艦隊これくしょん ゼロの悪魔   作:Xn-i

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「さ、先が見えない広さっぽい!」

「メニューが並んでいる…だと…くっ、全部食べたいが胃袋に限りはある…」

「夕立、菊月。落ち着きなさいよ。こういう時はカレーを食べるのが筋よ」

「いえ、ここは敢えて違うメニューを行くべきですよ、天津風。しかしどれを食べましょうか」

 到着したとはいえ、まだ出発までに補給や準備も必要、という事でその間の時間つぶし、と第0駆逐隊の面々は食堂へと来ていた。

 普段ならば見た事も無い素敵なメニューの数々。鳳翔さんの料理は美味しいが、それでもたまには別のものを食べたくなるというもの。

 しかも今回、天龍から「奢ってやるから好きに喰え」というお墨付きである。自分たちとは違う予算で食えるのだ。

 天津風・夕立・菊月・朝潮の四人がそれぞれメニューを遠目で見ながら顔を突き合わせていると、後ろに続いていた若葉が口を挟んだ。

「まったく、皆少しは落ち着いたらどうだ? こういう時はな」

 若葉がすぅと息を吸い、ほかの四人が注目する。更に後から来た叢雲は「なに? メニュー決まった?」と声をかけるが若葉はゆっくりと歩き出し、食堂のおばちゃんに対して高らかに宣言した。

 

「この超弩級大艦巨砲御膳を六つ頼む」

 

 一番高いメニューを躊躇う事無く頼み、食堂のおばちゃん達は目を丸くする。

「いいけど、食べるのかい?」

「大丈夫だ、問題ない。私達は皆腹ペコだ」

「……あの、若葉。値段すごい…」

 少なくとも丸が一つどころか二つぐらい違うメニューの値札を指差しつつ、天津風がそう声をかけようとしたが、叢雲がそれを制止した。

「大丈夫よ。支払うのは天龍さんだから」

 この艦隊旗艦は意外と遠慮が無いのかも知れない。

 

 

 超弩級大艦巨砲御膳。

 それは大メシ喰らいの戦艦や空母を黙らせる為に造られた所謂特盛りメニューの一つである。

 どでんと置かれたカツカレー。その隣りに目玉焼きが乗ったハンバーグと温野菜が食欲をそそる音を立てる鉄板が並んでいて。

 その隣りの皿にはアジフライと大きなコロッケ、エビフライのおまけにポテトサラダと山盛り野菜。

 甘い厚焼き玉子とほくほくじゃがバターの皿にトドメとばかりに具沢山の豚汁。数種類の漬物盛り合わせが箸休め。

 

 もちろん、トンでもない値段と凄まじい量ゆえに、幾ら横須賀鎮守府いえども一日限定十二食しかないメニューである。

 そう、そんなメニューなのだが…。

 

「ちょっと夕立、あたしのコロッケ取らないでよ!」

「だって美味しいんだもん! アジフライあげるから!」

「夕立、好き嫌いは良くないぞ。レートが合わないからポテトサラダは私がもらう」

「若葉さん、それのどこがレート正しいんですか……天津風、じゃがバター半分くれるならコロッケあげるけど」

「それもあたしが損してる気がするんだけど……アジフライ半分ならいいけど、朝潮。どう?」

「アンタ達黙って食べなさいよ。カツカレー美味しいじゃない」

「叢雲、そのカツカレーは私のだ! 楽しみにしていたのに…」

「ああ、もううるさいわね菊月! アンタ達おかずが足りないっていうのなら」

 叢雲はテーブルから立ち上がるなり、再びカウンターに近づいた。

 

「超弩級大艦巨砲御膳、二人前お願いできるかしら?」

 

 お代わりを追加した。

 天龍が払うとはいえ、容赦が無いといえば容赦が無い。

 

「ダメだ叢雲。じゃがバターとポテトサラダが足りない。もう二人前追加だ」

 

