めてくれたんじゃないかしら。それと、どうだった?」

 

「どうって?」

 

「お兄さん、シスコンだった?」

 

「ブフッ!!」

 

そう言ってチラとキリト見るアイナ。それが聞こえていた――つか、敢えて聞こえるように言ったんだろうが――キリトは思わずと言った感じで噴出した。挙句、目を細めてチェシャ猫の様に笑うアイナの視線を受けて、テンパり出す始末。

ったく、何やってんだコイツらは。

 

「え、あ、いや、何と言うか、その……」

 

「あはは、お兄ちゃん、すっごい変な顔してるよ?」

 

「フフ、おもしろいお兄さんね」

 

「てゆーかサ。ふぁーちゃん、今キー坊が気持ちを受け止めてくれたって言ったよネ。それってキー坊、浮気なんじゃないカ?」

 

「いや、違っ! そう言う意味じゃ決して無いぞ!!」

 

「パパ? さっきも昨日も言いましたけど、浮気はダメですよ?」

 

「ユ、ユイちゃん!? 違うからね! た、確かに『大事だ』とは言ってくれたけど……そういう意味じゃなくて!!」

 

「あら、やっぱりシスコンだったのね?」

 

「なんや、話聞く限り完全に変態の浮気男にしか聞こえへんけど……アンタのアニキ、大丈夫なんか?」

 

「だ、だから、そんなことないって! アイナも朔もからかわないで!」

 

アルゴを筆頭に、二人をからかいだすアイナと朔。やっぱこの三人が揃うと碌な事ねぇな。ぶっちゃけ関わりたくねぇ。司と昴の二人も顔引き攣らせてるし……。

つか、まだ一言も話しちゃいねぇが、キリトとリーファの二人、義理とは言えやっぱ兄妹だな。フォローが自爆になってる辺りそっくりだ。ユイはユイで天然かましてるし。

 

さて、このままだとキリが無ぇし、最悪コッチに飛び火しかねねぇ。そろそろ切り上げさせっか。やらなくちゃいけねぇこともまだ残ってるしな。

 

「オイ、キリトをからかうのは別に構わねぇけど――」

 

「いや構えよ!! ていうか助けろ! いえ助けてくださいお願いしますぅ!!」

 

「――うっせぇ、黙れ。そろそろやることやんぞ」

 

キリトが半泣きで懇願してきたのを切って捨ててそう告げる。

途端、空気が真面目なものに切り替わった。スイッチの切り替えが早くて助かるな。

 

「でだ。これからグランドクエスト攻略に取り掛かるわけだが……司と昴、ついでにアルゴも協力してもらいたい。構わねぇか?」

 

取り敢えずこの件に関係の無い三人にそう問いかける。リーファはキリトが説得済みでここにいるんだろうから除外だ。

 

「勿論、わたし達も微力ながら助力させていただきます」

 

「元々そのつもりで、君らに付いてきたわけだしね」

 

「だナ。てゆーかハセヲっち、オレっちだけ次いで扱いってヒドくないカ?」

 

「……だってぶっちゃけお前非戦闘員じゃねぇか」

 

「フフーン、オレっちはオレっちなりの方法で協力させてもらうサ。と言う訳で、ホイッ」

 

「ん?」

 

アルゴが投げ渡してきたものをキャッチする。何だと見てみれば丸められた羊皮紙。

恐らくALOなりのメッセージ公開アイテムだろう。クリックして展開すると、思った通りアルゴ宛のメッセージだった。ざっと目を通し、その内容を把握する。

 

「ほぅ……なるほどな。こりゃ確かに有り難いこった」

 

「ま、書かれてる通り間に合うかどうかは全く見当つかないからナ。過度な期待はNGだヨ。待ってられるほどの時間も無いんダロ?」

 

「あぁ、そん時はそん時だ。元々この面子だけでやろうとしてんだ。間に合えば御の字って位だろ」

 

周りの連中が何事かと首を傾げているが、敢えて内容は明かさない。アルゴも言った通り、過度な期待を持つべきじゃないからな。端から俺達だけで攻略するつもりでいた方が良いだろ。

それに時間にしてもそうだ。一刻も早く未帰還者救出を図るべきなのは勿論、アスナが落としたらしいアクセスコードを拾ったという話は聞いたが、それが気付かれる……いや既に気付かれているかもしれない。仮にそうであれば、一刻の猶予さえなくなっている可能性がある。悠長に待っている暇はない。

 

「取り敢えずここにいるメンバー、八人で攻略する方法を考えたいんだが……」

 

とは言え、ただ無策に突っ込んでもあのクエストをクリアするのは不可能だ。そのためにある程度策を練らなければならない。

 

「ああ、それについてなんだけど、ユイ」

 

「なんですか、パパ?」

 

「さっきの戦闘で判ったこと、何かあるか?」

 

キリトの問いを受けてユイは頷くと、キリトの胸ポケットから出てきて、全員が聞こえる位置まで移動した。

 

「あのガーディアン・モンスターはステータス的には然程脅威ではありません。皆さんのステータスと比較させていただきましたが、一対一であれば戦闘職とは呼び難いアルゴさんでも勝てるでしょう。ですが、その湧出パターンは異常です。ゲートとの距離、そして経過時間に比例してポップ量が増加し、最接近時……残り約十分の一程度では秒間二十体前後でした。あれでは攻略不可能な難易度設定をしているとしか……」

 

「だろうな」

 

ユイの説明に頷く。俺達が三人で挑んだ時に出した結論とほぼ同じだ。

 

「だが、それを攻略しねぇといけねぇわけだ。ユイ、このメンバーで一点突破で突き抜けて、一人でもいいから到達するってならどうだ?」

 

「……はい、成功率は高くないでしょうが不可能ではないと思います。先ほども言った通り、ガーディアンの湧出パターンは異常ですが、パパとハセヲさん、二人のスキル熟練度もまたかなり異常です。ですから、二人をアタッカーに陣形を組んで瞬間的な爆発的突破力を以て行えば、何とかなるかもしれません」

 

「なら、それで行くしかねぇな」

 

「……すまない、皆。俺の我儘に付き合って欲しい」

 

そう言って真剣な表情でアルゴ達に頭を下げるキリト。だが、周りは苦笑いを浮かべる奴らばかりだ。

 

「頭上げてよ、お兄ちゃん」

 

「キー坊がそういうことするの、似合わないしナ」

 

「わたし達は好きでやってるだけですから」

 

「うん、君が謝る必要はどこにもない」

 

「……ありがとう」

 

礼を言って顔を上げたキリトは、そのまま俺やアイナの方に向き直って律儀に頭を下げようとするが、必要無いと切って捨てる。

 

「俺達も世界樹に行かなくちゃいけねぇ理由が有ったからな。お互い様だ」

 

「……そういやアンタさっき同じようなこと言ってたけど、アレって――」

 

「時間が勿体無ぇから全部終わってからだ。気が向いたら話してやる」

 

「――オーケー、判ったよ」

 

肩を竦めて頷くキリト。溜息を吐いて後で絶対聞き出す言わんばかりにジト目を向けてくるが無視だ。さっきアルゴにも同じようなことを言ったが、ぶっちゃけ話すつもりはない。守秘義務とかそういうのが絡んでて、面倒くせぇしな。

 

さて、そんじゃ準備も整ったところで――

 

「……攻略、開始だ……!」




続きます

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