キャラ崩壊とかしないように気を付けます。
「天道、総司……」
超然とした雰囲気を持った男を見上げ、サムはその名前を口の中で呟く。背中を向けて立っている天道は振り返り、片膝立ちになっているサムをゆっくりと見下ろした。
「なるほどな。
天道はなにかを理解したように頷き、納得して正面の敵を睨む。仮面ライダーガタック、パンチホッパー、そして偽の擬態ホタル。その三人を一人ずつ見つめてから、サムの背後で膝立ちになっているキックホッパー──矢車に声を掛けた。
「矢車、影山は──
衝撃の事実を平然と述べ、サムは驚愕しながらもパンチホッパーを見つめる。確かに矢車が彼の姿を見た時「生きていたのか?」と困惑している様子だった。
もしもそれが本当であるならば、今目の前でパンチホッパーに変身している人物はいったい誰だ?
矢車は天道を見つめて、コクリと頷いた。
「相棒は、この手で……」
ふるふると震える自身の手を見下ろし、矢車は訥々とした声で答える。それを聞いた天道は「そうか」とたった一言だけ返し、その複眼の奥にある鋭い視線をガタックとパンチホッパーに向けた。
人とは思えない、そんな圧倒的な威圧感にパンチホッパーは一歩後退る。だがガタックは逆に踏み込んで叫んだ。
「──退けッ、天道ッ!!」
ガタックの叫びに天道が鼻を鳴らすと、どこからともなく空の彼方から一本の剣が天道の手元に飛翔して来る。それを握り締めて剣先を向けると、ガタックは一歩後退った。
「お前、加賀美じゃないな」
その一言によってガタックは気圧される。仮面の奥にある瞳が、本来は見えないはずなのに、なぜかそれを雰囲気で感じられた。
カブトがその手に握り締めたパーフェクトゼクターを地面に突き刺し、それによって放たれた超然たる圧倒的な威圧感に、睨まれた者たちは圧し潰されるような感覚に陥った。
淡々と、そして冷酷に、カブトは告げる。
「さっさとここから去れ。このまま見逃してやろう。だが、次はない」
カブトの言葉にガタックは唇を噛み締めながらも、偽ホタルを見下ろした。
「ここはあいつの言う通りにしよう。ハイパーゼクターがある分こっちが不利だ」
偽ホタルはなにかを返す訳でもなく、カブトとホタルを同時に睨むと僅かに頷く。そしてサムを装着する際に用いるアイテムを握り締めると、彼女たちを竜巻の如き炎が包み込んだ。
『──ホタルよ』
遠く、聞き覚えのある声が、巻き上がる炎の奥から聞こえる。見慣れた自分の容姿をした偽物が、自分の声で囁いた。
『──世界の為に死ぬのだ』と。
それだけを告げて、偽ホタルたちは炎に包み込まれて消えた。
あとに残ったのは戦闘の爪跡が残された廃墟と、恐ろしいほどの静寂。そして困惑の果てに取り残された三人だけだった。
いったいなにが起こっているのかまるで理解できていないホタルに、変身を解除した長身の男──天道 総司は振り返り、問い掛けた。
「お前が本物のホタル──そうだな?」
サムはゆっくりと頷いてから苦痛に耐えて立ち上がる。装甲を解除すると、身体を包み込むかの如く炎が巻き上がり、装甲は一瞬にして熔化エネルギーと化し、その右手に握り締められたアイテムへと収納された。
装甲から姿を現した少女──ホタルは天道を見上げた。
「ほう、この時代の技術じゃないな」
関心の声を漏らす天道に、ホタルは疑問と困惑の目を向ける。だが彼がそこで総てを語ることはなかった。ただ一言だけ「ついてこい」と告げ、首に巻いたマフラーを靡かせた。
「矢車、お前もだ。このままなにもせず散ろうというわけではないな?」
天道の言葉に一人取り残されていた矢車は俯く。そして地面に投げ出された自分の手を見下ろし、瓦礫の残骸と共に強く握り締めた。
顔を上げ、天道を見上げた。
「ああ。相棒の偽物は、俺が倒さなきゃならない」
矢車の覚悟に、天道は僅かに微笑んだように感じた。
◆◆◆◆
東京の某所。天を穿つかの如くそびえ立っている東京タワー。それが一際美しく見える街の一角にレストラン『
『CLOSED』と下げられていた趣きのある扉を開けば、爽やかな鈴の音が店内に響き渡る。その音に気が付いて、一人の女性が厨房から顔を出した。
赤いエプロンがよく似合っている。肩の辺りまで伸ばした髪を耳に掛け、まだ幼さが僅かに残る顔立ちの綺麗な女性だった。
