SAO//G.U.  黒の剣士と死の恐怖   作:夜仙允鳴

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久々に投稿の約束を守れた作者です

今回やっとこさハセヲ君の武器が明かされます


Fragment L《音喰フ鉄》

2025年 12月

 

 

 

《YOU WIN》というメッセージが眼前に表示されたと同時、最初と同じように転送エフェクトに包まれて筐体の前へ戻された。何故か、周りを観客であろうプレイヤー達に囲まれて。

 

「良いモン見せてもらったぜ!」

 

「ようアンちゃん! スゲェ走りだったじゃねぇかよ!」

 

「しかもアンタ、GGO今日が初なんだって?」

 

「それでよくあんな思い切ったこと出来たモンだ!」

 

「な、なんだ?」

 

退けとも邪魔だとも言う間もなく、肩を組まれ背中を叩かれ大声を耳に響かせてくる野次馬共に辟易していると、急に襟首を掴まれて強引に離脱させられた。

 

「ぐぇ」

 

「おっと悪い。俺の連れ、如何せん沸点が低いんでな。そろそろ勘弁してやってくれよ」

 

「ゲホッ……おいクーン、テメェ俺に謝罪の言葉は無しかコラ」

 

人を猫みたいに摘み上げるんじゃねぇよ、変な声出たわ。

 

「助けてやったんだから大目に見ろって。そんじゃ、儲かった金でコイツの装備見繕わなくちゃいけないからそろそろ失礼するぜ、お客さん方」

 

「おい待て。判った、行く。行くからいい加減手ぇ話しやがれ首が締まる!!」

 

「おう、またイイ走り見せてくれよ兄ちゃん!」

 

「ソッチの青髪の兄さんもまたな!」

 

陽気に手を振るクーンに引き摺られる形で外へ。

 

「だから離せっつ、のっ!!」

 

「おっと、悪い悪い」

 

未だに襟を掴んでいたクーンの腕を振り解くと、謝ってはいるものの欠片も悪びれた様子はない。

野郎、俺に何の恨みがあんだってんだ。

 

「あのままじゃ何時まで経っても出るに出られなさそうだったからな。ちょいと強引に行かせてもらった」

 

「それでもここまで引き摺ってくる理由は無ぇだろうが」

 

「まぁそこは……なんとなく、ノリ? みたいな」

 

訳の判らないことを言う目の前のアホ。

 

「ハッ……三十路超えたオッサンがノリとか」

 

「あ、ハセヲお前言ってはならんことを!」

 

多分に嫌味を籠めたストレートは思いの外クリーンヒットしたようで。

ヘラヘラと崩れていた顔が若干険しくなったあたり、存外自分でも年齢を気にしているらしい。

 

「知るかよ、言われたくなかったら年相応の態度をとってみやがれ三十二歳(オッサン)

 

「オッサン言うな! お前の方こそ幾つになっても不良みたいな言葉使いでよく恥ずかしくないな。それで教師っていうんだからお笑い草だ」

 

「んだとテメェ!? 大卒で二年もゲーセンのバイトやってたフリーター野郎が何言ってやがる!」

 

「二年間ふいにしたのはお前だって変わらないだろうが! 大体、俺はまだお兄さんで通る!」

 

「ヤダヤダ、これだから自分の歳を認められないオッサンは」

 

「お前、ソレは俺と同い年の舞もオバサンって言いたいわけか? よーし判った。この件片付いて家帰ったら言っといてやる。舞と、ついでに志乃ちゃんに」

 

「ハァ!? ンなこと一ッ言も言ってねぇだろ! つか、志乃まで巻き込んでんじゃねぇよ!」

 

「先に歳の話をしたのはソッチだろう!」

 

「テメェがその気ならテメェがGGOで金稼いでんのチクるぞ!」

 

「オマッ!? それは反則だろ!?」

 

「志乃を持ち出してきた時点でテメェのが反則だろうが!」

 

「「…………」」

 

気付けばかなりヒートアップしちまっていた口論だが、互いに相手の弱みを掴んだ所為か沈黙が訪れた。割と死活問題と成りうる事案だけに早急に解決すべきと判断した結果だ。

 

「はぁ……止めよう、不毛だ」

 

「……ああ、そうだな。俺はまだ死にたくねぇ……」

 

「俺だってそうさ……」

 

男二人、ついさっきまで喧嘩してたとは思えないほど酷い哀愁を漂わせるという何とも言えない空気になってしまった。

割と大声で言い合っていたにもかかわらず、誰にも注目されなかったのだけが救いだ。

 

「……うし、いつまでも黄昏てても仕方ない。いいかげん装備見に……あ」

 

「うん? どうした」

 

「やっべ、今日の17時に一回本部に報告入れろって言われてたの忘れてた」

 

「今は……丁度17時前か」

 

ウィンドウを開いて現在時刻を確認する。

GGOの時刻表記は現実時間と同期しているのでデジタルの時計が示す時間と同じく現実でも17時前という事になる。

 

「今から落ちれば間に合うだろ」

 

「そりゃそうなんだが……諸々報告すること多くてな。多分結構長引いちまうと思うんだよ。しかもその後纏めなくちゃいけないもんも有って……」

 

「つまるところ装備を買いに行く余裕が無ぇと」

 

「ま、そゆことだな」

 

「ふむ……そういうことならしゃあねぇだろ」

 

すまなそうに言うクーンに頷いてみせる。

なんだかんだ言ってもNABは国際レベルの準警察機構みたいなもんだ。多方面向けにやらなくちゃならない事も多いんだろう。

 

