Escape from Kivotos   作:からしすみそホタルイカ

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久しぶりの浮上


第13話

 

「タンゴヴニィス」(敵がダウン)

 

「チストタフポメシーニェ(室内クリア)

 

「プリーニャト」(了解)

 

ホイッスルが鳴り響き、隊員たちの肩から力が抜ける

 

「13分42秒…ちょっと遅いな、状況終了!」

 

前回の市街戦で保護した戦術人形を介抱してお話した結果、基地内部の構造が分かったので現在はその情報を元に訓練場を改造して突入訓練をしている

 

「いいか、敵の兵力は少ない…だがその分何かあれば密集して対抗してくる筈だ、お前たちは敵が異変に気づく前に数を減らして混乱を引き起こす、その直後に俺たちが突入する…この作戦はゲヘナ風紀委員会を巻き込んだ作戦だ、くれぐれもヘマはしてくれるな」

 

「了解」

 

あの銀髪、まさか俺に脚を舐めさせようとするとはな…ちょっとスタンナイフをチラつかせると水に濡れた子猫みたいに小さくなっちまったが

 

「元帥、応接室にお客さんですよ」

 

「そうか、休憩がてら訓練終わりの連中に歌を教えてやれ…もちろん『赤軍に勝る者なし』をな」

 

「了解」

 

このタイミングで客か、まぁ誰であれ歓迎する…イギリスのばあちゃんに仕込まれた作法を披露してやるぜ!

 

「すまない、待たせたな…って、委員長直々の訪問とは驚いたな」

 

「驚いたのはこちらも同じ、こんな施設を持ってるなんて、シャーレは凄いのね」

 

なんで空崎が来てるんだ…普通火宮かあの横乳を寄越すだろうに

 

「どうだろうな、こんな設備があってもあいつらはまだまだ青二才だ」

 

「でも、うちの風紀委員より練度が高い」

 

事件が多すぎて訓練に回せる時間が少ないのか…?大変だな、治安が悪いと

 

「だがゲヘナの治安は今のところ安定しているな」

 

「それは私が殆どの不良を制圧しているから」

 

は?マジで言ってんのか?トップになると書類仕事が馬鹿みたいに増えるのに、それに加えて治安維持までやってるのか?

 

「……そうか、大変なんだな…お前は偉いよ、偉い偉い…」

 

頭ナデナデが発動しそうなのをグッとこらえ、窓の外を眺める

 

「………あまり、子供扱いしないで」

 

おっと、怒らせちまったかな

 

「ああ、すまない…ちょっと個人的に思うところがあってな」

 

空崎ヒナ、高校3年生…妹も生きていたらこのくらいの年齢になっているのか…こんなに小さくはなかったが

 

「…俺もあの世に行けば、あいつらにまた逢えるかな」

 

「え?」

 

「こっちの話だ」

 

それにしても先生という立場という事もあって治安が悪いというのは放っておけない…2番手の部隊を編成させて向かわせるか

 

「で…何の用で来た?作戦内容ならそっちに送っただろう」

 

「別に、そっちの戦力を把握しに来ただけ」

 

ほう…超法規的組織の持つ私兵の実力を見たいという事かな?

 

「ところで、それは何?」

 

「ん?何かついてるか?」

 

「その首にかけてるものの事」

 

あれ?装備や荷物は全部こっちに来た時に無くしたはず…

 

「これは…」

 

首にかかったチェーンを手繰り寄せて出てきたのは見覚えのある金属の板と木でできた指輪だった

 

「俺と仲間のドッグタグと…指輪?」

 

もちろんこんなものを首にかけた覚えは無い、だがこれを見て少し安心した自分がいる

 

「指輪?先生は婚約者がいたの?」

 

「馬鹿言え、こんな奴に婚約者がいると思うか?これは俺が入隊する前に妹と母に作ってもらった物だ、他の装備も無いし今の所家族の形見はこれしかないな」

 

「そう…その金属板は?」

 

「これは俺と仲間のドッグタグ…認識票だ、戦場じゃどんな死に方をしてもおかしくない、顔がぐちゃぐちゃになって判別が出来なくても誰だったのか分かるようになってる」

 

「という事は、先生の仲間は…」

 

「全員死んだ、あそこは地獄そのものだ…」

 

「ごめんなさい…私、知らなくて…」

 

やはり俺の過去を知っているな…しかし一体どこから…?

