SAO//G.U.  黒の剣士と死の恐怖   作:夜仙允鳴

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大変お待たせしました……
ギリギリ……ホントにギリギリだけど二月中には間に合ったよ……
内容はタイトルの通りです、どぞ


Fragment I《一時ノ暇》

2025年 1月

 

 

「っ!?」

 

誰かとぶつかりそうになり、そちらを向いた瞬間、俺の視界に鈍く光るモノが入った。

それが何かを脳が認識する前に、俺は反射的に身体を後ろに引いていた。第六感の様な物か、それとも数か月前まで常にソレを身に付けていた“経験則”によるものなのかは判らないが、身体が勝手に動き、ソレを……明らかに害意を以て繰り出されたナイフを、躱していた。

 

ALOからログアウトしてすぐに、俺は自転車に跨ってアスナの待つ病院へ向かった。面会時間はとっくに過ぎているのは判ってはいたけれど、居てもたってもいられなかった。

早くアスナに会いたい。現実で彼女とふれ合いたい。俺の頭にあるのはそれだけだった。

 

数十分全力で自転車を漕ぎ続け、病院についたころには息も絶え絶えだったが、気にせずにエントランスへ向かった。

 

 

そして、今。

 

「やぁ、キリト君……遅かったじゃないか……キヒッ」

 

「須郷っ!!」

 

俺はつい数十分前まで電子の世界で殺し合っていた男と、現実で向き合っている。

 

目の前の男から注意を逸らさずに、痛む右腕に目を向けると避けきれなかったのか、浅く斬り付けられて出血していた。

 

「ヒドイことするよねぇ……あんなに滅多切りにしてくれちゃってさぁ。まだ体中痛むんだよ?」

 

「……フン、そんなの、アンタの自業自得ってヤツだろ。で、その痛む身体を引き摺って態々どうしたんだ。まさかゲームで斬られた場所が痛むから薬をくれとでも医者に言いに来たのか?」

 

オベイロンと同じ……否。ポリゴンで構成されたアバターでは表現しきれない、現実の狂気をその瞳に湛えて歪に嗤う須郷にそう吐き捨てる。

僅かではあるが俺の血に濡れたナイフはこちらに向けられたままだったが、不思議と恐怖心は湧いてこない。

 

「……オイ。なに調子乗ってやがるこのクソガキ! 英雄ごっこはもう終わってんだよ!」

 

俺の態度に業を煮やし、顔を真っ赤にして激高し叫ぶ須郷。

怒りの所為か、手に持つナイフもガタガタと震えている。

 

「所詮な、テメェみたいにゲームしか能の無いクソガキには、何の地位も力も無いんだよ! 僕より何もかも劣るゴミクズでしかないんだ! そんな低能が調子に乗ってんじゃねぇよ!!」

 

「はぁ……もしかして、そんなこと言いにここまで来たのか? 捕まる前に一言そのクソガキに言っておこうって。何しようが勝手だけどさ、アンタはもう終わりだろうし、裁判の為に言い訳の一つでも考えてた方が建設的なんじゃないか?」

 

「終わり? 終わりなんてしないさ。僕は優秀だからね。どこかに高跳びでもすれば、欲しいって企業は山ほどある。そこで今回の実験成果を基にして今度こそ……今度こそ僕は神になるんだ! この現実世界の神にねぇ!!」

 

「それはそれは……大層な現実逃避なことで」

 

焦点の有っていない瞳を見開いて恍惚と語る須郷に、もはや怒りを通り越して哀れみすら感じる。それほどに、目の前の男は正気を失っていた。

 

「でもねぇ、その前にやらなくちゃいけないことがあるんだ」

 

もはやどうでもいいのか、それとも耳に入ってすらいないのかは判らないが、俺の言葉への反応は無く、唯々自分の言いたいことだけを喋る須郷。

その焦点が不意に合い、俺の双眸を射抜いた。

 

「キリト君……君を、殺さなくちゃいけないんだ」

 

「……なるほど、そのためにそんな物騒なモノまで持って来たわけか」

 