「悪いな。自分で選んで買ってきちまうんだったらマーケットはこの道まっすぐ行けば有るんだけど……」

 

「剣なら二年間振ってたからともかく、銃については門外漢だ。そもそもGGO自体殆ど知らねぇし」

 

厳密に言やThe Worldで規格外の双銃を使ってはいたが、アレとは全く別物だと思った方が良いだろう。アレはターゲットして引き金引けば勝手に当たったし、リロードも空薬莢を抜けば自動装填されてたしな。

 

「だよなぁ……ぶっちゃけ銃だけじゃなくて防具周りでも普通のMMOとかと違うとこ色々有るから、説明無しだとなぁ」

 

「真面目にGGOやんならそれで一向に構わねぇんだけどな」

 

「まぁ、そうなんだけどさ」

 

後頭部に手をやりながら愚痴ると、クーンが苦笑を浮かべつつ肩を竦めた。

この手の自由度の高いゲームってのは碌な説明が無い分、自分で色々やってみて知っていき強くなるのが醍醐味だ。システム上の行動制限が旧来のゲームと比べて格段に少ないVRMMOではそれが顕著に出る。

本来楽しむべき部分ではあるが、目的の為に早急にゲームに順応しなければならない以上ガイド役は必要不可欠だ。BoBの試合は明日なのだから。

 

「それじゃ俺は落ちるけど、お前はどうする?」

 

「どうする、つってもやることも無ぇし」

 

「それもそうか。んー……なら」

 

数秒唸ったかと思えば、唐突にトレード画面を開くクーン。

表示されたウィンドウを見てみれば、《Beretta 92》と《9㎜×19 NATO》と表示されていた。

 

「コイツはかなりポピュラーなハンドガンでよく《ベレッタM92》って呼ばれてる奴だ。癖が無い分射撃の練習にはもってこいだ」

 

言いながら一方的にトレードを終了するクーン。

 

なるほど、これで少しでもGGOの銃の撃ち方に慣れておけって言いたいわけか。

 

言いたいことを理解して、トレードの承認ボタンを押して完了させる。

 

「射撃場みたいなところはどっかあんのか?」

 

「マーケットの地下に併設されてる。そこで暫らく撃ってみて、コツを掴んでみるといいさ。んじゃ、また後でな」

 

「おう」

 

軽く手を振って駆け出すクーンの背中を暫らく眺めていたが、その背中が小さくなったところでマーケットへの道を歩き出した。

 

 

 

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あれからマーケットへ向かい、二時間くらい只管にベレッタを撃ち続け、ついでにマーケット内に有った弾除けのミニゲーム――たぶんクーンが言ってたのはコレのことだろう――を見て、最後は落ちてから軽く情報を探ったことで、銃撃に関する大筋の理解は得た。

 

まず自分が撃つ時は、銃を構えた段階で視界内に緑の円が銃口を中心に展開され、拡大と収縮を繰り返す。《着弾予測円(バレットサークル)》と呼ばれるらしいこの(システムアシスト)の中のどこかに放たれた弾丸は飛んでいく。円の大きさ自体は銃の性能やらステやらで決まるらしいが、拡大と収縮のテンポはプレイヤーの心拍数によるらしい。心拍数が多ければ多い程、円は引っ切り無しに拡縮を繰り返すという事だ。つまるところ、サイトやらグリップやら、ついでに距離なんかである程度予測円の強化は図れるが、一番最後はプレイヤーの腕次第ってことらしい。

最初撃ち始めた時は、数発撃って予測円が命中に関係していることは判ったものの中々コツが掴めず、ある程度狙ったところに当てられるようになったのはクーンから譲り受けた弾が殆ど尽きかけた頃だった。

一昔前まで流行っていた大戦型のFPSではそれなりの派閥であった狙撃銃を使うプレイヤーが、GGOには滅多にいないと言うのも頷ける。それくらいには“狙ったところに中てる”と言うガンSTGの基本動作が難しい。百時間近く射撃だけしていれば多少は出来る様になるかもしれないが、現時点で狙撃銃を使う気にはなれない。実戦で使うなら偏差射撃の技量も必要になってくるしな。

 

次いで自分が撃たれる場合には、相手がトリガーを引いた時点で《弾道予測線(バレットライン)》というのが視界内に表示される。こちらは防御側のアシストで、弾が来る前にこの予測線を回避していれば迫り来る弾丸を避けられる。まぁ、フルオートの乱射を全て避け切ると言うのは流石に不可能だろうが、それなりのAGI値と相応の反射神経が有ればある程度回避するのは可能だろう。因みに、射撃対象に居場所を特定されていない(ハイド)状態

の場合、つまり狙撃の場合は第一射には相手プレイヤーの視界にこの弾道予測線が表示されないらしい。これが数少ない狙撃手(スナイパー)達の強みになっているんだとか。確かに、視界外から飛んでくる正確な弾丸なんて避けようが無いのは明らかだ。

 

取り敢えず、そんな感じでGGOにおける銃撃戦の知識と射撃の技術を少しばかり身に付けて翌日。

射撃練習を終わらせて落ちた時には既にPCに向かって只管キーボードを叩いていた智成――俺がさっさと先に寝た後も大分遅くまで作業を行っていたらしい――が滅茶苦茶眠そうな顔でホテル一階のバイキングレストランへ、朝食の終わるかなりギリギリの時間に顔を出してから数時間後。

朝飯を食ってから更に仮眠をとった上で漸く眠気が取れたらしい智成と共に再びGGOにダイブした頃には、既に昼を過ぎていた。

 

