Fate/Cradle   作:味噌そぼろ

6 / 11
 魔術師達に令呪が発現し始めた。
 それはアランやリリアン以外にも例外ではなく……。


発端―阿津部(あつべ)憲政(のりまさ)とリル・ベルナール

 ベルナールの一族は衰退の一途である。

 かつてはそう言われていた。

 しかし、その言説を覆す存在が現れた。

 それが彼女、リル・ベルナールである。

 

 「ただいま」

 

 学校から帰宅したリルはまず自室へ向かった。

 リルの自室は屋敷の地下にある。より霊脈に近い場所に用意してもらったのだ。

 その自室で鍛錬を行うのが彼女の日課である。

 

 「……」

 

 自室に描かれた魔法陣の中で瞑想を始める。魔力回路の調子を確認するとともに、集中力を養うのだ。

 一日5分。そこまで長い時間でなくとも、継続することが大事なのだ。

 

 瞑想が終わるころ、自室の扉をノックする音がした。

 

 「リル、今大丈夫?」

 「……何?」

 

 不機嫌な声色になるリル。扉も開けようとせず、苛立ちを隠せない。

 

 「な、何か欲しいものとか、足りないものとかある?」

 「ハァ……」

 

 あからさまなため息をつくリル。

 

 「欲しいものなら自分の小遣いで買うよ! いつもそんなことばかり聞かないで!」

 

 声を荒らげる。先ほどまで静かに瞑想していた姿とはかけ離れている。

 

 「ご、ごめんね……」

 「……」

 

 ついに返答すらしなくなった。

 最近のリルの親に対する態度はいつもこんな感じだ。

 幼少期からずっと、両親はリルの顔色を伺いながら接してきた。数年前までは顔色を伺わなくとも接してほしいと願っていたが、一向に変わらない両親の態度に、ついに堪忍袋の緒が切れた……といったところだろうか。

 母を追い返し、一人になったリルは自室で魔術書を開く。

 

 (全く……イライラするなぁ)

 

 中々身が入らない。感情の切り替えがうまくないのか、イライラすると引きづってしまう。

 いっそもう一度瞑想をするか……と思った瞬間だった。

 

 「痛った!?」

 

 右手に激痛が走る。見ると、幾何学模様のような痣(あざ)が出来ていた。

 

 「この痣……もしかして……!」

 

 リルは自室の本棚を漁り始めた。

 

 

 

 

 

 ――――綺麗な人だな、と思った。

 顔はよく覚えていない。だが、必死に自分の名を呼ぶ彼女を、綺麗な人だと思った。そのことはよく覚えている。

 絹のように艶やかな髪、雪のように白い肌。そんな彼女は、ベッドの上で目を覚ました自分を見て――――確か、泣いていた。

 

 「どうか……されましたか?」

 

 俺はそう呼びかけた。その人の事は知らないが、俺に関係のあることで何かあったのだろう。

 

 「阿津部、何も……覚えていないのか」

 

 涙を流す女性をよそに、『猟犬』の会長、コードが声を掛けてきた。

 俺が頷くと、コードは女性をベッドから離れるよう促し、俺に話し始めた。

 

 「我々は、聖杯大戦についての任務でルーマニア(ここ)に来た。一般市民党への被害を最小限に食い止めること。要は神秘の秘匿、そういう任務だ。ここまでは、覚えているか?」

 「……まぁ、ぼんやりとは」

 

 記憶が混濁している。任務の事がほとんど思い出せない。

 

 「そうか……だが安心しろ。任務は無事に遂行された。さっきの女性はウチの職員だ。お前が命を懸けて守ってくれた……俺からも礼を言う。ありがとう、阿津部」

 「そうでしたか……」

 「それにしても、お前の礼装をもってして記憶が飛ぶほどのダメージを受けるとはな」

 「……これが、聖杯大戦ってことでしょうね」

 

 しばらくの沈黙の後、コードは部屋を後にした。本部に帰るのは、体力が回復してからになりそうだ。

 

 

 

 

 

 「……ん、夢か」

 魔術師達に令呪が宿り始める直前、阿津部(あつべ)憲政(のりまさ)はフランスに降り立とうとしていた

 とはいっても、正規のルートではない。彼の所属する『猟犬』が所有する航空機で移動したのだ。

 その機内で、彼は自身の過去を夢として見ていたらしい。

 記憶の一部を失ってしいる彼は、その先の記憶が混濁している状態だ。断片的には思い出せても、大半が欠損している。夢で見た以前の記憶は、もうほとんど思い出せない。

 