明確に告げられた殺意。依然として向けられたままの刃。

 

ことここまで来ても、俺の中に恐怖の感情は宿らない。

 

「君は僕を侮辱した。この世界の神たる僕をだ。その罪は……君の死を以て償ってもらう」

 

俺が一番恐れているのは、再びアスナを失う事だから。

 

「あぁ、心配しなくても良いよ。明日奈はちゃんと養うからさ、従順な奴隷としてね。なに、薬でも何でも使えば簡単な事さ。そう言えば君には妹もいたらしいね。うん、調べたんだ。その妹も一緒に奴隷にしてあげるよ。この僕の奴隷になれるんだ。これ程名誉なことは無いだろう? だから、安心して――」

 

だから、仮に俺が殺されて、須郷がアスナに手を出すようなことが無い様に、こんなことで恐怖を感じている場合じゃないんだ。

 

「死ねぇぇぇぇぇ!!」

 

雄叫びを上げながら、須郷が突っ込んでくる。

このまま何もしなければ、奴の手の中で光る刃は、数瞬後に俺の腹を抉るだろう。

 

確かに、俺は現実ではただのガキだ。

鍍金の勇者は、非力な十五のガキに成り下がる。

 

けれど、それは須郷も同じだ。

 

奴も、現実ではただの男だ。

泥棒の王様は、狂った大人の男でしかない。

 

俺も須郷も、剣士でもなければ王でもない。ましてや、人殺しのプロでも何でもない、ただの人間だ。

 

だけど、俺には経験がある。

 

世界は違えど。身体は本物ではなくとも。

 

二年間、生死を掛けて闘ってきた、経験が。

 

それは、たとえ現実であっても、俺の中に確かに存在するものだ。

 

「あああああああ!!」

 

「っ!!」

 

目前に迫ったナイフを持つ須郷の手首を左手で掴んで後ろに引っ張りながら半身になって、そのまま右肘を突きだす。

 

「ぐぇ!!」

 

肘は突っ込んできた須郷の顎に見事命中。短く悲鳴を上げた須郷が、その場に崩れ落ちた。

 

「…………ははっ、やってみれば、案外出来るもんだな」

 

体術スキルの中にある、対人型用のカウンター技。その簡略版。咄嗟にやってみたにしては、非常にいい出来だと思う。

白目を剥いて倒れた須郷の手からナイフを奪う。

 

「…………」

 

一度だけ失神している須郷を見やり、直ぐに視界から外してナイフを遠くに投げ捨てた。

ALOでバラバラにしたときに殺意は大分発散できたが、ナイフを片手に長々と見ていたらぶり返してきそうだったからだ。

本心を言えば本気で殺してやりたい相手ではあるが、殺人犯になるのは御免だ。

そう、殺意を理性で押さえつけて、深呼吸をする。

 

「すぅ…………はぁ…………うん」

 

さぁ、全部終わったんだ。

 

「今、会いに行くよ、アスナ」

 

 

 

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2025年 5月

 

 

「よう、早いじゃねぇか。本命二人はともかく、他の連中が来るまでもまだ結構時間あるぜ?」

 

「今日は半ドンだからな。別に構わねぇだろ? どうせ貸切りなんだしよ」

 

「まぁ、そりゃそうだけどな」

 

台東区御徒町に居を構える《ダイシー・カフェ》。昼はカフェ、夜はバーを営む小洒落た店だ。

正午を長針が二周ほどした時間にその戸を開けると、出迎えたのはスキンヘッドで背の高い黒人。この店の主人、エギルこと、アンドリュー・ギルバート・ミルズだ。

 

今日俺がこの店を訪れたのは、このギルバートとリズにキリト……里香と和人の三人が企画したオフ会の為だ。まぁ、ギル――ギルバートの愛称だ――の言う通り、時間よりは大分早いが。

 

「にしても、なぁ……」

 

「んだよ?」

 

喫茶店兼バーのマスターらしくグラスを拭きながらジロジロと見てくるギルを、出されたコーヒー――流石にこの時間から酒を飲む気にはなれない――に口を付けながら見返す。

 

