機動戦士ガンダム 終天の御伽噺-フェアリーテイル- 作:7746MRRWAY
1.
人の営み、日常の定義。それはきっと、永遠に変わらないものかもしれない。どれだけ時が流れても、どれだけ故郷を離れても。
窓から
なぜ人はその場所を、敢えて地球に似せるのか。母なる星を遠く離れ、金属の入れ物の中で生まれてなお、故郷の模倣を続けるのかを。重力すらも発明され、遠心力すら不要となり、とうとう地動説まで進歩した。
なぜ人は、太陽から離れてなお、その暖光に焦がれるのか。無限に近い動力を得ておいて、なぜわざわざ入れ物の中に、青空と陽光を創るのか。
なぜ人は、人の姿に拘るのか。全て機械に委ねれば、頭を悩ますことも、汗を流すこともないはずなのに。
なぜわざわざ、機械の巨人を創りだし、人を繋げて動かすのか。人の姿をしていなければ、人の手が入らなければ、あるいは不安を感じるものか。
今ここは太陽系の果て。その中心、恵の光すらか細くなる、最果ての宙。
宇宙に出ることが当たり前になった時代。わたしたちの祖先は、コロニーと呼ばれる大きな入れ物をこの宙域にたくさん製造した。そこに故郷の星を再現し、その中で何世代にも渡って過ごしている。
壁を一つ越えれば、そこは死の世界。不安がないわけじゃない。でも、そんな昨日の不安をよそに、また今日は来た。きっと明日も、変わらずまた来るだろう。
それがいかに脆いか、何に支えられているか、どれだけの人が気付いているだろう。
だからこそ、思う。
わたしは守りたい。
未来を、ただ未来を。
2.
「・・・むかーし、むかし。あるところに、ゆうかんな男の子がいました。」
はじめまして。わたしの名前はアスミ・キサラギ。
このリゾートコロニー・ファシータで、未来を守る仕事をしています。みんな知っているだろうけど、コロニーもといスペースコロニーは、宇宙で人が暮らすための居住地で、幾つもの都市が入っています。中でもリゾートコロニーは、主にバカンスの為の都市が殆どを占めています。そして、そこに住んでいる人たちは、そこに訪れる旅人たちの幸せな休暇のために今日も働いています。もちろん、わたしも。
趣味は・・・今は内緒。いずれというか、すぐに分かると思います。
今日も、未来の声が、希望の声が、わたしの周りで響きます。
「せんせー、おはなしつまんなーい。」
「せんせー、まだー?」
・・・未来を守ると言ってもまあ、要するに、保育士です。いままさに、おはなしの時間をぶっちぎろうとしている園児たちに、手を焼いているところです。
この子たちのご両親は、みんな今日も大忙し。主に観光のお仕事をしています。あ、今もイナちゃんのお母さんのタクシーが、園の前を通り過ぎました。
おっといけない、集中、集中。
たしかに、大変なことはいっぱいです。でも、子供は好きだし、話を合わせられるし、天職だと思っています。
何より、今日はちょっとくらいのおてんばは、許せちゃいます。なぜなら、この子たちが落ち着かない理由が、誰よりもよくわかっているからです。
「せんせー、はやくー。」
「せんせー、まってー。」
おっと、いけない、こんな時間。わたしも急いで、支度をしないと。
遅れること3分、同じく遅れたユーナちゃんと一緒に、先行く園児たちに合流しました。
さて、ひとり、ふたり・・・よし。ついに、みんなが待ち望んだ時が来ました。
「はい、準備できたね!みんな、揃ったね!それじゃあ、出発。」
今日は、お出かけの日。
わたしと、園長先生と、受け持つ園児が10人。
行く先は、なんと映画館。
はぐれないよう目をかけながら、歩幅を狭めて、ゆっくり街を歩きます。
この歩き方にも、もうだいぶ慣れました。
もちろん、危ないものがないように、しっかり周りを見ま・・・。
「うええええん!」
・・・大変です。怖がりのテタくんが、泣き出してしまいました。たまに、危なくないものにも驚いたりするので、そこにも気を付けます。
「大丈夫、怖くないよ。あれはね、あの大きな人はね、わたしたちを、守ってくれて、いるんだよ。・・・大丈夫、せんせいも、いるからね。」
・・・気を取り直して、自己紹介に戻ります。
特技は、とても耳が良いこと。
こうして町を歩いていると、なんでもない会話から、遠くのひそひそ話まで、なんでもよく聞こえます。
・・・そう、なんでも。
いいことも。
「やった、受かった!」
「当たった、本当に、当たった!」
「大丈夫です。全員、命に別状はありません。」
嫌なことも。
「この、裏切り者!」
「アンタが、ほったらかすから悪いんでしょう!」
「くっ、どこに行った、あのバカは!」
聞こえちゃいけないことも。
「いいか、暗証番号は・・・。」
「この襲撃計画は、万全だ・・・。」
「裁判前ですから、誰にも・・・。」
たまーに、よくわからないことも。
「ああ、秘密兵器だ・・・。」
「でもよ、ラビス。本当に・・・。」
「たまたま、いいライフルも拾って・・・。」
だから、気にしない。面と向かって言われたこと以外は、すぐ忘れる。社会の一部になって暮らすため、それがコツだと思っています。だからそう、気にしない。
「聞いた事ないか、
気にしない。
3.