「ふわぁぁぁぁぁぁ……」

 

「デケェ欠伸だなオイ。まだ寝足りねぇか?」

 

「悪い悪い、結局寝たの明け方だったからさ。もう目は覚めてるから問題ないって……ふわぁ……」

 

「…………」

 

宿屋からマーケットへ向かう道すがら。

大口を開けて欠伸を連発されてそんなこと言われても全く信用できないが本人が大丈夫だっつってんだから気にはしまい。

 

「それで、昨日試してみてどうだったよ。少しはなれたか?」

 

「まぁ、的に中る様にはなった。動いてると微妙だけどな」

 

「やっぱThe Worldみたいにはいかないか」

 

「そりゃな。勝手が大分違う」

 

「ま、実弾銃が中るようになったなら取り敢えずはOKだろ。BoBは対人戦だから基本的には実弾銃を使うからな」

 

「レーザー系も有るんだっけか」

 

「ああ、GGOでは実弾は威力が高くてバリアを貫通する代わりに射程が短く精度が低い対人向き、レーザーは逆で長射程で高精度の代わりに低威力且つバリアで防がれる対MOB向きって感じになってる。あとは実弾よりレーザーのが弾薬が軽くてかさばらないのも特徴かな。BoBだとスナイパーでもない限り相手を探す遭遇戦になるからどうしてもある程度近距離での戦闘になるんだ。だから実弾が使われるって訳さ」

 

「なるほどな。そのバリアってのは?」

 

「プレイヤーの専用防具に《防護フィールド》ってのが有ってな。距離に応じてレーザーからのダメージを減衰してくれるんだ」

 

そんなことを話す内にマーケットに到着した。

昨日は素通りした店内を見てみれば、実際に存在するモノからSF映画に出てきそうな光線銃の様なものまで多数の銃器が並べられていた。

 

「んで、どれにするよ。金は結構あんだろ?」

 

「400K弱ってとこか。どれにするって言われてもなぁ……昨日も言ったけど銃は全く判んねぇ。精々FPSで見たことあるのかチラホラあるくらいだ」

 

最近はその手の銃ゲーを触ってない所為で形は知ってても性能はおろか名前すら覚えていない。

 

「ま、いままでALOやってたならそんなもんだろうな。何が使いたいってのは有るのか?」

 

「そうだな……アサルトライフルとかサブマシンガンとか渡されても取り回し判んねぇしな。スナイパーなんて論外だ」

 

「ありゃ俺にだって無理だよ。戦闘中でもとんでもなく冷静でいられるような奴じゃないと。俺はああいう細々としたの無理だし、お前は()ってる最中は結構熱くなるタイプだし」

 

「まぁな、否定はしねぇよ」

 

SAOやALO、延いてはThe Worldの時もそうだったが、戦闘中は周りを見つつも感情自体はかなり昂っているのが常だ。心臓の高鳴りをそのまま受け入れて闘ってるもんだから、ソレを抑えろなんて言われても無理としか言いようがない。

 

「そういやお前は何使ってんだよ。The Worldの蒸気銃(スチームガン)なんて無いだろ」

 

「俺か? 俺はショットガンだな。中遠距離からチマチマばら蒔いてるより、ある程度近くから一撃で決めた方が楽だからな。状況によって弾薬自体は使い分けるけど。まぁ、使い方が蒸気銃に一番近かったってのもある」

 

「なるほど……そういう意味なら俺もハンドガンが妥当っちゃ妥当なのか?」

 

「うーん、ハンドガンか……」

 

The Worldで双銃を使ったことのある経験から言ってみたが、返ってきたのは微妙そうな唸り声だ。

 

「昨日撃ってみたのも有るし、ハンドガンならある程度使えそうかと思ったんだけどよ」

 

「さっきも言ったけど、BoBでは実弾銃がメインなんだが、大体のプレイヤーがアサルトライフルをメインに持ってくるんだ。なんせ、狙撃銃よりかは劣るが長射程高威力高弾速、ついでにフルオートなら多少弾数は少なくなるがサブマシンガン並みに弾を吐き出せるときてるからな。俺のショットガンでさえトップレベルの対人だと結構シビアになってくる。その中でさらに射程の短いハンドガンってなるとなぁ……」

 

「やっぱキツイか?」

 

「ううん…………いや、待てよ? コイツの筋力値ならアレとアレを組み合わせて……」

 

「ん?」

 

「うん、よし。こっちだ」

 

ブツブツと独り言を発しながら考えていたクーンが何やら思いついたらしく、歩き出した。それに続く形で追ってみると、辿り着いたのはハンドガンの並べられた一角。だが、そこに置いてあるハンドガンは昨日クーンから渡されたベレッタよりもさらに大きいものばかりだ。

 

「これは……ハンドマグナムか?」

 

「ああ、どれもこれも使う弾薬にもよるが威力も反動も昨日渡したベレッタと比較にならないくらい強力だ。本当ならこれでも軍用アサルトよりは弱いんだけどな」

 

「本当ならってことは、実際より強くなってるってことか?」

 

「ああ、滅茶苦茶リアルって言っても、あくまでゲームだからな。既存のFPSの設定を踏襲してるのか、ある程度の公平性を保つためなのか、はたまた昨日お前が乗った暴れ馬と一緒で製作人の遊び心の入ったロマンなのかは知らないけどな。ハンドガンの癖に至近距離、10メートル無いくらいならアサルトもショットガンも真っ青の威力設定だよ。ついでに価格もな」

 

