Fate/Cradle   作:味噌そぼろ

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 聖杯戦争への参加を命じられた阿津部(あつべ)憲政(のりまさ)は、その詳細を知るべく会長(コード)とのブリーフィングに臨む。


第一章
ブリーフィング① 聖杯戦争について


 朝食を済ませた阿津部は、会長室に戻って来た。

 

 「戻ったか、では、ブリーフィングを始めよう。聖杯が起動したのは一昨日、連絡を受けたのは昨日の事だ。つまり、現時点で起動から2日経過したことになる。現地ではお前をサポートする準備が急ピッチで進められているが、任務を円滑に進めるために、前提知識について話しておこう」

 

 コードは、聖杯戦争に関する資料を広げた。

 

 「聖杯戦争と言っても、その実態は多岐に渡る。聖杯を巡る争いはすべて、聖杯戦争に分類できるからな。それがレースだろうがオークションだろうが、聖杯戦争だ。だが、『冬木の』聖杯戦争はそれらとは一線を画す」

 

 資料のページがめくられる。

 

 「『冬木の』聖杯戦争の起源は200年前にまで遡る。システムを作り上げたマキリ、遠坂、アインツベルンは始まりの御三家とも呼ばれているが……この辺はむしろ、お前の方が詳しかったか?」

 「いえ、父も祖父も、聖杯戦争についてはほとんど話しませんでした」

 「そうか……では続けるぞ」

 

 コードはさらにページをめくる。

 英霊(サーヴァント)のクラスについて、様々な説明がされているページだ。

 

 「『冬木の』聖杯戦争……いちいち面倒だから、ここからは聖杯戦争で統一させてもらうが、聖杯戦争では7人の魔術師(マスター)が7騎の英霊(サーヴァント)を召喚し、最後の一組になるまで殺しあう。そしてその一組のみが、聖杯を扱う権利を得る」

 「そこは俺も聞き覚えがあります。召喚できる英霊(サーヴァント)以外は亜種聖杯戦争とほとんど同じですよね」

 「そうだ。だが、聖杯戦争と、そのシステムを模倣した亜種聖杯戦争は、どちらも万能の願望器として機能した例は存在しない。そもそも、聖杯を本来の目的で運用するには、7騎の英霊(サーヴァント)の魂が必要になるからな」

 「本来の目的……ですか」

 

 コードはさらにページをめくり、『根源』のタイトルを持つページを開いた。

 

 「聖杯戦争の本来の目的は、万能の願望器の降臨などではない。7騎の英霊(サーヴァント)の魂を集め、『根源』への孔を穿つことだ」

 

 『根源』、阿津部のような魔術師ではなく、本物の『魔術師』が目指す悲願。

 もっとも、1000人の魔術師がいれば1000人の魔術師が挫折する道である。それを本気で叶えうるシステムが存在していたとは。

 裏を返せば、『猟犬』はそのシステムを――――完全、不完全を問わず――――模倣していた、ということになる。

 

 「そんなシステムがあるとは……ですが会長、流石にウチが作っている聖杯(モノ)では、7騎の英霊(サーヴァント)は流石に――――」

 「いいや、ウチが造ったものは、亜種聖杯のようなヤワな者じゃない」

 

 そう言うとコードは別の資料を取り出した。タイトルには『報告書 No.359』とある。

 彼が本を開く。製造していた聖杯が起動した旨が記載されていた。

 

 「ウチが造りだした聖杯についての資料だ。ウチの支部の知識、技術の結晶だ。その完成度は冬木のそれにも引けを取らない。とは言え、製造当初は何もかもが足りない不完全なものだった。このことから私は、我々が製造するこの聖杯の事を――――『ゆりかご』と名付けた」

 

 『ゆりかご』、名の由来は物事の始まりを意味する揺籃期、だろうか。

 ページには『ゆりかご』の写真も乗せられている。金でできたグラスに、細かく模様のようなものが刻まれている。

 その『ゆりかご』についてのページを見ていると、ある疑問が浮かび上がった。

 

 「……この模様、何かの呪文か何かですか? ところどころ文字のようにも見えますが」

 

 聖杯に刻まれた模様は、魔術と縁がないものにとってはただの模様にしか見えないだろう。

 

 「それか。それはな……『大聖杯』だ」

 「? 聖杯はこの『ゆりかご』だけなのでは?」

 「聖杯戦争の聖杯は、本来は大聖杯と小聖杯の二つに分けられている」

 

 コードは資料のページを少し遡る。

 

 「小聖杯は、物質として存在している聖杯だ。英霊(サーヴァント)の魂は此処に集められ、満たされることで大聖杯が起動する。

 大聖杯は、儀式の中核を担う存在だ。英霊(サーヴァント)の呼び出し、魔術師(マスター)の選出などを執り行う。『ゆりかご』聖杯は、大聖杯と小聖杯を一体化したもの、ということだ。

 例え完全ではなくとも、これらのシステムを模倣し、かつ起動にまでこぎつけたのだ。すなわちこの『ゆりかご』は我々の――――」

 「会長」

 「……あぁ、すまない」

 

 話に熱が入るコードを諫める阿津部。聖杯についてかなり詳細に調査されているうえ、そのシステムの再現、そして起動。その偉業は確かに素晴らしい。

 だが、今は任務の事を優先したい。いつまでも話を聞いているわけにもいかない。

 