 「阿津部さん、到着しました。後の事は、斎藤さんに聞いてください」

 

 着陸を無事に済ませ、パイロットが声を掛ける。

 着陸地点は『猟犬』フランス支部、その敷地内にある離着陸場である。

 

 「あぁ、ありがとう」 

 

 席から立ちあがり、礼をいう阿津部。

 航空機から降りた直後、異変は起きた。

 

 「ッ!?」

 

 右手に突き刺すような痛み。彼に令呪が発現したのだ。

 盾を連想させる二重円、その内側に十字架か、あるいは剣のようなマーク。

 任務の前提は『魔術師(マスター)として聖杯戦争に参加する』ことであるため、その前提が覆らず済んだことに一先ず安堵する。

 

 「とりあえず、スタートラインには立てたってとこか」

 「フランス支部へようこそ、憲政君」

 

 阿津部に声を掛けたのは小柄な中年男性だった。

 

 「斎藤さんか、久しぶりだな」

 「ははは、『さん』は要らないよ」

 

 柔和な笑みを浮かべる彼の名は斎藤(さいとう)(りょう)

 阿津部よりもさらに年上で、役職では阿津部の下にあたる。

 元高校球児という異色の経歴を持つ。会長(コード)に拾われて『猟犬』に入ったらしいが……。

 

 「車は用意してある。車内には追加資料があるから目を通しておいてくれ」

 「追加資料?」

 「会長とブリーフィングしたんでしょ? その時言いそびれた分だよ。急に電話で指示があったから大変だったよ……」

 

 阿津部がフランスに向かうまでの間は15時間も無かった。急ピッチで準備したのだろう。

 ブリーフィングに呼んだ側が説明不足になるとは、余程事態の終息を焦っていたか、それとも――――

 

 「会長……ボケてねぇだろうな」

 「あの人、もう70超えてるんだっけ? 姿勢とかしっかりしてるし、ボケる心配とかなさそうだけどねぇ」

 

 阿津部が『猟犬』に入るころには既に、コードは会長の座についていた。

 それ故、世代も生まれも異なる斎藤と阿津部の共通の話題と言えば、コードに関する話題くらいだ。

 会話しながら歩いているうちに、二人を待つ車の元に到着した。

 

 

 

 

 「さて、英霊(サーヴァント)召喚に必要な霊脈に向かいますか」

 「支部じゃダメなのか?」

 「支部よりも憲政君に合いそうな場所があるんだよ」

 「なるほど」

 

 運転席には斎藤、助手席には阿津部が乗った。

 

 「資料がそこに入っているから、目を通しておいてね」

 「あぁ」

 

 ダッシュボードの収納部に入れられていた資料に目を通す。

 内容は英霊(サーヴァント)の召喚に必要な魔法陣と呪文。なるほど、急ピッチで資料を作らせるわけだ。

 ほかに必要なのは霊脈や触媒だが、霊脈のある場所には向かっているし、触媒は阿津部の手元にある。

 

 その他には監督役の存在や令呪に関すること、英霊(サーヴァント)(クラス)の事など、ブリーフィングと一部重複している部分もあったが、詳細にまとめられていた。

 ……メールではだめだったのだろうか。

 

 「着いたよ、憲政君」

 

 ちょうど資料を読み終えた頃、霊脈のある場所に到着した。

 

 「ここは?」

 「廃村だよ。ずっと前に戦争があってね、その残党と軍のいざこざがあったんだ。その時の荒廃(devastation)した様子と、戦ってくれた英雄(hero)である軍を讃えて、今じゃ『ディヴァエロ』なんて呼ばれているね。だけど――――」

 「……霊脈があるってことは、それも表向きの話か」

 「そう。ホントは霊脈を巡っての、魔術師同士の争いだねぇ。君のお父さんも関わってたらしいけど?」

 「何も聞いてない。……あの親父、本当に何も話してくれねぇな」

 

 父親と最後に会話したのはいつだっただろうか。

 もしかしたらその記憶もなくしてしまったのかもしれない。

 

 「で、霊脈はどこに?」

 「この建物の中。地下室があるから、儀式はそこでやろう」

 

 広大な廃村にある石造りの建物の一つ、その地下室に霊脈がある。

 阿津部は触媒を始め、道具の準備を開始した。




 次回は英霊(サーヴァント)召喚の予定です。
 よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。