貴族令嬢の妹と入れ替わったら魔法が使えるようになりました! 作:秋津 幻
「今度こそ……殺してあげる!」
手を掲げ、黒い魔弾を放つ。
向かってきたそれを、剣で切り裂く。
魔法切りは、お手の物だ。
「だけれども……これはどうだ!」
そういうと奴は、いくつもの、いくつもの黒い球を放ち始める。
……数が多くて処理しきれない。いくつかが体をかすめる。
そして、素通りした魔弾は屋敷をどんどん破壊していく――
「……アハハ! あたしはもう恐れない! もう何も怖くない! この力があれば、どんな奴も敵じゃないの!」
そんな私を見てか。彼女は笑った。それはとても楽しそうに。
「ねえ、うらやましくない? 魔法が使える私を。あなたにはできなかったことが出来るあたしを!」
「うらやましくないね、全然」
「負け惜しみを!」
ああ……。彼女は笑っている。この崩れゆく屋敷の中で、今まさに燃えようとしている屋敷の中なのに。
それはあまりにも――楽しそうで。狂っているようにすら見えた。
そういう、振りをしているように見えた。
ああ、なんて。哀れなんだろう。彼女の姿を見て思うのはそんな感想だった。
「ねえ、怖いでしょう? 恐ろしいでしょう? 逃げなさい、逃げなさい、死の恐怖におびえながら――あたしに殺されなさい!」
「!」
危険を感じる。咄嗟に一歩後ろに下がる。
そういって指を鳴らすと――音もなく、ざくりと、目の前の壁と床が二つに裂けた。
「へぇ……殺したと思ったのに、避けると思わなかったわ」
虚というのは嘘ではないか――見えない、虚無の剣、という訳か。
両手を出し、同時に指を鳴らす。
かがんだ瞬間、屋敷がXの字に切れる。
「剣がなくとも物は切れるのよ……不可視の斬撃に恐怖しろ!」
また指を鳴らそうとしたその瞬間――その斬撃よりも早く私は一歩前に出て、その腕を切断した。
「……!」
「指を鳴らすのに集中しすぎだ……油断しかしてないぞ」
切ったはずの腕は、即座に修復されていく。……そう甘くはないか。
「見えない斬撃なのに……!?」
「指を鳴らそうとするシグナルが分かりやすいんだよ……それを見てからどこに斬撃を飛ばすかを予測して避けりゃいいんだろ?」
「はぁ……!?」
「不可視の斬撃擦ってくるボスとか前にも戦ったことあるんだよ!」
「ちぃ!」
胴体ごと真っ二つに切断しようとしたその瞬間、アルファスの体は一瞬にして消える。
「!」
振り返ると、少し離れた場所にアルファスが立っている。
そいつは人差し指を突き出すと、光の速さはあろうかと速度でビームを放ってきた。
俺は、それを避ける。
「あっさりと……!?」
即座に地面を蹴り、男に接近する。
二発目のビームが放たれる。俺はそれを剣で真っ二つに切断する。
「はぁ!?」
「遅い! 【炎】!」
そして俺は炎の弾を放つ。
「今更何を!?」
それに向かってビームを放ったその時――炎が爆ぜる。
一瞬目くらましの後――上から、剣を切り付ける。
「嫌っ!」
切り付けられる一瞬前に、アルファスは地面に落ちていた剣を手に取り、受け止める。
「ちぃ!」
その瞬間、また消える。
「キリがないか……!」
次にアルファスがいたのは、上。
崩れた天井の上に立っている。
「ねえ、あなたは自分の体を返してほしくないの? 元の体に戻りたいとかないの!?」
「は、無いに決まってるだろうが!」
「何!? その一生女の子の体でいるつもり!?」
「そのつもりだよ!」
「……へぇ、あんたそんな女々しいのね。何? 女の子の格好が気に入ったの? それともあのクソバカ姉にほだされた?」
……まあ、そうだな。
「嫌だったんだよその体が。人に嫌われる「俺」が。でも、この体ならそうじゃない。私は――誰かに愛してもらえる」
「はぁ!? 愛!?」
私は、スフィアさん……いや、お姉ちゃんの事を思い出す。
「そう、お姉ちゃんなら、自分の事を抱きしめてくれる。励ましてくれる。それは――今までの私にはなかったものだ」