彼女は天道の顔を見るなり、呆れたような溜め息を漏らして吹き抜けの向こうで腕を組んだ。
「お前、パネルが見えなかったのか?」
確かに、扉にはしっかりと『CLOSED』のパネルが下げられていた。だが天道は「気にするな」と一言で一蹴し、そのまま言葉通り気にする様子もなく席に腰を下ろした。
そんな堂々とした態度の天道に苦笑しながら、ホタルが店内を見渡していると彼女が近寄って来た。
「彼女は?」
「別の世界からの客だ。お前の鯖味噌を食いに来た」
天道の言葉にホタルは「えっ?」と困惑が漏れる。女性はエプロンの上で腕を組みながら溜め息をついた。そして呆れたような表情を浮かべて「分かった」と溜め息混じりに厨房へ戻った。
「ひより、救急箱はあるか?」
「なぜ」
天道は背後から遅れて入ってきた矢車に視線を向け、
「取ってくる」
そう言って、ひよりは厨房の奥へと消えた。
彼女の気配が完全に消え、小さなレストランの中に静寂が訪れる。天道という名の嵐を簡単に流したひよりに関心を覚えながら、ホタルは天道に耳打ちで囁いた。
「あたし、さばみそ? なんて頼んでないんだけど。そもそも
「この世界に来たなら食べておけ。ひよりの鯖味噌はこの世で最も美味い」
「そんなになんだ……」
天道の包み隠さず答える鯖味噌の熱弁に、ホタルは僅かに食べてみたいという思考に駆られる。だが直ぐに現状を思い出して首を振った。
「いやいやそれよりも。この星でいったいなにが起こっているの? あなたはどうしてあたしを知ってるの? それになんでもう一人あたしがいるの?」
次から次へと溢れ出る疑問を天道に投げ付けるが、彼は「取り敢えず座れ」とホタルに促す。流されるように言われ、ホタルは渋々と言った様子で天道の対面に腰を下ろした。
「一つずつ答えてやる」
「分かった……えっと、それじゃあ、この星はどこ?」
「地球だ」
聞いたことない、とホタルは顎に手を置いて呟く。ホタルにとって『地球』という名の星は聞いたことすらない。ましてや、なぜこの星に来てしまったのかすらまるで分からなかった。
困惑している様子のホタルに、天道は腕を組んだ。
「この地球には多次元宇宙論──マルチバースと呼ばれるものがある。宇宙は一つじゃなく、複数あるって理論だな。科学的根拠はないが、今こうしてお前やもう一人のお前がその証明だ」
「そ、それじゃあ、あたしのいた宇宙とこの宇宙は違うってこと……?」
恐らくな、そう告げた天道はまるで信じられないという様子だった。
それはホタルや、側で聞いていた矢車も同じことだ。話の内容──規模があまりにも大き過ぎる。ホタルは様々な星を彷徨ったが、宇宙そのものが違うと言われて、おいそれと納得できるはずもなかった。
「まだワームの方がマシだな」
矢車はそう呟いて、二つ並べた椅子に寝転がった。
これ以上、天道とホタルの話を聞くことも首を突っ込むことすらする気がないようだ。
「そ、それじゃあ、この星──地球で何が起こってるの?」
それを問いた時、厨房の奥から救急箱を持ったひよりが姿を見せる。彼女は慣れた手付きで消毒液とガーゼを取り出し、傷付いた矢車に手当てを施した。
「ひより、紹介がまだだったな。ホタルだ」
天道の適当な紹介にホタルは頭を下げる。すると天道はひよりのことも簡単に紹介。彼女はまたもや呆れた表情を浮かべ、ホタルに同情の眼差しを向けた。
「
「えっ、あ、そうなんだ……」
色々と全然似てない──そう思ったが口にしないホタル。無愛想な表情を浮かべたままのひよりは矢車の手当てを一通り終え、救急箱を閉じるとゆっくり立ち上がった。
「鯖味噌、何人分だ?」
「俺とホタル。矢車、お前も食っておけ」
矢車は寝転がりながら、いらないと手を振ってジェスチャーする。それを見た天道は「じゃあ二つだ」と告げ、ひよりは厨房の奥でその鯖味噌を作り始めた。
珍奇なものでも見るようにひよりを傍観するホタルだったが、話を思い出して「そうだ」と切り出した。
「この星で、いったいなにが起こってるの?」
天道はその問い掛けにより一層真剣な表情を浮かべて、ゆっくりと語り始めた。
「二週間前、
「星核……!?」