映画館。どれだけ時がたっても、家に入らない大きな画面とスピーカーに囲まれて見る映像作品のすばらしさは、色あせることはありません。VRでも、フルダイブでも味わえない。目の前の人込みこそが、その証明。
さて、ここの半券文化も相変わらず。子供券を10枚。大人券を2枚。これでテナントのレストランのドリンクバーが、全員分無料。ランチの1週間前予約で、更に20%オフ。子供たちは2時間集中、経費も削減、ついでにわたしも楽しい。最高のお仕事です!
さて、まずは大人券を1枚、園長先生に。それから、子供券を1枚、2枚・・・9枚。あれ?1枚、余った。・・・まさか。1、2、3・・・9。1人、足りない。誰が、誰が。
・・・ユーナちゃん。
確かに、ぐずると固まって、黙り込んで、動かなくなるような子だけど。
・・・いつ、いつから?でも、でも、こうしている間にも、危ない人に見つかったら。
「園長先生!」
わたしは、決意した。耳の良さと足の速さと跳躍力には自信がある。絶対に見つける、一刻も早く見つける。できれば、いや、なんとしてでも、みんなで映画を観るんだ!
「ここは、たの・・・。」
「・・・あの。」
ここはたのみます、と言いかけたところ、突然背中から、声を掛けられた。振り返ってみると、そこには・・・おじいさん。・・・じゃない。髪の毛が真っ白だけど、肌も、真っ白。眼も、白に近い、灰色。たぶん、男の子だ。13歳、くらいかな。でも、すごく、浮世離れしていて、目立つ色のはずなのに、本当に、透き通っていて、見失ってしまいそうなくらい、透明な子。
でもそれより、その隣にいたのは、その手を握っていたのは・・・。
「ユーナ、ちゃん?」
案の定、男の子の手を握ったまま、固まっている。
「・・・すみません。ちょっとそこを歩いていたら、この子に、捕まってしまって。」
男の子は、言う。
「・・・その、エプロンの、S・K・Gって文字が見えて。何か、知っているかなって、思いまして。」
その子は、私の顔の少し下と、ユーナちゃんのスモックのアップリケを交互に指さして、言った。
・・・ううん。知っている、じゃないよ。まさに、探していたところだよ。お礼の言葉じゃ足りないけど、まずは素直にお礼を言おう。
「ありがとう。君のおかげだよ。」
わたしはそう言って、その子の左手をほどいて、ユーナちゃんの右手を自分の左手と握り直した。気のせいかもしれないけど、その子の手は、少しだけ冷たく感じた。
「じゃあ、気を付けて帰ってね。」
「あの、戻らなきゃいけないのは、その、やまやまなんですけど・・・。」
・・・ユーナちゃんは、うちの園児は、今度は空いた右手で、その子の黒い上着の裾をしっかりつかんだまま、離さない。
どうしよう。映画が始まってしまう。リバイバル上映なので、この機を逃したら今年中はもう上映しない。そして、今日のスケジュールにある他の作品は、スプラッタやホラーの名作のリメイクに、18禁恋愛映画のリブート・・・どう考えても片手で数えられる年齢の子供が見ていい代物じゃない。
どうすれば、どうすれば・・・そうだ。
「じゃあ、君も一緒に見る?」
その子は、きょとんとして、こう尋ねてきた。
「・・・はぁ。でも、いいんですか。おれなんかが見ても。」
「大丈夫、面白さは保証するから。」
何を隠そう、わたしがこの子と同じローティーンの時に、本格的にこのシリーズにハマるきっかけになった作品。むしろ、格好良さだけじゃなく、込められたメッセージに気づける歳になって、初めて真価に気づける作品だと思う。わたしを、特撮沼に沈めた・・・張本人。
わたしの熱意に押されたのか、ユーナちゃんに付き合うことにしたのか、その子はこくりと首を縦に振った。
でも、続けて、こんな質問をした。
「・・・ところで、映画って、なんなんですか。」
・・・そこからかぁ。確かに今時、ちゃんとした映画館があるコロニーも少ないかもしれないけど。
「じゃ、じゃあ、時間が来たら、あの扉の中に入って。あとは、座っているだけでいいから。ユーナちゃんに付き合うと思って、ね。」
「・・・はい。」
まあ、快諾してくれた、と思っていいのかな。
・・・あ、一つ忘れてた。
「・・・園長先生、1枚、経費で・・・。」
「落ちませんよ。」
・・・ケチ。
まあ、いいか。このくらいなら、自分の財布からでも出せるよね。
あ、そうだ。もう一つ、忘れるところだった。
半分ほどの背丈の女の子を連れ、扉をくぐろうとする男の子に、わたしは聞いた。
「そういえば君、名前は?」
その子は、少し間をおいてから答えた。
「・・・ムクロ、です。」
・・・むくろ、骸・・・すごい、名前だ。
4.