「ちょっと待って、ちょっと待って……何!? 何急に気持ち悪い事言いだしたわけ!?」
そうだ。
私は、お姉ちゃんの妹でありたい。
普通の少女として、魔法を学び、剣を学び、お姉ちゃんに褒められるような、そんな自分でありたい。
でも自分は……そうではなかった。
「そうだ、そのためには……私の本当の正体知っている奴を消せばいい。そうだ。そうだ……」
「待って、まってあんた……」
体中が、熱くなる。
剣を持つ手に力がこもる。
「お前を殺せば……私は本当の! お姉ちゃんの! 妹になれる!!!」
「は?」
足で地面を蹴り、俺は天井まで飛び上がる。
「お姉ちゃんのために死ねええええええええ!!!」
「……何? は? 何言ってんの!?」
ただひたすらに、突き進み、剣を振る。
「何!? あんな奴にちょっと優しくされただけでほだされた訳!?」
「いつまでも、お姉ちゃんの事を悪く言うなあああああああああ!!」
「あんたのお姉ちゃんじゃないでしょうが!何!? あんたちょっと数日前に出会ったばっかのアイツを姉扱いしてんの!? 短すぎんでしょうが!?」
「お姉ちゃんはお姉ちゃんだ! 私を初めて、いやずっと前から一緒にいてくれた! お姉ちゃんだ!」
下から上に剣を振る。それをあいつは一歩後ろにたじろいで逃げる。
「何!? あんた女の子になりたかった訳!? 体に引っ張られでもした!?」
「男も女も関係ない!」
「あんた男だったでしょうが!!?」
「んなことは些細な問題なんだよ!」
「いやいやいや自分のアイデンティティに関わる問題でしょうが! 捨てようとして捨てられるもんじゃないでしょうが! あんたには自分がないの!?」
「私は私だああああああああ!!!」
天井の上に立ち、続けざまに剣技を放つ。
それをあいつは引きながら躱す。
「人の体を奪って立場までそれに成り代わろうとしてんの!? どこまで面の皮厚いのよ!」
「お前が勝手に入れ替えたんだろうが!」
「もとに戻ろうとする素振りくらいみせなさいよ!」
「あんな体に価値はない!」
「ずっと生きて来た自分の体を悪く言うんじゃないよ!?」
「この体の方がよっぽど私にはふさわしい!」
「人の体に何言ってんだよお前!!? 気持ち悪いんだよ!!! ロリコン趣味か!?」
「それをいうならシスコンだ!!!! お姉ちゃんが好きだ!!!!」
「人の姉を好きになるんじゃねえ!!!!」
「お前のじゃない! 私のだ!!!!」
「違うだろおおおおおおお!!? あんたはアルファス・トーレだろう!? ちょっと前までそうだったでしょうが!」
「今は違う! そしてお前を殺せば昔の証拠はなくなる! 今の私はアルティだ!」
「事実は変わらないでしょうがあああ!? がっ!」
腹に入れた拳が入る。
続けざまに剣を振る。
上から、下から、横から、突き、隙を見て蹴りを入れ、あらゆる手段を使って攻撃を加える。
よけようとして、何発か攻撃が入るようになる。
「男でしょうが……! 大人でしょうが……! 小さい女の子になって子供みたいに騒いで……恥ずかしくないのか!」
「そんなものどうでもいい! 私は……初めから愛が欲しかった! お姉ちゃんの妹になりたかった!!!」
「違う! こいつ……狂って……!」
ごちゃごちゃうるさい。
私はこいつを殺せばアルティになれる。妹になれる。おねえちゃんといっしょにいられる。
しね。しんでしまえ。ころす。ころしてやる。
そうすれば、私も。
ふつうのにんげんになれる。
「意味わかんねえんだよおおおおおおおおおお!!!」
「おねえちゃんのためにいいいいいいいいい!!!」
その時だった。
「アルちゃん!!!」
下の方から、声が聞こえる。
ちらりと見る。
お姉ちゃんだった。
「頑張れえええええええええええええええ!!!」
お姉ちゃんが。
おうえんしてくれた。
「うおおおおおおおおおお!!!!」
それをアルファスがあっけにとられてみていたその瞬間。
私はそいつの胴体を真っ二つにした。