星核と呼ばれたものに、ホタルは目を開いて驚愕した。その名は嫌というほど何度も聞いてきた。忘れるはずも、聞き間違えるはずもない。天道は確かに
「なんだ、その星核とは」
椅子に寝転がっていた矢車が、その名を不思議に思って僅かに顔を上げた。
だが天道は「俺も詳しくは知らない」と答えて、ホタルを見つめながら言葉を続けた。
「それはホタルの方が詳しいだろう」
ホタルは僅かに俯き、顎に手を置きながら思考を巡らせる。それから数秒の沈黙の後に、顔を上げて答えた。
「星核は、万界の癌。星の生態系を変え、最悪の場合は滅ぼしてしまうほどの力を持った物体。『壊滅』の
星々を滅ぼしかねないほどの力を持った謎の物体──『星核』。その詳細は殆どが不明で、解明されていないが、一度それの影響を受けた星は中々元通りになることない。
そのまま滅んだ星をいくつも見てきた。
「
天道は腕を組んで何度か頷きながら「なるほどな、面白い」と呟いていた。
なにを思って面白いと言っているのかホタルにはまるで分からず、眉間にシワを寄せる。そんなホタルに向けて、矢車がゆっくりと起き上がった。
「こいつはそういうやつだ、気にするな」
「う、うん……」
困惑していると、天道はゆっくりと立ち上がって、レストランの窓から外を見上げる。どこを見つめているのかは分からないが、天高くに昇った太陽の光が天道を輝き照らしていた。
「恐らくだが、ほぼ壊滅状態だったワームたちが増殖したのは、星核が原因だろう」
かつて、ワームは一人の男の活躍によって全滅寸前まで追いやることができた。そのワームの出現場所が増えているのを考えると、星核が絡んでいるのは間違いなさそうだった。
「あと問題は、あの擬態したホタルだ。やつが、ワームたちを指揮しているのは確かだ。だが、なぜあいつはホタルに擬態しているんだ?」
「分からない。けど、はやく星核を見つけないと、大変なことになる」
星核による侵食は日が増すごとに最悪な方向へと進んでいく。跋扈し、蚕食、やがて星は滅ぶ。その前になんとしてでも星核を封印──いや、回収しなければならない。
今回の
脳裏に刻まれた脚本を思い返し、ホタルは目を眇める。その瞬間、レストランの扉が勢い良く開き、一人の男が傷だらけの姿で倒れ込むように入って来た。
「
風間、と呼ばれた男は覚束ない足取りでテーブルや椅子に身体を当てながらその場に倒れる。それでも意識は残っているようで、肩を大きく動かしながら呼吸を荒くしていた。
破れた服と、その隙間から覗く傷、そして額から描かれた鮮血の痕が、風間という男に何があったのか、その場にいた全員に断片的に物語っていた。
「風間、しっかりしろ」
天道が手を差し伸べて風間の身体をゆっくりと起こすと、彼は声を震わせた。
「ご、ごんが……」
「ゴンがどうした!?」
風間は震える手で天道の肩を掴み、真っ直ぐにその瞳を見つめる。そこで天道の背後に立っていたホタルに気が付き、目の色を変えると飛びかかる勢いで立ち上がった。
「お前……っ!」
「えっ、なに!?」
だが、力が上手く入らなかったのか、風間はテーブルを巻き込みながらその場に倒れ込む。それでもホタルを見上げながら、震える手を縋るように伸ばした。
「ゴンを、ゴンを返せ……!!」
その言葉に誰もが目を見開いた。
誰よりも驚いているのはこの状況をまるで理解できていないホタル自身だ。
天道はもう一度風間を起こして「落ち着け」と一言で促した。
「なにがあった?」
「いきなり、ワームとリバース・サムを名乗るやつに襲われて、ゴンを攫われた……」
唇を噛み締め、悔しさを滲ませる風間から語られた言葉に、ホタルは拳を強く握り締めた。
「ゴンを、どこにやった……!」
「落ち着け、こいつはお前の戦ったリバース・サムとやらではない」
怒りを露わにする風間を宥めながら、天道は今ここにいるホタルが本物で、リバース・サムがホタルに擬態したワームであることを端的に説明した。
「それじゃあ、ゴンはどこに……っ」
「さあな。だが、必ず見つけ出す。ホタル、手を貸してくれるな?」
風間を椅子に座らせ、ゆっくりと立ち上がった天道がホタルに視線を送る。悠然と、そして冷静な態度を見せる天道の拳が、強く握られているのを見たホタルは頷いた。