 

「気にするな、そんな事より俺の大事な物を見つけてくれてありがとうな」

 

しんみりとした雰囲気の中コンコンと部屋をノックする音が聞こえ、直後にЧики брики и в дамки(ワン、ツーでお前は終わり) と書かれたワッペンを付けた隊員が入ってくる

 

「ヴャチェスラフ元帥、演習の報告ですが…おっと、お客人が居たのですね…失礼しました」

 

「構わない、それよりクッキーを持ってきてくれないか?紅茶に合うやつだ」

 

「了解、それにしても美人なお客ですね…元帥も隅に置けない」

 

「冗談はよしてくれ…すまない、悪気は無いただの冗談だから、あまり気を悪くしないでくれ」

 

「私は別に構わないけど…」

 

何故かまんざらでも無い空崎の顔を見て少し恐怖した

 

何故俺は恐怖した?こんなに可愛らしい女の子なのに…

 

「先生…どうかした?」

 

「…いや、なんでもない…そうだ、戦力を把握しに来たと言っていたな、今訓練をやってる筈だからそれを見に行こうか」

 

「ええ」

 

俺はもう怖い物なんて無いと思っていた…一体俺は何に怯えているんだ?

 

「ここが訓練場だ、好きに見てもらって構わない」

 

「結構広いのね…」

 

「大体サッカーコート2個分って所だ、ここで突入や制圧の訓練、たまに遮蔽物のレイアウトを変えてチーム毎に分かれて実戦を想定した殲滅戦をする事もあるな」

 

「凄く革新的で良いわね…うちにも取り入れてみようかしら」

 

「革新的とは違うな…革命的って言うんだぜ」

 

丁度殲滅戦が行われるみたいだから少し見てみることにした

 

「対戦するのはブラボーと…エコーチームか」

 

ちなみに他のチームは治安維持や勧誘、その他の非戦闘員は専門知識を学習させて通信機器の使用や医療処置が施せるようにしてある

 

「では、開始」

 

両チームがそれぞれの陣地から一斉に飛び出し、コーナーを一つ一つ丁寧にクリアリングしていく

 

「確かに練度上がったな…しかし戦術的に4人じゃちょっと物足りないな、6人に増やすか」

 

新規で入隊した奴らに試験を受けさせ、素質がある者には訓練を受けさせる…戦闘に不向きと判断された者、申告があった者は後方支援に回されるんだが、ちょっと人員足りないしもう少し募集内容を濃く書かせるか、アットホームな現場ですとかな

 

「もしもし広報部?オレオレ、募集内容をもうちょっと濃く書いてくれ、アットホームな現場ですとか楽しく過ごしやすいとかな」

 

『嘘でもですか?』

 

「あ?何だって?」

 

『なんでもありませんです同志、すぐに作り直します』

 

おっ、目を離した隙にエコーの1人がダウンしやがったな…ここぞとばかりにブラボーが攻める!!遮蔽を利用して左右に展開して挟み込み誤射の無い素晴らしい連携でもう1人をダウン!!

 

「さてどうなるかな〜?」

 

B3がグレネードを投げ、全員を仕留めにかかる

 

「勝負ありか」

 

安全の為グレネードは火薬の代わりに粘土を詰めてあるが、これは審査員の判断によるよな

 

「えー審査の結果…ブラボーチームの勝利です」

 

まぁあの状況ではそうなるよな…まず1人ダウンして、カバーに入れなかったのがマズったな

 

「素晴らしいチームワークだったなブラボーチーム、褒美になんでも言う事を聞いてやるぞ」

 

なんでもという言葉を聞いて途端にニマ〜っとした表情になる隊員たちを見て寒気がし、すぐさま訂正する

 

「もちろん常識の範囲内でな!!」

 

常識の範囲内という言葉を聞いて途端にがっかりした様な表情を見せた隊員達…コイツら何して貰おうと考えてたんだ?