腹に喰らったらまさに上半身と下半身がサヨナラだ、と茶化す様に言うクーンだが、その威力は本当なのだろう。クーンの言う通り、表示されている値段も相応だ。

 

「普通のハンドガンとは完全に別区分になってるせいか、マグナムでも多少反動が小さいはずのオートマでさえ並みの筋力値じゃ碌に撃てないようなトンデモ仕様になっちゃいるが、コンバートのおかげであの暴れ馬を抑えるだけの筋力値が有るんだ。お前ならThe Worldの時みたいに二挺拳銃でも扱えないこともないだろ。勿論、難易度はそれなりだろうけどな」

 

「……いいじゃねぇか、面白そうだ」

 

最期の言葉だけ少しばかり挑発的な口調で言われたのが効いたのか、思わず俺の口角は上がっていた。判りやすい挑発に乗るのもどうかと思うが、全く使ったこともないような銃器を手に闘わされるよりは余程判りやすい。

 

「で、どの銃が良いんだ?」

 

「おっ! 乗り気だな。威力的な話をするならこの二つなんだが」

 

そう言って指差したのは並ぶハンドマグナムの中でも一際大きい二挺。

 

「コッチの細身の奴が《S&W(スミスアンドウェッソン) M500》。肉厚なのが《トーラス・レイジングブル》。どっちも《.500 スミス&ウェッソンマグナム弾》っていうマグナム弾最高威力の弾薬を使える文字通り最強のハンドガンなんだが……如何せんリボルバーだから連射がきかないし弾数もオートマより少しばかり少ないから二挺拳銃には不向きだ。そういう訳で俺がお勧めするのはコッチだな」

 

次いで示したのはオートマの拳銃。これも先の二挺ほどじゃないが十分に大きい。

値段は先の二挺からだいぶ落ちてはいるが。

 

「《デザートイーグル》。オートマ用マグナム弾で一番威力のデカい《.50 アクションエクスプレス弾》が使える。さっきの二つがハンドガン最強なら、こっちは自動拳銃最強だな。装弾数は7発。オートマだからリロードも早い。取り回しも多少楽だろ。どうだ?」

 

「……そうだな、コイツにするか。コッチなら二挺買ってもそれなりに金が残るし」

 

頷いてディスプレイをクリック。購入確認を済ませると、NPCが素早く二挺のデザートイーグルを運んできた。

 

手にした二挺を構え、前後左右に照準を付ける動作を何回かしてみる。確かに昨日のベレッタよりかは重いが、それでもSAOやALOで振っていた双剣よりは軽い。反動に関しては撃ってみないと判らないが、何とかなるだろう。

一通りの確認を済ませてからストレージの中にデザートイーグルを放り込んだ。

 

「てかよ、こういう強武器って普通ボスからのレアドロップとかなんじゃねぇのか? なんで店で売ってんだよ」

 

「うーん、多分ハンドガン系統だからだとは思うけどな。大体のレアドロップは強力なライフル系統なのよ。ほぼ誰にでも扱えて単純に強いからな。ハンドマグナムみたいな強いけど碌に扱えないような実用性皆無のネタ武器は意外に値は張っても買えたりするもんなのさ」

 

「ロボゲーの突っつきみたいもんか」

 

何か釈然としないものを感じはするが、こうして売っているから使える訳なので有り難く使わせてもらう。マニアックなゲームの謎仕様を一々気にしても仕方ないしな。

 

「それはともかく、The Worldの時も思ったけどそのガン=カタみたいな構え、結構様になってるよな」

 

「ガン=カタって……ああ、あの動きの事か。多分欅に弄られてXthフォームになった時刷り込みみたいなことされたのか、自然と出来るようになってたな。流石に現実じゃ無理だろうけど」

 

「それはそれでアイツは何者なんだって話しじゃないか?」

 

「……今更だろ、ンなこと」

 

「……そうだな」

 

クーンに改めて言われ、本当に今更のように少しばかり怖くなったが、考えるのを止めた。世の中には知らない方が良い事っていうのも有る。

 

「っと、ソレは置いといてだ。後もう一つ、ソレに組み合わせるものが有るんだよ」

 

「組み合わせる?」

 

アタッチメント的なモノのことを言っているのか?

そんな俺の疑問には答えず別の場所へ進んでいくクーン。

 

アサルトライフルの様な銃器は勿論のこと、ハンドガンにもレーザーサイトやリフレックスサイト、スコープ、サイレンサーなんかのアタッチメントが付けられるのは知っているが、どれもこれも二挺拳銃で使うようなものではない。

 

内心首を傾げながらついていくと、前を進む背中が急に立ち止まった。

目的の場所に付いたのかと思えば、特に何かの売り場が有る訳でもないのでそういう訳でもない。

何ともなしにクーンの視線を追ってみれば、昨日俺が見ていた弾除けゲームに挑戦する小柄で長髪のプレイヤーの姿が目に入った。髪で隠れて顔は良く見えないが、外見から恐らく女性プレイヤーだろう。近くに知り合いなのか同じく女性のプレイヤーが何事か話しかけている。

 

「珍しいな」

 

「女のプレイヤーがアレに挑戦するのがか?」

 

「いや、女の子自体がだよ。こんな殺伐としたゲームだからな。女性人口が極端に少ないんだ。街にいても滅多に見かけないのに、それが二人もいるからな。まぁ女の子の、しかも装備見たとこ初心者の娘があのゲームやろうとしてるのも十二分に珍しいけどな」

 

「ふぅん。確かにありゃ難いだろうけどな」

 