 若葉の意見で、更に二人前追加された。

 そしてこの二人前が売れた時点で、おばちゃんの手によって『超弩級大艦巨砲御膳売り切れ』の札が出された。

 限定十二食のうち、十食があっという間に売れるのも大したものだろう。

「お腹がすきましたね」

「今日は私が奢りましょう…五航戦にも奢ってあげます」

「おお、大艦巨砲主義御膳二人前! いやー、最高ですよねー」

「加賀さん太っ腹ですね!」

「ありがとうございます、加賀さん」

「どうせ私と翔鶴姉の分だけ一人前ってんでしょ。まあ、奢ってくれるなら…」

 そこへ、午前中の演習を終えた一航戦・二航戦に五航戦という正規空母六人がやってきた。

 真面目な加賀のおごりだけあってか、六人はそれなりに和気藹々とカウンターに近づき、札に目を丸くした。

「売り切れ…ですって!?」

「そんな馬鹿な。私のお昼があああああああああああああ」

 ショックを受ける加賀と絶叫する赤城に、おばちゃんはすまなそうに頭を下げる。

「ごめんねぇ、最初に長門ちゃんと陸奥ちゃんが食べてった後に、十人前一気に売れちゃってねぇ」

「そんな馬鹿な…大和は秘書艦の仕事中ですし、武蔵は鍛錬中だった筈。金剛型はそもそも注文しないですし、伊勢と日向は遠征中…扶桑姉妹は外出中の筈」

「軽空母組が食べるなんて有り得ないでしょ!? どうしたのよ一体」

 瑞鶴がそう驚くと、おばちゃんは「あの子達がねぇ」と指差す。

 

 そこは十人前の特盛り御膳を、お互いにおかずを取り合いながら食べる駆逐隊がいた。

 

「…あの子達、払えるのかしら?」

 まず最初に口を開いたのは翔鶴だった。

 艦娘にも食費の手当ては出るが、それでも全額は出ない。それに、艦種によって手当金は異なる。

 少なくとも空母や戦艦向けのメニューが駆逐艦に出ないのは、値段という問題もあるのだ。

「翔鶴姉、心配するところそこ?」

 瑞鶴が呆れながら呟くと、翔鶴は「でも…」と心配を続ける。

「私のお昼が…お昼が…」

 赤城は血の涙を流さんばかりに絶望していた。

「頭にきました」

「加賀さん、相手は駆逐艦ですから」

 弓を引き絞る加賀を二航戦コンビが押し留めていると、おばちゃんは「そういえばお代は引率が払うって言ってたけど」と呟く。

 しかし、空母達が言い争っている間に。

「美味しかった…ご馳走様」

「ご馳走様でした」

「はあ、美味しかった。おなかいっぱいっぽい!」

「美味かった…」

「とても美味しかった…」

「美味しかったわね」

 そして第0駆逐隊は、全ての皿を空にしてご馳走様をする。

「菊月。ハンバーグの恨み、覚えてなさい」

「すぐに忘れてやるぞ天津風。お前こそ私のエビフライを」

「お代わりでちゃんと食べられたからいいじゃないですか。私は夕立に豚汁取られたし…」

「その分朝潮にアジフライあげたからゼロっぽい」

「若葉、ポテトサラダとじゃがバターの分、後でなんか奢りなさいよ」

「単冠湾に帰ったらな、叢雲」

 そして口々におかずの話をしながら皿を片付けたところで、天龍がやってきた。

「お前らメシ食ったか。とりあえず領収書見せろよ、ちゃんと払うから」

「はい、お願いね、天龍さん」

「「「「「ご馳走様」」」」

「おう、後でな…ん? んんん?」

 

「おいコラ、チビ共! お前らどんだけ喰ってんだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「なんだ天龍、食堂で怒鳴…はあ!?」

「なになにどうしたのー? 早くあたし達もごは…ってええ!?」

 続いてやってきた木曾と川内をも驚愕させたその金額は、天龍・木曾・川内の財布の中身を全部あわせてもまったく足りず。

 かと言って一度奢ると言ってしまったのでどうしようもなく。

 ついでに限定を食べ尽くしてしまった事で赤城と加賀から理不尽に怒られる羽目になった。

 