「いやぁ、なぁ……やっぱり少し……いや、結構……ぶっちゃけかなり、想像出来ねぇなって思ってよ――」

 

拭き終えたグラスを戸棚に戻し、肩を竦めるギルバート。

 

「――お前が教師やってるってのがさ」

 

「……言うんじゃねぇ。自分でも柄じゃねぇって判ってんだからよ……」

 

本日二度目の言葉を受け、思わず項垂れた。

 

そう、俺は今、教師と言う職業に就いている。しかも、SAO被害者の学生たちが通う特殊な教育施設の。勿論、自分から進んで就いたわけじゃない。いや、別に教職についてる人間をどうこう言うわけじゃないが……俺がこんな面倒な職に就くようなキャラじゃないってことだけは確かだ。自他共にそれは判ってる。

どうしてこんなことになったのか、切っ掛け……というか、宣告を受けたのはALOでのことに片が付いた数日後だった。

以前拓海が病室で俺に言った、特殊な施設……ってのがつまり、SAO帰還者(サバイバー)の教育施設だったって訳だ。因みに、俺は教員免許なんていう大層なモンは持っちゃいない。曰く、件の教育施設はSAO帰還者のカウンセリング及び学業支援の為の施設であると同時に、新基軸の教育方法のモデルケース……つまりは超法規的処置で急造された半官半民の施設らしく、常勤である各ホームルームの担任以外の非常勤講師は教員免許を必要としていないのだ。一部カリキュラムは選択科目とし、単位形式をとっているため学習形態は大学と高校の折衷のような感じになっている。

で、この施設の企画を裏から推進し、政府に働きかけたのが拓海と智成だった――つまるところ最大出資者はCC社ってことだ――ことで、俺は現在CC社からの派遣員として一年間限定で電子工学の講師をしているという訳だ。

まぁ、自由選択科目の授業だから、基本的に授業は週数日しかないし、他の就業時間は二年間で進んだ技術内容を頭に突っ込む作業をしているから楽と言えば楽なんだが……それにしたって、やっぱり柄じゃねぇな。

 

「ま、仕事ってのはそんなもんだろ。柄じゃなかろうが、やりたいことじゃなかろうが、仕事しなけりゃ食っていけねぇ。それが社会人ってモンだ」

 

「……確かにその通りだけどな。自分がやりたいこと仕事やって、自営業とは言え営業時間中にも臨時休業の看板掛けてゲームしてるテメェにだけは誰も言われたくねぇと思うぜ?」

 

「な、なんでそれを!?」

 

「この前来た時テメェがいねぇから奥さんに聞いたら、そう愚痴ってたぜ。ただでさえ二年間も女手一人で切り盛りさせてたんだから、これ以上負担掛けるとその内逃げられちまうぞ」

 

「…………こ、今度かみさん、どっか連れっててやろうと思うんだが、どこがいいと思う?」

 

「知るかっつの。まぁ、精々サービスしてやれ」

 

冷汗をかきながら狼狽えるギルを横目にコーヒーを啜る。

散々脅しといてなんだが、コイツの奥さんに限って逃げ出すようなことは無いだろうと思ってる。愚痴聞いた時も半分以上完全に惚気だったし、ギルも仕事は多少サボっても他の女に手ぇ出すような人間じゃねぇしな。ぶっちゃけ熱愛ぶりは智成のとこといい勝負な気がする。

 

まぁ、今はこの年下の大男が右往左往してる姿でも見ながらコーヒーを飲むとしよう。

 

 

 

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「それにしても……」

 

「うん?」

 

私が作ってきたハンバーガーver.SAOを食べながら他愛のない話をする中、不意にキリト君……改め和人君がそう切り出した。

 

「あのハセヲが、まさか俺達の先生になるなんてなぁ……」

 

「あはは、確かに。予想外だったよね。私も最初の授業の時すごいビックリしちゃった」

 

「……俺はビックリどころじゃなかったけどな」

 

ハンバーガーを食べる顔を気持ちむくれさせる和人君。

多分最初の授業でのことを思い出してるんだと思う。

 