「・・・かんどう、しました。」
「・・・ムクロ、くん。」
・・・すごい。泣いてはいないけど、あまりの感動に震えてる。
今は、映画終わり。レストランで、お昼ご飯。子供は、2割引のお子様ランチ10食と、サービスの子供ドリンクバーが10人分。大人2人は、同じく無料のドリンクバーでカフェイン接種。もっとも、わたしは興奮で当分眠くなる気はしないけど。そして、大人と子供の中間は文字通りその中間、サービスのドリンクと、お子様ランチの一部。にんじん、グリンピース、ピーマン、しいたけ。どう見ても嫌いなものを押し付けられただけ。なのに、彼は文句ひとつ言わず、着々と食べ進めていた。わたしがこの子くらいだった時に、苦手だったものでも。なんでも、食べられるんだと感心した。でも、エスプレッソを甘み無しで飲むのは、流石に珍しいって思った。
「・・・それで、どこが、よかったのかな。」
わたしは、黙々とお子様ランチの部品を処理する彼に、映画の詳しい感想を聞いた。
「・・・そう、ですね。連邦軍の暗部組織に改造された、強化人間。人を殺す、支配するための、力。怪物のような、恐ろしい姿。それを、自分の意思で、大切な人を、命を守るために、使う。最後は、自分が、どうなっても、いいって。そんなの、ずるい。格好、良すぎる。」
うん、うん。当時のわたしと、寸分たがわぬ感想。うん、ごめん。わたしも、泣きそう。
「・・・ただ、闘う前の、あの姿に変わる時の、その、言葉の意味が、よく分かりませんでした。」
「どの、言葉?」
そういうと、彼は席を立ち、両足を肩幅くらいに開く。腕を大きく回して、腰に手をかざしたところでピタッと止まり、言った。
「・・・この後、左から右に腕を回すところ、です。」
・・・え?それも、知らないの。有名どころか、男の子の義務教育じゃないの?知らない世代なんて、この宇宙に存在しないはずなのに。
でも、うん。いざ説明しようとすると、結構難しいな。辞書によると、「別のもの、他のものに、姿を変えること。」なんだけど・・・なんだけど、10年来のファンとして、そんな安直な伝え方をしたくない。
そう、言うなれば・・・。
「・・・魔法の言葉、かな。」
「・・・魔法。」
彼は、きょとんとした。
「・・・魔法の言葉。押し付けられた運命を破る、決意の言葉。誰かのために英雄になる、覚悟の言葉。背中を押す、勇気の言葉。」
「・・・決意、覚悟。」
「不思議な力が宿った言葉。どんな世界にも、
彼は、しばらく考え込んで、こう言った。
「・・・わかり、ました。なんとなく、ですけど。」
そっか。よかった、ちゃんと伝わって。
「さてと、そろそろ帰らないとね。」
園長先生の言葉。こういう時だけはしっかりしてる。
さて、園児たちがきれいに食べ終わったのを確認。この後に続くのは、食事にまつわる魔法の言葉。全宇宙共通の、この世の食材への感謝の言葉。
「じゃあ、みんなそろって・・・。」
「・・・全員動くな!」
・・・え?
「ここは、“孤狼の群”が占拠した!貴様らは人質だ!騒ぐんじゃねぇぞ!」
「・・・おいバカ!その名前は・・・!」
「掟なんて知るか!今のラビスなら親父・・・・いや、あんな野郎になんて負けねぇ!」
・・・え?
え?
帰ろうとしたら。
ごちそうさまを、しようとしたら。
テロリストに、占拠された。
え?
5.
妄想じゃ、ないよね。いくらわたしでも、さすがにこんな不謹慎な妄想は、この歳になってやらないって、信じてもいいよね。
大きな音の連続。崩れる天井。花火に似た、火薬のにおい。
周りのみんなは、耳を塞いで、伏せている。
・・・現実だ。
騒ぐなって。そんな、無理。でも、助かった。子供たちは逆に、あまりの驚きで、固まっていた。でもこれが解けたら、みんな、一斉に泣き出す。・・・そうしたら。
落ち着いて、落ち着きなさい、わたし。わたしには、この耳がある。ここからでも、外の様子がわかる。ほら、だって、耳をすませれば、聞こえてくる。みんな、お巡りさんも、兵隊さんも、外で、戦っているから。きっと、助かる。
「相手は、リアウルか・・・。旧型、数は僅か10!なんとかなるぞ!」
「急げ、早急に鎮圧だ!突入!人質を、救出しろ!」
・・・ほら、兵隊さんの
「なんだ、あの、白いのは。・・・見たこと・・・ぎゃあっ!」
「まずい、対地バルカン!特殊部隊・・・ぐぁっ!」
「先輩!うわああああっ!」
・・・え。
負けて、殺されて?
