第三帝國召喚   作:(休止中)サン少佐

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第五話『接触』

 「本日はどの様なご要件でしょうか、大使殿。」

   ―――中央暦1639年1月26日…。

クワ・トイネ公国の貴族たる"リンスイ外務卿"の元に、クイラ王国の特命全権大使が訪れた。

「少し…懸念すべき事態が発生致しまして…

 

…ロウリア王国の事です。」

それを聞いたリンスイ卿は、

「…ロウリアですか。」

と…少し低い声で答えた。

「1月2日の午後。王都バルラート上空に一騎の飛龍が飛来しました。

御存知の通り…我が国は過酷な気候故、今まで野生の飛龍が飛来した事はありませんでして。」

「…騎龍であると?」

「ええ。先日、貴国の軍務卿にお伺いしまして、貴国の騎龍でない事は既に確認しております。

…その為我々は、この騎龍が()()()()()()()()である、…そう認識致しました。」

 現在、クワ=トイネ・クイラ両国は隣国たる"ロウリア王国"との領土的問題を抱えていた。

彼等はロウリア王国との領土問題(など)存在しないと主張しているが、少なくともロウリア王国との関係に大きな亀裂が走っているのは事実である。

「…何たる事だ。まさか新年早々この様な事が…。」

「我々の安全保障を脅かす"甚大なる侵入行為"でありまして、ロウリアを強く非難すべきです。」

「……無論だ。しかし一度政治部会に持ち帰らなければ…之は私の独断で決められる事ではありませんですからな。」

 ロデニウス大陸は着実に戦争へと近づいている。

在りもしない"ロウリアの旧領"を求め。

「…大使殿。重要な情報に感謝する。」

 

 クイラ大使の退出後、リンスイ卿は執務机の収納から煙草を取り出した。

煙草の詰まったパイプを咥えて着火し、暫時の小休憩で安らぎを得る。

 

「…はぁ…。」

 

 

 

 "戦争が始まる"。

 

 何れ、このクワ・トイネ公国にも表れるであろう。

彼等の主張する所の"旧領"にはクワ・トイネ公国の大部分が含まれる。

 

 …先日の交渉でリンスイ卿は、ロウリアに交渉を行おうとする気が無い様に感じていた。

ロウリアはクワ・トイネ公国の大部分を要求しながら、一切の妥協を行わないのだ。

まるで、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その時、執務室の扉がノックされた。

「誰だ?来客の予定は無い筈だが。」

その者は扉越しに答える。

"ヤゴウ"であります、閣下。

急を要する事態でして、マイハーク市の"ハガマ卿"*1より通達が御座います。」

リンスイ卿の元を訪れたのは、クワ・トイネ公国外務局の職員"ヤゴウ"であった。

 

 

 「何だね、その通達と言うのは…。」

入室したヤゴウに対し、リンスイ卿はパイプを片付けながら聞いた。

「…文明圏外国の一団がマイハーク市に現れまして、ハガマ卿が閣下に対応を求めております。」

「その一団の所属は?」

"グロス・ドイチェス帝国"の所属との事であります。目的は周辺地域の調査であり、偶然我が国を発見したとの事であります。」

 

 グロス・ドイチェス帝国…

 

そう、正にこの瞬間、

 クワ・トイネ公国は大ドイツ国を認識したのである…!

 

 

   中央暦1639年1月26日、そしてグレゴリオ暦1955年1月26日―――…

 

 大ドイツ国・イタリア社会共和国・ブルグント騎士団国の合同調査隊は、

クワ・トイネ公国との初接触を果たした。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 ―――時を遡る…。

 

 

 海運都市マイハークの領主館、その敷地内に"鉄の地龍"が佇んでいる。

調査隊の"アルデルト 西部用装軌式特殊車両"は、現地人から恐怖の眼差しを向けられていた。

「…チッ…誰も目を()わしゃあしない…。」

 大ドイツ国外務省の外交官"カール・オットー・クリンゲンフス"博士*2は、之から現地の地域指導者との会談に挑む所で、敷地内の庭園に設けられた会談場から周囲を伺っていた。

「…ん?来たか…まともな人物だと良いのだが…。」

中世の貴族を思わせる装いをした人物が此方(こちら)へと歩いてくるのが見える。

恐らく彼が"ハガマ卿"であろう。

「初めまして、()()()殿()

私はカール・オットー・クリンゲンフス。貴方は?」

 一瞬だが、ハガマ卿は困惑を見せた。…しかしその理由(わけ)をクリンゲンフスは理解していた。

相手は貴族である。外交官とは言え、労働者の家の生まれ*3であるクリンゲンフス側は(へりくだ)って話さねばならない。

"この度は会談の場を用意して頂き感謝の極みで御座います"、と。

しかし(へりくだ)ると言う事は相手に隙を見せ、主導権を奪われるに等しい。

"相手が王族であらばその限りでは無いが、少なくとも貴族ならば(へりくだ)る必要は無い"

彼はその様に考えた。即ち意図した事なのだ。

 それ(ゆえ)に、ハガマ卿は―――

「クリンゲンフス様、本日はこの様な辺境の地までお越し頂き…感謝の極みで御座います。」

…一介の外交官を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

とは言えクリンゲンフスは…自らの"位"を言わなかった。その為、ハガマ卿は"殿"とも"閣下"とも"殿下"とも言えず、あえて"様"と言う敬称を付けたのである。

「いえいえ、此方こそ急な来訪に対応して頂き感謝致します。

早速ではありますが、来訪の理由をお話させて頂いても宜しいでしょうか?」

「…勿論で御座います、クリンゲンフス様。」

 

 

 

 

 

 二日に及ぶ協議の末、調査隊はクワ・トイネ公国との国交樹立を行う為に一時帰還し、外務大臣級の人物を伴って協議に挑む事が決定された。

 

  1月30日午前、再び現れた"外交団"は遂にクワ・トイネ公国との国交樹立に至る。

そしてクワ・トイネ通貨との為替レートに関する協議も実施され、農業大国たるクワ・トイネ公国からドイツ経由での食糧輸入が開始される事になった。

 食料輸入には"エルリッヒ商会"*4傘下の海運会社、

"エルリッヒ・シュレスヴィヒ=ホルシュタイン海運"*5の貨客船並びに貨物船が用いられた。

 

 かくして"カブラの冬"の再来が避けられた欧州であったが、未だ鉱業資源の不足は解決しておらず、更には大量輸入の為に陸路での輸送網を確立する必要があった*6為、配給体制の解除までは暫くの時を要する事となる…。

 

第一部・第一章「導かれし異界の月」完。

To be continued……

*1
(クワ・トイネ公国マイハーク市の地域指導者。)

*2
(独:「Karl Otto Klingenfuß」)

*3
(彼の父「クリスチャン・フリードリヒ・クリンゲンフス」は鉄道労働者であった。)

*4
(架空の商会。プロイセン王国時代にケーニヒスベルクの商人ギルドから派生した為、ドイツ政府との関わりも根強い。NSDAP(国家社会主義ドイツ労働者党)との関わりは、DNVP(ドイツ国家人民党)NSDAP(国家社会主義ドイツ労働者党)の"客人"となった時からである。)

*5
(架空の海運会社。前述のエルリッヒ商会の傘下企業である。)

*6
(大型輸送船を掻き集め、クワ・トイネからの大量輸入を行おうとしても、近代的な港湾の存在しないクワ・トイネから大型輸送船への積み込みは通常よりも多くの時間を要する事になる。故に陸路を開拓すべきであると大ドイツ国は考えていた。)

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