ハセヲさん……三崎亮先生の電子工学の授業は自由選択科目の一つで、選択科目を全て一緒にしている私と和人君も履修してる。

その初回授業の時、私達二人はハセヲさんの本名を把握していなかった――総務省の菊岡さんから情報提供を受けていた和人君でさえ、ハセヲさんのことは圧力が掛かっていて聞き出せなかったらしい――ために、ハセヲさんが教師として教室に入ってきた時、とても驚いてしまったのだ。

しかも、専門内容を勉強できると喜んでいた和人君に引っ張られて着いた席は一番前。

私は呆然としただけだったんだけど、和人君のリアクションは大きすぎた。

 

『電子工学の授業を受け持つ三崎……』

 

『なっ!! は、ハセヲ!? あ、アンタなんで――』

 

ハセヲさんの紹介を遮って唐突に立ち上がり、指さしまでしてそう叫んだ和人君。

勿論、そんな暴挙に出た和人君をハセヲさんが許すはずもなく。

 

パァァァァン!!

 

『――痛っだあああああ!?』

 

教卓からソードスキルもかくやという超高速で接近してタブレットPC――特注なのかすごい丈夫――で叩かれるハメになったのです。

そのあまりにも鮮やかな攻撃の光景に、ソードスキルのライトエフェクトを幻視した生徒たちから発信され、ハセヲこと三崎先生は現実でもソードスキルを使えると噂になっているとかいないとか。

 

閑話休題(それはさておき)

 

あまりの痛みに絶叫した和人君が頭を抱えて蹲る中、いつの間にかハセヲさんは教卓に戻っていて。

 

『桐ヶ谷。授業中だ、私語はすんな。つか、俺の授業中に質問や相談以外で無駄口を訊いたヤツは同じ目に遭うからそのつもりでいろ』

 

そう、割とドスの効いた声で言われ、私も含めて生徒たちは首を縦に振るしかなかった。

 

とまぁ、半ば恐怖政治の様に始まった授業ではあるけれども、目つきや口調が少し悪いのに反して教え方はすごく判りやすいし面倒見も良く、質問にもちゃんと的確な答えをくれると生徒間での評判はかなり高い。

 

「キリト君、いっつも叩かれてるもんね」

 

「あの野郎、ホント容赦ないからな。レポートもいつも嫌味の様にムズイのばっかり出してくるし」

 

「そんなこと言って」

 

和人君が言ったように、上がっている苦情と言えば、一定以上の私語をすると容赦なくタブレット攻撃をされることと、出されるレポート課題が結構難しい――しかも碌に考察せずにネットか何かのコピペをすると絶対にバレる――ということだけ。

とはいえ、二つの内前者については主に懲りずに何度もやられている和人君によるものだけれど。

後者についても、しっかりと授業を聞いていて、ちゃんと調べることが出来ていれば突き返されるようなことは無い。レポートから確認できた理解度に応じて、返されたときに辛口な評価が文章で下されるけれど、和人君を始めとした負けず嫌いな生徒は文句を言いながらも反抗意欲を掻きたてられてあの手この手でハセヲさんを唸らせるようなレポート作成に取り組んでいる。

 

「いっつも誰よりも凝ったレポート出してる君が言っても説得力ないよ?」

 

「うぐっ……そ、そういえばさ――」

 

いつの間にか食べ終わっていた和人君にそう言うと、変な声を上げて視線を泳がせた後、唐突に話題を変えた。今日のオフ会についてのようだ。

相変わらず、誤魔化し方が下手なのを見て、そんなことにも愛おしさを感じる。

 

この幸福を感じることが出来るのは、私を助けてくれた君のおかげ。

 

だから、いつも思ってるんだ。

 

助けてくれてありがとう。愛してるよって。

 

 

 

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「あーあーもう、あの二人ったら、あんな公衆の面前でおおっぴらにイチャつきおってからに」

 

「リズさ……じゃない。里香さんが悪いんですよ? 一ヶ月休戦協定なんて言いだすから。ただでさえ割り込む隙なんてほとんど無かったのに、この一月で完全に公認カップルじゃないですか」