昨日見た限り、あのゲームは一定距離を過ぎた時点でガンマンがとんでもない連射をしてくるらしい。そこまでは弾道予測線を見てから避けられるが、その先は横に避けられない構造なのも有ってキツイという事だろ。だが……

 

「攻略法が無いわけじゃないぜ?」

 

「は?」

 

俺の言葉に変なモノでも見たような顔をするクーンを他所にゲームが始まった。

 

合図と共に駆け出すと、他の挑戦者の様に予測線が出た所で立ち止まることなく、少し体を動かすだけで放たれる弾丸を回避していく。その間も一向に視線をガンマン……というよりその目から離さない辺り、彼女は俺と同じ攻略法に気付いていたようだ。

その後も傍目から見る分には難なく弾丸を回避し続け、最後はとんでもない速さで放たれたレーザーすら此方もとんでもない反射神経で跳躍して回避し、空中で一回転してガンマンの背後に降りると、そのままガンマンに触れてゲームをクリアした。

いつの間にか増えていたギャラリーの中、気負うでもなく知り合いの女性プレイヤーの下に戻る黒い長髪の女。

 

「マジかよ、クリアしちまったぞあの娘」

 

「だから言ったろ、攻略法あるって。アイツもそれを知ってたってことだ」

 

「いやいやいや、無いだろそんなもん。あの娘の反射神経がとんでもないってことくらいしかクリアした理由判らないぜ?」

 

「最後のレーザーを咄嗟に跳んで避けたあたり、あの女プレイヤーが良い反射神経してるのは確かだけどな。それ以上にこのゲームのことをよく判ってたってことだよ」

 

「よく判ってたって?」

 

「この弾除けゲームは、弾道予測線を見て避けるんじゃなくて、それを予測するゲームだってことだ」

 

「はぁ?」

 

「よ、予測線を予測ぅ!?」

 

「ほらな」

 

「マジで……?」

 

黒髪の女も知り合いの女に説明していたのか、偶然にもいいタイミングで青髪の女が叫んだ。その声に騒然としウザったくなった外野からいち早く抜け出すと、追ってきたクーンが先のことについて説明を求めてきた。意外に判らないものらしい。いや、GGOの様な敵の懐まで接近するような展開があまりないMMOだと逆に判らないのかもしれないが。

 

「お前とあの娘が言ってたこと、一体どういう事なんだ?」

 

「そんな難しいことじゃねぇよ。普通、人間が何かを狙おうとするときはそこを見るもんだろ? VRMMOの敵はそれが顕著で、確実に狙いどころをピンポイントで見る様に出来てんだよ。だから、相手の眼の動きを見れば遠距離攻撃ならそれで大体の予測は出来る。SAOとかALOでは、射撃攻撃を見切る唯一の手段だったからな。あの女もそれを知ってたんだろうさ」

 

「そ、そんなことが……」

 

唖然としているクーンだが、SAOの最前線トッププレイヤーともなればこのくらいは出来る奴は多くは無いがいた。キリトやアスナも出来たはずだ。

魔法や弓の有るALOならまだし、なけなしの攻撃力をもった投擲武器以外のメイン装備の場合必ず敵に近寄らなくてはならなかったSAOに於いて、毒液なんかを吐き出してくる敵を――特に援護の無いソロで――倒すには必要不可欠な、俗に言うシステム外スキルの一つだった。

だから、GGO初心者であっても恐らくは俺と同じように他のMMOからコンバートしてきたのであろうあの黒髪の女が知っていても不思議ではない。前のMMOでは相当な手練れであったのは間違いないだろうが。

 

「つーか、目線からの見切りが出来ることといい、あの反射神経といい……まさかな」

 

不意に過った予測を首を振って掻き消す。流石にそれは無いだろう。

幾ら女顔とは言え、GGOにコンバートしたはずのキリトがあの黒い長髪の女だなんてことは。

 

 

 

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『な……なんだこりゃあ!?』

 

と、コンバート早々悲鳴を上げてから程なく。俺が期待していた洋画マッチョメンとは対極の容姿なアバターのおかげで女だと勘違いしてくれた女の子のプレイヤーに案内してもらったマーケットにて。

 

「んなっ……!?」

 

弾除けゲームのクリアでちょっとした騒ぎになってしまった人だかりが暫くして漸く散った後、俺のことを女だと勘違いして丁寧に教えてくれる女の子の話を聞いて衝動的に光剣を購入。そのままサイドアームやらなんやらを買おうとしたところで見慣れた顔が視界に入り思わず変な声を出してしまった。

 

「ん? どうしたの?」

 

「い、いえ! なんでもないんです、なんでも! あはは、はは……」

 

な、なんでハセヲがGGOに!?

 

首を傾げて不思議そうに聞いてくる女の子をなんとか誤魔化したが、内心大慌てだったりする。ハセヲがGGOにコンバートするなんて話聞いたこともないぞ!?