お巡りさんも、兵隊さんも、今ので、何人か・・・死んだ。
「くそっテロリストが、こんなパワーで、こんなことで、救われるとでも!」
「思い知ったか、これが・・・ガンダムの力だ。」
「悪魔、め。・・・あぁっ!」
嘘だ。
金属が、溶ける音。
人が、焼ける音。
また、死んだ。
1人、死んだ。
「見ろ!俺たちのリーダーの勇姿を!あの圧倒的な白い悪魔こそが、俺たちの正義の怒りだ!」
「おい、やめろ!余計なことを・・・。」
声がした。すぐそばだ。その声は、思っていた以上に高かった。声変わりが終わったばかりの、男の子の声だ。2人とも同じくらいの歳、まだ少年だった。
「俺たちはなぁ、不法居住者ってやつだ!俺たちの目に着くところで、きれいな服を着て!雑草や、虫より美味い物を、食ってんじゃねぇ!」
そう言って、大きな音を立てる少年たち。皿の破片と、ソースと、まだ食べられるものが、飛び散った。
・・・そうか、あの人たちは、いいや、あの子たちは、恵まれない、子供たち。生まれる場所が違っただけで、普通に生きることさえ否定されて。でも、興奮した犯罪者の主張なんて、聞かない方がいいに決まって・・・。
でも、比較的裕福な家庭の、比較的裕福な子供を預かって、そこそこの収入を得て・・・そんな生活を、わたしはしてきた。わたしは、今まで何をしてきたの?不幸な子供は、こんなにたくさんいたのに。それも、目の届かないところに。でも、わたしに何ができたの?今、何をするのが正解なの?
その考えは、守るべきものたちによって、ひとまず保留にされた。1人、また1人と、ぐずり始めた。大泣きなんてしたら、この子たちは、本当に、みんな、殺される。
・・・どうすれば。
「・・・待ってください。」
ムクロくんの、声。いつの間にか、襲撃してきた少年たちの目の前にいた。
だめだよ、戻って。そう伝えたいけど、どうすれば彼だけに伝わるのか、わからない。
「・・・すみません。あなた方の主張を聞いても、どんなに考えても、こんなことをする理由が分かりません。どう見ても関係ない、この子たちだけでも、返してあげてくれませんか。」
・・・やめて。お願いだから、こっちに戻ってきて。念じるしかできない、届くはずない。
「・・・言っただろ。ムカつくんだよ、俺たちを踏み台にして、良い生活をしてる奴らが。目的なんか、もう知るか。」
「・・・解放しないなら、どうする、つもりですか。」
「そりゃ、そうだな・・・処刑する。泣き出した奴から、順番に。それを国営放送で流させる。そうすりゃ、流石に国も重い腰を上げるだろうが。」
「・・・処刑って、罪人に科す刑、ですよね。この子たちに、罪はないはず。」
「俺をムカつかせた、それが罪だ。力がある奴が法で正義。国も同じだろうが。俺には、俺たちには今、力がある!」
「・・・おい、やめろ!本当に、どうしちまったんだよ!目標の確保は!」
これって、仲間内で、もめてる?
なだめるもう一人の努力もむなしく、なだめられる少年のストレスはピークに達しようとしていた。それをムクロくんの、まっすぐすぎる言葉が逆なでする。
「それを力と呼ぶなら、おれは、あなたを許しません。」
「許さなかったらどうだ!今すぐ殺すぞ!」
「その言葉の、重さを。おれは殺せない、誰も殺させない!あんな顔は、二度とさせない!」
とうとう興奮する少年は、ムクロくんの白い頭に銃口を突き付けた。
「おいよせ!」
必死に止める仲間すら振り払い、ついに。
「うるせぇ!」
「ムクロく・・・!」
「・・・。」
乾いた音が、1つ、響いた。続いて、反響音が、2度、3度と続いた。
真っ白い頭の男の子が、仰向けになって、後ろに、とばされて。
やがて、重力に引かれて、床に、落ちた。
額からは、血が、とめどなく、流れ出して。
ここまできて、ようやく、状況を、理解できた。
ムクロくんが、撃たれた。
銃弾は、銃口を突き付けられていた、額のど真ん中に命中した。
医学の知識は人並み程度しかないけど、それでもわかる。
どう考えても、助からない。
即死だ。
興奮していた少年は、動かなくなった、自分が殺した相手をみて、呆然とした。さっきまでの野獣のような姿とは、別人のようだった。
「やっち、まった。」
「・・・どうすんだよ。」
あの言葉も、この罵倒も、殺すとか、処刑するという宣言も。・・・特に深く、考えていなかった。ニュースや、本を読んでも、分からなかったもの。これが、少年犯罪の、実態。勢い任せの、考えなし。力の行使を、暴言をためらわないだけで、みんな、ひざまずく。それしか、知らない。だから、間違える。だから、悪い大人に。だからこそ、ちゃんとした大人なら。
守らないと。泣き出しそうな、子供たちを。まだ引き返せる、子供たちを。彼らの心は、動いている。今ならきっと、彼らだけでも、説得できる。正義を示して、正義に殉じて、少年たちに引き返す選択肢を与えた彼の死を、命を、無駄にしないためにも!子供が子供を殺すような地獄に、立ち向かえ!
わたしも、ヒーローになるんだ!
「あ、あ、あのっ!」
・・・“の”、のあたりで声が上ずった。まだ、体が、心に、ついていかない。でも、守るんだ、子供を、未来を。そのために、説得する。まず、少年たちの目を見る。でも、膝まで、震えてきた。誰か助けてと、叫びたい。違う、叫ぶのは、助けてじゃない!
「・・・それでも!」
「痛い・・・。」
・・・え?
真っ白い頭が、赤い血を、滴らせながら、起き上がる。
え?
・・・え?