 

中庭のベンチでイチャつくバカップル……もとい和人と明日奈をカフェテラスの窓から眺めてぼやきながらストローでジュースを啜っていると、対面に座ってお弁当をつっつくシリカこと珪子がぶーたれた。

 

「今では心底悪手だったって思ってるわよ。それよりホラ、ほっぺにご飯粒ついてる」

 

「あ、ありがとうございます、リズさん」

 

ほっぺたにくっついたご飯粒を取ってあげると、珪子がニコッと笑って礼を言う。

こういうのを見てると、恋敵とか関係なしに妹が出来たみたいで可愛い。

 

「いいよ。それよか、リズじゃなくて里香、ね」

 

「あっ……」

 

まだ本名で呼ぶのに慣れていないのか、珪子は偶にみんなのことを素でキャラネームで呼ぶことがある。まぁ、私も人のことは言えないけど。

ゲームクリアを告げるアナウンスの際に再会を約束した彼女だけど、一月の末にこの学校への入学案内と前後して――一体どんな手を使って調べたのかは知らないけど――和人から連絡が来て、思わぬ程早くの再会となった。

今では週末の二回に一度は一緒にいる仲だ……一ヶ月休戦協定の副作用とも言えるけど。

 

「そう言えば、今日のオフ会は行くの?」

 

「もちろんですよー。直葉ちゃんも来るって言ってました。オフで会うの初めてだから楽しみなんです」

 

「アンタら仲良いもんね。妹同盟的な?」

 

「むぅ、またそうやって意地悪言ってー。そうそう、最近直葉ちゃん以外にも年の近い友達が出来たんですよ」

 

「友達って、学校の?」

 

「いえ……あ、もちろんクラスにも友達はいるんですけど。近所の友達です」

 

「あー、ここ入学する前にこの辺に引っ越したんだっけ?」

 

「はい、大宮に。お父さんが幾らタダでも寮生活じゃ毎日顔が見れないから不安だって言って」

 

「はぁー、アンタんとこの親御さんも結構過保護よね」

 

珪子の言った通り、この学校の生徒は無料で下宿先として直近の寮を使うことが出来る。全国からSAO帰還者を集めているが為の処置だそうな。因みに私は実家が首都圏じゃなかったから入寮してる。

確かに、本来なら中学に通う齢の子供を寮生活させるのが不安だって言うのは判るけど……だからって、学校から10分の所に引っ越してきちゃうのも凄いと思う。

 

「まぁその辺の事情は置いといてさ。その新しくできた友達ってどんな子なの?」

 

「はい! お隣さんで、あたしと同い年の深鈴ちゃんっていうんです。スゴイんですよ深鈴ちゃん。去年の八月まで飛び級でアメリカの大学行ってて、卒業してきちゃったって言ってました! 引っ越しの挨拶のときはまだ日本に帰ってきてなかったんですけど、先週帰って来た挨拶にって家に来てくれて。その時あたしがALOやってるって言ったら、深鈴ちゃんも丁度始めたって言うから意気投合しちゃって」

 

「と、飛び級? 大学卒業? アンタもまたとんでもない子と知り合ったもんねぇ」

 

ミレイちゃんとやらの情報に舌を巻く。十五でアメリカの大学卒業してくるってどんな天才なんだかって感じ。

 

「今度皆さんにも紹介しますね!」

 

「そ、そーね。楽しみにしとく。ま、それは置いといて、今は今日のオフ会よ、今日の」

 

「あ、そーでしたね。他には誰が来るんですか?」

 

「私が把握してる限りだと主賓二人に提供主のエギル、あとクラインに《軍》の関係者何人かと――」

 

指折り数えながら辺りを見回す。脳内検索で該当した彼の人物は視界に映らなかった。

人前、特に学校でアッチの名前で呼ばれるの好きじゃないみたいだから、一応名前を出すときは本人が近くにいるかどうか確認しているのだ。

皆、特にアイツとかバカップルを始めとした有名人だった何人かは完全に顔割れてるんだから意味ないのに。

 