 最終的に足りない金額は横須賀の提督が立て替えた。

 

 

 食事の後、六人は天龍から軽いお叱りを受けた後、横須賀鎮守府の執務室へと来ていた。

 元倉庫の単冠湾とはエライ違いである。

「単冠湾の天龍です。第0駆逐隊をつれてきました」

 流石の天龍も、他の提督の前では普段の言葉遣いはしない。執務室の扉をノックし、そう告げてから「どうぞ」の声と共に扉を開ける。

「よし、並べ」

 既に木曾と川内は執務室におり、小声で天龍に口を開いた。

「さっきの。なんとかなった」

「…ありがとうございます。必ず返します」

「ああ、気にしなくていいとも。元気があるいい子達じゃないか」

 横須賀の提督は既に高齢の域に差し掛かっているが、歴戦を重ねた猛者のオーラを持ちながら艦娘達には優しい目を向ける好々爺な所もあるようだった。

 少なくとも、天津風たちを見る目は、孫を見るような目に近く、天津風はどこか好感を持った。

「戦力増派の件で、単冠湾の提督に代わってお礼を…」

「気にしないでいいとも。今後の作戦で、北方海域も重要になってくる」

 天龍の挨拶を遮り、横須賀提督はそう言って言葉を続ける。

「まあ、陸軍の方が辛いようだ。彼女達を無事に届けてくれ」

「任せてください。オレたちはともかく、こいつらも北の海には慣れてますから」

 木曾が胸を張る姿はどこか誇らしげだ。

「だが、慢心はいかんぞ。十二隻で五倍の輸送隊を守るのだから。危険があったらすぐに近くの湊まで逃げるのだ」

「はい。心遣い感謝します」

 川内が頭を下げると、横須賀提督は再び笑って席を立つ。

 

「それでは、君達の新しい仲間を紹介しようか。ドックへ向かおう」

 

 九人の艦娘を連れて、しっかりとした足取りで進む。

 

「相変わらず、猫の姿のままかね?」

 廊下を歩きながら、横須賀提督はそう口を開き、天津風は「え?」と呟いてしまった。

「あたしたちのところの提督って、アレ人だったの?」

「そりゃそうだ。猫が軍人になる訳ないだろ」

 天津風の言葉に菊月がそう呆れながら返した、が直後二人とも叢雲に足を踏まれた。

「「!?」」

 まるで黙ってろ、とばかりに無言で叢雲が二人を睨み、二人とも黙り込んだ。

 

 その気迫が、どこかいつもと違った。

 

「あのままのようだね」

「…でしょうね」

 横須賀提督の言葉に、川内がどこか素っ気無い返事をした。

 

 そしてドックへと到着する。

「やあ、すまない。待たせたね」

 ドックへ続く扉が開くと、走り回る妖精達の合間に、三人の艦娘が待っていた。

「では、紹介しよう。彼女達が、新しくそちらに赴任する艦娘だよ」

 横須賀提督は三人に近づくとそう促す。

 まず最初に口を開いたのは、軽巡らしい長いポニーテールの少女だった。

「長良型軽巡洋艦、4番艦の由良です。よろしくお願いしますね」

 小さく敬礼をする彼女は、優しい印象を受けた。

 続いて口を開いたのは眼鏡をかけ、やたら大きな服をきた駆逐艦だった。

「夕雲型駆逐艦の巻雲です。頑張ります」

 しかしどこか頼りになら無げな気がする。天津風はフォローしてあげようと思った。

 そして最後に、白い帽子を被り、黒いセーラー服の少女。

「白露型駆逐艦、5番艦。春雨です。輸送や護衛は任せてください」

「おお、白露型っぽい?」

「夕立と同型ですね」

 同じ艦種でも、色々なタイプが存在する。適正やら艤装の相性やら色々あるが、同型艦がいるのは嬉しいものだ。

 もっとも、同型且つ同じ艦になる事も無い訳ではなく、そのつながりのネットワークがあったりするらしい。

 天津風はまだ同名艦に会った事は無いが。

「よろしくお願いします」

 同型艦であるのが嬉しいのか、春雨は夕立としっかり握手した。

「横須賀の正面海域までは我が艦隊も護衛に入るが、それを過ぎた北方海域はこの十二隻になる」

「「「はい」」」

 横須賀提督はそれを微笑ましく見ながら、天龍・木曾・川内に問いかけ、三人は大きく頷く。

「では、出発はヒトゴマルマルだ。頼むよ」

 横須賀提督はそう告げて、小さく敬礼をした。

 