 

と、そこまで一頻り焦ってはみたものの……

 

「いや、そもそもコンバートしたなら俺みたいにアバター変わってるはずだし……うん。ソックリさんだろ、ソックリさん」

 

そう自分に言い聞かせて落ち着きを取り戻した。そもそも急にハセヲソックリな顔が視界に入ったから驚いただけなんだ、うん。

幾らなんでも似すぎだしもう本人でしょってレベルだけど気にしない気にしない。

 

「だ、大丈夫?」

 

「……はっ! す、すみません! サブの武器とかでしたよね!」

 

あまりにも自己暗示に浸り過ぎて女の子に少しばかり心配されて――というか引かれて――しまったが、取り敢えずそれは置いておこう。

 

「う、うん。光剣がメインだし予算的にハンドガン辺りが良いかなって」

 

「ハンドガン……って、あれ? これって?」

 

並べられた大量のハンドガンの隣に、何やら見たことのない形をしたモノが置かれていた。光剣の時もそうだが、こういう科学兵器っぽいオリジナルのものはパッと見ただけじゃ何か見当がつかない。

 

「あー、それ? それはさっき貴女が買った光剣をアタッチメント用に改造したって奴ね。最近出たの。いくつか種類が有るんだけど、銃に合わせて形が違うだけじゃなくて、刀身が出る方向をある程度弄れるんだって。あと貴女の買った光剣と一番違うのは刀身の形がちゃんと刃物みたいになるってことかな。」

 

「ということは、これを銃に取り付けると剣としても使えるってことですか?」

 

「うん、まぁ、そうなんだけどね。一応現実にもコンバットナイフを取り付けて銃剣に出来るタイプの銃器も有るし。ただ、ハッキリ言って自分から近づいて斬りに行くような珍しい人は私の知る限り貴女くらいしかいないから、需要も殆どないネタアタッチメント扱いされてる。買う人なんて見たこと――」

 

「お、コレだコレ。ハンドガン用も有るし、さっきのにコレ合わせればお前向きだろ」

 

ない、と肩を竦めて女の子が言おうとした正にそのタイミングでハセヲもどきと一緒にいた青い髪を後ろで束ねた男がやってきてそんなことを言い出した。

彼の視線の先を追ってみれば、ハセヲもどきも近づいてくる。近くで見れば見る程ハセヲにそっくりだなこの人。

 

「いや、そもそも何なんだよコレ」

 

しかも口調と声まで本物と瓜二つだ。こんな偶然あるものなんだな。

 

「簡単に言えば銃剣用のアタッチメントだよ。リアルみたいな実体の刃物じゃないくて、光学兵器だけどな。蒸気銃とかお前の双銃とかにくっついてたヤツみたいなもんさ。俺も弾切れた時のために付けてる」

 

「そういうことか。刃の向きはやっぱり前か?」

 

「実在するハンドガンの銃剣……Cz75っていうんだが、ソレだと前なんだけどな。コイツは取り付ける時に展開方向を変えられるから下にも向けられるぜ」

 

「そりゃいいな。どうせ近づかなきゃならねぇんだし、足しになるだろ。つか、コレも開発陣の遊び心か?」

 

「かもな」

 

先ほど隣の彼女がしてくれたのと同じような話を、幾つか知らない単語を交えつつハセヲもどきにする青髪の男。説明を聞き終えると何の躊躇いもなくハセヲもどきは件のアタッチメントを購入してしまった。

というか、ハンドガンに取り付けるって、どんだけ相手に接近するつもりなんだこのハセヲもどきは。いや、俺も人のこと言えないけどさ。

 

「……ん?」

 

「あ……」

 

そんな様子をじっと見ていた所為だろうか。俺の視線に気が付いたらしいハセヲもどきと目が合った。

 

「あれ? キミさっき弾除けゲームクリアした娘だよね?」

 

「え、あ、は、はい」

 

ハセヲもどきに続いて青髪の男も俺の存在に気付いたようで、そうんなふうに話しかけてくる。なんとなく口調から手馴れてるような気がする。とてもじゃないが俺には無理だ。

咄嗟に女の子に声かけた奴が何言ってやがるとか言わない。

 

「いやぁ、凄かったよホントに。しかも弾道予測線を予測なんて、並のプレイヤーに出来ることじゃないし。やっぱりあのガンマンNPCの目を見て予測したのかい?」

 

「え、ええ、一応、そんな感じです。気付きましたか?」

 

「いや、恥ずかしながら俺は判らなくてね。連れのコイツが教えてくれたんだよ」

 

「そ、そうなんですか……」

 

テンション高めに話しかけてくる青髪の男に半ば笑顔を引き攣らせながらドモリつつなんとか返事をする。チラと男の後ろにいるハセヲもどきに視線をやれば、肩を竦めて溜息を吐かれた。仕草まで似ているとは、すごいなソックリさん。

 

「そうだ。こうして話したのも何かの縁だし、フレンド登録しよう。見た所キミ初心者だろ? 勿論、そっちの御嬢さんも。知り合いに綺麗どころが増えるのは嬉しいからさ」

 

「え、あ、あの、その……」

 

完全に俺のことを女だと認識して、恐らくナンパ感覚で捲し立ててくる青髪の男。女の子が隣にいる手前男だと言う訳にもいかずどうしようかと目を回していると、女の子が盛大に溜息を吐いてキッと男を睨んだ。

 

「あのねぇ、アンタいい加減に――」

 

女の子が俺を助けるため――非常に情けない話である――に文句を言おうとしたその瞬間、グイッと男の身体が後ろに引かれた。何事かと思えば、右手で男の首根っこを引っ張りつつ、左手で頭を抱えているハセヲもどきの姿が。

 

「初対面の相手に何やってんだテメェは、アホか。舞さんにチクるぞ万年ナンパ妻帯者」

 

「そ、それは勘弁!」

 

「ったく……悪かったな、アンタら。さっさと離れるから許してくれ」

 

「ちょっ、なにも引き摺るこたないだろ!? おいハセヲ! 離せって」

 

「うるせぇ、テメェも昨日人のこと引き摺りやがっただろうが」

 

