貴族令嬢の妹と入れ替わったら魔法が使えるようになりました!   作:秋津 幻

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第9話 魔法の使い方

「まず魔法の種類について教えるよ」

 

 テーブルの上に、一枚の紙を広げる。

 そこには様々な絵が描かれている。

 火の玉の絵。水の球、風の刃など。

 

「これが基本の属性ね。それぞれ得意不得意があって、例えば火が得意な人は水や風はあまりうまく使えないわね」

「へぇ……そういうものなんですね」

「ちなみに、あたしは炎。アルちゃんはたしか、風と炎だったはずだけど……ああそれで、全部で炎・水・風・地・光・闇・聖の七属性があるんだよ」

「……なるほど」

 

 七つもあって、何が違うか分からないけど。

 

「それとね、炎・水・風・地の四属性と光・闇・聖の3属性はひとまとまりになっていてー二つのまとまりは対に片方一個ずつ使うと相性がいいって言われてー」

 

 長々と説明が続く。

 

「……うん」

 

 と、頷いてみたものの何の役に立つかはまるで分らない。とりあえずうなづいているだけだ。

 だが、魔法を使うにはこういう基礎知識が大事なのだろう。きっと。

 

「ちょっと雑談だけど、もう一つ。この世には特殊な属性がある……って言う伝説があるの」

「特殊? 伝説?」

 

 首をかしげると、急に得意げになり始める。

 

「ふふーん、学園の噂で聞いたんだ。そう。第8の属性。それはね……その名も……「虚」」

「虚……」

 

 その言葉に、なぜか俺の背筋が寒くなる。

 

「まあ、本当にあるかどうかも知らないらしいけれども、なんでも、バランスを取るためにはもう一つ属性がないとおかしいんだとかなんだとか。知らんけど」

 

 知らんのかい。

 だが、何か胸にざわつくものがある。この感覚は一体……

 

「それって、どんな魔法が使えるんですか?」

 

 少しだけ前のめりになると、スフィアさんは少しだけ困った顔をする。

 

「うーんそんなこと言われても、噂って言うか伝説だしねえ。でも、いわゆる普通の魔法? と相性が悪いらしく、相殺しちゃうんだってよ。するとなんでも、適性があるだけでもデメリットがあるらしくて……」

 

 彼女は、ぽつりと言う。

 

「なんか、魔法が使えなくなっちゃうらしいよ」

 

 俺の心臓が、どきりとはねた。

 

 ***

 

 炎の魔法については、一度使った魔法というのもありだいぶ覚えて来た。ちょっと大きめの火の玉を出せるようになったけれども、うっかりその辺の雑草に火がついてボヤ騒ぎが起きて怒られた。

 ……かなり申し訳ない。

 というわけでもう一つの自分の属性だという風魔法を使ってみる。

 

「えい」

 

 風が巻き起こった。だが、その威力は小さい。

 

「はあー」

 

 今度はため息を吐きながら魔力を流す。すると風は強くなる。

 

「……よし」

 

 だがそれも一瞬だけだ。すぐに弱まる。

 

「むー……」

 

 どうしたものか。なかなか難しい。

 

「こればっかりは地道にやらないとねー。でも、アルちゃんならすぐできるとおもうから」

「だと良いんですけど……」

 

 ひたすら、魔法を放ち続ける。難しい。

 

「うーん。ちょっと気分転換しよっか。アルちゃんはどんな魔法が使いたい?」

「どんな魔法、ですか? とりあえず今自分の属性の魔法を……」

「そうじゃなくて、他の属性の魔法が使えたらなーとか」

「……なるほど? じゃあ地属性とか、こう、地面を盛り上げたり相手の足場を崩して動けなくして……」

 

 魔物の行動を阻害できそうなのは強いと思う。あと単純に土魔法の強度を上げるためにも良いかもしれないし。あと、水属性と風属性を組み合わせて霧を発生させれば目くらましになるかもしれない。

 

「夢がない夢がない夢がない! 冒険者じゃないんだから!」

 

 ツッコミが入った。

 まあ、そりゃ元冒険者だからね。

 

「そうじゃなくって。魔法ってのは、イメージが大事なの! 夢を見て、将来、こんな自分になりたいっていう思いが、魔法を強くさせるの! もっとこう年頃の女の子らしいのを……」

 

 うーん……普通の女の子らしい魔法、なんだろう。

 

「ええと、空を飛ぶ魔法とか?」

「うーんロマンチック。そうそうそういうのでいいんだよ。」

「そうですか?」

「うんうん、魔法にはロマンチックさは大事だからね……」

「でもそんな魔法……属性の魔法だけじゃ実現できなくないですか?」

 

 空を飛ぶにしても強い風をおこして、それに乗るとかか……それは風に飛ばされてるだけとは言わないか?

 

「いい質問! そういう夢みたいなものを叶えるために……自分の資質や、思い、願いに沿った自称を起こす魔法……固有魔法って言うのもあるんだよ!」

「固有魔法……」

 

 冒険者の生活の中で、聞いたことがある。体の気配を消したり、毒を調合したり。中には人の記憶を覗き見たりなんて変わり種もあった。

 

「例えば、うちのお付きのお医者さんなんて転移魔法って言うのを持っていて、行ったことある場所ならいつでもワープできるんだって。すごいね」

「へえ……スフィアさんはそういうの持ってるんですか?」

「もちろん、あたしの固有魔法はね……」

 

 そういってくるりと回ると――突然、体が大きくなり始めた。

 

「!?」

 

 髪が伸び、腕が伸び、足が伸び、体全体が大きくなっていく――全体にして、大体20cmほど。

 

「……そんなに大きくなってない?」

「あっそんなこと言って……この魔法はね、成長する魔法なんだ!」

「成長……」

「大人になった時の力や魔力を前借りする……みたいなそんなね。使いすぎると戻った時の反動がデカいからなかなかつかわないけど……冒険者として戦わなきゃいけないときはこれで差を埋めたりしてね。それでも苦戦が多かったけど……」

 

 そういって、くるりと回ると元の大きさに戻る。

 ……なるほど。そんなものがあれば。

 また剣を持ち上げ、振れるようになるかも――

 

「アルちゃんがどういう魔法を使いたいか……は個人の資質のほかに、自分で何をやりたいかをまず考えてみることだよ」

「……」

 

 やりたいこと、なりたい自分。

 今までは、ずっと、冒険者として生きていればよかった。

 剣を振る力さえあればよかった。

 でも、今はない。

 でも――

 

「っと、アルちゃん?」

「はっ考え事してました」

「考えることはいい事だよ。アルちゃんらしさがちょっと戻ってきたかな……」

「……そうですか?」

「そう。アルちゃん考えるの好きで頭良くて……学園の入学試験の成績良くて、優秀クラスにも入ったんだよ? あたしは座学をやらずに魔法ばっやっててさー。試験は全然ダメだったけど……」

 

 そういって、髪をいじり始める。

 ちょっとだけ、悲しそうだった。

 

「ダメじゃないですよ」

「え?」

「……試験がどうとか、関係ないですよ。だってスフィアさんは魔法を覚えて冒険者になって……いろんな世界を、知ることが出来たんですから」

「そう?」

 

 俺のフォローにちょっとだけ笑顔になる。

 

「そういってもらえると、あたしも魔法頑張ったかいがあったかなっ」

 

 そして、にっこりと笑って俺の頭を撫で始めた。

 そうやって子供みたいに扱われるのは、嫌なことではなかった。心地よかった。

 

 人にやさしくして、良かったと思ったのはこれが初めてだった。

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