 全員が敬礼を返した。

 

 出発まで、後一時間だった。

「よし、チビ共は艤装のチェックだ。弾薬と魚雷も確認しろ」

 天龍が両手を叩きつつそう指示を出した後、木曾は由良たちの方を向いた。

「編成は行きと同じだ。由良、お前は巻雲と春雨と組んでくれ」

「ええ、わかったわ…三隻ずつにするの?」

「動き易いんだよ。まあ、極端に離れる事はないから、心配は要らないと思う」

 川内が笑いながらそう答えると、巻雲と春雨の二人も艤装をはずし、整備を始めた。

「あ、二人とも」

「はい?」

「なんですか?」

「魚雷の予備は2セット積んでね。何が起こるか解らないから」

 天津風が二人にそう声をかけると、二人とも目を丸くする。

「イザという時用です」

 朝潮がそれに続いたので、巻雲と春雨は慌てて魚雷の予備を取りに行く。

「……私もいる?」

 それを見た由良の呟きに天龍はあっさり答える。

「いや、オレらは3セット。木曾なんか4セット積んでる」

「雷巡だからな」

 それはそうだろうが、と思うが魚雷はそこまでフル武装するものなのか、と由良は考えているようだった。

 しかしそれでも魚雷の予備が追加され、それぞれ無言で整備に戻る。

「あ、あのー」

 その沈黙が嫌だったのか、巻雲が口を開いた。

「なに?」

「地獄って」

 叢雲が槍に手を伸ばすより先に、天津風は巻雲の目の前で「シー」のジェスチャーをした。

 それを見て彼女も察したのか、口をパクパクさせて黙り込む。

「……心配するな。今はそうじゃない。今はな」

 慰めるように、木曾がそう言って巻雲の肩に手を置いて撫でた。

 

 地獄だったのは昔。

 その頃を、天津風は知らない。少なくとも今は地獄じゃないかも知れない。

 

 だが、その地獄鎮守府で何があったのか、天津風は知らない。今も、知らない。

 

 ガラガラ、というシャッターの音と共に、人影がこちらを見ていた。

 

「お待たせされたであります」

「いよいよ仕事でありますな」

「護衛をよろしく頼むであります」

「本日はお日柄もよくであります」

 

 やたらと喧しい陸軍の軍装を纏う美白軍団が二十四と、その後ろから白いスクール水着の幼女が三十六。

 今回の護衛対象である。

 

 本当に二十四人もいれば喧しい。しかも美白。

「全員、整列!」

 口々に喋り捲る彼女達に怒鳴ったのは叢雲だった。

「今回の作戦はアンタ達の協力なしでは成功できないわ。皆、努力すること。いいわね!」

「しかし突然にそういわれても何を」

 早くも一人がそう答えた直後、銀色の光が走った。

「…なんか言った?」

「いいえ、なんでもないであります」

 叢雲の槍が目の前に突きつけられた哀れな一人は美白な顔を更に白くしながらそう答えた。

「こら、叢雲。あー…とりあえず皆名前を」

「特種船丙型、あきつ丸であります」

「陸軍の特種船の丙型、あきつ丸であります」

「陸軍…」

「もういい解った。みなまで言うな」

「え? まるゆは…」

 中断させた木曾の前で、白スク水幼女がおろおろ。

「誰か白いゼッケンとペン借りてきてくれ…番号をつければ覚えるだろ」

 少なくとも同じ顔だらけよりかは、数字を書いてしまったほうが解り易いだろうから。

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