「ムクロ・・・くん?」
何が・・・起こって?
おでこから、血を流して、え?
大丈夫、なの?
「痛いじゃないですか。」
・・・痛いで、済むものなの?
「今の、暴発ってことにしておきます。でも今ので、殺すって、本当は嫌なことだって、わかりましたよね。・・・降参してください。」
暴発ってことにしてくれるのは、優しいね。
でも、なんで、生きてるの。普通、死んでるよ。
いや、でも、さすがに、どう見ても、逆効果。
だって、2人そろって、真っ青な顔して。また、銃を構えて、今、何か操作した。
「うわああああっ!!化け物おおおおおっ!!」
間もなく、彼らは引き金を引いた。そして、それらは再び火を噴いた。わたしは、慌てて子供たちに覆い被さって、伏せた。今度は何十発もの弾が、連続して発射された。反動で、銃が揺れる。ぶれた狙いが、逸れた弾が、テーブルを、床を抉っていく。今、わたしの目の前の床も弾けた。でも当然、最も多い弾を受けるのは、その銃口が向く先の・・・彼だった。
「痛っ!痛い!だから痛いですよ、もう!」
彼の全身は、真っ赤に、穴だらけになっていった。今どの穴から出てきた血が服を染めているのか、判別することさえできない。それでいて、平然と話している彼の体も、思考回路もわけがわからない。
・・・やがて、銃弾の雨は止んだ。でも、彼らは目の前の怪物の排除を、あきらめていなかった。震える手で銃の部品、おそらく
・・・爆音と直後の耳鳴りが消え、静かになった。すると、変な音に気がついた。今まで銃声にかき消されていた不気味な音が、初めて耳に届いた。
ドクン。
心臓の音のようだった。
ドクン。
でも、違う。
ドクン。
金属音のような、不快な高音が混じっている。
ギギギ。
その音と共に、彼の顔は、青ざめだした。
ギギギギ。
「・・・まずい。」
ギギギギギ。
「・・・動いた。」
ギギギギギギ。
「・・・駄目だ。」
ギギギギギギギ。
「・・・やめろ、殺すな!」
その時、彼の顔は。
「・・・なら、やるしかない。」
怯えから、決意に満ちたものに、変わって見えた。
彼の手に、真っ黒な何かが見えた。
大きさは、拳くらい。
両手でそれを、お腹に押し付けた。
「・・・これで、よし。」
そう言ったように聞こえた。
子供たちの、顔を見た。
わたしの、顔を見た。
嫌いになっていいと、言った。
逃げてと、言った。
諦めるなと、言った。
一番好きな映画の、
一番好きなシーンが、
再現された、
目の前で、
今、
現実で、
彼によって。
6.
恐怖に震えるヒロインと、涙も枯れた子供たち。
その眼前に、悍ましさを超え神々しさすら感じる怪人、強化人間第0号。
その両者の間に颯爽と立つ、1人の精悍な青年。
子供たちに、安心をふりまくために、精一杯の笑顔を見せる。
敵対者に向き直ると、その表情は決意と怒りに染まる。
そして、両足が大地を踏みしめる。両腕が、空を切る。
“魔法の言葉”を、力強く、唱える。
そして、姿は、変わる。
ここまでは、同じ。
でも、あれは違った。
あの人は、あんなに黒くない。
あの人は、あんなに鋭い仮面じゃない。
あの人は、あんなに刺々しい鎧じゃない。
あの人に、あんな触角が4本もあったりしない。
あの人は、あんなに血を流して姿を変えない。
あの人は、あんなに不快な金属音を出さない。
あの人は、子供たちが見なくてよかったなんて、思わせない。
あの人は、あんなにおぞましくない。
あの人は、4号は、あんなに・・・怪物みたいな、姿じゃない。
2人の少年は、青ざめたまま、また、銃を向けた。爆音の群れが、また耳を切り裂く。でも、それだけだった。たまに内装が削れるだけ。黒い鎧は、欠けることも、傷つくこともなかった。もしくは、傷をものともしない速さで再生しているかの、どちらか。
そしてまた、音が止んだ。少年たちは、真っ青な顔で次の
同じような悲鳴が、外からも聞こえる。時々、金属同士がぶつかり合うような音も聞こえる。
・・・やっと、状況が理解できた。ムクロくんが変わった、あの姿。あれは、ものすごく速く動ける。たぶん、時間操作とかじゃない。ものすごい力で地面や壁を蹴って、人間が耐えられない勢いで、加速している。だって、ムクロくんが立っていた床が、少年たちがいた方向に向かって、弾で削れたよりもずっと、大きく抉れているから。そんな感じの跡が、あっちこっちの壁や地面にある。たまに、黒い線のようなものが見えて、周りの窓ガラスが割れる。そして、その度に悲鳴が増える。
ならどうして、武器と、それを持つ腕だけを壊すんだろう。あの速さ、重さ、少し当たり所がずれるだけで、人は死んでしまうのに。それを、しなかった。腕が折れる音はしても、急所がつぶれる音が、人が死ぬ音がしたことは、一度もなかった。
「・・・誰も、殺させない。」
彼の言葉を、思い出した。
今はただ、それを信じるしかなかった。
わたしは、わたしが守れるものを、わたしのやり方で、守るしかない。
7.