 

「じゃ、飯でも奢ってくれます?」

 

「いい店を知ってる、期待しておけ」

 

ブラボーの特別ボーナスは決まったな…

 

「先生…いつもあんな風に勝ったチームにご褒美をあげてるの?」

 

「ん?まぁそうだな、基本的に隊員が望んだ事を最大限叶えてやっている…ご褒美と言っても色々あるな、ハグを求められたりなでなで希望だったり…変わったお願いが多かったな、もちろん全部聞いてやったぞ、減るもんでも無いしな」

 

「……いいなぁ」

 

「なに?なんか言ったか?」

 

「別に」

 

空崎はそっぽを向いてしまった…え、俺が悪いのか?

 

「先生は…」

 

「ん?」

 

「先生は、もう一度家族に会いたいと思う?」

 

「……出来れば会いたいさ、だがもう死んでる…もし会えたとしても、それはもう人間じゃない」

 

「そう…」

 

タルコフで生き抜いていくうちに俺の心は疲弊し、壊れかけた…それを埋めるのに読書は丁度良かった、失う代わりに知識を埋め込み、手に入れた知識で自分を励ます事が出来るからな

 

「この世に全知全能の神なんか居ない」

 

「先生は神様を信じていないの?」

 

「あぁ、少し考えてみてくれ…全知全能の神、ゼウスがいて、自分に出来ないことは無いと言った…そこにアキレスが言った、『誰にも持ち上げられない岩を作ってくれ』とな、さてどうなる?」

 

「誰にも持ち上げられないなら、ゼウスにも持ち上げる事は出来ない…けどゼウスは全知全能で出来ない事は無いから持ち上げられる…けどそれじゃ持ち上げられない岩を作ったことにならない…矛盾するわね」

 

「そう、これは思考実験の1つだ…つまり世の中に絶対なんて無い、全知全能の神は居ないという結果に至った訳だが、それも俺は信じたくなかった」

 

「それは…どうして?」

 

「神が居なければ、みんながいるはずの天国も無いという事になるからさ」

 

「あ…」

 

神が本当に居るならば、きっと俺は

 

「俺には希望が必要だったんだ、あの地獄で正気を保ったまま暮らすにはな」

 

「…私はきっと、神様はいると思う…苦し紛れだけど、神様を信じていなくても私たちは祈る時無意識に手を組むはずだから」

 

「……確かにそれもそうだな」

 

「私も毎日大変だけど、ちょっと元気出たわ」

 

「そういや…知ってるか?人間は誰しもが"椅子"を持たなければならないんだ…辛い現実を見続けた後、休日に疲弊した心を休める為に寄り掛かる事のできる"椅子"が必要なんだ…それは人によって違う、それを人々は趣味と呼ぶんだ、空崎…お前の趣味はなんだ?」

 

「私の趣味…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出撃は今より48時間後だ、今のうちにママへメッセージを送っておくんだな」

 

「私物心がついた時には親が居なかったんですが…」

 

「ゲフンゲフン!!ならば装備の確認をして食って寝て英気を養え」

 

「了解」

 

作戦開始前に指示を出し、俺が居なくなっても独自で判断できるように指揮系統を確立させる

 

「今のうちにUAVを飛ばして基地を見張っておけ、臨時ではあるが作戦指揮所のメンバーを決めておいたからリストを見て、タスクを一つ一つこなせ」

 

「了解です」

 

「ブラボー、チャーリーチームは回収班"ギール"と共にアルファ撤退の援護をしろ」

 

「プリニャト」

 

「今回は航空支援も砲撃支援も無し、なるべく痕跡を残さずに作戦を成功させたい…だから干渉は最低限だ」

 

「頼れるのは無人機だけか…」

 

「せめてタコスのキッチンカーでも来てくれれば良いんですがね」

 

アルファの副リーダーであるA2が軽口を叩く

 

「出撃の46時間前だってのに呑気なこった…だが、正直その案はアリだと思う」

 

「ですよね?」

 

「あぁ…怪しまれずに兵員や武器を輸送できるし、なにより出来たてのファストフードが食える」

 

「潜入任務に使えて、売上で弾薬費も賄える…最高じゃないですか!!」

 

正直チェブレキとかピロシキが食いたいが、まぁ若い奴らに合わせるのもいいだろう

 

「よし、お前ら出撃前までゆっくりしていろ…集合時間は0800だ、復唱し、備えておけ」




さばげーたのちい

カイザー基地攻略戦の時間帯

  • 王道を征く昼
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