「──ふッ!」
ザビーが跳躍の勢いをその豪腕に乗せ、パンチホッパーへ向けて一気に突き出す。だがそれを左腕で弾かれてカウンター。突き出されたパンチホッパーの右拳を胸に受けて、ザビーは吹き飛ばされた。
「ちっ、擬態とはいえやはり戦闘技術は高い……」
影山はかつてザビーゼクターの資格者でもあった男。ZECTの精鋭部隊『シャドウ』の隊長を務めていた人間の戦闘技術は、田所よりも遥かに高かった。
だが、その程度の理由で諦めるほど田所修一という男の心は弱くない。
大地を踏み抜き、一歩で距離を詰める。かつてZECTで学んだ近接格闘術を用いて、パンチホッパーに拳を振るうが、それでも仮面ライダーとしての時間も経験も影山が上回っている。
──ザビーゼクター、お前はなぜ俺を選んだ?
そんな疑問が脳裏に過ぎった。
ザビーの資格者は他にもいたはず。それこそ生きている矢車や、想い人の死に前を向いて突き進む岬だって、ザビーゼクターを扱えるに等しい人間のはずだ。
それでも、ザビーゼクターは田所修一を選んだ。
「──オォッ!!」
右脚を振り上げた回し蹴りを、パンチホッパーは首の動きだけで回避。だがザビーは直ぐさま脚を組み替えて後ろ回し蹴り。しかし相手は左腕で防御した。
がら空きになったザビーの腹部にパンチホッパーのアッパーが飛んで来る。パンチホッパーの特徴はその強力な拳にある──だがその一撃を、田所は待っていた。
「お前ならここを狙ってくると思ったぞ!!」
パンチホッパーがその違和感に気が付いた時、もう遅かった。パンチホッパーの攻撃を読んでいたザビーはその
だがその瞬間、振り下ろす拳を何者かに受け止められ、ザビーは振り返ってその姿に驚愕した。
『■■■■■■■──』
全身に刃を備えた青紫色のワーム。それは過去にガタックやザビーを一人で返り討ちにした超強敵の姿と同じ。シャドウの部隊を壊滅寸前にまで追い込んだワーム──カッシスワームだった。
驚愕したと同時にカッシスワームはその左腕の刃を振り下ろし、パンチホッパーが追い打ちで拳を突き出す。ザビーはその二撃によって吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた──息が詰まる。
「くっ──!」
「田所、なにを迷っている?」
苦痛に顔を歪めながら前を見ると、そこには背中を向けたカブトが立っていた。
その手に握り締めたゼクトマイザーのボタンを押し込むと、扇状に展開された四つの射出口からカブトムシ型の破片手榴弾──マイザーボムが連続で発射される。無数のマイザーボムはパンチホッパーとカッシスワームの周囲を取り囲み、次々と連鎖爆発を起こした。
「天道、お前はどうしてそれだけの自信を持って戦えるんだ?」
マイザーボムによる足止めが行われてる中で、田所はカブトを見上げる。だが彼は一瞥すらもせずに「ふ」と鼻で笑ってから淡々と答えた。
「愚問だな。太陽に向かって、あなたはなぜ輝き続けるのですかと聞くのか?」
自分が太陽とでも言うように、彼はそう答える。太陽が輝き続けるのは、当たり前のことだ。消えることなく、延々と輝き続けて地球を照らす光である。だが田所が求めているのは、そんな答えではない。
「頼む、教えてくれ」
そこで初めてカブトが僅かに振り返って、ザビーを見下ろす。瞬間、背後から飛んで来たガタックの拳を簡単に回避し、ガタックに向けてマイザーボムを放った。
ゼロ距離によるマイザーボムが連続で爆発していき、ガタックは紙のように大きく宙に吹き飛ばされた。
天道は田所を見下ろして、告げた。
「──人にはそれぞれ突き進むべき道がある。その道を往くのに、理由なんているのか?」
求めていたのはそんな答えではない。だが、それで良かった。田所は「まったくお前は……」と笑いを溢す。すると眼前に手が差し伸べられた。
見上げれば、正面を見据えたまま天道が手を差し伸べている。それを受け取り、田所はゆっくりと立ち上がった。
「俺はあのガタックを倒す。田所はワームを。影山の方は、お前に任せる──
矢車──その名前が呼ばれた時、田所はようやくその気配に気が付いて振り返った。
建物の影から現れる闇。漆黒の上着をはためかせて、矢車はパンチホッパーを睨みながらホッパーゼクターを握り締めた。