「・・・しかし、良い耳ですね。ありがとう。おかげで、ここまで安全に。」
レストランの、店長さんだった。でも、話していたら、重要な音が聞こえない。わたしは、人差し指を口の前に立てて、万国共通のジェスチャーをした。
「・・・シーッ!・・・こっちの道は、駄目です。ドローンが・・・あっ、今壊されました。行きましょう!」
テロリストの少年たちは、ムクロくんが殆ど倒してしまった。だったらもう危なくないのでは、とも思ったけど、そこまで甘くはなかった。
逃げようとする直前に、会話が聞こえた。警備用のドローンが、乗っ取られた。特大のピザくらいの大きさで、速くはないけど空を飛べて、威力は弱いけど銃を撃てる。だから、こうやって、遭遇しないように歩いている。園児たちをはじめ、レストランや映画館のお客さん全員を、安全に逃がす。数十人もの、集団避難。そのために、あるものはとことん活用する。余裕がある人に子供をおんぶしてもらったり、自分の耳の良さで逃げ道を確認したり。生まれて初めて、自分の耳を誇りに思えた。
・・・何より、そのドローンも、たぶん、今ムクロくんが壊して回ってる。たぶん、なのはムクロくんの姿が見えないから。速すぎて、ドローンが勝手に爆散しているようにしか見えないから。
わたしたちの行先は、ここから一番近い駐留所。そこなら、警備兵さんたちがたくさんいる。大丈夫、怪しい音は何もない。きっと、安全だ。きっと、みんな逃げられる。逃げ切れる。
あと、100m。あの、建物の向こう。みんな、がんばって。
「・・・やっぱり、待って!」
進もうとしたその時、建物の影に、見えた。・・・
・・・あれが、ガンダム。白い、悪魔。
その巨人は、わたしたちに気が付かなかったのか、そのまま、飛び去って行った。・・・危なかった。わたしは、支給のエプロンのアップリケに手を置いて、大きく息を吐いた。
でも、もう少し。あと、50m。もう、一気に駆け込もう。100m四方を囲む、高さ3mの塀の向こう。入り口は・・・大丈夫、開いてる。
「みんな、走って!」
わたしたちは、走った。あと、たった数十秒。それだけ走れば、みんな、助かる。わたしが先陣を切って、怪しい音がしたら、すぐに引き返させる。・・・何も、聞こえない。安全だ!解放された門に、飛び込んだ。開口一番、叫ぼうとした。
「警備兵さん、助け・・・。」
・・・だだっ広い駐留所。誰もいない。もぬけの殻。なんで、気付かなかったのか。何も音がしないのは、逆に怪しいって。ここはもうとっくに制圧されて、撤退がもう終わっていたことに。そして、制圧した犯人は、そこに補給に現れるということに。
向かってくる。飛んでくる。
「みんな、急いで逃げ・・・。」
大きな、足音。それが、5つ。
目の前に、着陸した、絶望。
補給に来たということは、押されている・・・ということは。
ガガガガガ、という爆音が、目の前で鳴った。機関銃。少年たちが使っていたものとは、くらべものにならない大きさに、威力。それが、駐留所の床を、抉った。地下層の水道管を破壊されて、床の上には水があふれた。
その意味は、言われなくても、わかってしまう。「逃げるな。」
子供たちは、これでもかというほど、泣き叫んでいる。でも、助けられない。抱きしめて、一緒に泣くことしか、できない。ごめんなさい。みんな、ごめん。わたしの頭が、悪いから。ごめん、ごめん、ごめん、ごめんなさい・・・。
「そこまでだ。」
・・・高いけれど、切れ味のある声。凛々しい、女の人の声。ぱしゃぱしゃという靴音も。
・・・誰だろう、誰かが歩いてくる。
敵かもしれない。
恐怖半分の気持ちを抑えて、顔を上げた。
その足元は、最初、ブーツのように見えた。でも、裾から覗くもの。あの模様は・・・制服の下に着ている、あのスーツは。
雑誌で、読んだことがある。・・・国軍の、士官。
恐怖を抑えて、更に顔を上げる。長く、艶めく黒髪は、無数の星が浮かぶ宇宙のよう。凛とした声に反して、まだ幼さの残る顔。そして、目の前の悪を許さないと訴えかけるような、強い意志を秘めた蒼い瞳。
「・・・止まれ!止まれと言っている!」
テロリストたちは、現れた人に銃を向け、警告する。これで、確かに確信した。彼女は、わたしたちの味方、だ。
「・・・民間人の皆さま。」
女の人は、そんな忠告は耳に入れずに、わたしたちに優しく語りかけた。
「情報展開の遅れ、誠に申し訳ございません。彼方に、裏口を出て500mほど先に、輸送コンテナが待機しております。・・・急いで避難を。」
・・・え?軍人が軍の非を認めることは、ほとんどないと、小耳に挟んだことがある。謝罪するとしても、広報の記者会見を通して。それくらいの大事なのに、それがあっさりと、非を認めて、謝った。つまり、この人は、かなりの地位を持っている。わたしより幼くて、まだ十代くらいに見えるけど。
「無視すんじゃねぇ!」
テロリストが、叫ぶ。思わず発砲してしまった、少年たちの姿が重なった。でも、彼女はそんな言葉に耳を貸さない。
「・・・逃げてください、私が守ります。」
そう言うと女性は、赤い袋を、水浸しの床に落とした。輸血パックのようにも見えた。
「全員殺すぞ!」
とうとう、テロリストたちの堪忍袋の緒が切れたようだ。5つの銃口が、一斉に彼女に向く。
「・・・やってみろ、出来るか。」
彼女は、制服のポケットから何かを取り出しながら、敵対する者に強気に返した。なぜ?