「――ハセヲね。」

 

「あ、やっぱりハセヲさんも来るんですね。そう言えば、ハセヲさんはまだ学校にいるんですかね?」

 

「んー、多分もう会場向かったんじゃない? アイツ今日はもう授業無かったはずだし」

 

カリキュラムを組んだ時の授業スケジュールを思い出す。

ちなみに私もアイツの授業を取ってたりする。他の選択科目の日程的に明日奈たち二人取っている時間とは異なるけども。

 

「はぁー、いいなー里香さん達はハセヲさん……じゃなくて三崎先生の授業取れて。私達の学年の選択科目にはそもそも電子工学が無いんですもん」

 

「あーうん。まぁ、結構難しいからね。中学生にやらせるようなものじゃないでしょ」

 

可愛く頬を膨らませて苦情を言う珪子を苦笑しながら諌める。

なんせ高校相当の年齢である私達でも――幾ら授業が判りやすいとはいえ――ついていくのにはそれなりに労力なのだ。中学生が学ぶには些か難易度が高すぎるだろう。

 

「来年度は絶対取ります」

 

「まぁ、頑張ってね。アイツ、知り合いだろうがなんだろうが採点に容赦はないから」

 

「……もしもの時はALOで個人授業してもらおうかな」

 

「はい?」

 

「あ、いえ! 何でもないですよ、何でも!」

 

軽く脅してやると、目の前の小動物が似つかわしくない割と黒い発言をしたような気がしたのは気のせいじゃないと思うのよね。

 

「……ま、いいけどね。って、そろそろ時間ね」

 

「あっ! あたし次体育なんだった!!」

 

「ありゃ、そら大変」

 

「じゃ、じゃあ里香さん、また放課後に! 急がないと晶良先生に怒られちゃうからもう行きますね!!」

 

「うん、また後で。転ばないようにね」

 

時計を確認すると昼休みも終了間際。

チョコチョコと走る珪子の背を見送ってから、教室へと向かのであった。

 

 

 

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「やっほー、来たよー……って、ハセヲっち何してんの?」

 

「あ?」

 

待ち合わせ時間の数十分前。本日貸切、と書かれた看板の掛かったドアを開けてまず目に入ったのは、予想外でもない人物が予想外の行動をしている光景だった。

 

「おう、アルゴか。よく来たな」

 

声のした方を見ると、そこには見慣れた大男が。

言わずと知れたエギルである。

 

「あ、エギル。コッチで会うのは初めてだよね。アルゴこと皇栞里でっす! よろしく!」

 

「こちらこそ、アンドリュー・ギルバート・ミルズだ。今日は楽しんでいってくれ。って言っても、開始まではまだ時間が有るがな」

 

苦笑して肩を竦めるエギル。

それに早く来たのはコッチだからと、首を振った。

 

「それより、ハセヲっちはさっきから何やってるわけ?」

 

エギルに問いかけながら、視線はカウンターの奥、つまりは本来エギルがいるはずの場所でエプロンをしてフライパンを振う黒い髪のハセヲこと亮の姿を捉える。

 

「見りゃ判んだろうが。料理してんだよ」

 

「それは判るけどさ。なんでハセヲっちが?」

 

至極真っ当な意見をしたはずなのに、何言ってるんだコイツみたいな目で見てくる亮。

なにこの理不尽。

 

「いや、本当は全部オレが作るはずだったんだけど、そういえば亮の奴が前に料理出来るみたいなこと言ってたのを思い出してな。ぜひ一品ってことになったんだ」

 

「なーるほどねー」

 

チラと見れば、エギルが作ったのであろう料理は既にテーブルに並べられていた。

亮が作ってるのは追加メニューってことのようだ。

 

「って、その割にはハセヲっち随分本格的なモノ作ってない?」

 

ワインを入れてフランベしだしたのを見てエギルに問うと、そり上げた頭の後ろに片手を持っていき笑う黒人の姿が。

 

