貴族令嬢の妹と入れ替わったら魔法が使えるようになりました! 作:秋津 幻
部屋に強制送還されて、俺はベッドに寝かされていた。
仕方がないので、本棚から探してきた本を俺は読んでいる。
「じー……」
部屋の隅では、スフィアさんが俺の事をじっと見ていた。
「……あのー何ですか」
「監視してるの」
「なんの、ですか?」
「アルティちゃんがまた逃げ出さないように」
……まあ、そりゃそうだろうな。
「アルちゃん学園からも逃げ出してベッドからも逃げ出して! 逃げ癖でもついたの?」
「いやまあそういうわけでは……」
情報収集のための致し方ない逃走だ。……仕方あるまい。
「まあそれはいいとして……アルちゃん、何読んでるの?」
「【ゴブリンでもわかる魔法入門書】です」
その辺の本棚にあったので引っ張り出してきた。今の俺にはうってつけだ。
「……なんで?」
これには、深い深いわけがある。
そう、俺は魔法を今まで使えなかったため、魔法に関する知識が全くないのだ。
そこで、その知識を得ようと思っている。
そして、1つ考えたのだが……この体になって、俺は魔法を使えるようになったのではないか?
前の体で、魔法が使えなかったのはその体にかかっていた呪いにあるとみている。
しかし、その体はもう俺のものではなくなった。
つまり、この体ならば魔法が使えるのでは……
まあ、仮に魔法が使えないのが魂にかかった呪いであったら、もうしょうがないが。
この通り、いくつかの理由があるのだが、スフィアさんには建前の理由を話しておく。
「えっとですね……記憶喪失になって、魔法の使い方を忘れてしまって」
「……それは大変じゃない! なるほど、そういうこともあるのか……うん、それは仕方ないね」
スフィアさんがすっと椅子から立ち上がる。
「よし、お姉ちゃんが教えてあげましょう! 一から!」
「ええ、いいんですか!?」
「いいともさ! 任せなさい!」
こうして、俺の魔法の修行が始まった。
***
「さあまずは基本の基本。魔力を感じるところから始めようか」
「は、はい」
俺は、スフィアさんの言う通りに目を閉じてみる。
「どう? 感じる?」
「いえ……いやうーんちょっとだけ?」
なにか、感じるものがあるような気がする。
それが、魔力なのかは今まで魔法を使ったことがない俺にはわからない。
「んーおかしいなあ……まあいいか。次は呪文を唱えるよ。『火よ灯れ』!」
スフィアさんの手のひらに火の玉が現れる。
「おお」
「はい、やってみて」
果たして、できるのだろうか。
心臓はどきどきしていた。ずっと、ずっと、あこがれ続けて来た魔法が、すぐそばにある。
だが、何度努力しても、どれだけの時間をかけても、魔法が使えなかった経験が俺にはある。
だから、今回もダメなのではないか。そういうおもいがどこかにある。
だが、やらなければならない。
今度こそ。
深呼吸して、息を整えて、心臓をバクバクさせながら、俺は言う。
「ええと……ええと……あ、『火よ灯れ!』」
俺の手の平にも小さな炎が現れた。
「お、できたね! すごいよ!」
「おお……!」
俺は、目の前に出ている火の玉をじっと眺めていた。
「すごい、すごい、すごい……!」
やっと、やっと、やっとできたのだ。
俺の目の前には、望んでやまなかったものがそこにある。
走馬灯のように今までの過去が思い出される。
子供時代。魔法が使えず親に叩かれた事。
それから、孤独に一人旅をすることになって火をともせず寒い思いをしたこと。
魔法が使えない、それ一点だけでパーティに入ることを拒まれたこと。
物理攻撃の効かないが魔法に弱い敵に相当な大苦戦をしたこと。
そして今――
目の前には、魔法があった。
「やった、やった、やった……」
感動で、感激で、心の奥底から、何かが、混みあがってくるような……
「えっと、そんな感極まるほどものじゃないから……えっと?」
俺は、感極まりすぎて、膝から崩れ落ちた。
「うううう、うううう……ああああ!!」
そうして俺の目からは――涙が流れ始めた。
「ちょっと、泣き出すほど!?」
ああ、俺は――魔法が使えるようになったのだ。
ずっとずっと欲しかった。コンプレックスだった。魔法が使えないことを。
自分一人だけ他人と違う事を。
人が魔法が使えるのが、うらやましかった。
責められたことも、ののしられたこともあった。
魔法が使えないことは仕方ない事だから、諦めて剣を振っていた。
でも本当は。本当は。
ずっと、魔法が使いたかったのだ……
「うわあああああああん!!!!!」
そしてそれと同時に――俺の体が、俺でなくなったことを、どこまでも痛感させられていた。
***
「もう、ちょっと魔法を使えるようになったからってあんなに取り乱しちゃって」
「いえ、記憶喪失になって魔法が使えるかどうか不安になっていたので……」
「そう? そんなもんかなあ。まあ、記憶喪失って不安だもんね。それもしょうがないか」
俺は、あれから泣き止むまでしばらく時間がかかった。
そして今は、部屋に戻ってきている。
「まあ、今日は魔法の練習はこのくらいにしておこうか。そろそろ日が暮れるし」
「そうですか……わかりました」
「あ、そういえばご飯まだだったね。じゃあ食堂に行こうか」
そういって、俺はスフィアさんに手を引かれる。
「あ、はい」
スフィアさんに連れられ、俺たちは食堂へ向かう。
そして、扉を開く前に、俺は魔導書をちらりと見た。
俺は、魔法が使えるようになった。今までの剣術しか道のない俺は死んだ。
ならば、魔法が使えるようになったのなら次は――
ずっと夢だった、魔法を極めてみよう。
そう、決意するのであった。