ああ、そうか。逆を言えば・・・つまり、それらが、凶器が全部、わたしたちから逸れたということ。
安全を確信したのか、彼女は叫ぶ。
「走れ!」
わたしたちは、言われるがまま、走った。逃げるように、裏口へと向かった。でも、不安が過る。・・・でも、あの人は?どれだけすごいパイロットでも、乗る機体が無ければ、どうにもならない。もしかして、殺される?・・・駄目。そう思って、走りながら、振り返った。その足元の水たまりは、真っ赤に染まっていた。・・・血?・・・まさか、そんな。
「・・・来い。」
最悪の予想をするわたしをよそに、彼女は水面に手をかざす。そして、呟く。
「
静かに、おそらくその名を、呼んだ。
間も無く、水柱が上がった。高く、高く上がった。それが下がってくると、その向こうに、影が現れた。
・・・あれは、あの影は、あの姿は。
「・・・ガン・・・ダム?」
似ていたけど、違う。でも、顔が似ている。あの、恐ろしい、白灰色の巨人に。鋭い目、2本の角、突き出した顎。あの顔に、よく似ていた。逆に、体はあまり似ていなかった。例えるなら、蒼い鎧。先月、水族館で見た意匠。魚、貝、甲殻類、それは、記憶の中のあらゆるものを連想させた。
でも、何より驚くべきは、その巨人が水中から浮上するように、いきなり何もない下から、現れたように見えたことだった。
何が何だかわからない。わたしは気が付いたら、足を止めていた。
やがて、蒼い巨人は、巨人の群れに向かって駆けだす。巨人たちは、銃を構える、もうすぐ、あの大きな音がする。
そこで、再び彼女の声がする。
「立ち止まるな!」
わたしは、はっとした。足元に、あの少年とめぐり合わせてくれた、守るべき子がいた。エプロンの裾を、しっかりと握って、必死で、涙をこらえていた。
「振り向くな、守り抜け!」
その声に背中を押され、走った。守るべきものを抱き抱えて。わたしの代わりに、わたしが守るべきものたちを背負ってくれた人たちの、背中をただ追った。
後ろで、大きな地響きが一つした。
8.
「押さないで!全員乗れますから、落ち着いて!」
・・・あの服、兵隊さんだ。やっと、目的地に辿り着くことが出来た。コンテナの中に、避難してきた人を誘導している。安心して、腰が抜けそうになった。でも、まだそうなるわけにはいかない。
今は遠くで、青い巨人が暴れている。駐留所のテロリストたちを、倒したんだ。今、3機まとめて倒れる音がした。ここに襲撃してきたのは、全部で11機。あとは、3機と・・・。
なぜか突然、ぞっとした。
「ガンダム・ハゥフューレ・・・!」
頭上から、声がした。上空に、あれがいた。
あの姿、あの色、雲のような、白い巨人。・・・ガンダム。これから、戦う。青と白の巨人が。勝てるの、彼女は、あの人は。
「仲間の、同志の仇だ。」
白い巨人は、背中から、光の剣を抜いた。たしかそれは、高熱のビームを刃状に成型したもの。でも、その言葉とは裏腹に、上空から動く様子はなかった。
・・・なぜ?
胸騒ぎがした。そういえば、あの子は?