「……そのバカ。最初に用意してた分の半分しか作ってねぇんだよ。残り半分現在進行形で作ってんのは俺だ」

 

「はい?」

 

「いやなぁ……出来たモン食ってみたら、オレより亮の方が旨くてな。残り全部任せちまった。ハッハッハ」

 

笑いながら差し出してくる亮が作ったらしい料理を一口つまんでみる。

 

「あむ…………っ!」

 

確かにおいしい。

ぶっちゃけ私よりも料理上手と認めざるを得ない美味しさである。

けれども。

 

「いいの、それで?」

 

よく映画とかでみるアメリカ人の様に笑うエギル。

ソレを見て溜息を吐きながら料理を続けるハセヲ。

随分対照的な光景である。

 

「ま、その分バイト代じゃないが参加費安くするって話にしたからな。Give and Takeってやつだ」

 

「……ん? てことは、私も何か手伝えば安くなる?」

 

「アイツ並みに上手いならいいぜ?」

 

「んー、悔しいけどここまで上手くないねー」

 

思わずため息。ちょっと乙女心を傷付けられた気分である。

 

「てゆーか、ハセヲっちこんな料理上手いのになんで何度か会った時作ってくれなかったのー?」

 

ふと思って近くのカウンターに座って話しかける。料理に集中しているのか、そのままの体勢で答える亮。

 

「そもそも会ったの外でだろうが。どうやって作れっつんだよ」

 

「ほら、デートに持ってくお弁当的な」

 

「俺は女かっての」

 

「…………にっぶいなー、相変わらず」

 

人がさり気なくアピールしているというのに、この唐変木ぶりである。

そもそも、意識もしてないのに女からリアルで二人で会おうなんてことを言うと思っているのかこのニブチンは。何となく敵が多いような気がして、距離を縮めようと思っての行動が何の意味も成してない。

 

「なんか言ったか?」

 

「美味しい料理をお願いっていったのー」

 

「あっそ。つか、お前リアルでハセヲって呼ぶのやめろつったろが」

 

「えー、いいじゃん。今日はオフ会なんだしさ」

 

「……テメェの場合いつもだろうが」

 

「ニャハハー、気にしない気にしなーい」

 

まぁ、一先ずは良いとしようか。

もしかしたら二度と会えなかったかもしれないのに、こうして再会できたのだ。機会はまだある。

 

そう自分の感情に整理をつけていると、不意にスマホが鳴った。

届いたメールを開けてみれば、司こと荘司杏の名前が。

 

「ふむ、司と昴もそろそろ来るってさー」

 

そう二人が来ることをエギルと亮の二人に知らせると同時、来客を告げるベルが鳴った。

 

「あら、少し早かったかしら」

 

「こんにちわ。ちょっと早めに来ちゃいました」

 

入ってきたのは腕を組んだカップル。二人の雰囲気と口調で彼らの正体は判った。

 

「やあやあアイちーにぼーくん。多分そろそろ皆来ると思うよ」

 

堂々と人前で腕を組んでる二人を少し羨みながらいつものテンションで話しかけていく。

今は取り敢えず、このオフ会を楽しむ方が先決だろうから。

 

そうして、続々と集まる参加者たちと互いに改めて自己紹介をしていくのだった。




短い……ええ、短いですね
しかも微妙で中途半間な所で終わってます

和人君VS須郷さんは原作よりあっさりな感じです
皆さん期待してくれたようですが、作者的にはこの小説のキリト君だとこんな感じかなぁと(というかALO内で結構はっちゃけちゃったから、ホントは現実での対峙は当初の構成には無かったという……)

続いてオフ会前
学校関係の話は原作にもあまり情報が無いので結構捏造プラス伏線っぽいものも入れてみたり
基本的にオフ会の中身は原作と変わらないので、その前部分に視点を置いて書いたところこんな感じになりましたが、いかがでしょうか

次回はこの続きから、若しくはそのままGGOにいくと思います
もしかしたら一回外伝挟むかもですが
いつ投稿になるかは………………どうだろ?

感想・意見等お待ちしております
不定期更新で申し訳ないですがまた次回、では

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