貴族令嬢の妹と入れ替わったら魔法が使えるようになりました!   作:秋津 幻

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エピローグ

 胴体を切断された男は、端の方から砂のように霧散して消えていく。

 

「あたしは死なない、死んでもまた蘇る……」

「でも、今は消えるんでしょ」

「そして、あたしを殺した奴には、呪いが残る」

 

 そいつは、目を見開き、にやりとあざけりながら口元を持ち上げる。

 

「呪いとして、あなたの記憶を――消してあげる」

 

 そういって男は、腕を伸ばした。

 

 

 

 そっか。

 

 

 

 「それはいいな」

 

 だって。

 「俺」の記憶が消え去れば。

 この体から「俺」の存在がいなくなれば。

 

 私は、本当にお姉ちゃんの妹になれるんだから。

 

 目をつぶる。

 消えていく意識に、身をゆだねながら。

  

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 あれから、ずいぶん月日が経ちました。

 

 あたし、スフィアは燃え尽きた屋敷を眺めています。

 生き残った、ルネさんと一緒に。

 

「全部燃えちゃった」

「だがまだ建て直せばいい。何より尊きもの、私たちの命は助かったのだから」

「……」

 

 思い出は消えてしまった。大事なものも消えてしまった。

 それでもあたしたちは生きている。明日を積み重ねていける。

 

 家を襲撃した殺人鬼、アルファスは消え去りました。

 文字通り一刀両断された挙句、霧散して消えてしまったのだという。

 生きているか死んでいるかは分からない。また再び現れるかどうかも分からない。

 でも、あたしたちは殺されることなくその日を生き延びた。

 

 屋敷が燃えて、でもそれ以外は助かったのかと言われればそうではない。

 お母さんの一命はとりとめました。でも、前と比べて随分おとなしくなってしまいました。

 

 アルちゃんは――

 

「記憶喪失みたいだねえ。……いや今度はマジの」

「マジのって……いったいどういう」

「……前は、何かしら覚えてることがあったみたいだったんだけどね。中途半端に覚えてたのか、覚えていたのを隠していたのか、はたまた別の人と入れ替わっていたのか分からないが……手がかりはあった」

「……そうだったんだ」

「実際はどうだったか分からないけどね。でも今回は……」

 

***

 

「ここはどこ? 私は誰?」

 

 目覚めてから開口一番、アルちゃんはそういった。

 

「――アルちゃん?」

「あの……すいません、あなたは、誰ですか?」

「――」

 

 そのまなざしはどこまでも純粋で。

 ちょっと前までのアルちゃんでは、決してなかった。

 あたしは、この子を抱きしめる。

 

「あたしは――あなたの、お姉ちゃんだよ」

「おねえ、ちゃん……?」

 

 ***

 

 「結局すべて分からずじまいだ。なぜあの男がうちを襲撃しに来たのか。それに彼女は関係あったのか。誰もわからずに終わった」

「残ったのは、意識のないお母さんと、燃えた屋敷と……」

 

 お父さんは、ちょっとだけ見に来てお母さんの姿を見て「そうか」とだけ言って王都に帰っていった。

 一族の長とはそういうものだ。妻が倒れても自分の仕事をしなければならない。

 屋敷は建て直しが始まった。しばらくは別の場所で暮らすことになるだろうが、もうすぐあたしは学園の寮に住むことになるだろうし、数年もすれば元通りだ。

 

「……この子は、昨日まで私といたアルティちゃんなんでしょうか」

「人の同一性についての話かい? 記憶を失った人間は、失う前と別なのだろうか。そもそも10年前の自分と今の自分は同じなのだろうか。記憶も薄れ、性格も体も変わったというのに」

「……難しい事は、あたしよく分かりません」

「なら、自分の思いたいように思うんだね。君が同じだと思うのなら同じ。違うなら違う。結局は人の主観でしかないのさ」

「……違っても、同じでもアルちゃんはあたしの妹です」

「そうか。それが君の認識ならそれでいい」

 

 そうは言われたけれども。

 すぐに納得できないことくらいあるのだ。

 

 ***

 

 アルちゃんは、すぐに動けるようになった。

 そして、また一から勉強をすることになった。

 

 お母さんはまだ療養中だから、マナーとかダンスとかそういうのはないけれども。

 普通の学園に通うための勉強。魔法の勉強。

 全部忘れちゃってるし、覚えも早くないけど。

 でも、楽しそうに学んでいた。

 

「お姉ちゃん、次を教えて!」

 

 そうアルちゃんは朗らかに、嬉しそうに、天真爛漫に言う。

 まるで、子供のように。

 

 あたしが子供のころ見ていた、むすっとして不機嫌そうなアルちゃんとは、違う気がした。

 でも、ちょっと前までのアルちゃんとは、似ていて、同じような気がした。

 

 ***

 

「ねえ、これ何?」

 

 アルちゃんは、布に包まれた一本の剣を指さす。

 

「襲撃犯が持ってきた剣だよ」

「……お母さんを、傷つけた?」

「そして、アルちゃんが振るった剣でもある」

「……本当に私がやっつけたの? 本当に、覚え、なくって」

「ううん、それでいいんだと思う」

 

 きっと、辛い事も思い出すから。

 あの男をアルちゃんが倒したとは誰も信じてくれなかった。

 でも状況証拠的にそうとしか思えなかったから、世迷い事と切り捨てられず、皆困惑していた。

 結局、件のアルちゃんの記憶はなくなってしまったから、うやむやになった。

 懸賞金はあたしたちの家に払われることになった。お父さんはお金は足りるからと被害者救済に使ったけど。

 

 でも、この剣はうちのものになった。

 なんでも、最上級のレア武器らしい。家宝にするにはうってつけだろう。

 そして、このくらいもらえないと、被害を受けた埋め合わせにならないし。

 

 でもなんとなく飾るのも嫌だからこうやって放置されている。

 蔵の奥底にでもしまおうとしたところを、見つけられたというわけだ。

 

「お姉ちゃん、これ、持って見て良い?」

「……いいけど」

 

 アルちゃんは、布を取って、剣を持ち上げる。

 力がそんなにないはずのアルちゃんでも、あっさり持ち上げられた。

 

「うおー」

「どう?」

「なんか……しっくり来るというか」

 

 剣を握り、嬉しそうに言う。

 

「なんか、長年持ってたような、そんな感じ」

 

 その言葉の意味は分からないけど。

 きっと複雑な事情があって頑張れば解き明かせるのかもしれないけど。

 あたしには分からないし、何となく真相がわかったとしてもいい事ばかりじゃないと思うから。

 

「じゃあ、アルちゃんのものにしよっか」

「やったー!」

 

 アルちゃんは、剣を振る。

 初めて振ったはずなのに、綺麗な所作であった。

 

「すごーい」

「うーんこれなら私、冒険者とかになれちゃうかな」

「なりたいの?」

「剣振ってー魔法使ってーでっかいドラゴンとか、私倒せる気がする!」

 

 あたしも、冒険者になりたかった。なってみた。

 でも、あたしにはまだ足りないことだらけだったことに気づかされた。

 あの男にも、全く立ち向かえないほどあたしは弱かった。

 

「ならもっと勉強して、成長して、強くなってからね」

「うん!」

 

 何だか似てる気がする。でも違う気がする。

 

 どっちでもいい。今度こそあたしは、この子のそばに居なければならない。

 

 だってアルちゃんは、この子は、あたしの妹で。

 

 あたしはお姉ちゃんなのだから。

 

 

 

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