言うだけ言って返事も聞かずに青髪の男を引き摺って行ってしまったハセヲもどき。何やら青髪男からハセヲって呼ばれていた気もするが気にしないでおこう。偶々アバターの容姿も声も口調も仕草も、ついでに名前まで同じなハセヲのソックリさんに遭遇しただけなんだ、うん。

 

「あ、あはは……スゴイ人たちでしたね……」

 

「そ、そうだね。青い髪の方はスゴイっていうよりチャラいって感じだったけど」

 

「確かに……それにしても」

 

「うん?」

 

「買ってく人いましたね、コレ、しかもハンドガンのやつ」

 

「……今日は有り得ないことが良く起こる日なのかしらね」

 

女の子が疲れた様に呟くのを、俺は苦笑いで見ることしか出来なかった。

この後サイドアームの《FN ファイブセブン》やら防具やらを買っている内に、BoBのエントリー時間がギリギリになってしまって総督府まで彼女とバギーで急行したり、更衣室で彼女――シノンに男だとバレたりしたのは……まぁ、余談だ。

 

 

 

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「ここが予選会場?」

 

「というより、公開型の待合室みたいなもんだな。AからOまである各グループのトーナメント試合は基本的に同時進行で行われる。負けりゃそこで終わり。ここに戻されて終了。勝った時は二パターンあって、自分の次の相手の試合が終わってれば即試合開始。終わってなければここで待機。試合が始まったらここには進行中の試合が交戦中のモノだけだが全部表示されるから、待機中は他の選手の手の内見放題ってことだ」

 

「どの試合も出来るだけ早く倒して待機してた方が有利ってことか。誰にも自分の手の内を教えずに、自分は他人のネタを見れる」

 

「ま、そう言う事だな。て言っても、試合時間はどうしても前後するはずだから誰にも見せないってのは無理だろうけどな」

 

マーケットから総督府の地下までやってくると、そこは既に多くのプレイヤーで溢れていた。ドーム状の部屋は暗色の照明で照らされているため少々薄暗い。

その中で、俺はクーンから大会の簡単な説明を受けていた。

 

「んで、マッチングが決まって転送されると、そこで一分間準備時間が与えられる。まぁ、装備の変更やらなんやらだな。試合終了後も同じように一分もらえるから、そこで装備を外しておくのが常套手段」

 

「ま、敵に塩送ってやる理由もないわな」

 

「そゆこと。試合は一キロ四方、場所やらなんやらは全部ランダムだ。真昼間の遮蔽物が殆ど無い更地だったり、真夜中の市街地だったりな。相手との最低距離は五百メートル。大体はこんな所か」

 

「五百か……更地だった場合一気に間合いを詰めるには少し骨だなそりゃ」

 

「ま、試合直後に互いの姿が見えてるなんてことはほとんどないから安心しろって。むしろお前の場合は交戦距離が極端に短いんだから如何に相手に気付かれずに出来るだけ近づけるかだな」

 

「まぁ、何とかなんだろ」

 

肩を竦めて答える。

ぶっつけ本番で負けたら終わりのデスマッチをやるのに不安が無いとは言わないが、二年以上刃物ばかり振り回してきた俺が、この銃の世界でどれだけやれるのかは純粋に気になるところだ。目的を忘れちゃいないが、これはこれで楽しもう。

 

「おっ、さっきの女の子二人も参加するみたいだな」

 

「ん?」

 

クーンが見ている方に視線をやると、確かに黒いと青髪の女、ついでに知らない男がいた。

何故か青髪の女がさっきと打って変わって長髪の女を睨んでるようにも見えるが。

 

「何か喧嘩でもしたのかね。さっきは仲良さそうだったけど」

 

「さぁな」

 

そんな益体もないことを話していると、BGMが切り替わり、甲高い女の声が大会の開始を宣言した。

 

「んじゃ、お互い頑張って本戦まで行こうぜ」

 

「まぁ、やれるだけやってやるよ」

 

それだけ交わし、俺達は転送エフェクトに包まれた。

 

 

 

《Haseo vs Heineken》

 

そう表記されたウィンドウが暗闇の中で表示された。

 

ヘイネケン……いや、ハイネケンか。ドイツビールの名前付けるとかどんだけ好きなんだコイツ。

 

なんて対戦相手のPCネームにケチを付けつつ、メニューを開いて武装を展開する。

防具だけは初めから付けているから変える必要はない。いつもの通り全身黒で選んでいたが、それは気にするところじゃないだろう。

 

レーザーソードのアタッチメントが取り付けられた二挺のデザートイーグルが腰の後ろにあるホルダーに換装される。代えのマガジンも腰の横に取り付けられた。装弾数が計14しかない二挺のデザートイーグルでは長期戦になれば確実に弾が切れるだろうから、リロードを素早くするために腰のマガジンは殆どむき身だ。勿論システム的なアシストでどんな動きをしようと落ちることは無いらしい。

 

気付けばタイムカウントはゼロになり、暗闇から一転、昼間の市街地に放り出された。

 

咄嗟に近くの遮蔽物に身を隠す。両のデザートイーグルを引き抜いて辺りを窺うが、今の所近くに気配はなかった。

 

さてどうするか。クーンには気付かれずに近づけって言われたが……性に合わねぇんだよな。

 

そんなことを考えつつ、トリガーに掛けられた人差し指の下。銃身下部に沿って中指の部分に付けられたスイッチを押すと、銃口の下から地面に向けておよそ40センチほどの輝く刃が構成された。どうやら押している間だけ刀身が出るようになっているらしい。