「ああ、俺が相棒をやる」
そこに合流したホタルもグラモスゼクターを起動して、ファイヤフライを展開。爆炎の中から熔化騎士が炎を振り払って現れ、矢車に視線を向けた。
「矢車さん、あなたの邪魔は誰にもさせません。だから、好きに暴れてください」
矢車は鼻で笑い、僅かに微笑む。そしてホッパーゼクターを改めて握り直し、正面を見据えて囁いた。
「──変身」
超金属ヒヒイロカネが矢車の全身を包み込み、矢車が溜め息を漏らすのと同時に変身が完了。地獄に燃ゆる業火の如き複眼が、パンチホッパーを睨んだ。
パンチホッパーが拳を振りかぶるのと同時に、キックホッパーは右脚を振り上げる。拳を蹴り飛ばし、直ぐさま脚を組み替えて左脚でパンチホッパーを蹴り穿つ。だがそれを身体で受け止めながら放たれた拳にキックホッパーは吹き飛んだ。
互いに吹き飛ばされ、二人は地面を踏み締める。
「兄貴、なんで俺を殺したんだ?」
距離が離れて、ゆらりと態勢を立て直したパンチホッパーからそんな言葉が投げられる。だが矢車は唇を噛み締めるだけで、それに答えなかった。
パンチホッパーは両腕を広げて睥睨した。
「また俺を殺すの?」
その問いに、矢車は僅かに目を見開く。未だに残るあの最悪な感覚を握り締めて、またもや駆け出す。
「俺は兄貴のことを、本当の家族のように思ってたのに……」
訥々と滲み出るような哀しみを聞き、矢車はようやく確信する。ゆっくりと立ち上がって、空を見上げる。ああ、と笑い混じりに漏らす。右手で顔を覆って、天を焼き尽くす光──太陽に手を伸ばした。
「なあ、お前は俺との約束を覚えているか?」
突然、矢車からそんな言葉が投げられてパンチホッパーは困惑する。その様子を見下すように見ていた矢車は「もういい」と一蹴。乱雑に腕を振り払って、パンチホッパーを睨んだ。
「やはりお前は────
その確信にパンチホッパーは目を見開いた。
矢車は込み上げる笑いを抑え切れず、喉の奥から「ははっ」と声を漏らす。そして笑いが矢車から消え去ると、彼はパンチホッパーに向けて言った。
「さあ、今度こそ終わらせてやる」
記憶を引き継ぎ、細部まで身体を模倣しようと、それは本物ではない。今目の前に立っている影山 瞬は偽物である。口調も、声も、肉体も、この目で見て、耳で聞こえる情報では、彼を『影山 瞬』だと知らせている。だが矢車 想の魂が、すべてを否定した。
もしかしたら生きていたのではないか。いまも相棒は苦しんでいるのではないか。揺らいでいた矢車の心は、覚悟を決めた。
結局ワームは、相手の心を掻き乱す為に擬態をする。決して本物になることはできない。
「──ああッ!!」
パンチホッパーが駆け出す。拳を振りかぶり、一気にキックホッパーに叩き付ける。本来なら防御か回避の選択を取るはずが、キックホッパーはその豪腕を正面から受けた。
激痛が衝撃と共に身体を通り抜け、歯を食いしばって飛びそうになる意識を繋ぎ止めた。
────嗚呼、相棒。
キックホッパーは僅かに驚愕するが、直ぐに拳を引き抜いて次の一撃を叩き込む。次から次へと、キックホッパーの胸や顔面を殴るが、彼は地面を踏み締めて耐え続けた。
────分かる。お前の哀しみが。
相手は偽物だ。
だがそれでも、影山 瞬という男に擬態しているからこそ、死んでしまった人間の哀しみと怒りを拳から感じられる。叩き付けられる度に、矢車の脳裏に影山との思い出が疾走った。
────だが、俺はまだ。
パンチホッパーの渾身の一撃を受け止め、矢車はそのまま彼を抱き締める。彼の耳元で、優しく囁いた。
「──お前のもとには逝けない」
瞬間、目の前に新たな光景が広がる。いたはずのパンチホッパーの姿はそこに存在せず、胸の中で抱き締めた人間は、殺してしまったはずの
偽物ではない──漠然とした感覚ではあったが、矢車の魂がそう訴えていたのだ。
「相棒……?」
いつの間にか自分の変身も解けている。しかしそんなことは気にならなかった。
疑問を浮かべていると、影山はゆっくりと離れて顔を上げた。
「兄貴」
微笑む影山に、矢車は呆然と佇んでいた。
影山はゆっくりと歩み寄り、矢車に向けてホッパーゼクターを差し出す。それを見下ろしてから視線を上げれば、影山は強く頷いた。