・・・いた。あれの、すぐそばに、いた。上空に行くほど弱くなる、人工重力。あの高さなら、当分は落ちてこない。加速のための足場もない。あの子は、黒い鎧は、なすすべもなく、ふわふわと浮かんでいた。無防備に、自分を丸ごと蒸発させ得る光の剣の目の前に、その身を晒していた。
「まだだ、終わらねぇ。俺、だけでも。」
やがて、黒い鎧は、砕けた。もう、あの子を守るものは、何もない。あそこには、あの子を傷つけ、焼き尽くすものしか存在しない。
「ああ、ビームサーベルなら、殺せるんだな。」
白い巨人が、右手の剣を掲げる。
・・・嫌だ。見たくない。思わず目を瞑った。でも、耳が、声を、音を、現実を、想像させて・・・。
・・・あの子の、声が。
「行こう。」
聞えた、気がした。
「
顔を、上げた。
自然と、声が出た。
「・・・ガンダム。」
「ガンダム・ジャバウォック・・・だと。」
その二つの顔は、向かい合い、鏡写しのようだった。
突然鳴り響いた、ガラスの割れるような音。赤い巨人が、空に、現れた。顔は同じ、でもやっぱり、体は違う。空に浮かぶその姿、鱗のように棘だらけの鎧。・・・今朝の、絵本。悪魔を討つ、勇者の相棒・・・
・・・その竜は、かぎ爪のような左手で、振り下ろされた光の剣を、受け止めた。
「空間障壁だと!? 」
白い巨人が、驚きながら問いかける。
赤い巨人の右手も、動いた。白い巨人は左手で楯を構えて、その右手の爪を防いだ。互いの攻撃を、双方が、止めた。確かに、防いだ。でも、どっちも動けない。
彼は、問う。
「お前が、リーダーか。・・・聞くぞ、お前は何処にいる。」
白い巨人は、答える。
「どこにも居ない!だから居場所を作るため、ここに来たんだろうが!死ね!」
彼は、さらに問いかける。
「そんな、居場所。ならおれは、負けない!お前は今、何処にいる!」
白い巨人は、尚も怒る。
「迫害してくる奴らも、無関心な奴らも、全部壊して、更地に創る!それが、それこそが、安心できる、真の居場所だ!」
彼は、なおも問う。
「だから、今、何処にいる!」
・・・ムクロくん。なぜ、それが重要なの。何か、意味があるの。わたしは、また、足を止めていた。また、誰かがエプロンの裾を引っ張っている。行かなきゃ、でも気になる。
わたしは、本当に、だめな先生だ。そう思った時、また、声が聞えた。
「・・・がんばれ。」
「・・・がんばれ。」
「・・・まけるな。」
逃げ込むべき先から聞こえた、たくさんの声。あの子は今、みんなの願いを背負ってる。わたしも・・・少しだけ、冷静になれた。
・・・わかった。なぜ、武器とドローンだけを壊して、
・・・それなら、これだけは伝えないと。わたしが、伝えないと。縋る子供と、兵隊さんの制止を振り切って、わたしはコンテナの上に飛び乗る。あの子から、見えていることを願って。赤い兜の奥の緑の目が、じっと、こっちを見た気がした。それを見計らって、わたしは。
わたしが、誇りを持って働く職場。その名前を、右手で、はっきりと示した。この耳でとらえた答えを、そのメッセージを、乗せて。
・・・胸。
「ありがとう、先生。」
・・・こんな言葉が、聞こえた気がした。
そして、こう続いた。
「ジャバウォック。」
更に、静かに。
「壊せ。」
それを聞いた、緑色の目が、さらに、強く、光った。
関節の唸りが、一気に大きくなった。
「な、なんだ!? 」
白い巨人が、腹を蹴られた。・・・ちがう、白い巨人のお腹に・・・赤いつま先が、突き刺さった。続けて、その穴に、右手の指も、突っ込まれた。金属がきしむ音が、裂ける音がする。まもなく、大きな音を立てて、白い巨人が、上下に分かれた。ここからだと、まるで、おもちゃのように。
そのまま赤い右手で、白い下半身を更なる上空へと放り投げた。続けて光の剣を持っていた腕を左手で掴み、右手と右足で脇を押さえ、肩から引きちぎった。
「嘘だ。」
光の刃は消え、軋み音に紛れて、白い巨人から声がする。
「俺は。」
間もなく、楯ごと、左腕も。
「主人公、じゃ。」
残ったものは。
「嫌だ!メイン・・・カメラ・・・見えないのは!」
それも、ついに。
「助け・・・。」
足、腕、頭。それらが、天井付近でふわふわと浮かぶ。最後に背中から、丁寧に梱包された銃を取り上げて、この戦いは、終わった。さっきまで白い巨人の胸だったものは、もうただの、四角い積み木になっていた。
9.
大地に降り立つ、赤い巨人。
そして、その隣に飛来する、青い巨人。
「・・・敵勢力、鎮圧、完了。・・・避難民および、負傷者の確認へと・・・。」
同時に、スピーカーから聞こえる、兵隊さんの声。
終わったんだ・・・。
わたしは子供たちと、無事生き残れた喜びを分かち合った。
赤と青、それぞれの鳩尾から、人が下りてくる。
ムクロくん!そう言って駆け寄ろうとしたとき、蒼い巨人から下りてきた女の人が、彼の頭に拳骨を下ろした。
痛そうにする彼。その彼の目の前で眉を吊り上げて、腕を組む彼女。見た目は似ていないのに、まるで姉弟のように見えた。そして、彼女の前に出る兵隊さんたち。襟元のバッジを見せると、兵隊さんたちは姿勢を正して、敬礼した。
・・・とくむかん。そんな単語が、聞こえた。確か、軍のエリートで、特別な任務を任せられる、特別な軍人だったはず。
・・・と、いうことは。彼女たちは、この事件を察知して、わたしたちを守るためにやってきて、助けてくれた。あの2人は、ずっと、一緒に戦ってきた。それこそ、姉弟のような絆が、生まれるくらいに。
何よりそんな存在が、実在することに驚いた。
彼女は、わたしの方をむいて、軽い敬礼と会釈をした。彼は、ぺこりと頭を下げた。そして2人は、寄り添いあうように、歩いて行った。
人は、いつ死ぬかわからない。
だからこそ、弱く幼い命は、尊い。
この仕事が、誇りだというのは変わらない。
でも、もう少しだけ、欲張りたい。
この子たちに誇れるわたしに、なってみたい。
「みつけた」