 「聖杯戦争については、大体理解できたか?」

 「はい」

 「なら、良い。お前の任務に必要なことだ」

 

 コードは書類を片付けながら話を続ける。

 

 「大小の聖杯が一体となっている『ゆりかご』は、起動と共に実体を失った。手に出来るのは、英霊(サーヴァント)と、その魔術師(マスター)だけだ。だからこそ、その適性のある阿津部、お前に任務を託す」

 

 そう言うと、コードは阿津部に一枚の紙を渡した。

 

 「依頼書だ。『聖杯戦争に参加し、起動した聖杯を手に入れろ』『報酬は「聖杯」』。あの聖杯は我々『猟犬』の技術の結晶だ。外部の手に渡すわけには行かない。……何か、質問はあるか?」

 

 阿津部は依頼書を読んだ。コードの話していることと相違は無い。

 そのことを確認すると、阿津部は質問を投げかけた。

 

 「……いくつか」

 「結構」

 「このことは、魔術協会には連絡済みですか?」

 

 基本的に、聖杯が見つかったら魔術協会に連絡することになっている。亜種聖杯戦争が頻発している昨今、魔術師達の動向を観察するためにそう取り決められた。

 

 「いいや、伝えていない。最近、魔術協会の連中の態度が悪い。こちらに逆らえるだけの力が無いと思っているのか、やけに傲慢になって来た。率直に言って信用できん。今回の依頼も、魔術協会からではなく、『猟犬』からの依頼という形だ」

 

 実際、魔術協会から支払われる依頼料は8年前から下降気味である。

 抵抗する力が無い『猟犬』は、如何に条件が悪くとも従うしかない。逆らえばどんな制裁が下るかもわからない。

 金の切れ目が縁の切れ目……とはいうが、『猟犬』としては主な収入源であることに変わりはなく、魔術協会としては便利屋とトカゲのしっぽを同時に確保しているようなものだ。

 そんな(いびつ)な共生関係は現在も続いている。

 

 「だが、これは聖杯戦争。監督役も必要だ。一応、ある人物に話はつけてある。……仕事に飢えていたのか、情報を漏らさないことを条件に、二つ返事をもらったよ」

 

 本来は聖堂教会から、聖杯戦争の監督役が派遣され、様々な隠ぺい工作を行う。だが、コードの言い方から察するに、特に所属している組織がないフリーランスか、そのあたりだろう。あくまで、立場上としての監督役、ということか。

 ……もし、第四次が行われていれば、その役を『猟犬』が担っていたかもしれない。

 

 「なるほど」

 「他には?」

 「英霊(サーヴァント)の召喚には聖遺物が必要と聞いたことがあります。用意はされていますか?」

 

 聖杯戦争において、どんな英霊(サーヴァント)を召喚するかは、勝敗どころか生死にかかわる問題だ。

 聖遺物なしでの召喚は、精神性が似通った英霊(サーヴァント)が召喚される。しかし、似ているがゆえにトラブルが生まれる可能性がある。同族嫌悪とはよく言ったものだ。

 

 「心配いらん。聖遺物は既に用意してある」

 

 コードは、足元に手を伸ばした。机のせいで見えなかったが、傍らに置いていたらしい。

 出て来たのは鍵付きのアタッシュケース。開けると、中には布――――いや、衣服が入っていた。

 

 「これは……?」

 「何でも、王妃が仕立てさせたドレスらしい。聖杯の起動で忙しい時に急いで用意させたので、支部からはかなり顰蹙(ひんしゅく)を買ったがね」

 「フランスで『王妃』……そんな貴重な物、随分早くに用意出来ましたね」

 「元々、支部が手中にしていた品だ。ただ倉庫から引っ張り出すだけなら何とかなるだろう。だが、亜種聖杯戦争のせいで聖遺物の移動には一苦労だ」

 

 聖杯戦争で召喚される英霊(サーヴァント)は、その土地の知名度の影響を受ける。そのため、亜種聖杯戦争では聖遺物の確保だけで戦争になり、決着がついてしまう、本末転倒な結末になってしまう時もある。

 

 「質問は以上か?」

 「……そういえば、7騎の英霊(サーヴァント)が召喚出来ると仰いましたが、何か根拠でも?」

 

 コードは自信満々に『7騎の英霊(サーヴァント)の召喚が可能である』と言っていた。亜種聖杯では前例のないことだけに、懐疑的になってしまう。

 

 「聖杯を解析した結果だ。亜種聖杯では用意しきれない魔力量と、さっきも言った大小二種の聖杯のシステムを再現したこともあり、7騎の召喚は十分可能であると結論付けられた。あくまで理論上の話にはなるだろうが、7騎の召喚はほぼ確実だろう」

 

 やはり会長、抜かりはないらしい。

 

 「ついでに言っておくが、起動から二日間、まだ魔術師(マスター)が選出された話は聞かない。まるで、お前を待っているみたいにな」

 「しかし、急いだほうが良いでしょう」

 「そうだな。準備が出来次第、向かってくれ」

 

 阿津部はアタッシュケースを閉じ、一礼してから会長室を後にした。

 急な任務に備えて魔術礼装は常に用意してあるし、支部間のアクセスは職員が常に確保している。準備にそう時間はかからないだろう。

 荷物をまとめるため、足早に自室に向かった。

 

 

 

 

 




 次回もよろしくお願いします。
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