「俺なら大丈夫。俺たちは──ずっと
差し出されたホッパーゼクターを受け取ると、矢車が持っていたホッパーゼクターとの二つが輝き出す。それらは絶対に有り得ない事象だった。
二つのホッパーゼクターは、本来は来たるべきネイティブとの戦いに備え、量産型仮面ライダーとして開発されたもの。だがしかし『矢車 想』と『影山 瞬』に与えられた二つのオリジナル機には、カブトやガタックにある暴走装置『赤い靴』とは別の装置が組み込まれていた。
それは二つが合わさり、一つへと融合することで新たな力を得る──ホッパーゼクターのみに与えられた対決戦用の新装置である。
「──一緒に、白夜を見に行こう」
影山の言葉で、矢車の手元にある二つのホッパーゼクターが一つへと融合を果たす。本来は二人の資格者が同意することで融合するホッパーゼクターが、今回はイレギュラーにイレギュラーが重なることで融合の条件が整った。
「ああ、そうだな……相棒」
初めて、矢車は心の底から笑った。
カブトに敗北し、ザビーゼクターの資格を失い、地獄の果てを彷徨い続けた。闇に身を潜め、暗黒に手を伸ばし、太陽の光を嫌った。
もう二度と笑うことはないと思っていた。
そんな矢車が、笑っていたのだ。
新たに融合を果たしたホッパーゼクターを強く握り締める。相棒と約束した真夜中の太陽──それを二人で探し求める為に、矢車は真っ直ぐに前を見据える。その瞳に灯る闇は、光をも呑み込むだろう。
そして隣に立っている影山と視線を交わしてから、二人は叫んだ。
新たなホッパーゼクターをベルトに装着。キックホッパーとパンチホッパー、二人のライダーが持ち得る要素を兼ね備えて、三層の超金属ヒヒイロカネが新たな形へと対応し、矢車の身体を包み込んだ。
そこで世界の心拍が戻り、その場にいた全員がキックホッパーとパンチホッパーの異変に目を疑った。
眩い光の中で二人の影が一つへと合わさり、影山に擬態していたワームが怪人の姿で弾き飛ばされて爆発四散した。
────その時、誰もが驚愕する。
相棒の死を経て、総てを失った男は新たな姿で戦場に現れる。右腕と左脚に装着されたアンカージャッキが、太陽の輝きにて照らされて新たな仮面ライダーは、自身の感触を確かめるように拳を握り締めた。
複眼が煌めき、その名が轟く────。
新たな戦士──デュアルホッパーは拳を握り、足先で地面を何度か叩く。大きく溜め息をついてから、ホッパーゼクターに触れた。
ずっと孤独に感じていた感覚が、今はない。あるのは、誰かが隣にいるような温かな感覚だ。
その
「──行くぜ、相棒。二人で白夜を見に行こう」
地面を踏み締め、一気に駆け出した。
天道に助けはいらないだろう。故に向かったのは、カッシスワームの方だった。
カッシスワームの猛攻に弾き飛ばされたザビーの横を抜けて飛び上がる。サムの上空から飛び出し、カッシスワームに
「立て、まだ戦いは終わってない」
膝をつく田所に、矢車は手を差し伸べる。それを見上げてから、その手を受け取って田所は立ち上がった。
「矢車、それはいったい……」
「ふん、相棒が力を貸してくれてるんだ。もう
笑う矢車に、田所も頷いた。
すべてを諦めていたような雰囲気を醸し出していた矢車が、今ではどこか変わったように感じる。あの一瞬の戦いでなにがあったのかは分からないが、矢車は矢車なりに過去と向き会えたということなのだろう。
田所も負けていられないと拳を握り締めた。
「まさに、
思いもよらなかった田所の言葉に、矢車は思わず鼻で笑った。
「懐かしいな。だが、相棒がいるいまなら、またそんなものを目指しても良いかもしれないな」
一度は捨てた完全調和──相棒とならできるかもしれない。矢車はそんなことを考えてしまった。
田所と肩を並べながら、矢車は背後で呆然とするサムに視線を送った。
「ホタル、お前には助けられてばかりだったな。ここで借りを返す」
「それなら、今度は互いに手を合わせて戦いましょう」
デュアルホッパーを挟んで、サムとザビーが並ぶ。狙うはカッシスワーム。必殺技をコピーして打ち返す能力を持っている奴には、同時攻撃かコピーをさせない速度で一気に畳み掛けるのが有効だ。
田所が拳を打ち付けて叫んだ。
「──よし、行くぞ!」