貴族令嬢の妹と入れ替わったら魔法が使えるようになりました!   作:秋津 幻

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第17話 「俺」

「やあ」

 

 私は、黒衣の男の目の前に立つ。

 

「あんた、名前なんていうんだっけ? アルファスはあたしが貰っていい?」

「いいよ、私はアルティでいい」

「そ。小さい女の子の体はどう? もう嫌になってでっかくなったみたいだけど」

「最高だね。剣も持ち上げられなくて。最悪の嫌われ者の体はどう?」

「最悪。でも、皆があたしの事を邪険にし、恐怖し、侮蔑の目をむけののしってくる――」

 

 そういって、顔を引きつらせる。

 

「皆、あたしの事を見てくれる」

 

 ひひひ、と不気味に笑う。

 

「自分の意志を押し付ける愛玩動物のような扱いでもなく、弱い少女を見る目でもなく、生き方を押し付けるでもなく、無視するでもなく、誰もがあたしを見て言うの! 「どっかいけ」って! ああ、なんて素晴らしいんでしょう!」

 

 そういう目の前にいる黒衣はそう嬉しそうに言う。

 ……意味が分からない。

 

「なんで、お母さんを殺したんだ」

「人生で一番嫌いだったから?」

 

 それは、親から愛を受けずに育った人間の言う言葉であった。

 愛を知らないから、代わりに嫌われることで承認を得ようとする。

 

「……お母さん、嫌いだったのか」

「ええ、大っ嫌いよ。あんな口うるさいの、誰が好きになる物かしら」

 

 厳しくしつけを行い、叱責する厳しい母親は、嫌いになる子もいるだろう。

 

 だが、それすら与えられなかった俺には、それは暖かいものを感じた。

 記憶を失った我が子にもう一度教えようとする親に、愛がないという事なんてあるだろうか?

 

「スフィアさんは君の事を心配していたが……」

「あんなクソバカにペットみたいにかまわれても邪魔なんだけど? 二番目に嫌い」

 

 ……。

 この子は、単純に周りからの愛に気づけなかっただけではないか。

 人の愛を拒否し続けただけではないのか。

 

「一人で本読んでるときに構ってきてうるさくて邪魔だったのよねー。クソバカ姉は学園にも優秀クラスに入れなかったし。考えなしに冒険者になりたいとかいう頭お花畑だし。「アルちゃんアルちゃーん」っていつまでもガキかしら?」

 

 私の眉間にピリとしわが寄った。

 

「どっちがガキだっていうんだよ……!」

「子供の体で喜んでるあなたよりは大人だけど?」

 

 ……まあ、違いない。

 子供なら子供で、いいのだろう。

 今までずっと、子供でいられた記憶はないから。

 初めて、子供になれたんだろう。

 

「ま、あたしは優秀クラスで落ちこぼれたアホなんだけどね、アハハ」

 

 そんな風に自嘲する事は、まえもスフィアさんがやってたと思う。

 

「……なんで人々を殺す?」

「むかついたからじゃ駄目?」

「人の恩讐の声に喜んでたんじゃないのか?」

「それはそれとして悪口言われたらムカつかない? あんたならわかると思うけど」

 

 ムカつく。ムカつくが。

 私は一度としてそういって人たちを殺そうとはしなかった。

 

「ああそうだ。あんたを殺した奴ら殺しておいたよ。どう? 嬉しい?」

「……そういえば、いたなそんなの」

「あれ? 憎くないの? 復讐したかったんじゃないの? あんたを殺した相手でしょ?」

「……「俺」が死んだのはしょうがない。油断してたからだ。それよりも体が入れ替えたお前が、何を考えていたのか考える方が優先度が高かったからな」

「ふーん、あたしなら自分を殺した相手とか、絶対許さないし自分で殺すけど」

「それに……おおかたその辺も誰かが仕組んでたんじゃないのか?」

 

 すると、突然彼女はにやりと君の悪い笑みを浮かべる。

 

「ご名答。アイツに襲われたから逃げて来たって言って泣き落としであたしが頼んだの! そしたら正義感たっぷりに必ず僕が倒すなんて言っちゃってさあ! その後自分が殺されるとも知らずにさ!」

 

 ……ひどい。

 これは、ひどい。

 見た目の醜悪さに、見合った中身がやってきたような、かっちりハマった愚かさがそこにはある。

 

「大体なんで体を入れ替えたんだ?」

「固有魔法。そういう魔法が生えて来たの。体も違うし、もう使えないけど。あんた今使える?」

「さあ?」

 

 そんなものが使えるなんて知らなかったから使わなかったが。

 仮に知っていたとしても使わなかっただろう。

 俺に、私に、体を変えたいなんて欲望はなかったから。

 

「多分あたしさー全然別の他人になりたかったんだよね。自分なんて嫌いだし。家族は嫌いだし。なんの才能もないし」

 

 拗ねる女の子のように、手を背中で組んで肩をくねくねくねらせる。

 

「頭はクソバカ姉よりは良かったけどさ? 学園じゃそんなじゃなかったし。なーんのとりえもない! 大人になったら政略結婚の駒にされる! もう人生終了! お先真っ暗!」

 

 そう言って両手を上げる。

 

「だから人生辞めて、別の人間になろうってね」

「それで、「俺」を? もっとお姫様とかになったら良かったじゃないか。冒険者にしてももっとかっこよくて人気のある奴になれば良かったじゃないか」

「そんな奴に入れ替わったら、すぐに別人だってばれちゃうでしょ? しかしあんたは嫌われ者だ。中身が入れ替わっても誰も気づかない。誰も、あなたを知らないから」

 

 そう言って、指を突きつける。

 

「あと、あたしは皆に好かれるよりも……強い力でもってして、憎しみでもってして、燃え盛る業火のように――皆に復讐したかった」

「復讐って、なんのだよ」

「全てに。誰もあたしを愛してくれなかった世界に。今まであたしの才能誰も認めてくれなかった――学園の奴ら、そして家族に。」

 

 何を言ってるんだよ。

 狭い人間関係で全てを語るなよ。

 何よりも、お前には、ちゃんと妹を愛してくれるお姉ちゃんがいたじゃないか――

 

「……ここには何しに来たんだ」

「近くのムカつく奴殺し終えたから今までの人生で一番嫌いな奴を殺しに来た」

 

 ……おえっ。

 

「ママ殺してー。クソバカ姉殺して―。あとパパもいたっけ? 普段家にいないし存在がどうでもいいけど。そんで育ちの家と故郷を全部燃やしてきれいさっぱりしたいなーって。もう思い出しなくないし消しちゃいたいなって」

「……私は」

「どっちでもいいけど。ああ体くれたのは感謝してるよ。でも歯向かってくるなら――殺そっか」

 

 すると、突如として剣を持ち上げ。

 

「じゃあ死んで」

 

 と言って振り下ろした。

 

 

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