これだと引き金を引くときは必ず刃が出ることになるが、いざ使おうと思った時に誤作動で出なかったなんていう笑い話にもならないような展開折は余程マシだ。

何度か刃の出入りを繰り返して、スイッチを押してから刀身が出るまでのラグが殆ど無いことを確認してから、モノは試しにと向かいのビルを狙い左右二回ずつ交互に引き金を引いた。

ハンドガンとは思えないマズルフラッシュと轟音を響かせて大口径の弾丸が放たれる。撃ち込まれた四発の鉛玉は大体予想通りの場所に着弾し、ビル壁の一部を破壊した。

 

確かに反動はデカいが、扱えない程じゃねぇな。至近距離ならそうそう外れねぇだろ。

 

撃った時の感覚を確かめながら、直ぐにその場を少しだけ離れる。アレだけ大きな銃声なら、確実にコッチの居場所はある程度特定されたはずだ。

 

コッチにある程度近づいてきたところに突っこむ。

 

消極的な闘い方が向いてないのは自分でも判り切っているから、敢えて相手にある程度自分の居場所を曝す。その方が手っ取り早いしな。

 

耳を澄ませながらそうして待っている内に、左の路地の先辺りからノイズが聞こえた。これもシステム外スキルの一つだ。システムによって調整された風の音が一定でする中に、プレイヤーの行動によって不規則なノイズが入り混じる。それを聞き分けることが出来れば、大凡の位置関係は判る。

 

相手までの直線状に遮る障害物が無いのを確認して、勘付かれるのを構わず全速力で駆け出す。

 

大きな足音で流石に気が付いたのか、路地の先から身体を出してアサルトライフルを向けてくるハイネケン。

 

まずは相手の銃口(射線)から離脱する!

 

俺の視界に弾道予測線が表示されるよりも早く、地面を蹴って右斜め前方数メートル上の壁目指して跳んだ。更にそのまま壁を蹴って今度は左斜め前方下にある向かいの壁目指して跳ぶ。所謂三角飛びという奴で相手に狙いを付けさせない。

 

「な、何じゃそりゃ!?」

 

叫びながら乱射するハイネケンのライフルから放たれる弾丸は、銃口を振り回し、動揺で予測円が大きく乱れているのか、殆ど見当違いの方へ飛んでいく。

致命傷に成りかねない予測線のだけを少し体を動かして避けながら壁と地面を蹴ること五回。最後の一蹴りで一気にハイネケンまでの距離を詰めた。

ここまで来るとどれだけ雑な狙いでも弾幕が集中するせいで回避は出来ない。

アドレナリンが大量に分泌されている所為か、スローモーションで予測線が視界に映し出されていく最中。

 

「ォォォオオ――」

 

避けられねぇなら……

 

咄嗟に致命傷になる予測線の前に形成した刀身を向けた。

 

「――ラァッ!!」

 

叩き潰すまでだっ!!

 

吐き出された弾丸がレーザーでできた刀身と接触した瞬間。見事光の刃は弾丸を切り裂き蒸発させた。

 

「マジかよ!?」

 

ハイネケンが動揺している間に、残りの弾道予測線が身体の重要部から外れているのを確認して、マガジンに残る全ての弾丸を吐き出した。

瞬く間に放たれた十発の弾丸はハイネケンへ向かい、彼の周りの壁を破壊していく。そして、その内の一発が彼の頭部を吹き飛ばした。更にもう数発が残った身体に命中。

鉛玉の嵐は、ハイネケンを木端微塵にポリゴンにして噛み砕いた。

 

「……すげぇ威力だな、コイツは」

 

両手に握る鉄塊の威力に今更ながら感心する。視界に転送エフェクトが写る中、一頻り二挺のデザート―グルを眺めてから、腰のホルダーに戻した。

ともあれ、GGOに於ける初めての戦闘で、無事勝利を収めたのである。




というわけで、ハセヲ君の武器お披露目&BoB一回戦でした
因みにサブタイの《鉄》の読みは「くろがね」です(どうでもいい

ハセヲ君の武器に関しては、いろいろ悩んだ末デザートイーグルに落ち着きました。
いや、ホントは個人的な趣味でレイジングブル使わせたかったんですけど、「リボルバーで二挺拳銃? 無理に決まってんだろアホか」となり、ついでに色々調べてみたら「は? マグナムて軍用アサルトよか弱いじゃねぇか!?」ってなりマグナムの設定を弄り、止めに「マグナムつったってたった14発で射程何倍も有って毎秒十何発も連射するアサルトに勝てるわけあるかっ!!」ってなってご都合で光剣のアタッチメント先生にご登場していただきました。一応この光剣アタッチメントを次ぐらいの話で少し堀下げるつもり。

こうしてできたのがデザートイーグル双銃仕様です。
闘い方もただ弾丸斬るだけじゃキリト君と同じで芸が無いので、どうせガン=カタネタもだしたことだし、とハセヲ君には三角飛びで弾丸ではなく銃口そのものから避けるという事をしていただきました。ウチのハセヲ君がどんどん人外スペックになってる……や、原作から色々人外だったか。
まぁ、結局弾丸斬ってるんでキリトと被ってオリジナリティがあまり感じられないかもですが、許してください。自分にはこれが限界でした……orz

てなわけで、長々と言い訳しましたが。ご都合主義満載の第二章十二話でした。また次回、お会いしましょう

いつもの如く、誤字脱字及び感想は随時受け付けております。
銃火器の設定おかしくない? と言うツッコミも含めてどしどしどうぞ。
でも多分設定変えられないからそこはご容赦を、ということで。
ではではノシ

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