「うん、あたしも手伝うよ」
覚悟を決めたホタルの眼差しを受け、天道は僅かに微笑む。そして厨房から鯖味噌二人前を持ってきたひよりが、風間の姿を見て顔を引きつらせた。
「増えてる……」
「ひより、救急箱をまた持ってきてくれ」
「なんで僕が……」
開店前であるにも関わらず、自分勝手な客による目の前の光景にひよりは溜め息をつく。そしてなにか詳しい事情を聞くこともせずに、救急箱を開いて風間の手当てをし始めた。
「嗚呼、あなたは天国から迎えに来た、まるで、まるで……えっと……」
手当てを受ける風間が、ひよりを見てなにかを呟いている。だが最後の『言葉』が風間からは出て来ず、それを
そんな風間を横目に、ホタルは目の前に出された鯖味噌を見下ろす。箸を手に持って困惑しながら天道を見つめた。
「えっと、ゴンっていうのは……」
「風間が連れてた子供だ」
それを聞いたホタルは驚愕して一気に立ち上がった。
ゴンは風間と常に行動していた少女で、メイクアップアーティストである風間のアシスタント兼保護者を務める相棒だった。
ホタルにとってゴンが誰であるかは分からなかったが、まさか子供だったとは思わずに、鯖味噌を食べる天道に声を荒げた。
「はやく助けないと!」
「分かっている。だが、出された食べ物を粗末にすることは俺が許さない」
いつまでも冷静に食べている天道は、その箸を止めて人差し指を天に掲げる。そして口を開けば──「お婆ちゃんが言っていた」と語り始める。
「──男がやってはいけないことが二つある」
急になにを言い出すのかと、ポカンと呆けて口を開くホタル。だが風間とひよりは呆れたような表情を浮かべ、矢車は「またか」と漏らす始末。それでも天道は気にも止めずに続けた。
「一つは女の子を泣かせること。そしてもう一つは、食べ物を粗末にすることだ」
そう言って、天道は鯖味噌を食べ終える。ひよりに向けて「また上達したな」と称賛するが、彼女はぷいっとそっぽを向いて厨房の奥へと消えていった。
「これが、さばみそ……そしてこれが、はし……」
箸の存在は
「
ホタルは彼女のことを思い出してから、両手を合わせる。小さい声で「いただきます」と、慣れないながらに箸を使って鯖味噌を一口。口に入れ、噛み締めた直後にホタルはその味に目を見開いた。
「美味しい……」
口内に広がる風味と旨味。それらが上手く噛み合わさって、噛めば噛むほどに美味しさが溢れ出るようだった。
初めての感覚にホタルは鯖味噌をあっという間に食べ終えてしまう。それを見ていた天道が腕を組んで微笑んでいた。
「どうだ、絶品だろう?」
「うん、美味しい……!」
まるで自分のことのように自慢をする天道。ひより本人は気にも止めていない様子で開店の準備を進めている。
これほどまでに美味しいと思える食べ物は初めてだ。今まで食べたどの物よりも美味しい。そう断言できるほどに、ひよりの作る鯖味噌は絶品だった。
「よし、食ったならゴンを救いに行くぞ」
その言葉にバッと風間が起き上がった。
ホタルは風間を一瞥して、天道を見上げた。
「どこに?」
彼は迷う様子など微塵も見せず、自信満々な表情で答えた。
「当てがある」
そう言った天道は、なにかを詳しく語ることもなく店を出ていった。
次回からバチバチに戦闘を開始しようかなって、思いつつどうしようか悩んでます。
▼日下部ひより
▼性格は内向的でありながらお人好し。素っ気なくも見えるが、根は優しい。
天道 総司の妹にして正体はワーム。だがその出生はあまりにも不可思議であり、天道の母親が妊娠している際にワームが天道の両親を殺して擬態。その際にお腹の中のひよりもコピーした為、生まれながらのワームでありながら人として生きてきた。人に危害を加えることはなく、今はレストランで自分のメニューを提供している。
▼
▼仮面ライダードレイクに変身するドレイクゼクターの資格者。かなり名を馳せているメイクアップアーティストで、メイク道具一式を揃えたギターケースを持っている。ワームと戦う理由はないが、あるとすればそれは自分や大切な人のため。
女性に興味を持ち、男には興味を持たない。話術があまり得意ではなく、ゴンに頻繁に決め台詞をフォローしてもらうことが多い。